Focus Consumer Healthcareに113億円 ── 従業員9人の会社の取得原価は、59%が商標権、29%がのれんだった
| 発表日 | 2023年10月6日(取得は米国時間10月5日・有価証券報告書の企業結合日は10月6日) |
| 譲受企業 | 小林製薬株式会社(東証プライム 4967) |
| 譲渡企業 | Focus Consumer Healthcare, LLC(2017年設立・米国テネシー州チャタヌーガ) |
| 事業 | 一般用医薬品・サプリメント等の製造販売(製造はすべてOEM)。販路は全米のドラッグストアとスーパー |
| 譲渡価額 | 75百万米ドル(発表文の譲り受け金額)。有価証券報告書の取得の対価は現金11,338百万円 |
| スキーム | 持分取得(全持分100%・米国子会社が現金で取得) |
| 出典 | 小林製薬 ニュースリリース(2023年10月6日)・臨時報告書・第106期〜第108期有価証券報告書・決算説明会資料 |
譲渡企業の概要
Focus Consumer Healthcare(以下、Focus社)は、サプリメントと一般用医薬品のブランドを全米の店頭で売る、従業員9人の会社です。持分は Focus Consumer Healthcare Fund 1, LP が100%を持っていました。
| 項目 | 内容(2022年12月31日時点・小林製薬の発表) |
|---|---|
| 設立 | 2017年 |
| 従業員 | 9人 |
| 売上高 | 30.7百万米ドル(直近の事業年度) |
| 製造 | すべてOEM(外部の工場へ委託) |
| 主なブランド | GARLIQUE(にんにくサプリメント)・PAMPRIN(生理用鎮痛剤)・HERPECIN L(口唇ヘルペス対策薬) |
売上高以外の財務数値は開示にありません。小林製薬の説明資料は、GARLIQUEをにんにくサプリメントの市場シェア1位、PAMPRINを生理用鎮痛剤の2位と示します(市場の範囲と出所は資料に書かれていません)。開示が挙げる販路はドラッグストアとスーパーマーケットなどで、EC販売の記載はありません。
譲受企業の概要
小林製薬は、「アンメルツ」「ブルーレット」「熱さまシート」を持つ医薬品・日用品メーカーです。2023年12月期の連結売上高は173,455百万円、営業利益は25,780百万円。国際事業の売上高は422億円で、全体の24.4%を占めます(有価証券報告書)。
米国では、2016年にBerlin Industries、2020年にAlva-Amco Pharmacal Companiesを子会社化し、一般用医薬品を広げてきました。
M&Aの目的・背景
小林製薬は、売上の6割がカイロに偏る米国で、第2の柱になる事業を探していました。2023年11月7日の決算説明会は、米国の売上の6割を占めるカイロが気温に左右されるため、一般用医薬品をはじめとするヘルスケアを第2の柱にすると説明しています。サプリメントは日本で売ってきたものの、米国ではまだ展開できていませんでした。
有価証券報告書の取得理由は、Focus社が持つガーリックに特化したサプリメントと婦人薬のブランドに、小林製薬の機能性素材、処方のノウハウ、マーケティング力を合わせ、北米のサプリメント事業の確立と一般用医薬品の拡大を目指す、というものです。
目標は2つ開示されています。米国全体の売上高を2030年に340億円(うちヘルスケア関連160億円)にすること。Focus社の売上高は、2022年の約30百万米ドルから2030年に2倍の60百万米ドルを目指すこと(2023年11月7日の質疑応答要旨)。
M&Aの手法・成約内容
買収は、小林製薬の米国子会社が現金で全持分を取得する形で、取得原価は11,338百万円です。2023年9月6日に取締役会で決議し(臨時報告書)、9月15日に契約を結び、10月6日(米国時間では10月5日)に取得しました。アドバイザリー費用等319百万円は、取得原価の外に別記されています。
金額の表示は2つあります。発表文は75百万米ドル、有価証券報告書の取得の対価は現金11,338百万円。両者がどう対応するかは、開示にありません。仮に75百万米ドルが11,338百万円にあたるなら1米ドル約151円、取得した現金161百万円を引いた支出11,176百万円にあたるなら約149円です(いずれも当社試算)。本記事は、小林製薬が計上した11,338百万円を使います。
この値段は、どう説明できるか
取得原価の88%は、商標権(59%)とのれん(29%)です。小林製薬は、外部の専門家の株式価値の算定を踏まえて取得原価を決め、資産と負債の時価も外部の専門家で評価しました(監査上の主要な検討事項)。
