Fablicの買収は金額非公表 ── 翌年の営業損失は27億7,800万円。集約先はフリル、名前はラクマになった
| 発表日 | 2016年9月5日(発表文は「取得し、完全子会社化しました」と記載。取得日の記載なし) |
| 譲受企業 | 楽天株式会社(現・楽天グループ株式会社・東証プライム 4755) |
| 譲渡企業 | 株式会社Fablic(2012年4月9日設立・東京都渋谷区) |
| 事業 | フリマアプリ「フリル(FRIL)」とバイクのフリマアプリ「ライド(RIDE)」の企画・開発・運営 |
| 譲渡価額 | 非公表(発表文)。有価証券報告書にもFablic分の記載なし |
| スキーム | 株式取得(発行済み全株式・完全子会社化) |
| 出典 | 楽天 ニュースリリース(2016年9月5日)・有価証券報告書 第20期 |
(出典:楽天グループ株式会社 公式サイトのニュースリリース(2016年9月5日)・2026年10月16日時点の画面)
(出典:「楽天ラクマ」公式サイト(fril.jp)・2026年10月16日時点の画面)
譲渡企業の概要
Fablicは、日本で最初のフリマアプリ「フリル」を2012年7月に始めた会社です。設立は2012年4月9日、本社は東京都渋谷区。発表時の代表取締役CEOは堀井翔太氏、資本金は5億1,847万5千円でした。
発表の時点で、フリルのアプリは累計500万ダウンロードを超えています。ファッションと美容用品が中心で、10代後半から20代の女性に支持されていました(いずれも楽天の発表)。
売上・利益・純資産は、発表文にありません。確認できた決算は、楽天が合併を発表した2018年3月29日の開示にある1期分のみです。買収前の決算は、楽天の開示では確認できません。
| 項目(個別・日本基準) | 2017年12月期 |
|---|---|
| 売上高 | 9億8,700万円 |
| 営業損失 | △27億7,800万円 |
| 経常損失 | △27億9,300万円 |
| 当期純損失 | △27億9,400万円 |
| 総資産 | 94億9,000万円 |
| 純資産 | △31億5,600万円 |
(出典:楽天「当社完全子会社(株式会社Fablic)の吸収合併(簡易合併・略式合併)に関するお知らせ」2018年3月29日)
譲受企業の概要
楽天は、1997年2月7日に設立された総合インターネット・サービスの会社です。2016年12月期の連結売上収益は7,819億1,600万円、IFRSの営業利益は779億7,700万円でした(有価証券報告書)。フリマアプリは2014年11月に「ラクマ」を始めており、Fablicの取得はその約1年10か月後です。
M&Aの目的・背景
狙いは、C2C(個人間売買)事業の拡大と、ファッションに強いフリルの顧客基盤です。発表文は、個人間売買の市場がスマートフォンで手軽に売買できるサービスへ移り、オークション型と異なり決まった価格ですばやく売買できるフリマ型が人気を集めていると説明しています。そのなかで、C2C事業のさらなる拡大を目指してFablicをグループに加えた、と取得の理由を書いています。
利用者の層も違います。フリルは10代後半から20代の女性、ラクマは各ジャンルの幅広い層です。2016年7月末の両サービスの月間流通総額は合計で数十億円規模で、フリル単体の数字はありません。
具体策は、フリルへの楽天会員IDでのログイン、楽天スーパーポイントのキャンペーン、2サービス間の相互送客。楽天の顧客基盤に、Fablicの企画・開発力を組み合わせる方針でした。
2016年11月10日の決算説明資料も、ファッションに強いフリルを買収し、ラクマとともに成長を目指す、と書いています。Fablic側のコメントや、自社で作る案との比較は、確認できた開示にありません。
M&Aの手法・成約内容
取得は発行済みの全株式で、Fablicは楽天の完全子会社になりました。発表文に、取得日・取得額・アドバイザーの記載はありません。
金額は、楽天の開示のどこにも出てこない
取得額は、確認できた楽天の開示のどこにも出ていません。発表文が非公表でも、有価証券報告書には金額が出ていることがあります。3か所を並べます。
| 見た場所 | 書かれていること |
|---|---|
| 発表文(2016年9月5日) | 株式取得額は公表しないと明記 |
