MISMに6.4億円 ── 営業利益が1年で16倍超に伸びた縦型動画の制作会社に、AnyMindは何を払ったのか
| 発表日 | 2026年1月27日(株式の取得 2026年1月29日) |
| 譲受企業 | AnyMind Japan株式会社(AnyMind Group株式会社〔東証グロース 5027〕の完全子会社) |
| 譲渡企業 | 株式会社MISM(2021年12月設立・東京都渋谷区) |
| 事業 | 縦型動画広告の制作と、動画素材のレンタル |
| 譲渡価額 | 6億4,000万円(250株・議決権100%) |
| スキーム | 株式譲渡(現金)。現経営陣は引き続き経営に関与 |
| 出典 | AnyMind Group 適時開示(2026年1月27日)・2025年12月期 決算説明資料(2026年2月13日)・半期報告書(2026年8月14日) |
(出典:株式会社MISM 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)
譲渡企業の概要
MISMは、縦型動画の広告制作と、動画素材のレンタルを手がける会社です。資本金は250万円。登録するクリエイター・モデルは2,000名超、年間の制作実績は2万本以上、保有する動画素材は6万点超です(適時開示)。柱は、企業向けの動画制作「BUZZ ORDER」と、素材をサブスクリプション(定額課金)で貸す「BUZZ RENTAL」の2つ(AnyMind Groupの決算説明資料)。
| 決算期 | 2023年10月期 | 2024年10月期 | 2025年10月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 3,200万円 | 1億800万円 | 3億6,600万円 |
| 営業利益 | 400万円 | 700万円 | 1億1,700万円 |
| 当期純利益 | 300万円 | 500万円 | 8,000万円 |
| 純資産 | 500万円 | 1,100万円 | 9,400万円 |
営業利益は直近の1期で16倍超に伸びました。決算説明資料は、2025年10月期の売上高を前年比+237%、営業利益を+1,556%と書きます。売上総利益は2億5,000万円で、売上総利益率は68.3%、営業利益率は32.0%(比率は当社計算)。財務数値は、監査法人の監査もレビューも受けていません(適時開示の注記)。株主は、代表取締役が90%、個人2名が5%ずつで、売主はこの3名です。
譲受企業の概要
AnyMind Groupは、ブランド企業のマーケティングとEC、流通をまとめて支える会社です。2016年にシンガポールで創業し、アジアの15ヵ国・地域で事業を持ちます。2025年12月期(IFRS)の売上収益は573億円、営業利益は17億9,800万円(前期比29.7%減)。MISMは同社にとって15社目、日本企業では9社目のM&Aで、代金は2025年12月期の営業利益の約36%にあたります(決算短信)。
M&Aの目的・背景
狙いは、縦型動画のクリエイティブを、企画から分析まで自社のグループで一貫して出せるようにすることです。適時開示によると、AnyMind Groupは2025年10月にNADESHIKO Beautyを完全子会社にして、自社メディアで縦型のショート動画を作る体制を持ち、2026年1月には化粧品・美容雑貨の流通を持つサン・スマイル社も子会社にしました。MISMの強みは、広告の配信データと過去の実績にもとづく企画設計、多様なクリエイター・モデルのネットワーク、短納期の量産体制。参画で、企画設計、キャスティング、制作、分析・改善までを一気通貫で提供できると説明します。
決算説明資料は、2026年1月に取得した3社の役割を、MISMが需要の創出、Bcodeが購買への転換(ライブコマース)、サン・スマイルが流通の拡張(オフライン)と整理します。
M&Aの手法・成約内容
議決権100%(250株)を、AnyMind Groupの完全子会社のAnyMind Japanが、現金6億4,000万円で取得しました。取締役会の決議は2026年1月27日です。決算説明資料は、取得の方法を手元の現預金による株式譲渡とし、資金には金融機関からの借入金を充てたと注記します。取得価額の算定方法と第三者の算定機関は、適時開示に記載がありません。連結業績への影響は、適時開示が軽微と見込みます。
後払い(アーンアウト)の記載は、適時開示にも決算説明資料にもありません。半期報告書の注記では、企業結合による条件付対価(取得後の成果に応じて払う追加の対価)の残高が、2025年12月末の2億1,500万円から、2026年6月末は0になりました。調整表に取得に伴う新規の計上はなく、2025年12月末の残高はMISMの取得前の買収に由来します。MISMの取得で負債に計上した追加対価はないと読めます。
