数百万円でEC事業は買えるのか ── スモールM&Aの相場と、1件目に選ばない案件

「500万円くらいでEC事業を買いたい。実際に買えますか」。買収のご相談で毎月いただく質問です。

買えます。ただし、手を挙げた人の多くが1件も買わないまま終わります。国が全国48か所に置く事業承継・引継ぎ支援センターでは、創業希望者として登録した人が累計10,075者。そのうち引き継ぎまで到達したのは累計435件でした。

この記事の結論は次の4つです。

  • スモールM&Aは中小M&Aの多数派。令和6年度に公的窓口で成約した譲渡企業のうち、68.0%が売上1億円以下でした
  • それでも個人が買う道は狭い。後継者人材バンクの累計登録者10,075者に対し、累計成約は435件です
  • 規模が小さいほど倍率は下がる。PER中央値は純資産5百万〜1千万円で8.0倍、3億〜5億円で14.9倍。買う側には有利で、その差は引き継ぎの重さの分です
  • 1件目は5つの条件で選ぶ。接点・構造の単純さ・引き継ぎ期間・在庫の軽さ・製造工程の有無

スモールM&Aとは何か

スモールM&Aに法律上の定義はありません。実務で指しているのは、譲渡価額が数百万円から数千万円で、買い手が個人または少人数の会社である取引です。

この規模は中小M&Aの例外ではなく、むしろ主流です。中小企業基盤整備機構が全国の事業承継・引継ぎ支援センターの実績をまとめた資料では、令和6年度に第三者へ引き継がれた企業の売上規模がこう分布しています。

成約した譲渡企業の売上規模(令和6年度)割合
30百万円以下36.1%
30百万円超〜1億円以下31.9%
1億円超〜5億円以下27.0%
5億円超〜10億円以下2.9%
10億円超〜50億円以下1.8%
50億円超0.3%

売上1億円以下が68.0%。公的窓口を通る第三者承継の3分の2が、この記事の扱う規模に収まります。売上3,000万円以下だけで36.1%。

この表は売上の規模であって、譲渡価額ではありません。売上1億円の会社が1億円で売れるわけではない。値段そのものは後半の倍率の節で扱います。

個人が買う道は、まだ狭い

登録する人は増え、実際に引き継ぐ人は少ない。

創業を目指す個人と、後継者のいない会社を引き合わせる公的な仕組みが後継者人材バンクです。全国48か所の事業承継・引継ぎ支援センターが運営しています。

後継者人材バンク令和6年度累計
新規登録者(創業希望者)1,551者10,075者
成約件数106件435件

令和6年度の成約106件は過去最高でした。それでも、累計10,075者の登録に対して累計435件。

第三者承継の全体でも同じ形が出ます。令和6年度の相談者は16,045者、成約は2,132件。成約件数は過去最高を更新しましたが、相談から成約までのあいだで大半の人が止まります。

止まる理由は資金だけではありません。買える金額の事業が見つからない。見つかっても自分に引き継げない。3つ目が、引き継いだ後に続かないことです。

EC事業が選ばれる理由

店舗も工場もなく、判断の材料が記録として残っているためです。

  • 場所と設備が要らない。引き継ぐのはアカウント、在庫、手順の3つ
  • 数字が残っている。売上・広告費・顧客の記録がデータで揃い、買う前に自分で検証できます
  • ゼロイチを飛ばせる。商品開発、最初の顧客集め、レビューの積み上げ。起業で最も時間のかかる期間を、買って越えられます

業種の実績でも小売は上位にあります。令和6年度に第三者承継で成約した譲渡企業のうち、卸・小売業は18.1%。中小企業庁の集計でも、2024年度に譲渡側となった卸売業・小売業は792件で、全業種4,940件の16.0%を占めました。

ただし、材料が揃うことと、伸ばせることは別です。

当社(CommerceX M&A)が買う前に見るのは商品です。販路を広げる、広告を増やす、値上げをする。どれも商品が強いときにだけ結果が出ます。商品が弱い事業は、同じことをやっても売上が動かない。数字が良くても、真似されない商品でなければ1件目には向きません。

規模が小さいほど倍率は下がる

利益に対する値段の倍率は、対象会社が小さいほど低くなります。

中小企業庁が登録支援機関からの報告を集計した2024年度のデータでは、PER(譲渡価額÷当期純利益)の中央値が、対象会社の純資産規模ではっきり変わります。

対象会社の純資産PER中央値
5百万〜1千万円8.0倍
5千万〜1億円10.1倍
1.5億〜2億円13.3倍
3億〜5億円14.9倍
5億円超14.2倍

5百万円規模と3億円規模で、倍率は2倍近く違います。

買う側から見れば、小さい事業は安く買えるということ。安さには理由があります。小さい事業ほど経営者ひとりに寄りかかっており、引き継ぎで失われる部分が大きい。倍率の低さは、その分の値引きです。

