M&Aニュース2025年10月 発表書き手:齋藤 浩喜

債務超過のMAKE BEAUTUREに2億円 ── ジェリービーンズが1年試してから買った理由

発表日2025年10月10日(基本合意)/10月23日(経過開示)
譲受企業株式会社ジェリービーンズグループ(証券コード3070)
譲渡企業MAKE BEAUTURE株式会社(2021年12月7日設立・東京都渋谷区神宮前)
事業化粧品の開発、製造、販売
譲渡価額2億円(33,160株・議決権100%)
スキーム株式譲渡(DCF方式で算定・アドバイザリー費用の発生なし)
出典ジェリービーンズグループ 適時開示(2025年10月10日・10月23日)

譲渡企業の概要

決算書だけを見れば、値段のつく会社ではありません。3期とも営業赤字、純資産はマイナス、直近期は減収。

MAKE BEAUTUREは化粧品D2C企業。資本金2,180万円、従業員10名、代表取締役は駒田豪氏。株主は朝倉未来氏55.37%、インフルエンサーZ 34.14%、FUNDINNO 7.72%、花房火月氏2.77%の4者。

決算期2022年11月期2023年11月期2024年11月期
売上高117百万円133百万円84百万円
営業利益△56百万円0百万円△14百万円
純資産△49百万円△52百万円△66百万円
総資産93百万円136百万円85百万円

売上は1年で37%減りました。133百万円から84百万円へ。純資産は3期連続で悪化して△66百万円、総資産85百万円との差から負債は151百万円あります。

譲受企業の概要

買い手は靴の会社です。婦人靴ブランド「JELLY BEANS」を手がける上場企業で、化粧品は本業の外側にあります。

M&Aの目的・背景

買い手が挙げたのは、商品ではなく売り方でした。

開示された「株式取得の理由」は、化粧品・ビューティ領域への参入、販売チャネルと顧客基盤の相互活用によるLTV(顧客が生涯で払う額)の最大化、対象会社が持つ「TikTok、Instagram等のSNSやライブコマースに関する高い知見と実行力」の靴事業への適用。

最後の1点だけが、対象会社から買い手へ向かう矢印です。化粧品ではなく、化粧品を売っている運用力を靴で使う。

当社(CommerceX M&A)が買う理由の書き方として定めているのは、この形です。買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせる。この一文が書けない案件は、好みか雰囲気で選んでいます。

M&Aの手法・成約内容

33,160株、議決権100%を2億円で取得。取得前の保有はゼロで、株式投資型クラウドファンディング経由の株主を含む4者から全株が集まりました。株式価値は第三者算定機関がDCF方式(将来のお金を今の価値に割り戻す方法)で算定。アドバイザリー費用は発生しません。

両社は2024年10月25日に業務提携を締結。基本合意の発表はちょうど1年後の2025年10月10日。

買い手は1年間の協業で中身を確かめてから買っています。

この値段は、どう説明できるか

利益の何年分という物差しも、純資産の何倍という物差しも使えません。営業利益も純資産もマイナスで、PBR(株価純資産倍率)は計算が成り立ちません。

項目金額
譲渡価額(100%)2億0,000万円
純資産△6,600万円
差額(のれん)2億6,600万円

純資産がマイナスなので、のれんは譲渡価額を上回ります。2億6,600万円が帳簿に載っていないものへの支払いで、売上との比較でも直近期84百万円の2.4倍。

残る物差しは、同じものを自社で作ったらいくらかかるかです。買い手が挙げたのはSNSとライブコマースの運用力と、それを回す10名。採用と育成、試行にかかる人件費と時間が、払える上限を決めます。

当社は、買った後の上乗せ効果まで含めた価値と、払える上限を分けて持ちます。上限は、同じ機能を自社で作る費用と時間から、実現しないリスクのぶんを引いた線。そこを超えた差額は価格に足さず、成果に応じた後払いへ回します。

買い手が読み取れること

利益も純資産も出ない会社は、代替コストでしか値段を置けません。2億円が説明できたのは、靴の会社にSNS運用とライブコマースの実行力がなかったから。自社にある機能なら外から買う理由はありません。

買う対象が人なら、契約と受け皿の両方を用意します。株式を100%取得しても、配信の実行力は人と個人アカウントに残ります。「知見と実行力」の帰属先をDDで特定し、在籍期間・競業避止・アカウントの扱いを条件に置く。当社は買う側の体制も足切りに入れています。事業責任者を初日に当てられるか、経営者が継続して自走できるか。どちらも用意できない案件は買いません。

売上が37%減った理由を、単年の事故か構造かで分けます。減収は商品の入れ替え、広告の停止、発信量の減少のどれでも起こります。原因が発信量なら、買ったはずの運用力そのものが弱っています。月次の売上、チャネル別構成、配信本数と獲得数で確かめます。

のれん2億6,600万円は、償却か減損のどちらかで必ず損益に出ます。償却期間は開示されていません。短く取るほど毎期の負担が重く、長く取るほど減損の危険が後ろへ伸びます。対象会社は単体で赤字が続くため、回収は靴事業側の効果しだい。何を効果と数えるかを事前に決めます。

よくある質問

Q. 債務超過の会社に2億円は、高すぎませんか。

A. 利益倍率では説明がつきません。判断の材料は、同じ機能を自社で作る費用と時間。それが2億円を超えるなら払う説明が立ち、下回るなら自社で作るほうが安い。

Q. 債務超過の会社を買うと、負債も引き継ぐことになりますか。

A. 株式譲渡では資産も負債もそのまま買い手へ移ります。この事例は総資産85百万円と純資産△66百万円の差から負債が151百万円。株式代金2億円に加えてこれを抱えます。中身は仕入債務か借入か、オーナーからの貸付か。どれかで買収後の資金繰りが変わります。

Q. 業務提携から入る方法は、買い手にとって有利ですか。

A. 決算書に出ない運用力を、資料ではなく実績で確認できます。この事例は提携から子会社化まで1年。一方で提携中は自社の販路と顧客データを相手に開きます。相手側だけが伸びる形を避けるため、開示の範囲と独占交渉権を最初の契約で決めます。

Q. デューデリジェンスで、この種の会社は何を見ればよいですか。

A. 利益が出ていない会社ほど、損益計算書より運用の実数のほうが判断材料になります。月次の売上とチャネル別の構成、配信1本あたりの売上、顧客獲得単価とリピート率、在庫の残り方、負債151百万円の内訳。キーマンの契約とSNSアカウント名義も見ます。

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出典

  • ジェリービーンズグループ「MAKE BEAUTURE株式会社の株式取得(子会社化)に関する基本合意締結のお知らせ」(2025年10月10日)
  • ジェリービーンズグループ「(開示事項の経過)MAKE BEAUTURE株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」(2025年10月23日)
  • ジェリービーンズグループ「MAKE BEAUTURE株式会社との業務提携の締結に関するお知らせ」(2024年10月25日)

(金額は株式の代金です。取得比率は100%のため換算していません。財務数値は適時開示の決算書ベース(利益修正前)。負債151百万円は総資産と純資産の差額として当社が算出。本記事は公表情報にもとづく分析です)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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