| 項目(百万円) | 金額 | 取得原価に占める割合 |
|---|---|---|
| 取得原価(現金) | 11,338 | 100.0% |
| うち商標権 | 6,657 | 58.7% |
| うち商標権以外の受入純資産 | 1,373 | 12.1% |
| うちのれん | 3,308 | 29.2% |
受入純資産は、取得日に受け入れた資産8,353百万円(流動1,649・固定6,704)から負債323百万円を引いた8,030百万円で、商標権を含みます。固定資産6,704百万円のうち6,657百万円が商標権で、製造をすべて外部へ任せる従業員9人の会社の固定資産は、ほぼ商標権です。
| 物差し | 数値 |
|---|---|
| 取得原価 ÷ 受入純資産 | 1.41倍(11,338÷8,030) |
| 75百万米ドル ÷ 売上高(直近の事業年度・米ドルどうし) | 2.44倍(75÷30.7) |
| 営業利益の何年分か | 営業利益が開示になく、出せない |
小林製薬は2024年2月9日に、Focus社の売上高は約30億円を計画に入れ、利益はのれん償却を含めると少しマイナスと説明しました。償却額は年7億円程度とも述べています。この説明が、のれんと商標権の両方の償却を含む利益を指すなら、償却前の営業利益は、償却額の年約7.7億円(後述)に届きません。その場合、のれん3,308百万円だけでも償却前の営業利益の4.3年分を上回り、年買法(時価純資産に営業利益1〜3年分を足す算式)の範囲を超えます。商標権を加えた9,965百万円なら13.0年分を上回ります(いずれも÷766.5・当社試算)。
利益で測れない会社の値段は、買収の理由で説明します。当社(CommerceX M&A)の見解では、理由は「買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせる」の一文で言い切れるかで決まります。小林製薬の開示に当てはめると、買収先のここは、にんにくサプリと婦人薬のブランド、全米の棚。自社のこの力は、機能性素材・処方のノウハウ・マーケティング。こう伸ばせるは、新製品による売上の拡大。3つの要素がそろっています。
実際に計上されたのれんと、その償却
のれん3,308百万円と商標権6,657百万円は、どちらも13年の均等償却です。有価証券報告書の監査報告書は、のれんの償却期間を事業計画に基づく投資の回収期間から13年と決めたと記載します。年間の償却額は、のれん254百万円(3,308÷13)と商標権512百万円(6,657÷13)で、合計は年約7.7億円(当社試算)。会社の説明の「年7億円程度」と同じ水準です。
| 残高(百万円) | 取得時 | 2023年末 | 2024年末 | 2025年末 |
|---|---|---|---|---|
| のれん | 3,308 | 3,093 | 3,143 | 2,846 |
| 商標権 | 6,657 | 6,226 | 6,399 | 5,794 |
| 合計 | 9,965 | 9,319 | 9,542 | 8,640 |
2024年末は、償却が進むのに残高が前年末より増えています。米ドル建ての資産を円に直す際の為替の影響と読めますが、開示に理由の記載はありません。減損は、2023年末・2024年末・2025年末のいずれも、Focus社ののれんと商標権に兆候は生じていないと判断されました(有価証券報告書)。
買収後の米国の売上高は、2024年12月期に21,246百万円と、前期の17,057百万円から24.6%増えました。有価証券報告書は要因にFocus社の買収と為替を挙げ、説明資料は為替を除く増加率を15.5%と示します。一方、2024年12月期の国際事業の営業利益は32億円から12億円に減りました。説明資料は、中国大陸・香港地域の減収、米国のカイロの苦戦とともに、要因のひとつに「Focus社の償却費等」を挙げています。
買い手が読み取れること
営業利益で割れない会社は、代金を資産ごとに分けて見ます。Focus社は、取得原価の88%が商標権とのれんでした。自社が同じ判断をするなら、商標権6,657百万円が、ブランドごとの売上と粗利で説明できるかを先に確かめます。商標の名義、登録の範囲、更新の期限、係争も確かめます。
製造をすべて外へ出した会社は、製造元との契約が価値の一部です。製造がすべてOEMのFocus社では、製造元を切り替えられるかが、供給の継続に直結します。当社の見解では、レシピ・型・商標の名義がどちらにあるか、製造元を切り替えられるか、最低発注数量と価格改定の条件がどうなっているかを、買収の検討の早い段階で確かめます。
