M&Aニュース2023年7月 実行書き手:齋藤 浩喜

ジャパンギャルズに30億円 ── 美容家電へ参入するBRUNOは、代金の3分の2を親会社へ10年の分割で払う予定

発表日2023年7月28日(株式取得 2023年7月31日)
譲受企業BRUNO株式会社(東証グロース 3140)
譲渡企業株式会社ジャパンギャルズ(1992年設立・愛媛県四国中央市)
売主RIZAPグループ株式会社(BRUNOの親会社・議決権の53.89%を保有)
事業超音波美顔器などの美容機器、美容マスク・医薬部外品・化粧品の製造販売とOEM(相手先ブランド名での製造)
譲渡価額30億円(400株・議決権100%)。10億円は2023年7月に支払い、20億円は分割払い
スキーム株式取得(現金・自己資金)。支配株主との重要な取引
出典BRUNO 適時開示(2023年7月28日)・有価証券報告書(第28〜31期)

BRUNO株式会社 公式サイト (出典:BRUNO株式会社 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)

株式会社ジャパンギャルズ 公式サイト (出典:株式会社ジャパンギャルズ 公式サイト(japangals.jp)・2026年10月16日時点の画面)

譲渡企業の概要

ジャパンギャルズ(JG)は、超音波美顔器を主軸に美容マスクや化粧品を自社工場で製造する美容機器メーカーです。1992年11月設立で、本社は愛媛県四国中央市。開示は、美容マスクの全自動製造機、医薬部外品の製造許可、ISO9001を挙げています。販売会社など子会社3社を含む直近3期の連結業績は次のとおりです。

決算期2021年3月期2022年3月期2023年3月期
売上高23億4,200万円21億9,900万円24億8,300万円
営業利益1億6,600万円8,200万円1億5,500万円
経常利益1億9,200万円1億1,100万円2億100万円
純資産12億3,000万円13億200万円14億1,800万円

3期とも黒字で、2022年3月期に営業利益が半減した理由は開示にありません。特別委員会の答申書は、年間の経常利益を約1億〜2億円と見込みます。

譲受企業の概要

BRUNOは、キッチン家電ブランド「BRUNO」とトラベルブランド「MILESTO」を展開する、デザイン性の高い家電・雑貨の会社です。1995年設立。2023年6月期(単体)の売上高は112億9,800万円、営業利益は3億5,800万円、純資産は54億7,700万円です。化粧品は2020年に自社ブランド「MeTIME」で参入済みで、新しい分野は美容家電です。

M&Aの目的・背景

狙いは化粧品ではなく、美容家電への早期参入です。開示が挙げる理由は3つ。BRUNOのキッチン家電は女性の評価が高く、顧客から美容家電への参入を期待する声があったこと。コロナ禍に美顔器など美容家電への関心が高まり、市場の裾野が広がっていること。RIZAPグループからJGの株式譲渡の打診があり、美容家電に実績のある会社を完全子会社にすれば早期に参入できると判断したことです。

有価証券報告書によると、子会社化後はJGの技術力に、BRUNOのデザイン力・ブランド力・マーケティング力を組み合わせた商品開発を進める方針です。

M&Aの手法・成約内容

買収代金は現金30億円で、うち10億円を2023年7月に払い、残る20億円は分割で払います。7月28日の取締役会決議と同日の契約を経て、7月31日に400株(議決権の100%)を取得しました。取得関連費用は1,200万円です。契約には取得価額を変えうる定めがあり、取得原価は30億円のままです。

代金は、BRUNOの2023年6月期(単体)の営業利益の8.4年分、純資産の54.8%に相当します。同期末の現預金30億8,900万円に対し、初回の支払額10億円はその32.4%を占めます。

売主のRIZAPグループはBRUNOの親会社なので、東証の規則でいう「支配株主との重要な取引等」に当たります。BRUNOは、親会社と利害のない委員の特別委員会に公正性を諮問して問題なしの答申を受け、第三者の算定書も取りました。価格が妥当との意見書(フェアネス・オピニオン)は取っていません。

