M&Aニュース2025年4月 実行書き手:齋藤 浩喜

アパレルウェブの買収額は非公表 ── 船井総研HDの有価証券報告書から逆算したのれんは約4.65億円

発表日2025年5月1日(株式取得日は2025年4月30日)
譲受企業株式会社船井総研ホールディングス(東証プライム 9757)
譲渡企業株式会社アパレルウェブ(2000年1月設立・東京都中央区)
事業アパレル・ファッション企業向けのデジタルマーケティング・EC支援
譲渡価額非公表。割り出せるのれんの発生額は4億6,477万5千円(当社の逆算)
スキーム株式取得(全株式・完全子会社化)
出典船井総研ホールディングス ニュースリリース(2025年5月1日)・第56期有価証券報告書・半期報告書

アパレルウェブ 公式サイト (出典:株式会社アパレルウェブ 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)

譲渡企業の概要

アパレルウェブは、2000年に創業したアパレル・ファッション向けのウェブマーケティング会社です。サイト・アプリの制作、データ分析、オウンドメディア、SNS運用、海外進出の支援を手がけます。公式サイトは、取引先をファッション企業中心に1,000社以上と書き、Shopify(ネットショップの構築基盤)とGoogleの上位パートナーに認定されているとします。従業員は69名(2026年1月1日現在)、資本金は1億円。シンガポールに子会社のAWSG Pte. Ltd.(2012年設立)があります。

売上・利益・純資産は、船井総研HDの発表にも公式サイトにもなく、当社も確認できていないため、3期の財務は示せません。公式サイトの沿革では、2013〜2015年に産業革新機構・三菱UFJ銀行・パルコが第三者割当増資を引き受けていますが、2025年4月の取得時点の株主構成は開示にありません。

譲受企業の概要

船井総研ホールディングスは、中堅・中小企業向けの経営コンサルティングを主力にする持株会社です。2025年12月期の連結売上高は333億3,000万円、営業利益は88億1,300万円(有価証券報告書)。事業は、経営コンサルティング(月次支援・経営研究会)、ロジスティクス、デジタル(Web広告運用代行・ITコンサルティング・採用支援など)の3つ。アパレルウェブは、このデジタル系の報告セグメント(以下、デジタル系セグメント)に入ります。2025年は、1月にアルマ・クリエイション、4月にアパレルウェブ、7月にMIコンサルティングを完全子会社にしました。

M&Aの目的・背景

狙いは、アパレル業界の専門性とEC・ウェブマーケティングの実行力を取り込み、「デジタル×総合経営コンサルティング」を進めること。船井総研HDのリリースは、2023〜2025年の中期経営計画がこの方針を掲げ、デジタル分野のサービスの拡充を重要な戦略の1つとすると書きます。取り込むのは、アパレル業界での深い専門性、ECプラットフォーム運営のノウハウ、ウェブマーケティングの知見。使い道は、アパレル向けコンサルティングの強化と、グループ全体のDX推進、EC・デジタルマーケティングのサービスの拡充です。アパレルにとどまらず、経営戦略の策定から実行支援、デジタルマーケティングまでを一貫して支える体制を目指します。

効果には、顧客の相互紹介と共同提案、新しいサービスの開発、アパレルウェブのプラットフォームとデータを使った支援、デジタル人財の育成とノウハウの共有を挙げます。

買い手の別の説明は、2025年8月の第2四半期決算説明会にあります。持株会社になった2014年以降、M&Aでグループに入る会社を増やす戦略をとり、4月のアパレルウェブと7月のMIコンサルティングもこの戦略に沿う、という内容です。有価証券報告書は、2028年末にコンサルタント1,400名体制をつくる手段の1つに、M&Aを通じた人財獲得を挙げます。

売り手の事情は、船井総研HDが2026年5月25日に配信したリリース(動画シリーズ「グループインの真実」第2回の紹介)にあります。創業者の千金楽健司氏は、後継者の問題に悩み、2023年に会社の譲渡を決め、複数の提案から船井総研グループを選んだと説明されています。決め手の中身は、紹介文にありません。

M&Aの手法・成約内容

取得は株式の全部で、2025年4月30日にアパレルウェブは完全子会社になりました。有価証券報告書は、アパレルウェブの議決権の所有割合を100.0%、子会社のAWSGを間接100.0%と記載します。発表文に取得価額とアドバイザーの記載はなく、FASHIONSNAPは取得額を非公開と報じています。

