BJCに255.5億円 ── 営業利益38億円のAiロボティクスは、全額を借入で払って何を買ったのか
| 発表日 | 2026年3月27日(株式譲渡契約は3月30日・株式の取得と借入の実行は2026年4月1日) |
| 譲受企業 | Aiロボティクス株式会社(東証グロース 247A) |
| 譲渡企業 | 株式会社BJC(2022年設立・福岡県福岡市。創業は2014年) |
| 事業 | サロン専売の化粧品・美容商材の企画と卸売(「soaddicted」「SPICARE」) |
| 譲渡価額 | 255億5,000万円(15,887,500株・議決権100%) |
| スキーム | 株式取得(現金)。買収資金は全額が金融機関からの借入 |
| 出典 | Aiロボティクス 適時開示(2026年3月27日)・2026年3月期 決算短信(2026年5月13日)・2027年3月期 第1四半期決算短信(2026年8月14日)ほか |
(出典:株式会社BJC 公式サイト(bjc.jp)・2026年10月16日時点の画面)
譲渡企業の概要
BJCは、サロン専売の化粧品を企画し、代理店を通じて全国のサロンへ卸す会社です。本社は福岡市にあり、主力はまつ毛美容液の「soaddicted」とファンデーションの「SPICARE」。2025年10月期の売上高は、この2ブランドで約100億円(52億円と48億円)となり、連結売上高108億8,500万円の9割強を占めます。商流は、BJCから代理店、サロン、消費者の順です(補足説明資料)。
| 決算期(連結) | 2023年10月期 | 2024年10月期 | 2025年10月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 79億800万円 | 104億7,400万円 | 108億8,500万円 |
| 売上総利益率 | 45.8% | 52.7% | 56.3% |
| 営業利益 | 6億9,900万円 | 17億8,100万円 | 30億7,100万円 |
| 営業利益率 | 8.8% | 17.0% | 28.2% |
| 純資産 | 9億7,600万円 | 21億7,100万円 | 42億500万円 |
売上高の伸び率は2025年10月期に3.9%まで鈍化する一方、営業利益は2期で4.4倍となりました。営業利益率の上昇について、同社の資料は販売促進費・外注費・物流費の効率化を理由に挙げます。
譲受企業の概要
Aiロボティクスは、独自開発のAIで広告運用を自動化し、スキンケア・美容家電・ヘアケアを展開するD2C企業です。2024年9月に東証グロースへ上場。2026年3月期の単体決算は、売上高293億5,900万円(前期比2.1倍)、営業利益38億200万円、純資産60億4,900万円、従業員数36人。連結決算は、BJCの取得で初めて作りました。
M&Aの目的・背景
サロン専売の流通網と主力2商材の商品力を、自社の販売手法と組み合わせる取引です。開示された取得の理由は、BJCが両ブランドでカテゴリーリーダーの地位を持ち、参入障壁の高いプロ向け代理店経由の高価格帯販売で高い収益を上げていること。人的資源、商品開発力、販売網を相互に補い、販路と展開市場を広げる狙いです。
決算説明会(2026年5月13日・質疑応答要約)によると、高価格帯の美容商材を扱うサロンは国内に約8万店存在し、BJCはそのうち約4万店をすでにおさえていると同社は説明しました。この流通網へ「Brighte」ブランドの美顔器・ドライヤー・ヘアアイロンを投入し、あわせてEC運用の知見を渡す方針です。
M&Aの手法・成約内容
取引の形態は現金を対価とする株式取得で、買収代金の全額を銀行からの借入金で調達しました。取得価額は、DCF法などの株式価値評価と法務・財務の調査、売り手との協議を経て決めたと開示されています。売り手は、投資ファンド2本(合計55.08%)と個人株主・法人株主。アドバイザリー費用等は、決算短信の記載で2億4,500万円です。
借入はみずほ銀行から255億5,000万円。期間6か月・無担保・無保証で、同社は長期借入へ切り替えるまでのつなぎ融資と位置づけています。
この値段は、どう説明できるか
100%の取得なので、会社全体の評価額はそのまま代金です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 会社全体の評価額(100%) | 255億5,012万円 |
| うち受入純資産(暫定・逆算) | 39億1,601万円 |
| 差額(のれん・暫定・逆算) | 216億3,411万円 |