この値段は、どう説明できるか
100%の取得なので、会社全体の評価額はそのまま6億4,000万円です。のれん相当は、営業利益の4.7年分。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 会社全体の評価額(100%) | 6億4,000万円 |
| うち純資産(2025年10月期) | 9,400万円 |
| 差額(のれん相当) | 5億4,600万円 |
差額5億4,600万円は、評価額の85.3%で、営業利益1億1,700万円の4.7年分。代金は、純利益の8.0倍、純資産の6.81倍です。年買法(時価純資産+営業利益1〜3年分)は、純資産を簿価のまま使うと2億1,100万〜4億4,500万円で、代金はその上限の約1.4倍で、1億9,500万円上回ります(当社試算)。
利益が続くなら、利益の倍率でおおむね説明がつく水準です。営業利益の5.5倍は、販路などの上乗せを大きく見込んだ値段とは読みにくい倍率です。当社(CommerceX M&A)は、対象の単独の価値と、自社に入れた後の価値を別々に持ち、6.4億円はMISM単独の価値に近い値段と読みます。
この倍率は、直近の1期の営業利益が続く前提で成り立っています。前の2期の営業利益は合計1,100万円で、直近期はその10倍超。直近期の利益で割れば5.5倍、前期の700万円で割れば91倍です。売上の中身(案件の数と大きさ、既存の顧客と新規の顧客の比率)や、四半期・月ごとの推移は、開示にありません。
実際に計上されたのれんと、その扱い
MISM単独ののれんは、開示にありません。半期報告書の企業結合の注記に載るのは、サン・スマイル1社(のれん31億900万円)だけです。のれんの増加は3社合計で44億7,100万円。サン・スマイル分を除く13億6,200万円に、BcodeとMISMの2社分と為替の影響が含まれ、MISM分は分けられません。第1四半期の営業利益への貢献も、新たに連結した3社の合計で1億3,700万円(M&A関連費用と社内の間接費の配賦後)。
のれん相当5億4,600万円は、取得原価の配分で顧客関連資産などの無形資産が分けて認識されれば、小さくなる目安です。AnyMind GroupはIFRSを使い、のれんを償却せず、毎年と兆候があるときに減損テストを行います。企業結合で認識した顧客関連資産は、5〜10年で償却します(有価証券報告書)。
買い手が読み取れること
後払いがなければ、売主を残す仕組みは代金の外にあります。売主は代表取締役(90%)と個人2名で、売主ごとの対価は開示にありません。その後の関与を支える雇用や役員の契約、報酬も、開示にありません。一般論として、IFRSでは売主の残留を条件にした支払いは取得の対価ではなく取得後の報酬として費用に計上する場合があり、その場合は条件付対価の残高に出ません。本件にそうした取り決めがあるかは、開示からは分かりません。当社の見解では、後払いの連動指標・期間・上限は、基本合意の段階で決める項目で、後出しにすると交渉が割れます。
人に寄る会社の買収で開示にあるのは、「現経営陣は引き続き経営に関与」の1文だけです。残る期間、役職、報酬、競業避止(辞めたあとの同業での活動の制限)は、開示にありません。人員の手がかりは、AnyMind Groupの第1四半期決算説明資料(2026年5月14日)にある、MISMの連結で人員が13名増えたという記載。売上3億6,600万円を、この人員と、外部の登録クリエイター・モデル2,000名超で回す構造で、登録者との契約が雇用か業務委託かは開示にありません。
契約書と面談では、代表と主要メンバーの契約期間・役職・報酬、上位のクリエイター・モデルとの契約(手配の権限を持つ人)、競業避止の範囲と期間、代表以外に顧客の窓口を持つ人の有無を確かめます。当社は、主要メンバーを氏名を伏せて「役割・在籍年数・代替の有無・残留意思の確認日」の表にし、未確認は未確認と書きます。買い手として買うなら、残留は最終契約の条件。
取引先の集中も、開示にありません。適時開示にあるのは「当社グループとの間に営業取引があります」の1文で、取引の方向と金額は書かれていません。上位の取引先が売上に占める割合、媒体別の売上(TikTok、Instagram、YouTubeなど)、直近期に売上が3倍超になった内訳(既存の顧客の増加か、新規か)を確かめます。グループ向けの売上があれば、連結では内部取引として消えます。MISMの採用サイトの紹介記事(2026年7月15日付)は、制作実績を年間1万本以上、素材を3.5万点以上と書き、適時開示の2万本以上、6万点超と合いません。数え方の定義は、検討の前にそろえます。
