ユイット・ラボラトリーズに8.6億円 ── 新工場の建設を予定していたアクシージアが、千趣会の子会社を買った理由
| 発表日 | 2022年3月4日(株式譲渡の実行は2022年4月1日) |
| 譲受企業 | 株式会社アクシージア(東証スタンダード 4936。発表当時は東証マザーズ) |
| 譲渡企業 | 株式会社ユイット・ラボラトリーズ(2016年7月設立・山梨県北杜市)。売主は株式会社千趣会(8165。発表当時は東証第一部)で、全株式を保有 |
| 事業 | 化粧品・医薬部外品の製造・卸売、通信販売、OEM(受託製造)。スキンケア「リスブラン」 |
| 譲渡価額 | 8億6,000万円(10,000株・議決権100.0%・現金)。アドバイザリー費用等4,813万円は別 |
| スキーム | 株式譲渡 |
| 出典 | アクシージア・千趣会の適時開示、両社の有価証券報告書 |
(出典:株式会社ユイット・ラボラトリーズ 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)
譲渡企業の概要
ユイット・ラボラトリーズは、スキンケア「リスブラン」と山梨県の八ヶ岳工場を持つ、化粧品の製造・卸売会社。設立は2016年7月、本社は山梨県北杜市です(千趣会の開示)。前身の創立は1977年で、リスブランは40年以上売られているブランド。全国約1,000店の取扱店へ卸します(アクシージアの補足説明資料)。千趣会は2017年6月に、日水製薬から株式を取得して完全子会社にしていました(千趣会の開示)。
| 決算期 | 2019年12月期 | 2020年12月期 | 2021年12月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 7億8,200万円 | 7億5,300万円 | 7億1,700万円 |
| 営業利益 | 1,700万円 | 3,000万円 | 1,100万円 |
| 純資産 | 7億5,300万円 | 7億5,900万円 | 7億2,700万円 |
売上高は3期連続で減り、2021年12月期の営業利益率は1.5%です(当社試算)。
譲受企業の概要
アクシージアは、中国向けが売上の9割を超える、スキンケアとサプリメントの会社。2011年12月に設立され、本社は東京都新宿区。2021年2月に東証マザーズへ上場しました。2022年7月期の連結売上高は82億1,562万円、営業利益は16億3,377万円で、中国向けの売上は91.3%です(有価証券報告書)。取得の前は、製品の製造をすべて外部の委託先に出していました(補足説明資料)。
M&Aの目的・背景
アクシージアの狙いは、新工場を建てる代わりに、稼働中の工場と製造の経験を持つ会社を取り込み、新製品の開発を速めること。
アクシージアの開示によると、2021年2月の上場で調達した資金の最大の使い道は、新工場の建設に充てる設備投資の2,000百万円でした。テーマ性のある製品を小ロット・多品種で素早く開発するためで、委託製造では、発注ロットとリードタイムが足かせでした。
建設資金を株式の取得に充てる理由として、開示は次を挙げます。工場の建設から稼働までの時間を短縮でき(補足説明資料は「約1.5年短縮」)、製造ノウハウの習得や人材確保に伴うリスクを減らせる。取得資金が、上場時に計画した工場設立資金を下回る。ユイットの設備は、当初計画していた製造設備と比べて遜色ない。リスブランの中・低価格帯で、別の販路と客層も広げられる。
売主の千趣会は、中期経営計画で自力運営にこだわらず経営資源の選択と集中を進める方針を掲げています。ユイットが今後発展するには、アクシージア傘下で製品開発・製造機能の最大活用、ブランディング強化、販路拡大を図ることが最善と判断した、と開示しました。千趣会の2021年12月期の連結売上高731億4,900万円に対し、ユイットの売上高7億1,700万円は約1.0%です(当社試算)。
M&Aの手法・成約内容
取得は、10,000株・議決権100.0%を現金8億6,000万円で譲り受ける株式譲渡。取締役会の決議と契約の締結は2022年3月4日、実行は4月1日。算定方法とアドバイザーは、両社の開示に記載がありません。アドバイザリー費用等は4,813万円で、合計は9億813万円です(アクシージアの有価証券報告書)。
同日、アクシージアは、上場時に調達した4,023百万円の資金使途を変更しました。新工場の建設の2,000百万円を、「工場機能を持った会社のM&A資金」860百万円に改めています。取得後の新体制は、アクシージアの代表取締役社長がユイットの代表取締役社長に就き、役員はいずれも新任で非常勤です。
この値段は、どう説明できるか