この値段は、どう説明できるか

30億円はJGの営業利益の19.4倍で、第三者の算定レンジの上限に近い値段です。100%の取得で、下の表は、開示の最新期(2023年3月期)の数字で計算した列と、BRUNOの連結に実際に計上された額の列です。

項目開示の最新期で計算連結に計上された額
会社全体の評価額(100%)30億円30億円
うち純資産14億1,800万円14億9,000万円
差額(のれん)15億8,200万円15億1,000万円
営業利益1億5,500万円の何年分10.2年9.7年
純資産の何倍2.12倍2.01倍

のれんは代金の50.3%です。年買法(時価純資産+営業利益1〜3年分)で試算すると15億7,300万円〜18億8,300万円となり、30億円は上限を11億1,700万円上回ります(当社試算)。

第三者の算定結果は、DCF法(将来の現金収支を現在価値に直す方法)で24億4,608万〜32億48万円、類似会社比較法で21億4,727万〜30億6,251万円でした。30億円は両方の範囲に入り、DCF法の上限の93.7%、類似会社比較法の上限の98.0%にあたります。答申書は「比較的上限に近い」と認め、BRUNOが相乗効果で算定の成長率を上回る成長を見込んだことを理由に挙げます。

実際に計上されたのれんと、その償却

のれん15億1,000万円は13年の均等償却で、年約1億1,600万円が費用になります(1,510百万円÷13・当社試算)。取得時のJGの営業利益1億5,500万円の約75%にあたる額です。売主は親会社ですが、注記は取得原価とのれんを計上する形で書かれ、共通支配下の取引の記載はありません。

代金の払い方

代金のうち20億円(3分の2)は利息なしの分割払いで、払う相手は売主のRIZAPグループです。答申書によると、20億円は以後10年間で分割して払う予定です。担保として、JG株式400株のうち330株(82.5%)に、売主を質権者とする質権を設ける予定です。

2026年6月末時点の支払済み額は10億7,500万円で、代金の35.8%です。残りは19億2,500万円。支払いの予定は、1年以内が1億円、その後は年1億7,500万円から3億円で、5年超に8億7,500万円が残ります。有価証券報告書の金融商品の注記では、この未払金の時価は17億1,500万円(帳簿価額19億2,500万円)です。同じ時点で、BRUNOはRIZAPグループに対する貸付金16億9,500万円も保有しています。

取得から3年の数字

取得から3年、のれんの減損損失は計上されていません。のれんが属する製造卸売事業に、2024年6月期から2026年6月期まで減損損失はありません。

決算期(6月期)2024年2025年2026年
連結売上高129億4,000万円145億200万円128億7,700万円
連結営業利益1億4,600万円4億4,000万円5億6,700万円
連結ののれん残高14億3,200万円13億400万円11億9,700万円
連結ののれん償却額1億1,000万円1億1,900万円1億2,300万円

取得翌期の連結営業利益は1億4,600万円で、計画(2023年8月14日公表)の10億円に届きませんでした。BRUNOは主な理由を本体のキッチン家電の反動と為替・原材料高とし、JGの売上は計画を上回ったと説明しています。JG自体の売上は、取得前の24億8,300万円から、2026年6月期は21億8,000万円です(範囲は同一ではありません)。

目的に掲げたBRUNOの美容の売上は、計画が2回下がっています。BRUNOは2024年9月にJGとの美容コラボを予告し、2025年9月には美容ライン「BRUNO beauty」の5品を挙げました。

公表日2026年6月期2027年6月期2028年6月期
2024年9月30日5億円10億円―
2025年9月30日3億8,200万円10億円15億円
2026年2月12日8,200万円(見込み)3億8,000万円10億円

2026年6月期の上期の進捗は4,000万円です。JG自体の美容家電の売上は、有価証券報告書から分けられません。

買い手が読み取れること

払える上限は、対象会社が単体で持つ価値と、自社に入れた後の価値を分けて決めます。BRUNOの30億円は、2つの算定の上限の93.7%と98.0%で、上限側に置いた理由は統合後の成長への期待でした。当社(CommerceX M&A)は、単体の価値までを払う上限とし、統合後の伸びは買い手の取り分として価格に含めません。