同じ表は、あなたが売る番になったときに逆向きに働きます。利益を伸ばして規模が上がれば、金額が増えるうえに倍率も上がる。1件目を安く買い、育てて次に渡す形が成り立つのは、この表の傾きのためです。

買った直後は数字が落ちる

引き継いだ月から伸ばそうとしない。まず前の運営をそのまま再現します。

前の経営者の顔、手の動かし方、細かい判断。それらは引き継ぎ資料に書かれていません。最初の数か月は「落ちてから戻す」期間になります。

当社が自社の買収で使っている100日の順番はこうです。

期間やること到達点
1か月目前任の運用体制をそのまま再現。売上をチャネル別・品番別に分解現状を保てている
2か月目販路拡大の手続き、協力者への声かけなど施策の準備変える段取りが揃った
3か月目施策の実行100日終了時点で動いている

当社は、前の経営者のやり方を先に引き継いでから変えます。広告の作り方もキャンペーンの設計も、前任が結果を出していた考えがある。それを捨てて新しく作り直せば外れる。代表の齋藤は、責任者を初日に置かずいきなり改革から入った買収を実際に見ています。そこでは9か月たっても現場が変わりませんでした。

属人性が残るのは製造と仕入

EC運営の手順は移せます。移しにくいのは、工場とのやり取りと納期です。

小さい事業ほど属人的だと言われます。実際に見ると、属人性の残り方は業態で分かれます。

部分引き継ぎやすさ1件目での扱い
広告運用・受注・カスタマーサポート・出荷手順書と外注先で移せる手順書の有無を面談で確認
モール・カートの運用アカウント移管で移せる移管の可否と時期を契約に書く
仕入先・小売の商流関係先の紹介で移せることが多い引き継ぎ期間の長さが成否を分ける
製造・工場との交渉・納期前経営者に集中して残りやすい1件目では避けるか、キーマン継続を条件にする

1件目で製造工程を持つ事業を選ぶと、キーマンが抜けた時点で商品が止まります。同じ金額なら、仕入れて売る型のほうが引き継ぎの難易度は低い。

1件目の条件

1件目で見る条件は5つ。どれも面談と資料で確かめられます。

条件見る中身満たさないときに起きること
自分の経験と接点がある扱った商材、使ったモール、前職の知識が届く領域か数字の良し悪しを自分で判断できず、売り手の説明をそのまま受け取る
構造が単純商品数が絞られ、販売チャネルが1〜2本、外注先が整理されている引き継ぐ項目が増え、どこから直すか決まらない
引き継ぎ期間を長く取れる前オーナーが数か月伴走する条件を書面にできるか手順書にない部分が空白のまま残る
在庫が軽い年商に対する在庫の比率、滞留品番の有無判断の誤りがそのまま資金繰りに出る
製造工程を持たない自社工場・専属工場・独自の型を抱えていないかキーマンの離脱で商品供給が止まる

当社が自社の買収で通していない型も、そのまま書きます。

  • 低単価・広告費が高い・繰り返し買われない・競合と差がない。この4つが重なると、広告での集客が構造的に回りません
  • 特需で伸びた事業。災害や流行で生まれた需要は再現しない。当社が関わった買収では、特需の後に売上が前年の7割まで落ちた例があります
  • 赤字で人を減らせない事業。再生には別の型が要ります。1件目の対象ではありません

そして何より、背伸びをしないこと。1件目は勉強代を払っても致命傷にならない規模で、買収と経営の経験を手に入れる。2件目からが本番という構えのほうが、結果として遠くまで行けます。

向く人と向かない人

向くのは、買う前から自分が足せるものが決まっている人です。「安いから買う」ではなく「自分なら伸ばせるから買う」。この違いが1年後の姿を分けます。

向く人向かない人
広告運用・物流・仕入れなど、足せる能力を具体的に言える事業の中身を問わず、利回りだけで選んでいる
既存事業の顧客層・販路と重なる領域を狙っている経験のない領域で、数字だけを見ている
買収後の3か月を空けられる本業の空き時間で回すつもりで、週の時間を数えていない
買収対価とは別に運転資金を用意している手元資金の全額を買収対価に充てる予定
前オーナーとの関係を保つ前提で交渉している引き継ぎで対立しても押し切れると考えている

会社員のまま買うなら、勤務先の副業規程の確認が先です。週に何時間使えるかを数え、その時間で回る事業かを面談で確かめる。ここを曖昧にしたまま買うと、最初の3か月で本業か買った事業のどちらかが崩れます。

当社の費用が合う規模

当社の最低成功報酬は500万円(税別)です。譲渡価額が数千万円の取引では、料率ではなく最低額が適用されます。

当社の報酬は完全成功報酬制で、株価レーマン方式を用いています。

譲渡価額料率(税別)
1億円以下の部分10%
1億円超〜5億円以下の部分5%
5億円超〜10億円以下の部分4%
10億円超の部分3%

譲渡価額3,000万円なら、料率での計算は300万円。最低成功報酬の500万円が上回るため、適用は500万円になります。譲渡価額に対する比率は16.7%です。

1,500万円から3,000万円のEC譲渡も、当社は受託しています。ただし成功報酬は最低額の500万円で、譲渡価額に対する負担は重い水準になります。予算が数百万円台なら、公的な窓口やマッチングの場のほうが合う。合わない規模で無理に入るより、条件が揃ったときにご相談いただくほうが、双方の時間が残ります。

