M&Aニュース2024年7月 実行書き手:齋藤 浩喜

アクセスブライトの中国越境EC事業に1億2,000万円 ── 営業利益の2.1年分で譲り受けた子会社で、2年後にのれん8,246万円の減損

発表日2024年6月28日(事業譲渡契約の締結。基本合意は2024年5月13日・譲受の実行は2024年7月1日)
譲受企業株式会社売れるネット広告社(東証グロース 9235。2025年1月に売れるネット広告社グループ株式会社へ商号変更)
譲渡企業株式会社アクセスブライト(2011年設立・東京都中央区)
事業中国向けの越境EC事業(中国ECショップの構築・販売、中国SNSの運営代行、中国でのマーケティング支援)
譲渡価額1億2,000万円(現金。負債の引き継ぎなし)
スキーム事業譲受(株式の取得ではない)
出典売れるネット広告社 適時開示(2024年5月13日・6月28日)・有価証券報告書(2024年7月期・2025年7月期)・2026年7月期決算短信

株式会社売れる越境EC社 公式サイト (出典:株式会社売れる越境EC社 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)

譲渡企業の概要

アクセスブライトは広告代理・運用代行の会社で、売ったのは中国向けの越境EC事業です。2011年9月の設立で、本社は東京都中央区銀座。資本金は1億円(資本準備金を含む)、事業内容は「WEB特化型広告代理/運用代行」と開示されています。上場会社である買い手との資本・人的・取引の関係はありません。

譲渡の対象は、中国ECショップの構築・販売、中国SNSの運営代行、中国でのマーケティング支援(インフルエンサーの手配、ライブコマースなど)の3つです。開示の事業説明は、日本と中国に倉庫を持ち、直送と保税の両方に対応し、TmallとRED(小紅書)にECショップを開設していると書きます。

財務の開示は、直前の1期分だけです。

項目対象事業
2023年12月期の売上高76百万円
同・営業利益56百万円
営業利益率(当社計算)73.7%

3期分の推移と純資産は、開示にありません。2024年5月13日の基本合意では、経営成績も資産・契約も守秘義務を理由に非開示でした。売り手が事業を手放す理由の記載もありません。

譲受企業の概要

売れるネット広告社は、ネット通販(D2C)事業者向けに広告とマーケティングを支援する会社で、越境ECの子会社を作って5か月でした。福岡市に本社があり、2010年の設立、2023年10月に東証グロースへ上場しました。2024年2月に100%子会社の売れる越境EC社(資本金1,000万円)を設立し、米国のAmazonとeBayで越境ECを始めていました。

2024年7月期(2024年7月31日)の連結は、売上高7億5,700万円、営業損失3億800万円、純資産6億9,300万円、現金及び預金2億7,800万円(有価証券報告書)。

M&Aの目的・背景

買い手が挙げた理由は、中国の越境ECへの進出と、モール事業のノウハウの拡充です。開示は、目的を「越境EC分野への進出による海外販路の開拓」と「モール事業のノウハウ拡充」と書きます。

開示の説明は次の順です。中国の越境BtoC-ECは総市場規模5兆68億円で、うち日本経由が2兆2,569億円(経済産業省の令和4年度調査)。国外の事業者が中国でECプラットフォームを開設・運用するには、設立年数や認知度などの条件が厳しく、難易度が高いと言われる、という説明です。アクセスブライトは開設と運用を実現しており、買い手は事業譲受の後に既存の仕組みを引き継ぎます。

自社で同じ体制を作る費用と期間の数字は、開示にありません。

M&Aの手法・成約内容

取得の形は事業譲受で、決済は現金、引き継ぐ資産は倉庫連携システムのみで、負債は含みません。譲り受けたのは、買い手の100%子会社である売れる越境EC社(東京都港区・2024年2月1日設立)です。

日付出来事
2024年5月13日基本合意(任意の開示)。価額は非開示で、契約と実行は6月の予定
2024年6月28日事業譲渡契約を締結(基本合意の46日後)。価額1億2,000万円を開示
2024年7月1日事業譲受の実行(契約の3日後)

有価証券報告書(2024年7月期)によると、取得の対価は現金1億2,000万円です。同期の支出は8,000万円で、残る4,000万円は期末に事業譲受に係る未払金でした。ほかに、アドバイザリー費用等が2,395万円。価額の算定方法や第三者の評価の記載は、開示にありません。

