Portに13億円 ── 純利益1億円の会社に、BASEはのれん10.2億円を計上した
| 発表日 | 2026年4月16日(株式取得 2026年4月17日・連結は2026年6月末の貸借対照表から、損益は7月から) |
| 譲受企業 | BASE株式会社(東証グロース 4477) |
| 譲渡企業 | Port株式会社(2018年2月設立・東京都渋谷区) |
| 事業 | 1on1ビデオ通話の「Talkport」、エンタメ物販ECの「Shoport」などのエンターテインメントテック事業 |
| 譲渡価額 | 13億円(普通株式7,750株・A種優先株式2,640株・議決権100%) |
| スキーム | 株式取得(現金)。大株主は投資組合78.5%・代表取締役21.5%(事前の集約後) |
| 出典 | BASE 適時開示(任意開示・2026年4月16日)・2026年12月期第2四半期決算短信と決算説明会資料(2026年8月5日) |
(出典:BASE株式会社 プレスリリース「エンターテインメントテック事業を展開するPortがBASEグループにジョイン」(PR TIMES・2026年4月16日)・2026年10月16日時点の画面)
(出典:Port株式会社 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)
譲渡企業の概要
Portは、クリエイターがファンにビデオ通話を販売できる「Talkport」を運営する会社です。2018年2月設立で、本社は東京都渋谷区。Talkportの売り手は、アーティストや声優、VTuber、アスリートなどです(BASEの開示)。「Shoport」は、エンタメ物販に合わせたECの基盤。公式サイトの登録は、アーティスト1万5,000人超、ファン20万人超です(2026年10月16日確認。登録数であり、利用の数ではありません)。
BASEの開示には、Portの売上・営業利益・純資産の記載がありません。本件は適時開示の基準に当たらない任意の公表で、項目が一部省かれています。一方でPortは、自社サイトに決算公告(会社法が定める決算の公表)を出しています。大会社でない会社の公告は貸借対照表だけでよいため、分かるのは貸借対照表と当期純損益で、売上高と営業利益は分かりません。
| 決算期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|
| 総資産 | 2億8,100万円 | 4億5,500万円 | 5億2,700万円 | 5億6,700万円 |
| 純資産 | 160万円 | 1億3,900万円 | 2億1,300万円 | 2億8,100万円 |
| 当期純損益 | △1億2,800万円 | △1,200万円 | 7,400万円 | 1億200万円 |
純資産は、ほぼゼロだった2022年12月期から3期で2億8,100万円まで増え、当期純損益も赤字から黒字へ変わりました。取得の相手先として開示されたのは、UNIVISBP投資事業組合と代表取締役の玉置貴史氏。事前に少数株主の株式を投資組合へ集約した結果、持株比率は78.5%と21.5%です。
譲受企業の概要
BASEは、ネットショップ作成サービス「BASE」を中心に、決済・資金調達・越境ECを手がける上場企業です。2012年12月設立で、2025年12月期の連結売上高は207億2,900万円、営業利益は16億8,600万円でした(決算短信)。2025年7月には、ネットショップ構築支援のEストアーを子会社にしています。
2026年8月28日には、SBIホールディングス傘下のSBINM合同会社が、BASE株式の公開買付け(上限は所有割合20.00%)を発表しました(BASEの開示)。
M&Aの目的・背景
狙いは、BASEが顧客を広げる領域を、形のある物の販売から、サービスとデジタルコンテンツへ広げることです。BASEは、M&Aの検討領域を「対象顧客(GMV)の拡大」と定め、物販を中心に、サービスとデジタルコンテンツ領域のEC事業者を探してきました。GMVは、利用者が売った商品やサービスの総額です。Portは、この方針に沿った取得です。
取得後の組み合わせは3つ。Talkportなどのカード決済をBASEグループの「PAY.JP」へ移し、決済原価を下げて売上総利益率を上げる。クリエイターへ将来債権のファクタリングなどの金融を出す。ファンにショッピングアプリ「PAY ID」を使ってもらう。最初の施策は1つ目の決済です(2026年8月の決算説明会資料)。
M&Aの手法・成約内容
