BEENOSに537億円 ── 直前株価への上乗せは19%、同種の中央値45%を下回る価格を、どう説明したのか
| 発表日 | 2024年12月19日(公開買付け 2025年3月24日〜5月7日) |
| 譲受企業 | LINEヤフー株式会社(東証プライム 4689) |
| 譲渡企業 | BEENOS株式会社(公開買付けの時点で東証プライム 3328・1999年設立・東京都品川区) |
| 事業 | 越境EC「Buyee」「転送コム」ほか |
| 譲渡価額 | 1株4,000円。全株で537億7,737万2,000円(買付代金の上限)。決済で払った現金は446億7,400万円(議決権84.08%) |
| スキーム | 公開買付け(TOB)と株式併合による完全子会社化(現金) |
| 出典 | LINEヤフー「公開買付けの開始に関するお知らせ」(2025年3月21日)ほか。末尾に全件 |
(出典:BEENOS株式会社 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)
譲渡企業の概要
BEENOSは、海外の利用者が日本の商品を買う越境ECを中心に、年間1,159億円の流通を扱う会社です。子会社tenso株式会社の「Buyee」(代理購入)と「転送コム」(発送代行)が中核で、6,000以上のECサイトと連携しています。
| 項目(連結・億円) | 2022年9月期 | 2023年9月期 | 2024年9月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 298.46 | 325.08 | 254.28 |
| 営業利益 | 3.28 | 45.01 | 24.01 |
| 純資産 | 180.01 | 130.10 | 144.30 |
2024年9月期の売上高は、ブランド・アパレルと酒類の買取販売の2社の譲渡と、投資売却の減少で減りました。越境ECのグローバルコマースは、流通総額900億9,000万円(前期比27.4%増)、営業利益44億2,600万円(20.8%増)。2023年9月期の連結営業利益には、スタートアップ投資事業の29億7,200万円が入っています。
譲受企業の概要
LINEヤフーは、検索・ニュース・ショッピング・決済を持つ上場会社で、2026年3月期の売上収益は2兆363億円です。コマース事業には「Yahoo!ショッピング」と、取扱高1兆円のリユース事業(「Yahoo!オークション」など)があり、越境EC市場を「有望な成長市場」と見ていました。「Buyee」は2012年から、同社のコマース商材を扱う取引先でもあります。
M&Aの目的・背景
狙いは、LINEヤフーの出品者・利用者の基盤と「Buyee」をつなぎ、海外向けの流通を増やすことです。具体策は2つ。1つ目は海外向け商品の増加で、出品者への販売手数料の優遇を、BEENOSの代行手数料を含む連結の売上で検討し、海外で需要の高い商品の出品を促します。2つ目はデータとマーケティング。LINEは台湾で約2,200万人、タイで約5,400万人のユーザーを持ち、両社が別々に重ねていた新規顧客の獲得を一本化して費用を下げます。
完全子会社にする理由は、少数株主との利益相反を気にせずデータを活用できること、親子上場による企業統治の弱まりを避けられることです。想定する悪影響は、LINEヤフーの競合が「Buyee」から離れるリスク。BEENOSは競合を公平に扱う方針です。
M&Aの手法・成約内容
買収代金は現金で1株4,000円。公開買付けのあと株式併合で完全子会社にしました。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2024年8月23日 | 先行提案者から完全子会社化の初期提案。9月に独立した特別委員会を設置 |
| 10月16日〜11月12日 | LINEヤフーが意向表明書を提出(10月16日)。BEENOSは11月12日に両者へ価格の引き上げを求め、12月2日を期限に法的拘束力のある提案の再提出を要請 |
| 12月2日 | 最終提案を比べ、LINEヤフーの4,000円案を選ぶ。価格・成立の蓋然性・中長期の戦略のいずれも優れると判断 |
| 12月19日 | 公表。上位3株主(合計27.90%)が全株を応募する契約を結ぶ |
| 2025年3月24日〜5月7日 | 公開買付け。当初は2月末の開始を目指したが、台湾の競争当局の手続を待った |
| 5月14日 | 決済。応募は11,335,722株(新株予約権の目的株式を含む)で所有割合84.32% |
| 9月1日 | 株式併合(2,800,000株を1株に)が効力を生じ、完全子会社に |
この値段は、どう説明できるか
上場会社の買付けは、直前の株価に何%を上乗せしたか(プレミアム)で値段を説明します。4,000円は、2024年12月18日の終値3,370円に対して18.69%の上乗せ。同種45件(2019年6月以降に成立した第三者による非公開化の公開買付け)の中央値は44.58%で、4つの基準のすべてで中央値を下回ります。
