明治薬品に22億9,900万円 ── 純資産を下回る値段で買ったファーマフーズは、同じ会社で125億円の新工場を計画した
| 発表日 | 2021年8月6日(株式取得日は2021年8月31日) |
| 譲受企業 | 株式会社ファーマフーズ(東証プライム 2929。取得当時は東証第一部) |
| 譲渡企業 | 明治薬品株式会社(1948年4月設立・富山県富山市。発表時の本店は東京都千代田区) |
| 事業 | 医薬品・医薬部外品・健康食品の製造と販売 |
| 譲渡価額 | 22億9,900万円(全株式・現金)。発表時は「取得割合に応じて15億〜23億円(概算)」 |
| スキーム | 株式譲渡(発表時は議決権の3分の2以上を予定。結果は全株式の取得) |
| 出典 | ファーマフーズ 適時開示(2021年8月6日)・臨時報告書(2021年8月6日)・有価証券報告書(2021年7月期〜2025年7月期) |
(出典:株式会社ファーマフーズ 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)
(出典:明治薬品株式会社 公式サイト「業務内容」・2026年10月16日時点の画面)
譲渡企業の概要
明治薬品は、医薬品・医薬部外品・健康食品を作って売る、1948年4月設立の会社です。工場は富山県富山市(富山工場・南工場)。発表時の資本金は9,800万円、本店は東京都千代田区外神田でした。株主は、代表取締役社長の石坂俊光氏が12.0%、その他の個人等73名が88.0%(2021年5月15日時点)。ファーマフーズとは機能性食品素材の取引がありました。
最近3期の経営成績は次のとおりです(発表文)。
| 決算期 | 2019年5月期 | 2020年5月期 | 2021年5月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 49億8,900万円 | 56億6,300万円 | 53億3,500万円 |
| 営業利益 | 2億1,900万円 | 7億1,900万円 | 7億8,700万円 |
| 当期純利益 | 1億1,100万円 | 6億300万円 | 4億3,400万円 |
| 純資産 | 13億9,700万円 | 19億9,100万円 | 24億1,400万円 |
営業利益は3期で2億1,900万円から7億8,700万円へ、3.6倍になりました。
譲受企業の概要
ファーマフーズは、機能性食品素材の開発から始まり、売上の大半を通信販売が占める京都市の会社です。1997年9月に設立され、医薬部外品「ニューモ育毛剤」や膝関節向けサプリメント「タマゴサミン」を通信販売で売っています。取得直前の2021年7月期の連結売上高は467億5,200万円で、通信販売のBtoC事業が435億2,400万円(93%)でした(2022年7月期の有価証券報告書の前期の区分)。
M&Aの目的・背景
取得の理由は、ファーマフーズの研究開発力・商品開発力・通信販売の基盤と、明治薬品の製造・販路を合わせて収益を広げることです。発表文は、ファーマフーズが「医薬」と「食」の融合を目指してきたこと、M&Aを成長戦略に位置づけていること、明治薬品が73年の実績を持ち、自社ブランドの機能性表示食品を全国のドラッグストアと越境ECで売っていることを挙げます。
発表文の図は、ファーマフーズを機能性食品メーカー・研究開発・D2C、明治薬品を医薬品メーカー・生産・全国のドラッグストアと越境ECに分けています。「生産」は明治薬品の側にだけ入っています。
発表文は許可に触れていません。2025年7月期の有価証券報告書が挙げるBtoC事業の許可のうち、医薬品の製造販売業許可(第二種)を持つのは明治薬品だけです(有効期限2030年2月15日)。同じ一覧に載るファーマフーズ自身の許可は、医薬部外品と化粧品です。
取得後の2022年7月期は、明治薬品の機能性表示食品「シボラナイトGOLD」の定期顧客が209,379件、売上が31億9,400万円。受注が好調で製造ラインがひっ迫し、予約販売を続けました。明治薬品の公式サイトは、いまの業務を自社ブランドの店舗販売と通信販売、OEMでの医薬品・機能性表示食品の製造と説明しています。
M&Aの手法・成約内容
取得は2021年8月31日に、全株式を現金で買って終わりました。発表時の予定と結果は次のとおりです。
| 項目 | 発表時(2021年8月6日) | 結果(有価証券報告書) |
|---|---|---|
| 取得する株式 | 1,307,000株以上(議決権の3分の2以上) | 全株式(100%) |