代金は現金13億円で、BASEはPortの全株式を取得しました。普通株式7,750株とA種優先株式2,640株の合計で、議決権は10,390個(100%)。種類ごとの価格は開示されていません。アドバイザリー費用等は、4月の開示では概算6,600万円、8月の決算短信では6,200万円で、合わせた取得の総額は13億6,200万円です。算定方法と第三者の算定機関は、開示に書かれていません。
2026年12月期の中間期(1〜6月)の損益に、Portの数字は入っていません。
この値段は、どう説明できるか
100%の取得なので、会社全体の評価額は13億円です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 会社全体の評価額(100%) | 13億円 |
| うち受入純資産(2026年6月末・暫定) | 2億7,900万円 |
| 差額(のれん・暫定) | 10億2,000万円 |
代金の78.5%がのれん(代金と純資産の差額)で、残る21.5%が受け入れた純資産です。受入純資産は、受け入れた資産5億8,500万円から、引き受けた負債3億600万円を引いた額。代金はその4.7倍です。のれんは、BASEが開示した10億2,000万円と合います(開示は百万円単位で、端数の差は100万円)。
Portの決算公告の数字で割ると、代金は2025年12月期の当期純利益1億230万円の12.7倍、のれんは当期純利益の10.0年分。2025年12月末の純資産2億8,100万円に対しては4.6倍です。年買法(時価純資産に営業利益の1〜3年分を足す計算)を、営業利益の代わりに当期純利益で計算すると3億8,400万円から5億8,800万円で、代金はその2.2〜3.4倍です(当社試算。純資産は帳簿の額)。
BASEは決算説明会資料で、2026年7〜12月の連結への寄与を、GMV 7億6,200万円、売上高1億9,500万円、売上総利益1億2,600万円と見込みました。売上高はGMVの25.6%、売上総利益は売上高の64.6%。6か月分を単純に2倍すると、代金は売上高の3.3倍、売上総利益の5.2倍です(当社試算。季節の変動や成長は含みません)。
BASEの連結キャッシュ・フロー計算書で、Portの取得による支出は8億8,200万円。代金の全額を期中に払ったなら、差の4億1,800万円はPortが連結時に持っていた現金にあたり、現金を除いた受入資産と負債は差し引きでマイナスです(当社試算)。
当社(CommerceX M&A)は、対象の単独での価値と、自社に入れた後の価値を別々に持ち、払える上限は、組み合わせが実現しないリスクの分だけ単独の価値の側に寄せます。13億円は年買法の2倍を超え、利益の倍率だけでは説明が足りません。BASEが示した決済・金融・ID決済の組み合わせまで含めた値段、というのが当社の読みです。
実際に計上されたのれんと、その償却
のれん10億2,000万円は暫定で、取得原価の配分が終わっていません。償却は「効果が発現すると見積もられる期間で均等償却する」とだけ書かれ、年数の記載はありません。2026年12月期の償却額は、決算説明会資料で6,300万円の見込み。7月から12月の6か月分なら、年換算で約1億2,600万円で、償却期間が約8年のときの額に近くなります(当社試算)。Eストアーののれんは、決算短信に14年と明記されていました。同じ14年なら、6か月分は約3,600万円です。
BASEが経営指標にするEBITDAは、営業利益にのれん償却額を足し戻すため、この償却は営業利益にだけ出ます。償却6,300万円は、同じ6か月の売上総利益1億2,600万円の半分。Eストアーでは、配分の結果、のれんとは別に顧客関連資産12億円(18年償却)が計上されました。Portでも配分が終われば、のれんの一部が別の無形資産へ移り、のれんと償却の額が変わる場合があります。
買い手が読み取れること
対象の財務が開示されなくても、対象会社の決算公告で純利益までは確かめられます。当社の見解では、過去の決算は純資産の増減と当期純利益を並べて見て、差が出たら資本からの払い出しを疑います。Portの2025年12月期は、純資産の増加が6,831万円で、当期純利益1億230万円より3,399万円小さい。差はその他資本剰余金の減少3,399万円と一致し、減少の中身と相手は公告にありません。DD(買収前の調査)で確かめる項目です。利益剰余金は△211万円で、繰越欠損金の残りと2026年以降の税負担も、公告から分かりません。