| 有価証券報告書 第20期の企業結合の注記 | 2016年12月期は、重要な企業結合の記載なし。取得の対価の記載なし |
| 同・連結キャッシュ・フロー計算書と無形資産の注記 | 「子会社の取得による支出」は336億1,200万円。企業結合で増えたのれんは180億7,400万円。いずれも同年に取得した全子会社の合計で、Fablic分の内訳なし |
開示のない金額は書かず、純資産・のれん・倍率にも分解しません。代わりに、買収後の数字が1期分のみ出ています。
買収の翌年は、売上9億8,700万円に対して営業損失27億7,800万円
2017年12月期のFablicは、売上高の約2.8倍の営業損失を出しました(当社試算:27億7,800万円 ÷ 9億8,700万円)。純資産は△31億5,600万円の債務超過です。総資産94億9,000万円との差から、負債は約126億4,600万円(当社計算)。負債の相手先と内訳は、開示にありません。
楽天のIFRS営業利益(2017年12月期は1,493億4,400万円)に対して、営業損失は1.9%(当社試算。日本基準の単体とIFRSの連結で、基準が異なります)。
同じ時期の、楽天の決算説明資料です。
| 決算説明資料 | 流通総額 |
|---|---|
| 2017年11月13日(2017年7〜9月期) | ラクマの7〜9月は前年同期の2.0倍。フリルの9月は前年同月の5.9倍。2017年10月分を年に換算すると1,000億円を超え、次の目標は2,000億円 |
| 2018年2月13日(2017年10〜12月期) | C2C事業の10〜12月は前年同期の2.7倍。2017年12月分を年に換算すると約1,400億円 |
楽天は、この伸びをテレビCMや手数料の無料化などの施策によると説明しています。フリルの販売手数料10%は、買収の約4週間後の2016年10月1日から期間限定で無料になり、2018年2月の統合の発表時も0円でした。無料の間は、取引が増えても、この手数料の収入は増えません。
Fablicの売上高(単体)と、ラクマを含むC2Cの流通総額は、範囲が違う数字です。両者を割って手数料率のように読むことはできません。営業損失の内訳(広告費・人件費・システム費など)も、C2Cだけの損益も、確認した開示に見当たりません。
ラクマとフリルは約1年5か月並走し、2018年2月に1つになった
楽天は2018年2月26日に、ラクマとフリルを統合し、名称を「ラクマ」にしました。発表は2018年2月7日です。買収の発表から統合まで539日、約1年5か月(当社計算)。
| ラクマ | フリル | |
|---|---|---|
| 始まり | 2014年11月 | 2012年7月 |
| 利用者の中心 | 30代の男女 | 10〜20代の女性 |
| 取引の中心 | 各ジャンルに幅広い | ファッションと美容・コスメ |
| 統合での扱い | 名称が残る。旧ラクマは2018年3月以降に段階的に機能を制限し、2019年中に終了する予定 | ユーザーとデータの集約先。フリルの利用者は、そのままアプリを使える |
統合の理由は、利用者と品揃えを1つにして充実させること、経営資源を集中して運営とマーケティングを効率化すること、不正出品物の検知技術などを融合すること、楽天グループの会員基盤でフリマアプリ業界のNo.1を目指すこと(発表文)。集約先をフリルにした理由は、発表文にありません。
楽天は2018年3月29日に、Fablicを2018年7月1日付(予定)で吸収合併すると発表しました。目的は経営効率化とサービス向上で、楽天の連結業績への影響は軽微と開示しています。この時点のFablicの代表取締役は、堀井翔太氏でした。
2026年10月16日時点で、fril.jp は楽天グループが運営する「楽天ラクマ(旧フリル)」です。
買い手が読み取れること
代金のほかに、買収後の損失を支える資金が要ります。Fablicは買収の翌年に、売上9億8,700万円で営業損失27億7,800万円を出し、純資産は△31億5,600万円になりました。代金は非公表でも、買収後の1年に事業が使った資金は、代金とは別に要ります。当社(CommerceX M&A)の見解では、赤字の事業を買うときは、コストを買う前に分解し、初年度の損失を支える資金を含めた総額で判断します。営業利益が27億7,800万円に届かない買い手なら、同じ規模の損失は1年の営業利益を超えます。