逆算されるのれんの額は買収対価の84.7%を占め、営業利益の7.0年分に相当します。のれんは取得原価の配分が終わっていない暫定値で(有価証券報告書のリスク記載)、額は第1四半期決算短信の残高212億7,355万円に同四半期の償却額3億6,057万円を足した当社の逆算です。この償却額は、15年の均等償却における3か月分の数値と一致します。同社は償却年数について「監査法人と協議中」とし、受け入れた資産・負債の内訳も開示していません。
| 2025年10月期の実績 | 代金の倍率 |
|---|---|
| 営業利益 30億7,100万円 | 8.3倍 |
| EBITDA 35億5,200万円 | 7.2倍 |
| 純利益 20億3,600万円 | 12.5倍 |
| 純資産 42億500万円 | 6.1倍 |
| 売上高 108億8,500万円 | 2.3倍 |
実績の営業利益で8.3倍の代金は、買い手の計画の利益で割ると5.9倍です。Aiロボティクスが開示したBJCの計画値は、2027年3月期の売上高150億円、営業利益43億6,000万円。この数値はのれん償却前であり、相乗効果は含まれていません。同社は質疑応答で買収価額を「利益水準の約5倍以下」と表現しました。算定の基礎は開示されておらず、対価に相乗効果が反映されたかも書かれていません。当社(CommerceX M&A)は、払う上限を買収先の単体の事業の価値までとし、相乗効果は買い手の取り分として別に扱います。時価純資産に営業利益1〜3年分を加える年買法の上限試算は134億円であり、実際の対価はその1.9倍です(純資産は簿価に基づく当社試算)。
実際に計上されたのれんと、その償却
2026年4月10日時点の暫定開示では、純資産53億円、のれん約202億5,000万円、15年均等償却で年約13億5,000万円でした。第1四半期の実績値から再計算すると、のれんは約216億3,400万円となり、15年で償却するなら年約14億4,200万円です。
買い手の規模との比
| 比べるもの(Aiロボティクス・2026年3月期 単体) | 金額 | 代金の倍率 |
|---|---|---|
| 純資産 | 60億4,900万円 | 4.2倍 |
| 営業利益 | 38億200万円 | 6.7倍 |
| 純利益 | 26億5,400万円 | 9.6倍 |
| 総資産 | 184億3,100万円 | 1.4倍 |
| 時価総額(同社が質疑応答で示した規模・2026年8月) | 500億円規模 | 約0.5倍 |
買収対価は、買い手の純資産の4.2倍、営業利益の6.7倍で、同社が質疑応答で示した時価総額の約半分です。この時価総額は株価からの計算ではなく、同社の説明の表現です。BJCの2025年10月期は、売上高が買い手の37%、営業利益が81%、純資産が70%です(決算期は異なります)。規模は小さく、利益は買い手と同水準の会社を、自社の純資産の4倍超で買った取引です。
資金の出どころ
資金は全額が借入で、増資はありません。同社は2026年8月14日の決算説明会で、増資をしない方針は変えず、時価総額500億円規模で数十億〜100億円の増資は現実的でないと答えています。有利子負債は2026年3月末の80億1,400万円から6月末には388億2,300万円へと約4.8倍に膨らみ、自己資本比率は32.8%から11.6%へ下がりました。
10月5日、同社は借入総額255億5,000万円のうち150億円を長期借入金へ借り換える契約の締結を公表。実行は10月8日の予定で、実行の完了の開示は10月16日時点で確認できていません。借入先はみずほ銀行70億円、りそな銀行40億円、SBI新生銀行26億円、日本政策金融公庫14億円で、返済期日は2032年3月から2041年9月に設定。残余の105億5,000万円についてはつなぎ融資のまま、期日を2026年12月30日へ延長する契約変更を行っています。
銀行3行との契約には、連結純資産を前期末などの100%以上に保ち、損益を2期連続で赤字にしない、という財務上の特約が付きます。みずほ銀行およびりそな銀行の条項では、2027年3月期の判定基準として2026年3月期の単体純資産60億4,900万円が用いられます。6月末時点の連結純資産56億100万円は、この基準額を4億4,800万円下回ります(判定は期末)。
買い手が読み取れること
借入で払う買収の上限は、買収先の営業利益と、自社の純資産の両方で決まります。本件の対価はAiロボティクスの純資産の4.2倍、営業利益の6.7倍で、6月末にはのれんが純資産の3.8倍になりました。返済の原資は買収先の営業利益で、自社の純資産は財務上の特約の条件です。