この値段は、どう説明できるか

代金1億2,000万円のうち、1億1,650万円がのれんです。株式ではなく事業の譲受なので、純資産ではなく「引き継いだ資産と負債の差」で分けます。

項目金額
譲受価額(現金)1億2,000万円
うち引き継いだ資産と負債の差(資産350万円・負債ゼロ)350万円
差額(のれん)1億1,650万円

のれんは代金の97.1%で、代金は引き継いだ資産と負債の差の34.3倍です。引き継いだ資産は固定資産350万円のみで、6月28日の開示は倉庫連携システムを予定すると書いています。流動資産はゼロのため、在庫も売掛金もありません。負債もゼロです(有価証券報告書の企業結合注記)。

個別の資産として計上されたのは、この350万円だけ。顧客関連資産や商標権などの計上はありません。店舗アカウントや顧客との契約、人が移ったかどうかは、開示にありません。移っていたとしても、値段はのれん(有価証券報告書の発生原因は「超過収益力」)の中に入っています。

対象事業の営業利益5,600万円(2023年12月期)に対して、代金は2.1年分、のれんで見ても2.1年分です。年買法(時価純資産+営業利益1〜3年分)では、350万円+5,600万円×1〜3年=5,950万円〜1億7,150万円。代金1億2,000万円はこの範囲の内側で、2年分(1億1,550万円)に近い額です(当社試算)。

2.1年分という低さは、5,600万円の営業利益が買い手の下でも続くことを前提にした数字です。売上7,600万円に対して費用は2,000万円で、営業利益率は73.7%。開示は、この営業利益に人件費・倉庫費・共通費がどこまで含まれるかを書いていません。買い手が引き継ぐ人員と費用で作り直した利益が5,600万円より小さければ、年数は大きくなります。

買い手の説明に沿えば、値段の中身は資産ではなく、国外の事業者には開設が難しいとされる中国のECプラットフォームの運用と、アクセスブライトが作った既存の仕組みです。

実際に計上されたのれんと、その償却

のれんは1億1,650万円で、8年の均等償却です。年の償却額は約1,456万円(116,500千円÷8・当社計算)。

2026年7月期の決算短信は、売れる越境EC社のマーケティング支援事業に係るのれん8,246万円の減損を記載しています。回収可能性が認められないと判断した、という説明です(2026年9月14日公表・監査前の数字)。決算短信は、こののれんが今回の事業譲受で生じたものとは明記していません。当社の照合では、2025年7月期末のマーケティング支援事業ののれんの未償却残高1億72万円が、1億1,650万円を8年で13か月償却した額と一致します。今回ののれんに当たるなら、減損は当初額の70.8%、代金の68.7%です(当社計算)。減損額と減損後の残高は、2026年10月26日提出予定の有価証券報告書(監査後)で変わることがあります。

譲受後の中国越境EC事業

譲受後の越境EC支援の売上は、2025年7月期で4,429万円でした。この事業が入る区分は、有価証券報告書の「その他サービス(越境EC支援)」です。

期間売上高
対象事業の2023年12月期(譲受前・アクセスブライト)7,600万円
売れるネット広告社の2024年7月期(譲受は期末の7月1日)233万円
同・2025年7月期(譲受後の初めての通期)4,429万円

区分には、米国向けの越境EC支援も入ります。中国事業だけの売上は、開示にありません。期間と範囲が違うため、1行目と3行目を並べて優劣は言えません。

2026年7月期の決算短信は、受注した中国向けのTikTokライブコマースなどについて、ライブ配信の準備と運営体制の構築に当初の想定より時間がかかり、一部案件の開始が翌期以降になったと説明しています。

買い手が読み取れること

切り出した事業の営業利益は、買い手が引き継ぐ人と費用で作り直します。対象事業の営業利益5,600万円は売上の73.7%で、人件費・倉庫費・共通費の扱いは開示にありません。当社(CommerceX M&A)の見解では、切り出した事業の損益を売り手の部門損益のまま使わず、買い手の傘下で動くときの人員・システム・外注の費用で作り直し、その利益で払える額を決めます。営業利益が小さいほど、2.1年分は大きくなります。