数百万円台の買収を検討している段階では、事業承継・引継ぎ支援センターの後継者人材バンクと、事業承継のマッチングサイトが現実的な入口です。当社がお役に立てるのは、数千万円以上の規模からになります。

この記事のまとめ

  • スモールM&Aは中小M&Aの多数派。令和6年度に公的窓口で成約した譲渡企業の68.0%が売上1億円以下
  • 個人が買う道はまだ狭い。後継者人材バンクの累計登録者10,075者に対し、累計成約は435件
  • 規模が小さいほど倍率は下がる。純資産5百万〜1千万円のPER中央値は8.0倍、3億〜5億円は14.9倍
  • 買った直後は伸ばさない。1か月目は再現、2か月目は準備、3か月目に実行
  • 属人性が残るのは製造・工場・納期。EC運営の手順は引き継げる
  • 1件目は接点・構造の単純さ・引き継ぎ期間・在庫の軽さ・製造工程の有無で選ぶ
  • 数百万円台の買収に、当社の費用体系は合わない

よくある質問

Q. 会社員のままでも買収できますか。

A. できます。先に確認するのは、勤務先の副業規程と、週に使える時間です。EC事業は場所を選ばないぶん、時間の見積もりが甘くなりがちです。買収後の3か月は前任の運営を再現する期間で、ここに時間を使えないと立ち上がりで崩れます。運営に必要な週あたりの時間を、面談で前オーナーに数字で聞くところから始まります。

Q. いくらから買えますか。

A. 数百万円台のEC事業は実在します。ただし買収対価だけでは足りません。仕入資金、広告費、引き継ぎ期間中の運転資金が別に要ります。目安として、買収対価と同額程度の運転資金を用意できる規模から探すほうが、資金繰りで詰まりません。手元資金の全額を買収対価に充てる計画は、1件目では避ける形です。

Q. 買った後に売上が落ちたら、どうしますか。

A. 落ちるのは想定内です。前の経営者の判断や関係先とのやり取りは、引き継ぎ資料に残りません。当社が自社の買収で使っている順番はこうです。1か月目に前任の運営をそのまま再現し、2か月目に施策を準備し、3か月目に実行します。落ちた原因を分解する前に新しい施策を重ねると、何が効いていたのかが分からなくなります。

Q. CommerceX M&Aは数百万円の取引も扱いますか。

A. 扱っていません。当社の最低成功報酬は500万円(税別)で、譲渡価額が数百万円台では負担が釣り合いません。その規模では、事業承継・引継ぎ支援センターの後継者人材バンクや、事業承継のマッチングサイトが現実的な入口です。当社にご相談いただくのは、数千万円以上の規模になってからで間に合います。

ご相談ください

この記事の結論は「小さく買うほど安いが、引き継ぎの重さも一緒に買う」でした。1件目の成否は、値段より条件で決まります。

買収をお考えの方へ。当社はEC・コマース事業の買い手として、予算・領域・時期をお伺いしたうえで、条件に合う譲渡の対象が出た段階でご連絡しています。1件目であれば、この記事の5条件に照らして、その事業をご自身で引き継げるかどうかも一緒に見ます。買う・買わないを決める前の段階からご相談いただけます。

売却をお考えの方へ。買い手が個人や小さな会社になる規模では、値段より「引き継げるか」が成否を決めます。手順書、外注先の一覧、モールのアカウント構成。これらが整理されている事業は、同じ利益でも買い手の候補が増えます。当社は企業価値の査定を無料で行っており、引き継ぎの準備からご相談を受けています。

買収をお考えの方へ

→ 案件を見る

→ 買収の相談をする

売却をお考えの方へ

→ 売却の相談をする


出典

  • 第三者承継の成約件数・相談者数、後継者人材バンクの登録者数・成約件数、成約譲渡企業の売上規模別および業種別の割合:中小企業基盤整備機構「令和6年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績について」(2025年5月30日公表)。2026年9月4日確認
  • 中小M&Aの譲渡側件数(4,940件)、卸売業・小売業の件数(792件)、純資産規模別のPER中央値:中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」2024年度。2026年8月30日確認
  • 当社の手数料体系(株価レーマン方式・最低成功報酬500万円税別):CommerceX M&A 公式サイト(ma.commercex.co.jp)
  • 買収後100日の順番、1件目の条件、買わない型:当社のEC・D2C買収およびPMI支援における実務基準

(本記事は一般的な解説であり、個別の取引条件を保証するものではありません)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

あわせて読みたい

あなたの状況で聞きたいことはありませんか

売却も買収も、初回のご相談は無料です。秘密は秘密保持契約で守られます。