払える上限は、自社で同じ体制を作る費用と待ち時間で決まります。AnyMindは、縦型のショート動画を作るNADESHIKO Beautyを持ちながら、MISMを買いました。2,000名超のネットワークと6万点超の素材は、自社で集めるのに時間がかかる資産です。広告制作を外注しているEC・D2Cの事業者が内製化を考えるなら、外注費の年額と、同じ体制を作る期間を先に出します。
買った後は、日本基準なら、のれん相当の償却がMISMの営業利益の半分前後から大半に達します。日本基準の買い手が、のれん相当5億4,600万円を5〜10年で償却すると、年5,460万円〜1億920万円で、営業利益1億1,700万円の47%〜93%にあたります(当社試算。実際の額は取得原価の配分で変わります)。自社が償却する側なら、買収後の利益は、償却を引いた後の数字で見ます。
よくある質問
Q. 営業利益1億1,700万円の会社に6億4,000万円は、高いですか。
A. 営業利益の5.5倍、のれん相当は4.7年分で、年買法の上限の約1.4倍です。ただし、直近の1期で営業利益が16倍超になった会社で、前の2期の合計は1,100万円。直近期の利益が続くかを確かめて、はじめて高い安いが言えます。
Q. 縦型動画の制作会社の買収で、後払い(アーンアウト)は使われましたか。
A. 開示に記載はなく、半期報告書の条件付対価の残高は2026年6月末で0、MISMの取得に伴う新規の計上もゼロです。一般論として、IFRSでは残留に連動する支払いが条件付対価に出ない場合があり、本件にその取り決めがあるかは開示から分かりません。株式譲渡契約で、後払い・残留・競業避止の条項を確かめます。
Q. 人に寄る制作会社を買うとき、何を確かめますか。
A. 代表と主要メンバーの残る期間・役職・報酬、上位のクリエイター・モデルとの契約、競業避止の範囲、上位の取引先が売上に占める割合です。この事例で開示にあるのは、現経営陣が引き続き経営に関与するという1文だけです。
Q. こうした譲渡案件は、どこで見つかりますか。
A. 公表されるのは、買い手が上場企業で、開示した取引に限られます。開示の対象にならない譲渡は、公表されないまま成立します。CX BASEでは、買収のご相談をいただいた企業へ、条件に合う譲渡案件を公開前にご案内しています。
ご相談ください
人に寄る制作会社は、利益の倍率に加えて、人が残る条件と取引先の集中で値段の中身が決まります。
CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。
売却をお考えの方は、直近期の数字と、人が残る条件の整理をもとに、買い手が見る数字をご説明します。
買収をお考えの方へ
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売却をお考えの方へ
→ 売却の相談をする
出典
- AnyMind Group株式会社「当社連結子会社による株式会社MISMの全株式の取得(連結子会社化)に関するお知らせ」(2026年1月27日公表・2026年10月16日確認)
- 同「2025年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」「2025年12月期 第4四半期及び通期 決算説明資料」(2026年2月13日公表)、「2026年12月期 第1四半期 決算説明資料」(2026年5月14日公表)、「有価証券報告書 第7期」(2026年3月26日提出・のれん及び無形資産の会計方針)(2026年10月16日確認)
- 同「半期報告書 第8期中(2026年1月1日〜2026年6月30日)」(2026年8月14日提出・企業結合、金融商品、キャッシュ・フロー)(2026年10月16日確認)
- 株式会社MISM 公式サイト(mism.co.jp)トップページと、採用サイト(Wantedly)掲載の紹介記事(2026年7月15日付)(2026年10月16日確認)
(金額は株式の代金6億4,000万円です。アドバイザリー費用等の概算500万円を含む総額は6億4,500万円。取得比率は100%のため換算していません。財務数値は決算書ベース(利益修正前)で、監査・レビューを受けていません。差額(のれん相当)・倍率・年数・年買法の比較・持分に応じた代金・償却額は当社試算で、純資産は簿価のまま使いました。売上総利益はAnyMind Groupの決算説明資料の数字です)