| 基準株価 | 株価(円) | 4,000円の上乗せ率 | 同種45件の中央値 |
|---|---|---|---|
| 直前終値(2024年12月18日) | 3,370 | 18.69% | 44.58% |
| 直近1か月の平均 | 3,482 | 14.88% | 41.51% |
| 直近3か月の平均 | 3,066 | 30.46% | 45.81% |
| 直近6か月の平均 | 2,771 | 44.35% | 52.95% |
公表前の株価は、説明の難しい上昇局面にありました。11月27日の終値3,690円は、それ以前3年間の最高値を上回り、11月15日に大量保有報告書を出した新たな大株主の買付け以降に上がっています。BEENOSは直近の株価を重視せず、3か月・6か月の平均で判断しました。3か月平均への30.46%は、同種で最頻値の30〜40%の帯にあたります。
| 算定手法(1株あたり) | 範囲 |
|---|---|
| DCF 対象者側の算定機関2社(相乗効果を見込まない) | 2,908〜3,755円/3,469〜4,752円 |
| DCF 買い手側の算定機関(想定する相乗効果を見込む) | 3,805〜4,934円 |
4,000円は、対象者側の1つの上限3,755円を245円(6.5%)上回り、もう1つの範囲に入ります。買い手側の範囲では下側。対象者側の算定は、相乗効果を「具体的に見積もることが困難」として含めておらず、買い手側は事業計画に入れています。PERは36.0倍(2024年9月期の1株当たり当期純利益111.06円)、PBRは3.61倍(1株当たり純資産1,109.12円)です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 会社全体の評価額(全株×4,000円) | 537.77億円 |
| うち純資産(2024年9月末) | 144.30億円 |
| 差額 | 393.47億円 |
差額393.47億円は、営業利益24.01億円の16.4年分です。年買法(純資産+営業利益1〜3年分。純資産は簿価)は168億〜216億円で、払う額はその2.5〜3.2倍(当社試算)。利益の倍率では説明がつきません。当社(CommerceX M&A)は、対象会社が単体で持つ価値と、自社に入れた後の価値を別々に持ちます。競合する提案があった中で、相乗効果の一部を売り手の株主へ渡して決まった価格と読みます。
帳簿に載ったのれんは250億円
LINEヤフーはIFRSで、支配を得た2025年5月14日の取得を次のとおり計上しました。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 取得対価(現金) | 446.74億円 |
| 受け入れた純資産(公正価値) | 234.08億円 |
| うち無形資産(商標権108.29億円を含む) | 111.88億円 |
| 非支配持分 | 37.86億円 |
| のれん | 250.52億円 |
単純計算の393.47億円とはずれます。帳簿は決済日に払った現金(議決権84.08%)で計算し、応募のなかった分は後から株式併合で取得しています。IFRSでは、支配を得た後に非支配株主から追加で取得する分は資本取引として扱うのが原則で、LINEヤフーの開示は株式併合の取得額と処理に触れていません。受け入れた純資産は、時点も評価も2024年9月末の簿価(144.30億円)と異なり、公正価値で234.08億円。商標権108.29億円を新たに識別しています。
取得後の決算
IFRSなので、のれんと商標権は毎期の償却がありません。のれんは「オークション」の資金生成単位グループ(Yahoo!オークションなど)に配分され、同グループののれんは6.56億円から257.09億円へ増えました。2026年3月末ののれんの減損損失累計額はゼロで、LINEヤフーは各グループの回収可能価額が帳簿価額を十分に上回ると開示しています(BEENOS単独の結果は開示なし)。
2025年5月14日から2026年3月31日までにBEENOSが連結へ加えた売上収益は169.48億円、当期利益は5.57億円で、取得対価の約1.2%です。LINEヤフーが算定に使ったBEENOSの事業計画は、2025年9月期は販促費などで営業利益が減り、2026年9月期に大きく増える形でした。
買い手が読み取れること
公表前の株価が急に上がっていないかを、長い期間の平均と並べて確かめます。BEENOSは直前終値に対して18.69%でも、3か月平均に対して30.46%、6か月平均に対して44.35%でした。直前の終値だけで上乗せ率を決めると、思惑で上がった価格に上乗せすることになります。公表前の最高値が過去3年の最高値を超えていないかも、提案の前に確かめます。
