ECPowerに1億700万円 ── 100%換算は1億2,600万円、フィードフォースグループが払った総額は1億1,600万円
| 発表日 | 2026年3月26日(株式取得は2026年4月、株式交換の効力発生は同年5月1日) |
| 譲受企業 | フィードフォースグループ株式会社(東証グロース 7068) |
| 譲渡企業 | 株式会社ECPower(2020年7月設立・東京都港区南青山) |
| 事業 | Shopify向け顧客分析ツール「ECPower」の開発・提供、Shopifyの構築・運用支援 |
| 譲渡価額 | 1億700万円(現金・1,116,667株・議決権84.8%)。残り200,000株(15.2%)は株式交換 |
| スキーム | 株式譲渡 → 簡易株式交換(2段階) |
| 出典 | フィードフォースグループ 適時開示(2026年3月26日) |
(出典:フィードフォースグループ株式会社 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)
譲渡企業の概要
ECPowerは、従業員のいない、売上1,900万円の会社。Shopifyで売る事業者向けの顧客分析ツールを運営する。開示は「代表取締役1名及び外部委託により運営されており、従業員は存在いたしません」と書き、財務は監査対象外と注記します。事業は、Shopify(ネットショップの構築基盤)の顧客データからリピート率やLTV(顧客が取引期間に生む価値)を見るSaaS「ECPower」と、Shopify認定の制作パートナーとしての構築支援です。主要取引先はShopify Inc.です。
| 決算期(6月期) | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,700万円 | 900万円 | 1,900万円 |
| 営業利益 | △300万円 | △800万円 | △200万円 |
| 純資産 | 3,500万円 | 2,700万円 | 2,400万円 |
2025年6月期の売上高は、適時開示の表が2,200万円、同社が事前開示した決算報告書が1,944万円で食い違います。決算説明資料も19百万円のため、決算報告書に合わせます。総資産3,085万円の94%は現金及び預金です。2026年6月期の8か月累計は、決算説明資料で売上高1,700万円・営業利益800万円です。
譲受企業の概要
フィードフォースグループは、広告運用・SaaS・EC支援の3事業を持つ持株会社。2026年5月期の連結営業利益は19億8,100万円です。ECPowerは、Shopifyアプリや出荷自動化を持つDX事業に入ります。
有価証券報告書の沿革に出る買収4社は、アナグラム・シッピーノ・フラクタ・ECPowerとも、先に株式を取り、あとで残りを買い足しています。2段目までの期間は、アナグラム8か月、シッピーノ14か月、フラクタ18か月。ECPowerは1か月です。
M&Aの目的・背景
狙いは、Shopify領域の開発力と専門知見をグループに入れ、Shopifyでの競争力を高めること。開示は、ECPowerの製品が「リピート率向上と LTV 最大化に強み」を持つと述べ、既存事業との組み合わせでDX事業の成長とサービスの拡充を図ると説明します。
両社には取引関係があり、2026年5月期にグループ会社のリワイアがShopifyサイト構築の一部をECPowerへ委託しています。売主は代表取締役を含む6名で、買い手との資本・人的関係はありません。
M&Aの手法・成約内容
1,116,667株を現金1億700万円で買い、残り200,000株を株式交換で取得した。2つの契約は同じ3月26日に結んでいる。取得前の保有株式は0株、アドバイザリー費用等は0です。
株式交換は、ECPower 1株にフィードフォース株0.097株を割り当て、新株19,400株を発行します。比率は、ECPowerをDCF法、フィードフォース株を市場株価法で評価した算定レンジ(0.086〜0.104)の中です。フィードフォース側は簡易株式交換(親会社の株主総会を開かない手続き)で、契約書は、1,116,667株の株式譲渡が実行されていることを、株式交換の効力の停止条件にしています。
この値段は、どう説明できるか
払った総額は1億1,600万円で、現金分の単価から100%に直した1億2,600万円より1,000万円少ない。連結ののれんは7,700万円で、総額の66%。
