トゥヴェールに100億円 ── 営業利益の7.4倍で買った利益率33%のD2Cに、I-neは何を払ったのか
| 発表日 | 2024年10月23日(株式取得 2024年10月31日・連結は2024年11月から) |
| 譲受企業 | 株式会社I-ne(東証プライム 4933) |
| 譲渡企業 | 株式会社トゥヴェール(2002年設立・大阪府箕面市) |
| 事業 | 皮膚科学に基づく成分研究型の化粧品「TOUT VERT」の企画・販売 |
| 譲渡価額 | 100億円(200株・議決権100%・現金) |
| スキーム | 株式取得(全株式)。資金は銀行借入 |
| 出典 | I-ne「株式会社トゥヴェールの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」(2024年10月23日)・有価証券報告書(2024年12月期・2025年12月期)・決算説明資料 |
(出典:株式会社トゥヴェール「TOUT VERT」公式サイト・2026年10月16日時点の画面)
譲渡企業の概要
トゥヴェールは、皮膚科学に基づく成分研究型のスキンケアブランド「TOUT VERT」を企画・販売する会社です。2002年設立で、本社は大阪府箕面市。「ナノエマルジョン ディープ」「レチノショット 0.1」などを展開し、楽天市場の店舗は2024年の「定期購入大賞」を受けています(I-neの有価証券報告書)。
売上高は3期で19億6,500万円から41億900万円へ、営業利益は6億100万円から13億5,800万円へ伸びています。営業利益率は30.6%から33.0%へ上昇。2024年6月期末の自己資本比率は77%に達します。
| 決算期(6月) | 2022年6月期 | 2023年6月期 | 2024年6月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 19億6,500万円 | 25億4,000万円 | 41億900万円 |
| 営業利益 | 6億100万円 | 8億3,500万円 | 13億5,800万円 |
| 営業利益率(当社計算) | 30.6% | 32.9% | 33.0% |
| 当期純利益 | 3億5,300万円 | 5億1,300万円 | 9億6,100万円 |
| 純資産 | 10億2,600万円 | 15億3,900万円 | 24億9,900万円 |
株主は、代表取締役と取締役1名が各46%、その他が8%でした。売り手の一部は、守秘義務により非開示です。
譲受企業の概要
I-neは、ヘアケアの「BOTANIST」、夜間美容の「YOLU」、美容家電の「SALONIA」を持つ、大阪市の美容ブランド会社です。2023年12月期の連結売上高は416億4,300万円、営業利益は43億7,900万円。スキンケアは「スキンケア他」のカテゴリーとして育てている最中で、トゥヴェールと同じ日に、SALONIAの生産管理を担う会社(現Artemis)の取得も決議しました。
M&Aの目的・背景
スキンケアの品ぞろえを広げ、製造と販売の両面でI-neの仕組みを活用する買収です。I-neは2023年2月の中期経営計画で、2025年12月期に売上高550億円・営業利益率13%を掲げ、3つの基本方針の1つに「スキンケア他の拡大」を挙げていました。
開示資料が示すトゥヴェールの強みは、収益力の高さと健全な財務構造。取得後の施策は、スキンケアブランドの拡充、サプライチェーン(供給網)の効率化、デジタルマーケティングとオフラインの販路の活用の3点です。
M&Aの手法・成約内容
代金は現金100億円で、全額を銀行借入で賄いました。2024年10月23日の取締役会で決議して同日に契約し、10月31日に200株(議決権の100%)を取得しています。借入は100億円で、6か月のつなぎ融資のあと、7年の長期借入へ借り換える計画でした。
アドバイザリー費用等は、発表時の概算1億300万円から、有価証券報告書では8,700万円に確定。株式価値の算定方法は開示されていません。追加の対価や後払いの記載もなく、100億円の一括払いです。
この値段は、どう説明できるか
100%の取得のため、会社全体の評価額はそのまま100億円です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 会社全体の評価額(100%) | 100億円 |
| うち受入純資産(取得日・暫定) | 28億8,100万円 |
| 差額(のれん・暫定) | 71億1,800万円 |
| 取得原価の配分による減少(確定時) | △16億8,700万円 |
| 差額(のれん・確定) | 54億3,000万円 |