競合する提案がある局面では、払える上限と降りる線を先に決めます。当社は、単体の価値と相乗効果を入れた価値を別々に持ち、払う額は単体の価値を基準に、相乗効果の取り分をどこまで売り手へ渡すかを降りる線と一緒に決めます。BEENOSは最終提案を、価格・成立の蓋然性・戦略で比べ、金額だけでは決めていません。
買う理由を「買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせる」の一文で言えることが、値段より先です。LINEヤフーの開示を当てはめると、買収先のここは、海外の購入者と6,000超のEC連携を持つ「Buyee」。自社のこの力は、出品者の基盤と手数料の優遇、台湾・タイのLINEユーザー。伸ばし方は、海外で需要の高い商品の出品を増やし、新規顧客の獲得費用を一本化すること。
検証するのは、流通の伸びの中身と、提携先との関係です。2024年9月期の流通は、国内の提携パートナーと共同の積極的なキャンペーンが奏功して伸びたと、有価証券報告書は説明します。クーポンの費用負担を除いた伸びを分けて確かめます。「Buyee」はYahoo!オークションの商品情報をAPIで受け取る関係でもあり、競合するプラットフォームの動きは、提携契約の支配権変更の条項で確かめます。現預金は2024年9月末に179.48億円で、前期末から73.00億円増えました。決算説明資料は理由に、2社の譲渡と、グローバルコマースなどの預り金・前受金の増加を挙げます。自由に使える額は、預り金・前受金を引いて別に確かめます。
買った後の負担は、会計基準で形が変わります。IFRSは、のれんと商標権を償却せず、減損テストで毎期確かめます。日本基準なら、のれんの償却が毎期の利益を減らします(ZOZOの事例では7年で年約6.6億円)。自社の基準でどちらの形になるかを、先に確かめます。
よくある質問
Q. 上乗せ率19%は、低すぎませんか。
A. 同種45件の中央値44.58%を、4つの基準すべてで下回ります。BEENOSは、公表前の株価が説明の難しい上昇局面にあったとして、3か月・6か月の平均も見て判断しました。
Q. のれんはいくらですか。
A. 全株537億円と純資産144億円の単純計算では393億円。LINEヤフーの帳簿では250億5,200万円で、商標権108億2,900万円は別に計上されています。帳簿は決済日に払った現金で計算し、純資産を公正価値で評価しているためです。
Q. 競合する提案があると、上場会社のTOBはどう進みますか。
A. この事例では、特別委員会が両者に価格の引き上げを求めて最終提案を比べ、価格、成立の蓋然性、中長期の戦略でLINEヤフーの案を選びました。
Q. こうした案件は、どこで見つかりますか。
A. 上場会社の完全子会社化は適時開示で公表されます。非上場会社の譲渡に開示義務はありません。CX BASEでは、買収のご相談をいただいた企業へ、条件に合う案件を公開前にご案内しています。
ご相談ください
上場会社の買付けは、直前株価への上乗せ率と、買い手の帳簿に載る分解の2つで値段を読めます。CX BASEの扱いは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件。買収のご相談をいただいた企業へ、条件に合う案件を公開前にご案内しています。
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出典
- LINEヤフー株式会社:「BEENOS株式会社(証券コード:3328)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」(2025年3月21日)/同「公開買付けの結果に関するお知らせ」(2025年5月8日)/「BEENOS株式会社の株式併合の効力発生および完全子会社化に関するお知らせ」(2025年9月1日)
- LINEヤフー株式会社:「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年5月8日)/「第31期 有価証券報告書」(2026年6月18日)の企業結合・のれんの配分・減損テスト
- BEENOS株式会社:「LINEヤフー株式会社による当社株券等に対する公開買付けの開始予定に関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」(2024年12月19日)/「第25期 有価証券報告書」(2024年12月20日)/「2024年9月期 通期決算説明資料」(2024年11月7日)/公式サイト(beenos.com)
(いずれも2026年10月16日確認。全株537億7,737万2,000円は買付予定数13,444,343株×4,000円。新株予約権は行使価格との差額で買い付けるため、実際の総額はこれを下回ります。差額・倍率・年数・年買法は当社試算)