事業譲受では、移るものを契約書の対象資産と前提条件に書き出します。株式の取得と違い、契約も従業員も、相手方の同意を取って1つずつ移します。この事例で開示された引き継ぎは固定資産350万円のみで、契約・従業員・店舗アカウントの扱いは開示にありません。当社の見解では、主要な取引先と従業員の承継同意を書面で取り、クロージングの前提条件にします。中国のモールやSNSのアカウントは、名義を移せるかを各プラットフォームの規約で別に確かめます。

代金の3分の1は期末に未払いで、支払いの条件は開示にありません。2024年7月期末は、8,000万円が支払い済み、4,000万円(33.3%)が未払金でした。当社の見解では、実現が不確実な収益は後払いに寄せます。顧客と店舗の移管が終わった後に払う分を残せば、買い手の固定のリスクが下がります。連動させる指標・期間・上限は、基本合意の段階で決めます。

手数料と自社の現金まで含めて、回収を見ます。アドバイザリー費用等は2,395万円で、代金の20.0%。合わせた1億4,395万円は、対象事業の営業利益の2.6年分です(当社試算)。買い手の2024年7月期末は、現金2億7,800万円・純資産6億9,300万円・営業損失3億800万円で、代金は現金の43.2%、純資産の17.3%にあたりました。

償却期間と同じ長さの計画を、買う前に作ります。のれんは8年償却でしたが、2年後の決算短信(監査前)では、譲り受けた子会社ののれん8,246万円が減損されています。買い手は、8年分の売上と利益の計画を買収の前に作り、どの数字が届かなければのれんを見直すかを決めます。減損は会計上の処理で、払った現金は戻りません。

よくある質問

Q. 売れるネット広告社は、いくらでアクセスブライトの中国越境EC事業を買ったのですか。

A. 現金1億2,000万円です(有価証券報告書の取得の対価)。株式ではなく事業の譲受で、引き継いだ資産は350万円、負債はゼロ。差額のれん1億1,650万円は8年で償却します。

Q. 営業利益の何年分の値段でしたか。

A. 対象事業の2023年12月期の営業利益5,600万円の2.1年分で、年買法の1〜3年分の範囲の内側です。営業利益は1期分だけの開示で、営業利益率は73.7%でした。

Q. のれんは、その後どうなりましたか。

A. 2026年7月期の決算短信(監査前)に、売れる越境EC社のマーケティング支援事業に係るのれんの減損損失8,246万円が記載されています。決算短信は今回の事業譲受との関係を明記していませんが、今回ののれんに当たるなら当初額の70.8%です。額は、2026年10月26日提出予定の有価証券報告書で変わることがあります。

Q. 事業譲受と株式の取得では、買い手の確認はどう変わりますか。

A. 株式の取得は会社ごと入るため、契約や従業員は原則そのままで、負債も入ります。事業譲受は、移す資産・契約・人を1つずつ決め、負債を含めない形も取れます。確認は、移るものの一覧、承継の同意、アカウントの名義変更です。

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事業譲受は、株式の取得と違い、移るものを1つずつ決めます。CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。

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出典

  • 株式会社売れるネット広告社「「中国越境EC事業」の事業譲受に向けた基本合意書締結のお知らせ」(2024年5月13日)・「「中国越境EC事業」の事業譲渡契約締結に関するお知らせ」(2024年6月28日)(2026年10月16日確認)
  • 同社 第15期 有価証券報告書(2024年10月28日提出):連結キャッシュ・フロー計算書の注記、企業結合等関係/売れるネット広告社グループ株式会社 第16期 有価証券報告書(2025年10月27日提出):販売実績、セグメント情報(2026年10月16日確認)
  • 売れるネット広告社グループ株式会社「2026年7月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年9月14日公表・2026年10月16日確認):企業結合等関係、セグメント情報
  • 経済産業省「令和4年度 電子商取引に関する市場調査」(2023年8月31日公表・2026年10月16日確認)/株式会社売れる越境EC社 公式サイト(2026年10月16日確認)

(金額は事業譲受の代金1億2,000万円で、アドバイザリー費用等2,395万円は含みません。倍率・年数・年買法・償却額・手数料込みの年数は当社試算で、減損は決算短信(監査前)の値です)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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