100億円は、2024年6月期の営業利益の7.4倍、当期純利益の10.4倍にあたります。売上高41億900万円に対しては2.4倍。取得時のトゥヴェールは現金24億2,700万円を保有していたため、これを除く実質の支出は75億7,200万円となり、営業利益の5.6倍に相当します(有価証券報告書のキャッシュ・フロー注記)。取得時の負債は、流動負債の8億500万円のみでした。
年買法(時価純資産に営業利益1〜3年分を加える計算)では42.4億〜69.6億円。100億円はその1.4〜2.4倍に相当します(当社試算)。確定したのれん54億3,000万円は、営業利益の4.0年分。暫定の71億1,800万円では5.2年分でした。
確定したのれんと、その償却
のれんは、暫定の71億1,800万円から確定で54億3,000万円へ、16億8,700万円減少しました。取得原価の配分(取得した資産と負債を時価で評価し直す手続き)で、商標権18億2,400万円と顧客関連資産7億8,400万円を認識し、繰延税金負債9億2,000万円が立ったためです。償却期間は、のれん10年、顧客関連資産8年、商標権15年の均等償却。
年間の償却額は、I-neの開示で合計7.6億円(のれん5.4億円、顧客関連資産0.9億円、商標権1.2億円)です。トゥヴェール単体の2025年の経常利益14億3,500万円の約53%にあたります(当社試算)。償却は現金の支出を伴わず、EBITDA(償却前の営業利益)にも出ませんが、営業利益は押し下げられます。
取得後の数字
トゥヴェール単体の数字は、有価証券報告書の子会社情報に出ています。2024年6月期は2023年7月〜2024年6月、2025年12月期は2025年1月〜12月で、12か月どうしの比較ですが期間は重なりません。
| 項目 | 2024年6月期(取得前) | 2025年12月期(取得後) |
|---|---|---|
| 売上高 | 41億900万円 | 51億6,000万円 |
| 経常利益 | 14億8,300万円 | 14億3,500万円 |
| 当期純利益 | 9億6,100万円 | 9億6,400万円 |
| 純資産 | 24億9,900万円 | 40億6,200万円 |
売上高は増えたものの、経常利益は取得前を下回りました。売上高51億6,000万円は、I-neが掲げた計画の50億円を上回っています(決算説明資料)。I-neは取得前後の比較として、2024年1〜12月の48億2,000万円(1〜10月は非監査)から約7%の増加を示しました。一方、経常利益は3.2%減り、経常利益率は36.1%から27.8%に下がっています。要因の開示はなく、営業利益も公表されていません。
連結の2025年12月期は、売上高489億7,500万円(前期比8.8%増)、EBITDA56億2,600万円(8.3%増)、営業利益38億8,000万円(14.4%減)。I-neは営業利益の減益を、前年に実施した2件のM&A(トゥヴェールと、同日に決議した生産管理会社)の償却費の計上によると説明しています(決算説明資料)。2件の年間償却は合計12.0億円で、営業利益の約3割にあたります(当社試算)。取得時に示した目標は、2025年12月期の売上高550億円・営業利益率13%。実績の営業利益率は7.9%でした。
買い手が読み取れること
当社の見方では、100億円は当社の目安の上端を約17億円上回ります。当社(CommerceX M&A)がEC・D2Cの売却支援で使う目安は、時価純資産に営業利益(EBITDA)の2.5〜4.0倍を加えた額です。直近期の営業利益で試算すると62億8,000万〜83億1,000万円で、100億円は上端の1.2倍。当社は、対象単体の価値と、自社に入れた後の価値を別々に持ち、後者は自社の取り分として払う額に加えません。この差には、I-neの製造委託先との取引条件や、オンラインとオフラインの販路への期待が入っていると読みます。
33%という高い利益率が続くかを、買収の前に確かめます。取得時は営業利益率33.0%で、営業利益は前期比62.6%増の急成長の時期でした。取得後の単体は、売上高が増えても経常利益が減っています。広告費・販促費の推移、チャネル別の売上、定期購入の割合と継続率は、買収前のデータで調べておきます。I-neは取得後にQoo10やZOZOCOSMEなど新しいオンラインのチャネルへ展開したと説明しており(2025年12月期第1四半期の質疑応答)、既存分と新規分の切り分けも要ります。