体制は、船井総研グループから小平勝也氏が代表取締役社長に就き、創業者の千金楽氏が会長、取締役の杉本慎太郎氏が専務取締役になりました(アパレルウェブのお知らせ)。従業員の雇用条件と取引先との契約に大きな変更はなく、運営は従来どおり続ける内容です。

この値段は、どう説明できるか

取得の対価は開示がなく、割り出せるのはのれんだけです。発生額は4億6,477万5千円。第56期有価証券報告書(2025年12月期)に、企業結合の注記はありません。取得の対価、受け入れた資産と負債、純資産の記載は見当たらず、省いた理由の記載もありません。手がかりは、セグメント別のれんの表です。

項目金額出所
2025年12月末ののれん(デジタル系セグメント)3億9,505万9千円有価証券報告書
当期の償却額(同)6,971万6千円有価証券報告書
2024年12月末ののれん(同)なし有価証券報告書
のれんの発生額4億6,477万5千円当社の逆算(期末残高+当期の償却額)
年間の償却額9,295万5千円当社の逆算(5年の均等償却)
取得の対価・純資産・売上・利益開示なし

このセグメントののれんは、アパレルウェブ分と言える

前期末にゼロだったセグメントに、2025年中に入った会社が、アパレルウェブとAWSGの2社だけだからです。有価証券報告書の関係会社の表で、2025年に新たに連結子会社になった会社のうち、デジタル系セグメントに入るのはこの2社。アルマ・クリエイション、MIコンサルティング、インドの新設会社は、経営コンサルティング事業です。

償却の条件は、金額から逆算できます。有価証券報告書に償却期間の記載はありません。4億6,477万5千円を5年で割り、2025年4月から12月の9か月分にすると6,971万6千円で、当期の償却額と千円の単位まで合います。5年の均等償却と読めます(当社の読み)。同期の減損損失に、このセグメントの分はありません。

払った代金は、のれんからは出せない

代金の総額は、受け入れた純資産の時価とのれんの合計で、純資産の開示がないため出せません。キャッシュ・フロー計算書の「連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出」は、2025年12月期で5億715万6千円(上半期は5,070万5千円)。ただし、アルマ・クリエイションとMIコンサルティングを含む3社の合計で、取得時に受け入れた現金を差し引いた額です。分割払いがあったかも、開示にありません。アパレルウェブ単独の代金は、この数字からも出ません。

売上・利益の開示もなく、「営業利益の何年分か」は計算できません。船井総研HDの規模と比べると、のれんの発生額は2025年12月期の営業利益の5.3%、総資産の1.3%。年間の償却額9,295万5千円は、営業利益の1.1%です。

買収した年の、デジタル系セグメント

売上は増え、営業損益は赤字になりました。2025年12月期の同事業は、売上高45億429万円(前期比13.7%増)、営業損失9,611万円(前期は1億5,984万円の利益)です。のれんの償却6,972万円は、前期の営業利益の44%に当たります(当社計算)。

同事業の説明で、有価証券報告書は、減益の理由を人件費を中心とした営業費用の増加と書き、アパレルウェブの名前は挙げません。2025年11月の第3四半期決算説明会は、第2四半期から入ったアパレルウェブの影響で売上は増えたが利益面では苦戦し、主力の事業が補っていると述べました。アパレルウェブ単独の売上と損益は、分けて開示されていません。

買い手が読み取れること

金額が非公表でも、買い手が上場会社なら、のれんは決算書から割り出せます。見るのは、セグメント別のれんの表、関係会社の表で新たに連結子会社になった会社、半期報告書の同じ数字です。当社(CommerceX M&A)は、当事者が出していない金額を第三者の推定で埋めず、開示から確かめられる範囲だけを書きます。のれんから出せるのは発生額まで。代金の総額には、純資産の額が別に要ります。船井総研HDは、2026年12月期の第1四半期から報告セグメントを経営コンサルティング事業の1つにまとめるため(2026年1月29日の取締役会で決議)、今後の有価証券報告書では、この表からデジタル系セグメントの分を切り出せません。

