M&Aニュース2026年4月 実行書き手:齋藤 浩喜

TOUCH TO GOに8.4億円 ── 純資産の1.33倍に見えた値段は、セキュアの取得日には1.73倍だった

発表日2026年2月20日(取締役会決議・契約は同日。株式譲渡の実行は2026年4月1日)
譲受企業株式会社セキュア(東証グロース 4264)
譲渡企業株式会社TOUCH TO GO(2019年7月設立・東京都港区)
事業無人決済・省人化システムの企画・開発・保守・販売
譲渡価額8億4,287万円(16,282株・議決権の56.2%)。100%換算で約15億円
スキーム株式取得(現金)。売主は事業会社2社と投資ファンド1つ
出典セキュア 適時開示(2026年2月20日)・半期報告書 第25期中(2026年8月13日提出)

株式会社TOUCH TO GO 公式サイト (出典:株式会社TOUCH TO GO 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)

譲渡企業の概要

TOUCH TO GOは、AIカメラと重量センサーで無人店舗を作る、2025年3月期の売上9億6,800万円・営業損失6,300万円の会社です。2019年7月に、JR東日本スタートアップとサインポストの合弁として設立されました。本社は東京都港区、決算期は3月。棚1本から入れられる無人決済店舗「TTG-SENSE」と、券売機やセルフレジになる決済端末「TTG-MONSTAR」を持ちます。導入は累計250店前後、従業員は60名です(セキュアの資料)。

決算期(3月期)2023年3月期2024年3月期2025年3月期
売上高2億1,500万円5億200万円9億6,800万円
営業利益△2億7,500万円△1億7,500万円△6,300万円
当期純利益△2億7,600万円△1億4,600万円△4,700万円
純資産10億2,200万円11億7,500万円11億2,700万円

売上高は2年で4.5倍になり、営業損失率は127.9%、34.9%、6.5%と縮みました。EBITDA(減価償却前の営業利益)も3期とも赤字で、△2億7,400万円、△1億7,300万円、△6,000万円です(セキュアの補足説明資料)。発表の約6週間後に期末を迎えた2026年3月期の数字は、開示にありません。

譲受企業の概要

セキュアは、監視カメラと入退室管理を中心に、オフィス・工場・商業施設へ物理セキュリティを提供する会社です。2002年10月設立。2025年12月期の連結売上高は68億4,082万円、営業利益は3億2,612万円。画像認識AIで商品を見分ける無人店舗「SECURE AI STORE LAB 2.0」を自社で開発し、AI Store事業を柱の1つに掲げています。

M&Aの目的・背景

狙いは、TOUCH TO GOの製品を、セキュアの全国の施工・保守網と顧客基盤で広げ、早期に黒字化することです。開示は、TTGが「技術を創る」創業フェーズを終え、「社会インフラとして普及・定着させる」拡大フェーズへ移ったと判断した、と書いています。

費用に直結するのは、施工・保守網の活用です。TTGが単独で負担していたフィールドサポートの費用と工数を減らします。売上では、セキュアが強いオフィス・工場・病院などの「職域」で、相互の顧客へ販売を広げます。

セキュアの資料は、自社の無人店舗を「高単価×大規模」、TTGを「低単価×小規模」と並べます。自社の開発は続けたまま、別の価格帯の製品と導入実績を買った形です。

M&Aの手法・成約内容

代金は現金8億4,287万円で、決議と契約は2026年2月20日、株式の譲渡は4月1日です。セキュアは16,282株(議決権の56.2%、取得前は0%)を取得しました。アドバイザリー費用等は、発表時の概算8百万円に対し、半期報告書では11,000千円。評価の方法と算定機関の記載はなく、セキュアとTTG・売主の間に、資本・人的・取引の関係はないと開示されています。

みなし取得日は3月31日で、損益は2026年12月期第3四半期から連結に入ります。

売主の構成と、残りの持分

売主は事業会社2社と投資ファンド1つで、サインポストとファンドは全株、JR東日本スタートアップは一部を売りました。

株主取得前売却取得後
サインポスト(東証スタンダード 3996)37.4%(10,839株)全株0%
JR東日本スタートアップ(JR東日本の100%子会社)37.4%(10,839株)一部20.0%
KDDI新規事業育成3号投資事業有限責任組合1.4%(400株)全株0%
ファミリーマート・東芝テック・グローリー計23.8%なし計23.8%