| 項目 | 現金分の単価で100%に直した値 | 払った総額と連結の計上額 |
|---|---|---|
| 会社全体の評価額 | 1億2,600万円 | 1億1,600万円 |
| うち純資産 | 2,456万円 | 3,900万円 |
| 差額(のれん) | 1億100万円 | 7,700万円 |
| 純資産の何倍 | 5.1倍 | 3.0倍 |
| 売上高の何倍 | 6.5倍 | 6.0倍 |
左の列は、現金分の単価(1億700万円÷1,116,667株で約95.8円)を全1,316,667株に掛けた値で、純資産と売上高は2025年6月期。営業利益がマイナスのため、営業利益の何年分は使えません。
右の列の総額は、現金1億700万円と、株式交換で発行した19,400株の増加額900万円の合計で、提出会社の関係会社株式の増加額1億1,700万円とほぼ合います。のれん7,700万円は、有価証券報告書ののれん2億4,500万円からアナグラム分1億6,800万円を除いた額で、決算説明資料の貸借対照表にも「ECPower 77」とあります。純資産3,900万円は総額からのれんを除いた当社計算で、2025年6月期末より約1,400万円多く、開示に内訳はありません。
同じ会社で、1株の値段が3つある
現金分は1株約95.8円、株式交換分は1株45〜50円、代表の分は1株47円。100%換算が総額より高く出たのは、この差による。株式交換分は、増加額900万円を200,000株で割った1株45〜50円です(百万円未満切捨てのため幅があります)。有価証券報告書の関連当事者の注記には、代表取締役との取引として「経営株主からの譲渡相当額」47百万円が記され、価格は「DCF法により適切に評価」とあります。適時開示の持株比率75.95%は約100万株で、4,700万円を割ると1株47円です。単価が株主ごとに違う理由は、開示にありません。
後から買った15.2%も、のれんの計算に入ったか
先に持っていた持分はゼロで、段階取得ではない。後の15.2%がのれんの外に出たかは、開示から読み切れない。段階取得は、先に持分があり、支配を得たあとに残りを買い足す取引で、日本基準では後から買った分がのれんにならず、資本剰余金で処理されます。
本件は異動前の所有株式が0株で、株式交換は株式譲渡の実行が条件で、2つは連動しています。5月1日の開示は、株式交換を「取得として処理」し、発生するのれんと連結業績への影響は軽微と書きます。決算短信は、ECPowerのみなし取得日(連結に取り込む基準日)を期末の5月31日として貸借対照表だけを連結したと書きます。有価証券報告書の連結株主資本等変動計算書に非支配株主との取引の行はなく、株式交換の増加額900万円は提出会社と同額です。のれん7,700万円が現金と株式を合わせた1億1,600万円から出たという読みと合います。現金1億700万円だけが基礎なら、受入純資産は100%換算で約3,500万円。企業結合の注記(取得原価の配分)がなく、どちらかは断定できません。
取得後のECPower
連結の損益に入ったのは2026年6月からで、ECPower単独の数字は開示にない。2026年5月期は貸借対照表だけで、「子会社株式の取得による支出」は6,900万円。現金1億700万円との差3,800万円は、ECPowerが持っていた現金と読めます(当社計算)。
2027年5月期の第1四半期(2026年6〜8月)は、のれんの償却額が1,300万円で、前年同期より200万円増えました。7,700万円を会社の方針の10年で割ると四半期190万円で、増加幅と合います。DX事業は売上1億9,000万円(前年同期1億1,500万円)、営業利益7,400万円(同1,400万円)。会社は第1四半期の増収増益の理由に、Shopifyアプリ・ID関連サービス・EC構築支援の顧客獲得と前期の事業再編を挙げ、ECPowerは挙げていません。一方、通期予想のDX事業は売上7億8,700万円(前期比44.1%増)で、増収の理由にECPowerが入っています。直近期の売上1,944万円は増収額2億4,100万円の約8%で、内訳は開示にありません。
買い手が読み取れること