商標権と顧客関連資産の26億800万円は、将来の売上予測に左右されます。取得原価の配分は外部の専門家の評価にもとづき、監査法人は主要な検討事項として、売上高の将来予測と、既存顧客の売上が年々減る率(減衰率)の仮定を挙げました。のれんの減損判定も、ECでの販路拡大を主要な仮定にしています。同じ判断をするなら、この2つの仮定を自社の計画に置き換えて、償却と減損の負担を試算します。
代金は、買い手の2023年12月期末の純資産の約7割にあたり、全額が借入でした。I-neの当時の純資産は143億3,100万円。決算説明資料が挙げるM&Aの財務規律は、連結EPSの向上、EBITDAの倍率の設定、純有利子負債÷EBITDAが2倍以下の3つです。借入の返済は年約13億円で、2031年に完済する予定です。借入で買うときは、償却を差し引いた利益と返済額を並べて、毎年の資金繰りを先に確かめます。当社は、のれん償却が買い手の利益を数年押し下げる前提で、買収の成否を償却後の数字で見ます。
よくある質問
Q. 営業利益の7.4倍は、高いのですか。
A. 営業利益が前期比62.6%増の期の数字に対する倍率で、取得時の現金を除く実質では5.6倍です。年買法(42.4億〜69.6億円)の1.4〜2.4倍にあたり、当社の目安の上端を約17億円上回ります。
Q. のれんが暫定から確定で減ったのはなぜですか。
A. 取得原価の配分で、商標権18億2,400万円と顧客関連資産7億8,400万円を認識し、繰延税金負債9億2,000万円を計上したためです。のれんは71億1,800万円から54億3,000万円に減りました。償却は、のれん10年、顧客関連資産8年、商標権15年で、年間の合計は7.6億円です。
Q. 取得後に、トゥヴェールの利益は伸びましたか。
A. 2025年12月期の売上高は51億6,000万円で、計画の50億円を上回りました。経常利益は14億3,500万円で、取得前の14億8,300万円より3.2%少なくなっています。営業利益は開示されていません。
Q. 追加の対価や後払いはありますか。
A. 開示に記載はなく、100億円の一括払いです。当社は、売り手の希望額と買い手の払える額の差を埋める手段として、アーンアウト(後払い条件)を使います。本件は、一括払いで決着した事例です。
ご相談ください
100億円の値段は、営業利益の倍率だけでなく、償却後の利益と返済額で確かめます。CX BASEの扱いは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件。買いニーズを登録いただいた企業には、条件に合う新着案件のご案内と、公開前の個別打診が届きます。登録に費用はかかりません。
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出典
- 株式会社I-ne(2024年10月23日公表・2026年10月16日確認):「株式会社トゥヴェールの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」/「資金の借入れに関するお知らせ」/「一部美容家電ODM機能の獲得を目的とした株式会社東亜産業の子会社の株式譲渡契約の締結に関するお知らせ」。2024年10月31日「株式会社トゥヴェールの株式の取得(子会社化)完了に関するお知らせ」
- 株式会社I-ne「2024年12月期 第3四半期決算短信」重要な後発事象(2024年11月8日公表)/「有価証券報告書 第18期(2024年12月期)」企業結合等関係・連結キャッシュ・フロー計算書の注記・監査報告書(2025年3月28日提出・2026年10月16日確認)
- 株式会社I-ne「有価証券報告書 第19期(2025年12月期)」企業結合等関係(取得原価の配分の確定)・重要な会計上の見積り・子会社の主要な損益情報(2026年5月15日提出・2026年10月16日確認)/「2025年12月期 決算短信」(2026年5月15日公表)
- 株式会社I-ne「2024年12月期 決算説明資料」(2025年2月12日)・「2025年12月期 決算説明資料」(2026年5月15日)・「2025年12月期第1四半期決算に関するよくある質問と回答」(2025年6月17日)・「2026年12月期第2四半期 決算説明資料」(2026年8月7日)(いずれも2026年10月16日確認)
- 株式会社トゥヴェール「TOUT VERT」公式サイト(2026年10月16日確認)
(金額は株式の代金100億円です。アドバイザリー費用等8,700万円(確定値)は別で、取得比率100%のため換算していません。2024年12月期の数字は、取得原価の配分の確定後の値に置き換わっています。受入純資産、倍率、年買法、当社の目安との比較、償却との比較、経常利益率は当社試算です。トゥヴェールの営業利益は、取得前の期を除き開示がなく、取得後は経常利益で比べました)