経営コンサルティング会社が手に入れたのは、業界の専門性、1,000社以上の取引先、実行を担う69名です。助言に加えてEC構築やウェブ施策の実行まで持てば、提案から運用まで1社で受けられます。同じ判断をするなら、取引先の上位への集中、継続して入る収益の割合、Shopifyなどのパートナー認定を保つ条件と担当者、社員の定着を確かめます。これは検討項目の一般論で、アパレルウェブの実際の数字は開示にありません。

買った最初の年は、のれんの償却が利益に出ます。年間の償却額9,295万5千円は、前期の同セグメントの営業利益(1億5,984万円)の58%。買う前に、償却を含めた損益を見積もります。同セグメントの損益には、他の会社の増減も入ります。

前オーナーを会長に残し、自社の社長を初日に送りました。当社の見解は、前オーナーが残る場合も、自社の責任者を初日から置き、前オーナーの役割を取得時に決めること。アパレルウェブは、船井総研グループから社長を迎え、創業者が会長、取締役が専務取締役の体制。同日のお知らせは、従業員の雇用条件と取引先との契約を大きく変えない方針を、体制と並べて書きます。

よくある質問

Q. 船井総研HDは、いくらでアパレルウェブを買ったのですか。

A. 発表文に取得額の記載はなく、有価証券報告書にも企業結合の注記がありません。割り出せるのは、のれんの発生額4億6,477万5千円(デジタル系セグメントののれんの期末残高と当期の償却額の合計・当社の逆算)まで。子会社株式の取得による支出は、3社合計で5億715万6千円です。

Q. 価格が非公表の買収で、のれんをどう割り出しますか。

A. 買い手が上場会社なら、有価証券報告書のセグメント別のれんの表で、期末残高と当期の償却額を足す。前期末にゼロだったセグメントに、その年に入った会社が1社(子会社を含む)だけなら、その会社ののれんと読めます。代金の総額には、受け入れた純資産の額が別に必要です。

Q. 経営コンサルティング会社は、なぜ業界特化のデジタル会社を買うのですか。

A. 船井総研HDの説明は、アパレル業界の専門性とEC・ウェブマーケティングの実行力を取り込み、経営戦略の策定から実行支援、デジタルマーケティングまでを一貫して支える体制をつくること。アパレルにとどまらず、他の業界にも広げる計画です。

Q. 買収した年の損益は、どうなりましたか。

A. デジタル系セグメントは、2025年12月期に売上高45億429万円(13.7%増)、営業損失9,611万円(前期は1億5,984万円の利益)です。のれんの償却は6,972万円。アパレルウェブ単独の損益は、分けて開示されていません。

ご相談ください

価格が非公表の買収は、開示の数字を分解して、払える額の範囲を自分で見積もります。

CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。

売却をお考えの方は、検討から成約までの期間と、買い手が見る数字をご説明します。

買収をお考えの方へ

→ 案件を見る

→ 買収の相談をする

売却をお考えの方へ

→ 売却の相談をする

出典

  • 株式会社船井総研ホールディングス「船井総研ホールディングス、アパレルウェブの株式を取得しグループイン」(2025年5月1日公表・PR TIMES)
  • 株式会社アパレルウェブ「船井総研グループへのグループインのお知らせ」(2025年5月1日公表)
  • 株式会社船井総研ホールディングス 第56期有価証券報告書(2026年3月27日提出)・半期報告書 第56期中(2025年8月13日提出)・2025年12月期 決算短信(2026年2月6日公表)
  • 同「2025年12月期 第1〜第3四半期決算説明会」のスクリプト(2025年5月9日・8月8日・11月10日)
  • 同「アパレルウェブ千金楽健司はなぜ船井総研グループへ参画を決断したのか?動画シリーズ『グループインの真実』第2回を本日公開」(2026年5月25日公表・PR TIMES)
  • 株式会社アパレルウェブ 公式サイト(会社概要・沿革・Digital Marketing)
  • FASHIONSNAP.COM の船井総研ホールディングスによるアパレルウェブ完全子会社化の記事(2025年5月1日公表)

(出典はいずれも2026年10月16日確認。のれんの発生額・年間の償却額・各比率は、開示の金額から出した当社の計算で、5年の償却は当社の読み。従業員69名は公式サイト(2026年1月1日現在)の数字。子会社株式の取得による支出は、取得時に受け入れた現金を差し引いた額)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

あわせて読みたい

あなたの状況で聞きたいことはありませんか

売却も買収も、初回のご相談は無料です。秘密は秘密保持契約で守られます。