| 取得価額 | 取得割合に応じ15億〜23億円(概算) | 22億9,900万円(現金) |
| 日付 | 株式譲渡契約は8月6日、譲渡実行は8月31日 | 株式取得日は8月31日(みなし取得日は8月15日) |
筆頭株主の石坂氏が既存株主から株式を集め、ファーマフーズは石坂氏から取得します(発表文)。議決権の3分の2は株主総会の特別決議を単独で通せる水準、10分の9以上は少数株主の株式を売り渡させる請求ができる水準です(会社法)。発表文は「90%超の取得を目指す」と書き、どちらの水準を意識した数字かは書いていません。結果は全株式で、段階取得にはなりませんでした。
この値段は、どう説明できるか
払った22億9,900万円は、受け入れた純資産23億8,100万円を下回り、のれんの代わりに負ののれん8,200万円が出ました。数字は有価証券報告書の企業結合注記です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 取得原価(現金・100%) | 22億9,900万円 |
| 受け入れた資産 | 76億600万円(流動資産41億1,700万円・固定資産34億8,800万円) |
| 引き受けた負債 | 52億2,500万円(流動負債33億600万円・固定負債19億1,900万円) |
| 時価純資産(資産 − 負債) | 23億8,100万円 |
| 差額(負ののれん発生益) | 8,200万円 |
取得原価が時価純資産を下回った差額は、2022年7月期の特別利益に入りました。純資産の0.97倍で、2021年5月期の営業利益7億8,700万円の2.9年分、当期純利益4億3,400万円の5.3倍です(当社計算)。年買法(時価純資産に営業利益の1〜3年分を足す見方)は31億6,800万円〜47億4,200万円で、払った額は下限より27%低い水準です。受け入れた有形固定資産29億2,900万円も、払った額を上回ります。純資産を下回った理由は、開示に書かれていません。
実際に出た現金は、明治薬品の現金12億6,900万円を差し引いた10億2,900万円です。キャッシュ・フロー計算書の10億9,900万円は、同じ年に連結した別の子会社の分を含みます。
買収後の4期:売上高・損益・純資産
有価証券報告書の「関係会社の状況」が示す明治薬品の数字です。
| 期 | 売上高 | 経常損益 | 当期純損益 | 純資産 |
|---|---|---|---|---|
| 取得時(2021年8月) | - | - | - | 23億8,100万円 |
| 2022年7月期 | 89億2,300万円 | △33億1,300万円 | △33億5,500万円 | △10億3,600万円 |
| 2023年7月期 | 141億800万円 | 11億5,400万円 | 13億900万円 | 2億7,900万円 |
| 2024年7月期 | 141億5,100万円 | 5億3,100万円 | 1億5,300万円 | 4億4,400万円 |
| 2025年7月期 | 168億2,400万円 | △50億4,600万円 | △48億7,600万円 | △44億1,300万円 |
売上高は、買収前の2021年5月期の53億3,500万円から、2025年7月期は168億2,400万円になりました。純資産は、2022年7月期と2025年7月期にマイナス(債務超過)です。損益の内訳は、有価証券報告書に書かれていません。2022年7月期は、ファーマフーズのBtoC事業の利益が前期比88.6%減の6億3,800万円になった理由に、「シボラナイトGOLD」への広告投資が挙げられています。2025年7月期は、明治薬品が売る医薬品を中心に新規顧客を広告で獲得し、同社の定期顧客件数が前期末の2.7倍になったと書かれています。
ファーマフーズは、明治薬品に資金を貸し、銀行借入に債務保証をしています(2025年7月期末の保証額は11億9,000万円)。新工場の投資予定金額は125億円(既支払額1億3,300万円)、着工は2026年7月、完了は2028年7月で、目的は生産増強です(2025年7月期の有価証券報告書)。買収価格の5.4倍で、明治薬品の公式サイトは2026年7月22日付で着工記事の掲載を案内しています。2025年8月19日には、明治薬品が借入極度額123億円のシンジケートローンを契約しました。弁済期限は2038年10月、担保は明治薬品の土地と建物で、ファーマフーズが保証します。特約に、明治薬品の単体と連結の経常損益を2期連続で赤字にしないことなどが入っています(臨時報告書)。
買い手が読み取れること