開示の数字では、純資産の1.18倍・営業利益の12.1年分。連結に計上されたのれんは6,919万円で、価格の8.0%。100%の取得のため、会社全体の評価額は8億6,000万円です。左の列は開示の最新期(2021年12月期)の数字、右の列は連結に実際に計上された額で計算します。
| 項目 | 開示の最新期で計算 | 連結に計上された額 |
|---|---|---|
| 会社全体の評価額(100%) | 8億6,000万円 | 8億6,000万円 |
| うち純資産 | 7億2,700万円 | 7億9,081万円 |
| 差額(のれん) | 1億3,300万円 | 6,919万円 |
| 営業利益1,100万円の何年分 | 12.1年 | 6.3年 |
| 純資産の何倍 | 1.18倍 | 1.09倍 |
左の列の純資産は2021年12月期末の帳簿の額、右の列は取得日の時価で評価し直した差です。
開示の数字で割ると、差額1億3,300万円は営業利益の12.1年分。年買法(時価純資産+営業利益1〜3年分)は7億3,800万円から7億6,000万円で、8億6,000万円と上限の差は1億円です。直近期は営業利益が1,100万円まで下がった期で、3期平均(1,933万円)で割ると差額は6.9年分です。
新工場の見積りの内訳は、開示に見当たりません。
実際に計上されたのれんと、その償却
連結ののれんは6,919万円で、7年の均等償却。年約988万円が費用になる。取得原価8億6,000万円を、受け入れた資産9億5,747万円と引き受けた負債1億6,666万円の差、7億9,081万円に配分し、残りがのれんです(有価証券報告書)。のれんの発生原因は「今後の事業展開によって期待される超過収益力」です。年988万円の償却は、2021年12月期の営業利益1,100万円の約9割(当社試算)。償却は会計上の費用で、現金は出ていきません。
ユイットは取得日に現金2億1,314万円を持っていました。連結キャッシュ・フロー計算書の「取得のための支出(純額)」は、8億6,000万円からこの現金を引いた6億4,686万円です。
売主の千趣会の数字
千趣会は、この譲渡で関係会社株式売却益1億3,400万円を、特別利益に計上した。千趣会の有価証券報告書は、売却時のユイットの資産を8億3,300万円(流動5億3,900万円・固定2億9,400万円)、負債を1億2,700万円と記載します。差引の純資産は7億600万円です(当社計算)。株式の売却価額は8億4,000万円と記載され、契約の8億6,000万円とは2,000万円の差があります。理由の記載はありません。
取得後のユイット
取得の翌年に、八ヶ岳工場でアクシージア製品の本格的な受託製造が始まった。アクシージアは2023年3月7日に、同月から本格的な製造を始め、最大8,000シート/時間のフェイスマスク用の高速自動充填機を新たに入れたと発表しました。ユイットは同月、品質管理の国際規格ISO9001の認証も取得しています(有価証券報告書)。
数字は、アクシージアの連結の売上原価率で追えます。
| 決算期 | 2022年7月期 | 2023年7月期 | 2024年7月期 | 2025年7月期 |
|---|---|---|---|---|
| 売上原価率 | 24.3% | 21.1% | 21.2% | 26.7% |
| 連結に入ったユイットの期間 | 3か月 | 13か月 | 12か月 | 12か月 |
2024年7月期の売上原価率について、有価証券報告書は「ユイット社での製造内製化等」を含む売上原価の低減に努めた結果と書きます。2025年7月期は、原価率の高いエムアンドディ社の売上構成比が高まったことを理由に挙げます。ユイットの内製化だけの効果は、金額で切り分けられていません。単一セグメントのため、外部から受けるOEMの売上も区分されません。
のれんの残高は、2023年7月期末で5,601万円。2022年7月期末の6,672万円から、2023年7月期の13か月分の償却1,071万円を引いた額と一致します。2023年7月期から2025年7月期の3期で、固定資産の減損損失は「該当事項はありません」と記載されています。
ユイットの公式サイトは、アクシージアの100%出資、従業員76名(2026年8月1日現在)、自社ブランド「リスブラン」「HALCA」とOEMの事業を記載します(2026年10月16日確認)。
買い手が読み取れること
利益の小さい工場付きの会社は、新設との比較が価格の議論の軸になる。ユイットの営業利益は1,100万円で、差額は12.1年分。アクシージアが理由に並べたのは、建設の予定額2,000百万円、約1.5年の短縮、稼働までのリスクでした。
