M&Aニュース2024年12月 実行書き手:齋藤 浩喜

PURIの79.89%に119億円 ── 発表は「非開示」、コーセーの有価証券報告書にあった値段

発表日2024年12月10日(株式譲渡契約の締結日。株式の取得は2024年12月26日)
譲受企業株式会社コーセー(東証プライム 4922。現在の商号はコーセーホールディングス)
譲渡企業PURI CO., LTD.(2003年設立・タイ バンコク)
事業ラグジュアリーなウェルネス・フレグランスブランド「PAÑPURI(パンピューリ)」の販売、スパ事業
譲渡価額119億1,800万円(議決権の79.89%・現金)。発表では非開示で、金額は有価証券報告書の記載
スキーム株式譲渡(コーセー本体とタイの特別目的会社を通じて取得。残る株式は3〜5年を目途に取得する予定)
出典コーセー 適時開示(2024年12月10日)・有価証券報告書(2024年12月期・2025年12月期)

コーセー ニュースリリース (出典:株式会社コーセー 公式サイトのニュース(2024年12月10日)・2026年10月16日時点の画面)

PAÑPURI 公式サイト (出典:PAÑPURI 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)

譲渡企業の概要

PURIは、タイで「PAÑPURI」を展開するラグジュアリーなウェルネスブランドの運営会社です。2003年にタイで誕生。フレグランス、バス&ボディ、スキンケア、ホームフレグランスの4系統を、タイ国内26店舗と香港1店舗(2024年8月に進出)で販売し、ホテルでのスパも手がけます。ECサイトと代理店を通じて、日本・中国・欧州でも売っています(コーセーの発表)。

売主は、持株比率42.4%の大株主(ケイマン諸島の法人)を含む2者です。残る20.11%の保有者は、開示にありません。

決算期2021年12月期2022年12月期2023年12月期
売上高197313580
営業利益△6212113
純資産8589174

(単位:百万タイバーツ。コーセーの適時開示)

売上高は2年で2.9倍、営業利益は赤字から営業利益率19.5%まで上がりました(当社試算)。

譲受企業の概要

コーセーは、化粧品事業とコスメタリー事業を持つ化粧品メーカーです。「コスメデコルテ」「雪肌精」「アルビオン」「タルト」などを展開し、2025年12月期の連結売上高は3,301億9,300万円、営業利益は184億6,700万円(決算短信)。

M&Aの目的・背景

狙いは、自前で作らず、地域に根付いたブランドを買って、グローバルサウスに入ることです。コーセーの適時開示は、中長期ビジョンのもとで「脱・自前」による地域に最適化されたグローバル成長を掲げ、その手段に「地域に根付いたブランドの新たな獲得」を挙げています。PURIは、体と心の健康に寄り添うホリスティックウェルネスを理念とし、高品質な製品とスパの顧客体験に強みを持つ会社。取得でブランドポートフォリオを広げ、ASEANとインドの市場でグループの存在感を高める、という説明です。コーセーは、PURIが商品改良・店舗開発・展開戦略のブランド改革で急成長し、タイ国内で確固たる地位を築いたと評価しています。開示に、自社でウェルネスブランドを育てる案との比較や、売主が売る理由の記載はありません。

M&Aの手法・成約内容

取得は議決権の79.89%で、残りは3〜5年を目途に取得する予定です。2024年12月10日に株式譲渡契約を結び、12月26日に1,062,702株を取得しました。2024年12月31日をみなし取得日として貸借対照表だけを連結し、2024年12月期の損益計算書にPURIの業績は入っていません。取得に伴うアドバイザリー費用等は4億3,800万円です。

この値段は、どう説明できるか

発表は価格を非開示としましたが、有価証券報告書に取得の対価が出ています。適時開示は「取得価格は、当事者間の守秘義務に基づき非開示といたします」と書きました。2024年12月期の有価証券報告書(2025年3月28日提出)の企業結合の注記は、取得の対価を現金119億1,800万円と記載しています。発表の108日後です。79.89%分の対価のため、100%に換算した株式価値は約149億円です(当社の逆算。119億1,800万円÷79.89%)。

