M&Aニュース2026年4月 実行書き手:齋藤 浩喜

High Linkに49.5億円 ── 代金の94%がのれんの香水サブスクに、ZOZOは何を払ったのか

発表日2026年4月30日(株式取得 2026年4月16日・連結は2026年5月から)
譲受企業株式会社ZOZO(東証プライム 3092)
譲渡企業株式会社High Link(2017年設立・東京都品川区)
事業香りの総合プラットフォーム「カラリア」(香水のサブスクリプション「香りの定期便」ほか)
譲渡価額49億5,000万円(93,818株・議決権100%)
スキーム株式取得(現金・自己資金)
出典ZOZO 2026年3月期決算短信(2026年4月30日)・2027年3月期第1四半期決算短信(2026年7月31日)

株式会社ZOZO 公式サイト (出典:株式会社ZOZO 公式サイトのニュースリリース「香りの総合プラットフォーム「カラリア」を運営する株式会社High Linkの全株式を取得し完全子会社化」2026年4月30日・2026年10月15日時点の画面)

カラリア 公式サイト (出典:株式会社High Link「カラリア」公式サイト・2026年10月15日時点の画面)

譲渡企業の概要

High Linkは、香水を小分けにして毎月届けるサブスクリプションの会社です。2017年設立で、本社は東京都品川区。主力の「カラリア 香りの定期便」のほか、香りの情報メディア「カラリアマガジン」とライフスタイルブランド「カラリアホーム」を運営しています(ZOZOのリリース)。公式サイトは約1,000種類の香水をお試しサイズで届けると説明し、利用者は毎月1〜10個を選べます。

対象企業の過去3期分の決算は開示されていません。売上・営業利益・純資産は決算短信に記載がなく、売却株主も売主の要望で非開示。手に入る数字は、ZOZOが質疑応答で示した計画値に限られます。

項目ZOZOの説明
2027年3月期の売上高(計画)20億〜30億円程度
同・営業利益(計画)1桁億円前半程度
第1四半期(2026年4〜6月)の動き前年同期並み

譲受企業の概要

ZOZOは、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を中心に、営業利益693億6,600万円を上げる上場企業です。2026年3月期の連結売上高は2,283億7,300万円。コスメ分野の「ZOZOCOSME」では香水の売れ行きが好調で、2025年4月には英国のLYSTも買収しました。ファッション周辺の「Near Fashion領域」は、自社開発とM&Aの両方で広げる方針です(決算短信)。

M&Aの目的・背景

ファッションの周辺で、香水という商品とサブスクリプションという売り方を、会社ごと取り込む買収です。決算短信には2つの理由が書かれています。香水を中心にした事業でフレグランス市場へ領域を広げること。そして、サブスクリプションサービスをはじめとする販売手法を取り入れることです。

質疑応答で、取締役兼COOが具体的な狙いを説明しました。High Linkは香水の小分け商品の製造設備と運営ノウハウを備え、ZOZOはこれを「ゼロから構築するには時間も費用も要する」と見ています。ZOZOCOSMEで香水が売れているため、まず小分けで試してもらい、気に入った香水のフルボトルをZOZOTOWNで買ってもらう流れ。プライベートブランドのルームディフューザーと量販店向けの卸売も、事業の広がりに挙げました。

M&Aの手法・成約内容

買収代金は現金49億5,000万円で、全額が自己資金です。2026年3月31日の取締役会で決議し、同日に株式譲渡契約を結んで、4月16日に93,818株(議決権の100%)を取得しました。連結に入るのは5月から、みなし取得日は4月30日。アドバイザリー報酬等は約4,100万円。代金はZOZOの2026年3月期の営業利益の約7%にあたります。開示に第三者の算定機関の記載はありません。

この値段は、どう説明できるか

100%の取得なので、会社全体の評価額はそのまま49億5,000万円です。

項目金額
会社全体の評価額(100%)49億5,000万円
うち受入純資産(暫定)3億1,800万円
差額(のれん・暫定)46億3,200万円

代金の93.6%をのれん(代金と受入純資産の差額)が占め、代金は受入純資産の15.6倍です。受入純資産は、ZOZOが取得日に受け入れた資産12億6,100万円から負債9億4,300万円を差し引いた額。取得原価の配分が終わっていない暫定値で、のれんの額もZOZOの開示と一致します。

売上高との比較では、計画の20億〜30億円に対して代金は1.7〜2.5倍。営業利益は「1桁億円前半」としか示されず、倍率は1つに定まりません。それでも、のれん46億円は、この範囲のどの値で割っても営業利益の10年分を超えます。年買法(時価純資産+営業利益1〜3年分)で計算すると、どの値で読んでも20億円に届きません(当社試算)。

利益の倍率では説明がつかず、説明できるのは買い手の事情です。ZOZOは、ZOZOTOWNの利用者を送り、フルボトルを自社の売り場で売る販路を持つ。当社(CommerceX M&A)は、単独での価値と、自社に入れた後の価値を別々に持ち、49.5億円は、単独の価値ではなく、この販路を含んだ価値に付いた値段と読みます。

実際に計上されたのれんと、その償却

ZOZOは、のれんを7年の均等償却と開示しています。年約6.6億円(4,632百万円÷7)で、計画の営業利益(1桁億円前半)を上回る額。のれんは連結の手続きで生じるため、High Link単体の営業利益には入らず、連結後に別の費用として発生します。ZOZOが経営目標にする調整後EBITAは、営業利益にのれん等の償却額などを足し戻して計算するため、この指標に償却は見えません(決算短信の注記)。