13億円は、買い手が足せる価値で説明する値段です。BASEが示した決済、金融、ID決済の3つは、Portの利用者へ自社の仕組みを出せる買い手にしか使えません。最初の施策であるカード決済の移管は、効果が売上総利益率に出るため、取得後の決算で確かめられます。自社が同じ価値を足せないなら、同じ値段は払えません。
「登録数」は、動いている数ではありません。確かめるのは、直近の月に配信したクリエイターの数、上位の配信者への集中、ファンの再購入率、手数料の取り分の推移。貸借対照表には、買掛金1億1,774万円とポイント前受金3,091万円(2025年12月末)が出ています。未使用のポイントは、前払式支払手段として資金決済法の規制の対象になりうるため、発行の形と届出の要否もDDで確かめます。
償却の年数は、買った後の利益の見え方を決めます。年数は、2026年10月16日時点で開示されていません。見込みの6,300万円が6か月分なら、年換算1億2,600万円(約8年の償却に相当)で、Portの2025年12月期の当期純利益1億230万円を上回ります。自社の利益計画は、償却後の営業利益と償却前のEBITDAの両方で組みます。
よくある質問
Q. BASEは、Portをいくらで買ったのですか。
A. 株式の代金は13億円で、議決権の100%です。アドバイザリー費用等は2026年8月の決算短信で6,200万円と確定しています。BASEは、のれんを暫定で10億2,000万円(代金の78.5%)と開示しました。
Q. 対象の財務が開示されない小型の買収は、どこで確かめますか。
A. 対象会社の決算公告です。Portは自社サイトに2022年12月期から2025年12月期の決算公告を出しています。大会社でないため、貸借対照表と当期純損益のみで、売上高と営業利益はありません。
Q. のれんの償却年数は確定していますか。
A. 確定していません。のれんは暫定で、年数の記載もありません。2026年12月期の償却見込みは6,300万円で、6か月分なら約8年の償却に近い額です。確定した額は、取得原価の配分が終わった決算で出ます。
Q. クリエイターのプラットフォームを買うとき、何を確かめますか。
A. 登録数でなく、配信した人の数、上位への集中、再購入率、取り分の推移です。未使用のポイントがあれば、前払式支払手段としての届出の要否も確かめます。
ご相談ください
13億円は、決算公告の利益の倍率でなく、買い手が決済や金融を足せる価値に付いた値段と、当社は読んでいます。CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。
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出典
- BASE株式会社「Port株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」(2026年4月16日公表・2026年10月16日確認)
- BASE株式会社 プレスリリース「エンターテインメントテック事業を展開するPortがBASEグループにジョイン」(PR TIMES・2026年4月16日公表)
- BASE株式会社「2026年12月期 第1四半期決算短信」(2026年5月12日公表)
- BASE株式会社「2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信」と「第2四半期決算説明会資料」(2026年8月5日公表・2026年10月16日確認)
- BASE株式会社「2025年12月期 決算短信」企業結合等関係(Eストアーの取得・2026年2月12日公表)
- BASE株式会社「SBINM合同会社による当社株式に対する公開買付けに関する賛同及び応募中立の意見表明…のお知らせ」(2026年8月28日公表)
- Port株式会社 公式サイト(theport.inc)の決算公告(2022年12月期〜2025年12月期)とトップページ、Talkport公式サイト(talkport.com)(2026年10月16日確認)
- 会社法 第440条(決算の公告・e-Gov法令検索・2026年10月16日確認)
(金額は株式の代金13億円です。アドバイザリー費用等を含む取得の総額は13億6,200万円。取得比率100%のため換算していません。のれん10億2,000万円はBASEが開示した暫定値、受入純資産は開示された資産と負債の差額です。倍率・年数・年買法の比較・年換算・現金の読みは当社試算。決算公告は損益計算書を含まないため、営業利益の代わりに当期純利益を使っています。登録アーティスト数・登録ファン数は会社が公表する登録の数です)