連結キャッシュ・フロー計算書の「子会社株式の取得による支出」は115億8,800万円。注記の取得価額122億4,400万円からPURIの現金6億5,500万円を引いた額です。この取得価額は取得の対価より3億2,600万円多く、理由は書かれていません。本記事は、のれんの計算と一致する取得の対価を使います。

有価証券報告書は、のれんを2回示しています。取得原価の配分が済んでいない暫定の値と、翌年に確定した値です。

項目暫定(2024年12月期)確定(2025年12月期)
取得の対価(79.89%・現金)119億1,800万円119億1,800万円
受け入れた資産と負債の差16億1,900万円98億200万円
確定で追加した商標権と顧客関連資産配分前102億2,900万円
確定で追加した繰延税金負債配分前20億2,600万円
のれん106億2,500万円40億8,700万円

のれんは、暫定の106億円から確定で41億円に減りました。ブランドの名前や顧客との関係が、のれんから切り出されて資産として計上されたためです。のれんは取得の対価の89%から34%になりました。41億円は、取得の対価から、受け入れた純資産98億200万円の79.89%(78億3,100万円)を引いた額に一致します。

株式価値の約149億円は、純資産の何倍かと、営業利益の何年分かで見ます(当社試算)。

比較の基準金額株式価値の倍率
2023年12月期末の純資産7億8,300万円約19倍
2023年12月期の営業利益5億850万円約29倍
2024年12月期の営業利益(仮定計算)9億9,800万円約15倍

2023年12月期は、開示の参考レート(1タイバーツ4.5円)で円に換算しました。2024年12月期は、有価証券報告書の仮定計算(監査証明なし)で、売上高は47億6,500万円、営業利益率は20.9%です。ネットデットは開示にありません。純資産の19倍、営業利益の15〜29倍は、利益と純資産の現在値だけでは説明できない水準です。

実際に計上されたのれんと、その償却

償却年数は、のれん10年、商標権13年、顧客関連資産15年です。2025年12月期末の残高は、のれん39億1,600万円、商標権92億600万円、顧客関連資産8億5,400万円で、合計139億7,600万円。コーセーの総資産の3.6%に当たります(監査報告書)。取得時の円建て金額を年数で割ると、年間の償却は約11億〜12億円です(当社試算。のれん40億8,700万円÷10年、商標権と顧客関連資産102億2,900万円÷13〜15年。取得時の内訳は注記にないため幅で示します)。PURIの2023年12月期の営業利益の2倍以上です。コーセーは、2025年12月期の販管費の増加要因に、PURIののれん償却をはじめとした管理費を挙げています(決算説明会資料)。

取得後のPURI

2025年12月期にPURIが連結売上高へ上乗せした額は51億円です。アジア地域の売上高441億円(前期比34億円増)のうち、PURIの増加分は51億円です(決算説明会資料)。2025年11月の決算説明会で、コーセーは、中国人旅行客の減少によって売上は期初計画に届かない一方、収益性が高く営業利益は概ね計画どおりに着地する見込みと説明しました。第4四半期は約10%の増収に転じています。

2026年12月期の計画は、PURIの売上高が円ベースで前期比30%台前半の増です。日本とアジアでの出店が柱で、2025年9月にシンガポール初出店。2026年7月23日の発表では、同年8月28日に東京・南青山へ日本初の路面旗艦店を開き、年内にニュウマン横浜、GINZA SIX、グランフロント大阪へ出店する予定と示しました。

買い手が読み取れること

上場企業が買い手なら、非開示と発表した価格も有価証券報告書に出ます。本件は発表の108日後でした。非開示の取引でも、上場企業が買った事例は、企業結合の注記から値段の目安を取れます。

のれんは、取得原価の配分が済むまで測れません。暫定のれん106億円は、確定で41億円になり、償却はのれんと無形資産の合計で年11億〜12億円です。当社(CommerceX M&A)の見解では、買い手は、買う前に、配分後の償却を引いた営業利益を試算し、償却が数年の利益を押し下げる前提で価格を決めます。

