M&Aニュース2026年8月 発表書き手:齋藤 浩喜

BASEに最大80.9億円 ── 上限20%の公開買付けは、株価が買付価格340円を上回るなか10月21日まで延びた

発表日2026年8月28日(公開買付け 2026年8月31日〜10月21日。10月16日時点で結果は未公表)
譲受企業SBINM合同会社(SBIホールディングス 東証プライム 8473 の完全子会社SBIER株式会社が出資持分の全部を保有)
譲渡企業BASE株式会社(東証グロース 4477・2012年12月設立)
事業ネットショップ作成サービス「BASE」、オンライン決済「PAY.JP」、資金調達「YELL BANK」ほか
譲渡価額1株340円。買付予定数の上限23,792,300株(所有割合20.00%)で80億8,938万2,000円。下限なし
スキーム公開買付け(部分買付・現金)と資本業務提携。目的はBASEの持分法適用関連会社化(議決権の20%以上を持ち、決算に持分に応じた損益を取り込む会社にする)
出典BASE「公開買付けに関する賛同及び応募中立の意見表明…のお知らせ」(2026年8月28日)ほか。末尾に全件

譲渡企業の概要

BASEは、ネットショップを開設できる「BASE」や決済サービスの「PAY.JP」を運営する上場企業です。資金調達の「YELL BANK」、越境ECの「want.jp」、EC構築支援の「ショップサーブ」も手がけます。

項目(連結・億円)2023年12月期2024年12月期2025年12月期
売上高116.80159.81207.29
営業利益△4.257.7216.86
純資産130.00136.00151.19

2026年12月期の会社予想は売上高283.71億円、営業利益22.70億円で、8月の中間決算でも据え置かれました。

譲受企業の概要

SBIホールディングスは、証券・銀行・保険を中核に、子会社740社と持分法適用会社78社を持つ上場会社です(2026年3月末)。2025年5月にSBIネオメディアホールディングスを設立し、金融とコンテンツ、知的財産、タレントを組み合わせる「ネオメディア生態系」を進めています。公開買付者のSBINMは、2023年8月設立の投資事業会社です。

M&Aの目的・背景

狙いは、SBIグループの金融とコンテンツの基盤に、BASEのEC・決済の基盤をつなぐことです。SBIグループのタレントやキャラクターなどの知的財産は、BASEのEC、want.jp、2026年4月に子会社にしたPort(BASE→Portの記事)の仕組みで、物販と非物販の両方で収益化を目指します。SBIグループの決済取引はBASEの決済サービスへ集めて決済コストを下げることを目指し、取引先の中小事業者にはBASEの資金調達サービスの提供機会を広げます。

経緯は、2025年12月下旬にBASEがSBIホールディングスへ協業を打診したのが始まり。2026年6月、SBIホールディングスは、BASEの独立した経営判断と多様な株主・事業者との関係が企業価値の源泉と見て、完全子会社や連結子会社でなく、持分法適用関連会社にするのが最も適切と判断しました。資本の入れ方は、第三者割当増資を検討したものの、既存株主の持株比率が大きく下がるため、公開買付けを選びました。

M&Aの手法・成約内容

買付けは現金で1株340円。上限は23,792,300株(所有割合20.00%)で、下限はありません。応募が上限以下なら全部、超えればあん分比例で買います。買付代金の上限は、上限株数に340円をかけた80億8,938万2,000円(当社試算)。

BASEは賛同を表明し、応募するかどうかは株主の判断に委ねました。上限があり上場が続くため、持ち続ける選択にも十分な合理性があるという理由です。価格の妥当性には中立で、BASE自身は株式価値の算定書を取っていません。

日付出来事
2026年8月12日SBIホールディングスが1株320円を提案(前営業日の終値283円に13.07%)
8月21日BASEの引き上げ要請を受け、330円を提案(前営業日の終値312円に5.77%)
8月27日再度の要請を受け、340円を提案(提案日の前営業日8月26日の終値312円に8.97%)。BASEが応諾
8月28日公表(22時30分)。資本業務提携契約を締結
8月31日公開買付け開始。当初は9月30日まで(20営業日)
9月30日公開買付者が期間を10月15日まで延長(30営業日)。応募状況と見通しを踏まえ、株主に更なる判断機会を与えるため
10月6日10月21日まで延長(34営業日)。大株主が買付けを再開する旨の通知を、BASEが10月1日に伝えたため