当社(CommerceX M&A)の見解では、払う額の上限は、買う事業が単体で持つ価値までです。工場を建てずに済む費用は、買い手の事情で生まれる金額で、単体の価値とは分けて持ちます。この取得の開示は、取得の対価と建設の予定額の両方を示していますが、8億6,000万円のうち単体の価値がいくらかは示していません。
工場を買うと、価格の配分は機械装置の評価に集まる。機械装置は、同じ設備を新しく買う費用(再調達原価)から減価を引く方法で9,032万円と評価され、監査報告書はこの評価を監査上の主要な検討事項に挙げています。確かめる項目は、設備の稼働年数と更新費、製造に必要な許可・認証の引き継ぎ、品質管理の体制。
買った後の成果は、子会社単体の数字で追える形を、買う前に決めておく。アクシージアの開示は単一セグメントで、ユイット単体の売上も外部からのOEMの受注額も出ません。当社は、買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせると一文で言えるかを、金額の前に確かめます。アクシージアの開示を一文にすると、ユイットの八ヶ岳工場と製造の許可を、自社の製品開発に使い、小ロット・多品種の新製品を早く出す、になります。一文が決まれば、追う数字(外注費の内製化額、外部からの受注額)も決まります。
親会社が兼務していた経営の役割は、買い手が引き取る。千趣会の開示によると、ユイットの代表取締役は千趣会の従業員1名が兼ね、取締役1名と従業員2名が取締役・監査役を兼ねていました。千趣会との間に重要な取引関係はありません。取得後の役員は、すべて新任で非常勤です。兼務していた役員の役割を誰が引き取るかは、契約前に決めます。
よくある質問
Q. アクシージアは、いくらでユイット・ラボラトリーズを買ったのですか。
A. 株式の対価は現金8億6,000万円で、議決権の100.0%です。アドバイザリー費用等4,813万円は別で、合計は9億813万円。ユイットの取得日の現金2億1,314万円を引いた支出(純額)は6億4,686万円です。
Q. 営業利益1,100万円の会社の値段は、何で説明できますか。
A. 開示の数字では純資産の1.18倍で、差額1億3,300万円は営業利益の12.1年分です。アクシージアが挙げる理由は、建設予定額2,000百万円、約1.5年の短縮、稼働までのリスク。連結ののれんは6,919万円で、6.3年分です。
Q. 工場を持つ会社を買うか、新設するかは、何を比べて決めますか。
A. 費用、時間、稼働までのリスクです。新設は、土地・建物・設備・人員・認証・立ち上げ期間を同じ表に並べ、買う場合は、設備の評価、許可の引き継ぎ、売主側の兼務の解消を足します。
Q. こうした譲渡案件は、どこで見つかりますか。
A. 公表されるのは、買い手が上場企業で、開示義務がある取引に限られます。開示の対象にならない譲渡は、公表されないまま成立します。CX BASEでは、買収のご相談をいただいた企業へ、条件に合う譲渡案件を公開前にご案内しています。
ご相談ください
工場を買うか建てるかは、費用と時間と稼働までのリスクを、同じ表に並べて比べます。
CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。
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出典
- 株式会社アクシージア「株式会社ユイット・ラボラトリーズの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」「同 補足説明資料」「上場調達資金使途変更に関するお知らせ」(2022年3月4日公表)、「同 完了及び当該子会社役員人事に関するお知らせ」(2022年4月1日公表)(2026年10月16日確認)
- 株式会社千趣会「連結子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ」(2022年3月4日公表)、有価証券報告書 第78期(2023年3月31日提出)(2026年10月16日確認)
- 株式会社アクシージア 有価証券報告書 第11期〜第14期(2022年10月25日〜2025年10月23日提出)、八ヶ岳工場の本格生産開始のお知らせ(2023年3月7日公表)、公式サイト、株式会社ユイット・ラボラトリーズ 公式サイト(2026年10月16日確認)
(金額は株式の代金8億6,000万円です。取得比率100.0%のため換算していません。財務数値は決算書ベース(利益修正前)。「開示の最新期で計算」の列と、純資産7億9,081万円・7億600万円は当社試算で、のれん6,919万円は有価証券報告書の数字です)