払える額は、成長が続く前提の度合いで決まります。100%換算の株式価値(当社の逆算)は2023年12月期の営業利益の29倍、純資産の19倍で、利益と純資産だけでは説明できません。説明がつくとすれば、売上が2年で2.9倍になった成長が続く前提です。物差しは、買う側が同じブランドを自分で育てる期間と費用です。コーセーの開示に、その費用の記載はありません。「脱・自前」は、自社で育てず、外部のブランドを買って広げる判断です。

特定国の旅行客への依存は、価格の前に金額で分けます。有価証券報告書が、のれん評価の主要な仮定に挙げるのは、直営店事業と免税事業(海外旅行者向け)の売上高成長率で、翌期に海外事業が加わりました。実際に、コーセーは、中国人旅行客の減少で売上が期初計画に届かない見込みと説明し、決算説明会資料は「中国人観光客への依存度低減」を課題に挙げました。当社の見解では、国別・チャネル別の売上構成を金額で取り、依存が大きければ、価格だけで吸収せず、取得を段階に分けて残りの価格を後で決める形も選べます。本件は残る20.11%を後から取る形で、残りの価格の決め方は開示にありません。

買収の理由は、一文で言い切れる形にします。コーセーの開示に当てはめると、買収先のここは、タイで地位を築いたウェルネスのブランドとスパの顧客体験。自社のこの力は、ピューリ社のCEOがコメントで挙げた、コーセーの技術・専門知識・リソース。こう伸ばすは、ASEAN・インドでの存在感の向上で、取得後は日本とアジアへの出店が加わりました。当社は、「買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせる」と一文で言えるかを、金額の前に確かめます。

よくある質問

Q. コーセーは、いくらでPURIを買ったのですか。

A. 適時開示は非開示でした。有価証券報告書には、議決権79.89%の取得の対価が現金119億1,800万円と記載されています。100%換算は約149億円(当社試算)です。

Q. 価格を非開示とした買収でも、金額は後から分かりますか。

A. 買い手が上場企業なら、連結に入れた期の有価証券報告書に取得の対価が出ます。本件は、発表の108日後に提出された報告書でした。

Q. のれんは、なぜ暫定の106億円から確定の41億円に減ったのですか。

A. 取得原価の配分が確定し、商標権と顧客関連資産が資産として切り出されたためです。追加で計上した無形資産は102億2,900万円、繰延税金負債は20億2,600万円。のれんは、取得の対価から、受け入れた純資産の79.89%分を引いた額で、確定後は40億8,700万円です。

Q. PURIの買収は、コーセーの利益を押し下げていますか。

A. 償却の分は押し下げます。年間の償却は当社試算で約11億〜12億円。コーセーは、2025年12月期の販管費の増加要因に、PURIののれん償却をはじめとした管理費の上乗せを挙げました。PURI単体の営業利益は、開示されていません。

ご相談ください

コーセーは、非開示と発表した価格を、108日後の有価証券報告書に記載しました。買収の前に、償却後の利益を試算しておけば、価格の根拠を説明できます。

CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。

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出典

  • 株式会社コーセー「PURI CO.,LTD.の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」(2024年12月10日公表・2026年10月16日確認)
  • 株式会社コーセー 第83期(2024年12月期)・第84期(2025年12月期)有価証券報告書(2025年3月28日・2026年3月24日提出・2026年10月16日確認)
  • 株式会社コーセー 決算短信(2024年12月期・2025年12月期・2026年12月期第2四半期)と決算説明会資料(2025年12月期・同第3四半期)(2025年11月〜2026年8月公表・2026年10月16日確認)
  • 株式会社コーセーホールディングス「『PAÑPURI 青山』2026年8月28日(金)グランドオープン」(2026年7月23日公表)・PAÑPURI 公式サイト(いずれも2026年10月16日確認)

(119億1,800万円は有価証券報告書の企業結合注記の取得の対価(現金)で、79.89%分。100%換算の約149億円は、金額を取得比率で割った当社試算です。2024年12月期の売上高・営業利益は、企業結合が期首に完了したと仮定した概算で、監査証明を受けていません。年間の償却額は、取得時の円建て金額を償却年数で割った当社試算で、実際の計上額は為替で変わります)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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