後払いは、額面ではなく条件の組み合わせで見ます。BRUNOの後払いは、代金の3分の2・利息なし・10年・株式への質権(予定)の組み合わせでした。当社は、後払いの期間・上限・担保を意向表明書の段階で決めます。売主が親会社の場合は、未払金と貸付金が同じ相手に並ぶので、相殺や回収の順番も条件に入れます。

開示されないのは、売上の内訳・取引先・人員です。美顔器・美容マスク・OEMの売上、取引先、技術者の人数はDDで取ります。医薬部外品の製造許可は、期限と更新、役員変更時の届出も確かめます。

買った後は、目的を数字に直し、償却後の利益で見ます。当社は、買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせると一文で言い切れるかを、買収検討の最初に確かめます。BRUNOの一文は、JGの技術力にBRUNOのデザイン力とブランド力を足す、です。取得時のJGの営業利益から年償却を引くと、約3,900万円です。指標と水準は取得前に決め、償却後の利益を別に持ちます。

よくある質問

Q. 営業利益1億5,500万円の会社に30億円は、高いのですか。

A. 営業利益の19.4倍、のれん基準で9.7〜10.2年分となり、年買法の上限を11億円以上上回る試算です。ただし算定レンジの範囲内には収まっています。妥当かどうかは、自社の強みを活かしてJGをどこまで伸ばせるかで分かれます。

Q. 親会社から買う取引は、第三者から買う取引と何が違いますか。

A. 支配株主との取引として、価格と条件の公正性を独立した委員会に確かめる手続きが加わります。BRUNOは特別委員会の答申と第三者の算定書を使いましたが、フェアネス・オピニオンまでは取っていません。

Q. 代金を分割払いにすると、買い手の資金と損益はどうなりますか。

A. 資金面では、初回の支払いが現預金の32.4%で済みました。損益面では、支払いの時期に関わらず、のれん15億1,000万円の償却が年約1億1,600万円かかります。分割分は利息がなく、有価証券報告書では時価が帳簿価額を下回っています。

Q. こうした案件は、どこで見つかるのですか。

A. 公表されるのは、買い手が上場企業で開示義務がある場合に限られます。CX BASEでは、買収のご相談をいただいた企業へ、条件に合う案件を公開前にご案内しています。

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親会社から買う取引でも、算定レンジの中の位置と払い方の条件は、自社の基準で確かめます。CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。

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出典

  • BRUNO株式会社「株式会社ジャパンギャルズの株式取得(子会社化)による美容家電分野への本格参入に関するお知らせ」(2023年7月28日公表・2026年10月16日確認。特別委員会の答申書を含む)
  • BRUNO株式会社「有価証券報告書」第28期(2023年9月27日提出)・第29期(2024年9月27日)・第30期(2025年9月29日)・第31期(2026年9月28日)(2026年10月16日確認)
  • BRUNO株式会社「2024年6月期 決算短信」(2024年8月14日公表)、「2026年6月期 連結決算説明資料」(2026年8月14日公表)(2026年10月16日確認)
  • BRUNO株式会社「事業計画及び成長可能性に関する事項」(2024年9月30日・2025年9月30日・2026年2月12日公表・2026年10月16日確認)
  • BRUNO株式会社 公式サイト(bruno-inc.com)・株式会社ジャパンギャルズ 公式サイト(japangals.jp)(2026年10月16日確認)

(金額は株式の代金30億円です。取得関連費用1,200万円(開示時の概算は1,000万円)は含みません。取得比率100%のため換算していません。財務数値は決算書ベース(利益修正前)。「開示の最新期で計算」の列は、2023年3月期の純資産と営業利益による当社試算。「連結に計上された額」の列は、有価証券報告書の企業結合注記の受入資産27億4,000万円・負債12億5,000万円・のれん15億1,000万円で、純資産14億9,000万円は代金とのれんの差額です。年償却額・年買法・倍率・BRUNO単体との比率は当社試算。連結ののれんの残高と償却額には、BRUNO単体ののれん(2026年6月末1,900万円)を含みます。美容の売上計画は、各回の成長戦略資料の「美容」区分です)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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