発表時の幅は取得割合で決まり、確定額は有価証券報告書で確かめます。発表文は「取得割合に応じ」15億〜23億円と書き、確定額は書きませんでした。確定は22億9,900万円で、幅の上端です。当社(CommerceX M&A)の見解では、発表時の概算と確定した取得原価は別の数字で、確定額は原本で確かめます。株主が個人等74名の会社では、全員が売るとは限りません。最低ラインの取得割合と、全株式を取る場合の値段を、先に分けて決めます。
純資産を下回る値段でも、買った後の資金は別に要ります。0.97倍で買い、のれんの償却はありません。それでも取得後4期の純損益の累計は△67億6,900万円(当社計算)で、新工場の投資は125億円。損失の累計も投資額も、取得価額を上回ります。
通信販売が伸びると、製造の余力が売上の上限になります。2022年7月期は製造ラインがひっ迫しました。2025年7月期の受託製造(CMO事業)は、受託先の見直しと自社の通信販売向けの増産への方針転換で、売上が前期比30.7%減の32億1,900万円。買い手の販路向けの生産が増えると、外部の受託は減ります。確かめるのは、ラインの稼働率、受託先との契約期間と切り替えの条件、増産に必要な設備の額です。
許可は会社に付いてきますが、更新と取消事由の確認が要ります。株式取得では許可を持つ会社が変わらないため、許可は取り直しになりません。有価証券報告書は、許可を5年ごとに更新すること、取消事由に当たる事項がないことを記載しています。許可の期限、更新の予定、薬機法に基づく行政処分や指摘の履歴を確かめます。当社の見解では、製造を持つ会社は、販路の買収とは別に、製造と許可の維持にかかる費用を見ます。
よくある質問
Q. ファーマフーズは、いくらで明治薬品を買ったのですか。
A. 発表時は「取得割合に応じて15億〜23億円(概算)」でした。有価証券報告書によると、2021年8月31日に全株式を現金22億9,900万円で取得しています。時価純資産23億8,100万円を下回り、差額8,200万円は負ののれん発生益です。
Q. 「3分の2以上」から入って、残りの株は後から買ったのですか。
A. 買っていません。発表文の「3分の2以上」は取得の下限、「90%超」は目標で、2021年8月31日に全株式を取得しました。段階取得にはなっていません。
Q. 負ののれんとは何ですか。
A. 取得原価が、受け入れた資産と負債の差(時価純資産)を下回ったときの差額です。ファーマフーズは8,200万円を2022年7月期に特別利益に計上しました。のれん(上回った分)と違い、毎年の償却は出ません。
Q. 通信販売の会社は、なぜ製造会社を買ったのですか。
A. 発表文が挙げる理由は、研究開発力・商品開発力・通信販売の基盤と、明治薬品の製造・販路を合わせて収益を広げることです。取得後は、明治薬品の機能性表示食品や医薬品を通信販売の顧客に売る形が広がりました。許可の取得を目的に挙げた記載は、発表文にありません。
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ファーマフーズは、純資産を下回る値段で製造会社を買い、その後は貸付と保証で支えています。買う値段と、買った後の資金は、同じ表で見ます。
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出典
- ファーマフーズ株式会社「明治薬品株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」(2021年8月6日公表・2026年10月16日確認)
- ファーマフーズ株式会社 臨時報告書(2021年8月6日提出)・臨時報告書(2025年8月19日提出)(いずれも2026年10月16日確認)
- ファーマフーズ株式会社 第24期(2021年10月20日提出)・第25期(2022年10月20日提出)・第26期(2023年10月25日提出)・第27期(2024年10月24日提出)・第28期(2025年10月21日提出)有価証券報告書(いずれも2026年10月16日確認)
- 明治薬品株式会社 公式サイト「業務内容」「お知らせ」(2026年10月16日確認)
- 株式会社ファーマフーズ 公式サイト(2026年10月16日確認)
(22億9,900万円は取得の対価の現金、時価純資産は受け入れた資産と引き受けた負債の差。いずれも有価証券報告書の記載。0.97倍・2.9年分・5.3倍・年買法の金額・27%・5.4倍・純損益の累計は、開示の数字から出した当社計算。明治薬品の売上高・損益・純資産は、有価証券報告書の関係会社の状況に記載された数字で、決算期は5月15日から7月31日に変更されている)