決済の開始日は10月28日、結果の公表は期間の末日の翌日(10月22日)です。

この値段は、どう説明できるか

340円は、公表前の終値に9.32%、過去3か月の平均に18.88%の上乗せです。基準は、公表日の前営業日である8月27日。提案日の前営業日(8月26日・終値312円)を基準にすると8.97%で、経緯の表の値はこちらです。

基準株価株価(円)340円の上乗せ率
直前終値(2026年8月27日)3119.32%
直近1か月の平均30112.96%
直近3か月の平均28618.88%
直近6か月の平均28818.06%

非公開化の公開買付けでは、同種45件の直前終値への上乗せ率の中央値が44.58%でした(BEENOSの記事)。本件は株主が残り、上場が続くため、同じ物差しでは比べられません。

価格を20円上げても、終値が283円から312円へ上がっていたため、上乗せ率は13.07%から8.97%に下がりました。BASEが引き上げを求めた根拠は、株主名簿と株価の推移から推計した株主の取得簿価です。320円と330円では、経済的に応募を検討できる株主の持株数が、SBIホールディングスの必要な数に満たないと見て、引き上げを2回求めました。340円では上回るとして応諾しています(推計の中身は開示なし)。

算定は公開買付者側の算定機関が、市場株価法で286〜311円、DCF法(将来の現金収入を現在の価値に直して出す方法)で313〜366円としました。相乗効果は「具体的に見積もることが困難」として、DCFの前提に入っていません。340円の位置はDCFの範囲の中ほど(中央値339.5円・当社試算)。PER(株価が1株利益の何倍か)は21.4倍(2025年12月期の1株利益15.87円)、会社予想の13.01円なら26.1倍。PBR(株価が1株純資産の何倍か)は2.68倍(1株純資産126.86円)です。

項目(100%換算)金額
全株×340円(自己株式を除き新株予約権の目的株式を加えた118,961,372株)404.47億円
うち自己資本(2026年6月末)148.04億円
差額256.43億円

差額は2025年12月期の営業利益16.86億円の15.2年分、会社予想22.70億円なら11.3年分です(当社試算。新株予約権の行使価格は控除していません)。

公開買付けの現在地(2026年10月16日時点)

結果は未公表で、応募の数もこれまでの開示に出ていません。買付けは下限がなく、20.00%に届かない場合は、届くための方策を実施する予定で、方法と時期は未定と公開買付説明書は書いています。

日付出来事BASEの終値(Yahoo!ファイナンスの日足)
8月28日公表前の最後の取引日316円
8月31日公開買付けの開始日374円
9月30日当初の期間の末日336円
10月2日大株主が市場内で3,288,000株を取得370円
10月5日同じく1,412,000株を取得404円
10月15日直近の取引日382円

10月2日から15日までの終値は、すべて340円を上回っています(Yahoo!ファイナンスと日本経済新聞社の日足で一致。取引所の資料ではありません)。大株主の牧寛之氏の保有割合は、変更報告書によると20.53%から、10月2日に23.32%、10月5日に24.52%(28,916,186株)になりました。保有目的には、議決権ベースで所有割合30%超の取得を目指すと書かれ、30%以上は公開買付規制などの法令に沿って行うとあります。

買い手が読み取れること

BASEが2回の引き上げを求めた根拠は、上乗せ率ではなく、その価格で売ってよい株主が必要な株数を持つかでした。BASEは320円と330円では足りないと見ていました。自社が上限つきの買付けや増資を設計するなら、主要株主の取得価格の分布を、価格を決める前に確かめます。