償却は取得した日から利益を押し下げ、計画に入れても数字に出ます。年約7.7億円の償却は、計画売上約30億円の約4分の1。小林製薬は中期経営計画の期間中、営業利益に減価償却費とのれん償却額を足し戻したEBITDAの増益を重視すると述べています(有価証券報告書)。自社の経営指標が営業利益なら、償却込みの利益が赤字になる計画を、買う前に許容できるかを決めておきます。
払う額と、自社の力で伸ばした後の価値は分けて考えます。小林製薬は、取得原価の算定の土台になる事業計画に、複数の新製品の上市を含む売上拡大計画を入れたと開示しています(有価証券報告書)。当社の見解では、払う額は買収先の単体の価値までとし、自社の素材やノウハウを入れた後の上積みは、実現するまで価格に入れません。上積みを価格に含めるなら、後払いなど、実現した分だけ払う形にします。
減損の判定は、買収の翌期から毎期受けます。小林製薬は、減損の兆候を米国の市場の動向や業績から判断し、キャッシュ・フローの見積りには買収時の事業計画(複数の新製品の上市を含む売上拡大計画)を使うと記載します(有価証券報告書)。買った後に毎期追える形で、計画の数字を持っておきます。
円で連結する買い手は、米ドルの取引で円の金額が動きます。この取得は、円の取得原価と米ドルの発表額の関係が開示にありません。契約の通貨、支払の日、換算する相場を最初に決めます。2024年末に残高が増えたように、円で見た金額は償却以外でも動きます。
よくある質問
Q. 小林製薬は、いくらでFocus社を買ったのですか。
A. 発表文の譲り受け金額は75百万米ドルです。有価証券報告書の取得の対価は、現金11,338百万円。内訳は、商標権6,657百万円、商標権以外の受入純資産1,373百万円、のれん3,308百万円です。アドバイザリー費用等319百万円は別に記載されています。
Q. 従業員9人の会社に113億円は、高いのですか。
A. 営業利益の開示がなく、利益の年数では測れません。取得原価は受入純資産の1.41倍、2022年の売上高の2.44倍(米ドルどうし)。判断は、同じブランドと棚を自社で作る費用と時間との比較です。
Q. のれんと商標権の償却は、買収後の利益にどう響きますか。
A. 年約7.7億円(当社試算)の償却が、13年間続きます。計画売上約30億円の約4分の1です。国際事業の営業利益が2024年12月期に32億円から12億円に減った要因のひとつにも、説明資料はFocus社の償却費等を挙げています。
Q. 減損は出ていますか。
A. 2023年末から2025年末までの3期とも、Focus社ののれんと商標権に減損の兆候は生じていません。2025年末の残高は、のれん2,846百万円・商標権5,794百万円です。
ご相談ください
営業利益で割れない会社は、代金の中身を資産ごとに分け、自社で作る費用と買った後の償却で確かめます。
CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。
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出典
- 小林製薬株式会社「米国における子会社取得に関するお知らせ」(2023年10月6日公表・2026年10月16日確認)
- 小林製薬株式会社 臨時報告書(2023年10月13日提出)・第106期・第107期・第108期有価証券報告書(2024年3月28日・2025年3月28日・2026年3月25日提出)(いずれも2026年10月16日確認)
- 小林製薬株式会社 2023年12月期 第3四半期・第4四半期 決算説明会資料・同スクリプト付・質疑応答要旨(2023年11月7日・2024年2月9日公表)(いずれも2026年10月16日確認)
- 小林製薬株式会社 2024年12月期 第2四半期・第4四半期 決算説明会 質疑応答要旨・決算説明会資料(2024年8月8日・2025年2月10日公表・2026年10月16日確認)
(11,338百万円は取得の対価(現金)で、取得原価と同額です。アドバイザリー費用等319百万円を含みません。75百万米ドルは発表文の譲り受け金額で、取得比率100%のため持分比率での換算はしていません。受入純資産(資産8,353百万円−負債323百万円)・のれん・商標権・各期末の残高・米国の売上高の増加率は有価証券報告書の記載です。各割合・倍率・償却額・1米ドルの換算・営業利益の年数(4.3年・13.0年。償却前の営業利益が償却額に届かない場合の下限)は当社試算です。決算説明会の質疑応答要旨は、会社が加筆・修正を加えた要約です)