TTGは、サインポストが主に技術を、JR東日本スタートアップが主に営業を担う合弁でした(サインポストの開示)。サインポストは、製品の整備に目途がつき、原価低減や営業の強化といった次の課題をセキュアが主導できると判断して売却し、ハードウェア中心の事業運営の見直しも決めました。

サインポストの譲渡価額は5億6,100万円で、1株あたり約5万1,800円。セキュアの1株あたりの額(842,869千円÷16,282株)と同じ水準です。サインポストの2027年2月期第1四半期決算短信では、前期末に5億4,195万円あった関係会社株式が売却後にゼロとなり、売却益は1,915万円でした。売却益は前期末の関係会社株式の3.5%です。

取得後の株主は、セキュア56.2%、JR東日本スタートアップ20.0%、ファミリーマート・東芝テック・グローリー計23.8%。残り43.8%を後で買う・売るという取り決めは、開示にありません。JR東日本スタートアップは経営面にも関与する予定です。

この値段は、どう説明できるか

評価額は100%換算で約15億円で、発表時の純資産の1.33倍、取得日の純資産の1.73倍です。56.2%を8億4,287万円で買った値段を56.2%で割ると、14億9,977万円。左の列は発表時の開示(2025年3月期末)、右の列は半期報告書の企業結合注記から求めた取得日(2026年3月31日・暫定)の数字です。

項目発表時の最新期(2025年3月期末)取得日(2026年3月31日)
会社全体の評価額(100%換算)14億9,977万円14億9,977万円
うち純資産11億2,700万円8億6,472万円
差額(のれん相当)3億7,277万円6億3,504万円
純資産の何倍1.33倍1.73倍

取得日の純資産は、取得原価842,869千円からのれん356,969千円を引いた4億8,590万円(セキュアの持分)と、非支配株主持分3億7,882万円(残る43.8%)の合計です。2025年3月期末の11億2,700万円から2億6,228万円(23.3%)減っていて、内訳は開示にありません。

営業損失が出ているため、営業利益の何年分という物差しは使えません。半期報告書の連結キャッシュ・フロー計算書では、「連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出」が3億2,113万円で、代金の38%です。この項目は、払った代金から子会社が持っていた現金を差し引いて計上します。TTGの現預金の額は開示にありません。代金を2026年1〜6月にすべて払ったのなら、差の5億2,174万円がTTGの現預金で、評価額の35%にあたります(当社試算)。

実際に計上されたのれんと、その償却

のれんは3億5,697万円で、10年の均等償却。年3,570万円が費用になります。取得原価の配分が終わっていない暫定の額で、計上されるのは持分56.2%の分だけです。上の差額6億3,504万円の56.2%にあたり、残る43.8%にはのれんが出ません。

年3,570万円は、セキュアの2025年12月期の営業利益3億2,612万円の10.9%で、取得額は同営業利益の2.6年分です。2026年5月の決算説明資料は、TOUCH TO GOの2027年3月期について「のれん償却の影響で通年の営業利益は概ね±0を見込む」と書いています。図に数字はなく、この営業利益がTOUCH TO GO単体の数字か、償却を含む数字かは示されていません。2026年12月期のセキュアの連結には、季節的に弱い上期だけが入るとも説明しています。

買い手が読み取れること

赤字の会社の値段は、引き継ぐ現預金を分けて見ます。代金を中間期にすべて払ったという前提で読むと、評価額15億円のうち、現預金が5億2,174万円(35%)、それ以外の純資産が3億4,299万円(23%)、のれん相当が6億3,504万円(42%)。現預金を引くと約9億7,800万円で、売上高の1.01倍です。売上倍率で比べるときは、相手も現預金を引いて並べます。

発表の倍率は、取得日の倍率ではありません。1.33倍が取得日には1.73倍で、純資産が23.3%減った分、のれん相当が2億6,228万円増えました。価格の式に基準日の純資産を入れ、実行日までに動いた分の調整を契約に書きます。