買付価格と市場価格の位置は、期間中ずっと確かめます。市場で340円より高く売れるあいだは、応募する経済的な理由が小さくなります。下限がないため、応募が少なくても買付けは成立します。20.00%に届かなければ追加で取得する方策を実施する予定と、買い手は公表しています。持分の目標を数字で持つなら、届かなかった場合の次の手を、届出書と契約に先に書きます。

持分は、取る設計に加えて、保つ設計も契約に入れます。20.00%は、議決権ベースでは20.67%。議決権の20%以上を持てば関連会社に当たります(財務諸表等規則第8条第6項第1号)。契約には、SBIグループの保有割合が25.0%を超える買い増しの禁止、20%未満になる株式の発行へのSBIホールディングスの事前承諾、決済の開始日から3年間は15%未満となる売却の事前通知と協議、5%未満では提携の継続の協議が入っています。

買う理由を「買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせる」の一文で言えることが、値段より先です。SBIホールディングスの開示を当てはめると、買収先のここは、BASEのEC・決済の基盤とPAY IDの2,000万人超のID。自社のこの力は、金融サービスと顧客基盤、知的財産。伸ばし方は、知的財産のEC販売、決済の集約、中小の取引先への資金調達の案内です。当社(CommerceX M&A)は、払う上限を対象会社が単体で持つ価値までと考えます。本件の340円は、相乗効果を含まないDCFの範囲313〜366円の内側です。

20%を取っても、筆頭株主になれるとは限りません。同じ発行済株式総数で比べると、SBINMの上限は20.17%、大株主は24.52%(当社試算)。持分の大きい株主がいる会社へ資本を入れるときは、その株主の保有目的と買い増しの余地を、変更報告書で確かめます。

よくある質問

Q. SBIグループは、BASEにいくら払うのですか。

A. 上限は、23,792,300株に340円をかけた80億8,938万2,000円です。下限がなく、応募が少なければ払う額も減ります。

Q. 上乗せ率9%は、低いのですか。

A. 公表前の終値311円に9.32%、3か月平均に18.88%です。全株を買う非公開化の公開買付けでは、同種45件の中央値が44.58%で、目的が異なります。

Q. 公開買付けの結果は出ましたか。

A. 10月16日時点で未公表です。期間は10月21日までで、結果は翌10月22日に公表される予定です。

Q. こうした案件は、どこで見つかりますか。

A. 上場会社の公開買付けは適時開示で公表されます。非上場会社の譲渡に開示義務はありません。CX BASEでは、買収のご相談をいただいた企業へ、条件に合う案件を公開前にご案内しています。

ご相談ください

上限つきの公開買付けは、上乗せ率と、売ってよい株主が必要な株数を持つかの2つで読めます。CX BASEの扱いは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件。買収のご相談をいただいた企業へ、条件に合う案件を公開前にご案内しています。

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出典

  • BASE株式会社:「SBINM合同会社(SBIホールディングス株式会社の完全子会社)による当社株式に対する公開買付けに関する賛同及び応募中立の意見表明及びSBIホールディングス株式会社との資本業務提携契約の締結に関するお知らせ」(2026年8月28日)/同「補足説明資料」(2026年8月28日)/同お知らせの一部変更について(2026年9月30日・10月5日・10月6日)
  • SBINM合同会社:「公開買付説明書」(2026年8月31日)と訂正事項分(2026年9月30日・10月6日)
  • 牧寛之:「変更報告書 No.9」(2026年10月9日提出)・「No.10」(2026年10月13日提出)(EDINET)
  • BASE株式会社:「2025年12月期 決算短信」(2026年2月12日)/「2024年12月期 決算短信」(2025年2月14日)/「2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信」(2026年8月5日)
  • 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 第8条第6項(e-Gov法令検索)/BASE株式会社 公式サイト(binc.jp)/BASEの終値:Yahoo!ファイナンス・日本経済新聞社の株価データ

(いずれも2026年10月16日確認。80億8,938万2,000円は買付予定数の上限23,792,300株×340円で、付随費用を含みません。100%換算・差額・年数・PER・PBR・DCFの中央値・20.17%は当社試算)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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