取扱高の伸びと、売上の伸びは、別に確かめます。C2Cの流通総額は2017年10〜12月期に前年同期の2.7倍、Fablicの売上高は9億8,700万円(単体)。取扱高は、広告費をかけ、手数料を無料にすれば伸ばせます。買収の前に、取扱高が何で売上に変わるか(手数料・広告・決済など)と、その時期を事業計画で確かめます。この件で、切り替えの時期は開示にありません。
相互送客は、価格の根拠にしません。楽天の発表は、狙いの1つに2サービス間の相互送客を挙げました。並走は約1年5か月で終わっています。当社の見解では、払う額は単体の事業の価値までで、相互送客やポイント連携による上積みは、実現してはじめて数字になります。
似たサービスを持つ買収は、集約先と名前を分けて決めます。楽天は、ユーザーとデータの集約先をフリル、名前をラクマにしました。確かめる点は、利用者層の重なり、どちらの仕組みとデータに寄せるか、移行で利用者がどれだけ残るか。移行後の利用者数は、確認した開示にありません。
売主の経営者が残る買収でも、自社側の責任者を初日に置きます。Fablicの代表取締役は、合併を発表した2018年3月の時点も堀井翔太氏でした。楽天側の責任者は、開示にありません。当社の見解では、経営者が続く買収でも、自社の事業責任者を初日から置きます。Fablicは2018年7月1日(予定)の吸収合併で消滅し、単体の決算はそこで終わります。買収後の損益を事業ごとに追える形は、合併の前に決めます。
よくある質問
Q. 楽天はいくらでFablicを買ったのですか。
A. 楽天は取得額を公表しておらず、有価証券報告書にもFablic分の記載はありません。当社は、開示のない金額を推定して書きません。
Q. 買収後のFablicの業績はどうでしたか。
A. 楽天が2018年3月29日に開示した2017年12月期(単体)は、売上高9億8,700万円、営業損失27億7,800万円、純資産△31億5,600万円です。それ以外の期は確認できません。
Q. フリルは今もありますか。
A. サービス名は、2018年2月26日に「ラクマ」へ変わりました。fril.jp は2026年10月16日時点で「楽天ラクマ(旧フリル)」の画面で、運営は楽天グループです。Fablicは、2018年7月1日付で楽天に吸収合併される予定と発表されています。
Q. 金額が非公表の買収から、買い手は何を読み取れますか。
A. 代金の代わりに、買収後の損益、取扱高と売上の関係、統合の決め方が読み取れます。楽天の場合は、買収の翌年に営業損失が売上の約2.8倍、約1年5か月後に2サービスが1つになりました。
ご相談ください
赤字の事業を買うときは、代金と、買収後の損失を支える資金を合わせた総額で判断します。
CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。
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出典
- 楽天株式会社「楽天、フリマアプリ「フリル(FRIL)」を提供するFablic社を買収」(2016年9月5日公表・2026年10月16日確認)
- 楽天株式会社 有価証券報告書 第20期(2016年12月期・2017年3月30日提出・2026年10月16日確認)
- 楽天株式会社 決算説明資料(2016年11月10日・2017年11月13日・2018年2月13日公表・いずれも2026年10月16日確認)
- 楽天株式会社・株式会社Fablic「楽天のフリマアプリ「ラクマ」と「フリル」が統合し、新「ラクマ」が誕生」(2018年2月7日公表・2026年10月16日確認)
- 楽天株式会社「当社完全子会社(株式会社Fablic)の吸収合併(簡易合併・略式合併)に関するお知らせ」(2018年3月29日公表・2026年10月16日確認)
- 株式会社Fablic「10月1日より期間限定で フリマアプリ「フリル」の販売手数料が0円に」(2016年9月30日公表・ECのミカタ掲載・2026年10月16日確認)
- 「楽天ラクマ」公式サイト(fril.jp)(2026年10月16日確認)
(取得額は楽天が公表していません。売上高・営業損失・純資産は2017年12月期のFablic単体(日本基準)の数字です。比率・日数・負債は当社が計算しました)