自社で作る費用は、同じ機能を作る前提でしか比べられません。セキュアは自社でも無人店舗を開発しており、TOUCH TO GOは代替でなく、別の価格帯の補完として買われました。開示から出せる比較は、のれん相当(発表時の計算で3億7,277万円)が、直近3期の営業損失の合計5億1,300万円の約7割という点まで。2017年の実証開始から約9年の積み上げ(導入250店前後・従業員60名)を自社で再現する費用と年数が、上乗せ分を上回るかが、払える上限の判断です。

売主が事業会社の合弁なら、技術・営業・保守の持ち主を確かめます。技術を担ってきたサインポストは全株を売りました。ソースコードや特許の帰属、開発者の所属、部材の調達先、保守の担い手は、開示に記載がありません。ファミリーマート・東芝テック・グローリーを含む既存株主との協力も「継続される見込み」で、契約上の義務とは書かれていません。当社(CommerceX M&A)は、業務・人・資産・契約・システムの5つに分けて、売主に頼っている部分を洗い出します。

買った後の成果は、TOUCH TO GO単体の損益と、セキュアの販路を通った売上の両方で確かめます。当社は、買収の検討の最初に「買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせる」を一文にします。セキュアなら「TOUCH TO GOの無人店舗システムを、全国の施工・保守網とオフィス・工場・病院の顧客基盤で伸ばす」で、開示が挙げる効果の2つがそのまま当たります。クロスセルの売上の帰属は、開示にありません。

よくある質問

Q. 56.2%を8億4,287万円で買ったとき、会社全体の値段はいくらですか。

A. 約15億円(14億9,977万円)です。取得価額を取得比率の56.2%で割った当社の換算で、発表時の純資産の1.33倍、取得日の純資産の1.73倍、売上高の1.55倍にあたります。

Q. 営業赤字の会社の値段は、何で決めますか。

A. 利益の倍率は使えないため、取得日の純資産と、その中の現預金で見ます。TOUCH TO GOは、代金を中間期にすべて払ったと読むと評価額の35%が現預金で、現預金を引くと売上高と同じ水準でした。自社で同じものを作る費用と年数も、上限の物差しです。

Q. のれん3億5,697万円を10年で償却すると、買い手の利益はどうなりますか。

A. 年3,570万円が毎年の営業利益を減らし、セキュアの2025年12月期の営業利益の10.9%にあたります。償却は会計上の費用で、現金は出ていきません。

Q. こうした案件は、どこで見つかりますか。

A. 公表されるのは、買い手が上場企業で、開示した取引に限られます。CX BASEでは、買収のご相談をいただいた企業へ、条件に合う譲渡案件を公開前にご案内しています。

ご相談ください

赤字の会社の値段は、利益の倍率ではなく、取得日の純資産と、その中の現預金で説明します。

CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。

売却をお考えの方は、直近期の決算と純資産の見通しをもとに、買い手が見る数字をご説明します。

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出典

  • 株式会社セキュア「株式会社TOUCH TO GOの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」「同 グループインについて(補足説明資料)」(2026年2月20日公表)、「子会社の異動(株式取得)完了に関するお知らせ」(2026年4月1日公表)、「有価証券報告書 第24期」(2026年3月27日提出)、「2026年12月期第1四半期決算説明資料」(2026年5月13日公表)、「半期報告書 第25期中」(2026年8月13日提出)(いずれも2026年10月16日確認)
  • サインポスト株式会社「株式会社TOUCH TO GOの株式譲渡及びJR東日本スタートアップ株式会社との合弁の終了に関するお知らせ」(2026年2月20日公表)、「2027年2月期第1四半期決算短信」(2026年7月10日公表)(いずれも2026年10月16日確認)
  • 株式会社TOUCH TO GO 公式サイト(ttg.co.jp)トップページ(2026年10月16日確認)

(金額は株式の代金です。8億4,287万円は半期報告書の取得の対価842,869千円で、適時開示の取得価額は842百万円。アドバイザリー費用等を含む合計は適時開示で850百万円(概算)。取得比率56.2%のため100%に換算しています。財務数値は決算書ベース(利益修正前)。取得日の純資産・現預金・倍率・のれん相当は、各社の開示の数字から求めた当社試算です。現預金は、代金を2026年1〜6月にすべて払った前提で求めています)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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