15年の均等償却なら、毎年ののれん償却は買収先の営業利益の約半分にあたります。逆算に基づくのれん償却費は年間約14億4,200万円で、BJCの営業利益の47%相当。なお、第1四半期(2026年4〜6月)に計上された営業損失5億3,100万円は、のれん償却費3億6,057万円とM&A関連費用約2億4,400万円の合計6億400万円を下回る水準。損失の主因を、同社は卸向け販売へ切り替える投資と説明しています。
売上の9割強が2ブランドで、確かめるのはブランド別・代理店別の売上と契約です。サロン専売の価値は、代理店とサロンが扱い続けることで保たれます。株式の取得なら契約は原則として会社に残りますが、支配権の変更で解除できる条項が代理店契約や製造委託・商標の契約にないかは、別に確かめます。売上高の伸びが3.9%にとどまる中で営業利益率が28.2%へ上がっており、販売促進費・外注費・物流費の水準が続くかも月次で確かめます。子会社CHARIS&Co.の単体売上は同じ期に34.8%減り、グループ内の取引を消した後の売上の内訳は開示にありません。
専売品をモールへ広げる施策は、代理店との関係を先に確かめます。同社はBJCのECモール展開を強め、6月のECモール売上は4月の2.66倍と説明し、代理店とは価格・時期を調整していると答えました。当社の整理では、卸・店頭への販路拡大は条件付きの相乗効果で、値崩れを防ぐ手立ての確認が先に要ります。
よくある質問
Q. 営業利益38億円の会社が、255億円をどう払ったのですか。
A. 全額を銀行借入でまかない、増資はしていません。返済の原資は、BJCの利益(同社の計画で償却前43億6,000万円)です。借入金のうち150億円は長期融資へ借り換える契約を締結し(10月8日実行予定)、残りはつなぎ融資のままです。
Q. のれんの償却は、買い手の利益をどれだけ減らしますか。
A. 15年償却を想定した場合、毎年の償却費は約14億4,200万円となります(当社試算)。この金額はBJCの営業利益の47%、Aiロボティクスの営業利益の38%に相当。償却は会計上の費用で、現金は出ていきません。
Q. サロン専売の会社は、何を見て値段を決めますか。
A. ブランドへの集中、代理店ごとの売上と契約、利益率が続くかの3点です。BJCは売上高の9割強が2つの主要ブランドで占められ、営業利益率は直近2期で8.8%から28.2%へ上がりました。
Q. こうした案件は、どこで見つかりますか。
A. 公表されるのは、買い手が上場企業で、開示した取引に限られます。CX BASEでは、買収のご相談をいただいた企業へ、条件に合う譲渡案件を公開前にご案内しています。
ご相談ください
買収の値段は、営業利益の倍率だけでなく、自社の純資産・利益に対する比と、資金の出どころで決まります。
CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。
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出典
- Aiロボティクス株式会社 適時開示(2026年3月27日・4月1日・4月10日・9月29日・10月5日):BJC株式の取得及び資金の借入/取得完了/補足説明資料/企業結合に係る暫定的な会計処理/借入金の弁済期限の変更/長期借入金への借換え。臨時報告書(3月30日・10月7日提出)
- Aiロボティクス株式会社「2026年3月期 決算短信」「通期決算説明資料」「決算説明会の質疑応答要約」(2026年5月13日・21日)・「有価証券報告書 第10期」(6月22日提出)
- Aiロボティクス株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信」「第1四半期決算説明資料」「質疑応答要約」(2026年8月14日・18日)
- 株式会社BJC 公式サイト(bjc.jp)トップページ
- 上記はいずれも2026年10月16日確認
(金額は株式の代金です。確定値は25,550,122千円で、取得関連費用245,436千円は含みません。3月27日の開示は、取得価額の合計を概算25,778百万円としました。取得比率100%のため換算していません。受入純資産・のれん・倍率・年買法・買い手に対する比・償却額は当社試算で、のれんは第1四半期短信の残高21,273,546千円と償却額360,568千円の合計21,634,114千円から逆算しています。BJCの2023年10月期の純資産は、3月27日の開示で976百万円、4月10日の開示で996百万円と食い違い、3月27日の値を使っています)