利益倍率が使えない会社の上限は、失っても連結に響かない額で決める。総額1億1,600万円は、買い手の営業利益19億8,100万円の5.9%、現金及び預金47億100万円の2.5%。のれんを10年で償却すると年770万円で、営業利益の0.4%です。もう1つの物差しは相手の現金。総資産の94%が現金だったため、取り込んだ現金約3,800万円を除くと、事業そのものへの支払いは約7,800万円で、のれんとほぼ同じです。
売主が複数いるときは、100%換算で比べず、売主ごとの単価を確かめる。当社(CommerceX M&A)は公表された取引を比べるとき、取得比率が100%でなければ株式の代金を比率で割って100%に直しています。本件のように2段目を株式で払い、単価が売主ごとに違う取引では、この換算が実際の総額より1,000万円高く出ました。契約前に、支配株主と少数株主の単価がそろっているか、違うなら理由は何かを確かめます。
2段に分けるなら、2段目の条件を最初の契約に入れる。本件は交換比率0.097を3月26日の契約で固定し、2段目は1か月後に完了。総額の92%は現金で、残りは株式です。売主の代表は、有価証券報告書の提出時点で子会社の代表取締役に残り、フィードフォース株を0.08%持ちます。
従業員のいない会社の価値は、人・契約・プラットフォームに分かれる。代表が子会社に残る期間と報酬、外部委託先との契約の引き継ぎ(外注費は売上の39%)、アプリの掲載アカウントの名義とShopifyの規約を確かめます。営業赤字が3期続いた会社に総額の66%ののれんを計上しています。同じ買い手のシッピーノとフラクタは、取得後にのれんを減損しました。
よくある質問
Q. ECPowerの1億700万円は、会社全体の値段ですか。
A. 違います。84.8%を買った現金分です。残り15.2%は株式交換で、増加額は900万円。総額は1億1,600万円で、100%に直した1億2,600万円より1,000万円少なくなります。
Q. 従業員のいない赤字の会社に、なぜ1億円超の値がついたのですか。
A. 総額のうち約3,800万円は、ECPowerが持っていた現金です。事業そのものへの支払いは約7,800万円で、のれん7,700万円とほぼ同じ。損益では説明できず、取得理由はShopify領域の開発力と知見です。
Q. 段階取得だと、後から買った分はのれんにならないのですか。
A. 日本基準では、支配を得たあとの買い足しは資本剰余金で処理し、のれんにならない。本件は先に持つ持分が0株で、段階取得ではありません。のれんは現金と株式の合計から出た形と読めるものの、注記がなく断定できません。
Q. 現金と株式を組み合わせると、何が変わりますか。
A. 現金の支出が抑えられ、売主を株主として残せます。交換比率は契約で固定されますが、払う価値は自社の株価で動く点に注意。
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小さな会社の買収は、100%換算の値段より、総額・のれん・売主ごとの単価で読みます。
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出典
- フィードフォースグループ株式会社「株式会社ECPowerの株式取得及び簡易株式交換による完全子会社化に関するお知らせ」「2026年5月期Q3 決算説明資料」(2026年3月26日公表)
- 同「株式交換に関する事前開示書類」(株式交換契約書とECPowerの2025年6月期決算報告書を含む・2026年3月31日公表)、「法定事後開示書類(株式交換)」「(開示事項の経過)簡易株式交換による株式会社ECPowerの完全子会社化完了に関するお知らせ」(2026年5月1日公表)
- 同「2026年5月期 決算短信」「2026年5月期 決算説明資料」(2026年6月25日公表)、「有価証券報告書 第21期」(2026年8月24日提出)、「2027年5月期 第1四半期決算短信」(2026年9月29日公表)
(出典はいずれも2026年10月16日確認。金額は株式の代金1億700万円(取得比率84.8%)で、アドバイザリー費用等は0。総額1億1,600万円は現金1億700万円と株式交換の増加額900万円の合計(百万円未満切捨ての開示値)。「現金分の単価で100%に直した値」・純資産3,900万円・取り込んだ現金3,800万円は、開示の数字から出した当社計算。財務数値は決算書ベース(利益修正前・監査対象外))