のれんは暫定でもあります。LYSTでは、暫定の193億2,700万円が確定時に205億9,400万円へ、6.6%増えました。顧客関連資産18億6,200万円と商標権2億4,900万円は、のれんと別に8年・5年(加重平均)で償却。High Linkの額は、取得原価の配分が終わった時点で確定します。

買い手が読み取れること

継続の数字は開示されないまま、49.5億円が決まっています。会員数・月次の解約率・継続率は、開示にありません。取締役兼COOは質疑応答で、サブスクリプション型は急に伸びる事業ではなく、High Linkは堅調に伸びてきたと述べました。平均の継続月数は、おおよそ1÷月次解約率。当社は、顧客の生涯価値(LTV)の試算に直近3か月の実測の解約率を使い、創業時の想定値は使いません。

解約率が低く見えても、契約の形を先に確かめます。公式サイトでは、1か月コースはいつでも解約・スキップでき、12か月コースは途中解約もスキップもできません(2026年10月15日確認)。12か月コースの会員が多いほど解約率は低く出ますが、それは商品の力ではなく契約の縛り。コース別の会員数と、12か月コースが終わった後の更新率を分けて取ります。当社は、解約率が低いときほど、導線や縛りで抑えていないかを疑います。

売上の内訳と仕入先が、事業の中身です。ZOZOは、定期便をサービス利用料の性質が強いとして商品取扱高に含めていません。開示から確認できる売上は、定期便、小分け単品、プライベートブランド、量販店向けの卸売で、粗利率も獲得経路も異なり、計画の20億〜30億円の内訳は非公表。公式サイトの説明では仕入先はメーカー、ブランド、卸売業者等で、株式の取得なら契約は原則として会社に残るものの、支配権の変更で解除できる条項がないかは別に確かめます。

払える上限は、自社で作る費用と販路で決まります。買い手の上限は、自社で設備とノウハウを作る費用と待ち時間の損失に、販路がもたらす売上を加えた額。販路を持たない買い手が同じ49.5億円を払うと、のれん46億円を小分けの販売だけで回収することになります。ZOZOの説明は、買収先の価値(設備とノウハウ)、自社の力(ZOZOTOWNの利用者)、伸ばし方(フルボトルの販売)の3つを言葉にしたもの。自社で同じ3つを言い切れるかが、金額の前の確認です。

買った後は、償却を反映した利益で見ます。計画の営業利益(1桁億円前半)が償却前の数字なら、年6.6億円の償却を差し引いた連結上の利益はマイナスになります。ZOZOは、この計画値に償却を含むかを示していません。送客の施策は、第1四半期がテスト段階で、効果は第2四半期以降とZOZOは説明しています。

よくある質問

Q. のれんが代金の94%というのは、高すぎませんか。

A. 営業利益の倍率で見れば高い水準です。ZOZOが理由に挙げたのは、小分けの設備と運営ノウハウ、ZOZOTOWNという販路で、利益の倍率ではありません。比べる相手は、自社で同じ設備とノウハウを作る費用と待ち時間。

Q. サブスクリプションの会社は、何を見て値段を決めますか。

A. 平均の継続月数、月ごとの粗利、獲得単価の回収月数の3つです。継続月数は、おおよそ1÷月次解約率。入会月別の残存率とコース別の会員数を分けて確かめます。

Q. 暫定ののれんは、確定でどれくらい動きますか。

A. ZOZOのLYSTでは、暫定の193億2,700万円が確定で205億9,400万円になり、6.6%増えました。High Linkの確定額は、取得原価の配分の完了待ち。資金計画には、暫定額からの変動を見込みます。

Q. こうした案件は、どこで見つかるのですか。

A. 公表されるのは、買い手が上場企業で開示義務がある場合に限られます。対象の財務が開示されない取引も、この事例のとおり。CX BASEでは、買いニーズを登録いただいた企業へ条件に合う案件を公開前にご案内しています。

ご相談ください

サブスクリプションの会社は、利益の倍率ではなく、継続の数字と買い手側の販路で値段が決まります。CX BASEの扱いは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件。買いニーズを登録いただいた企業には、条件に合う新着案件のご案内と、公開前の個別打診が届きます。登録に費用はかかりません。

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出典

  • 株式会社ZOZO(2026年4月30日公表・2026年10月15日確認):「2026年3月期 決算短信」重要な後発事象/「2026年3月期 通期決算説明会 質疑応答集」と「決算説明会資料」/ニュースリリース「香りの総合プラットフォーム「カラリア」を運営する株式会社High Linkの全株式を取得し完全子会社化」
  • 株式会社ZOZO(2026年7月31日公表・2026年10月15日確認):「2027年3月期 第1四半期決算短信」企業結合等関係/「第1四半期 決算説明会 質疑応答集」
  • 株式会社ZOZO「2026年3月期 第2四半期(中間期)決算短信」企業結合等関係(2025年10月31日公表・2026年10月15日確認)
  • 株式会社High Link「カラリア」公式サイト(coloria.jp)トップページと「香りの定期便について」(2026年10月15日確認)

(金額は株式の代金49億5,000万円です。アドバイザリー費用等を含む取得原価は、4月30日の決算短信で概算49億9,000万円。取得比率100%のため換算していません。のれん46億3,200万円はZOZOが開示した暫定値です。受入純資産は開示された資産と負債の差額、倍率・年数・年買法の比較は当社試算。営業利益は「1桁億円前半」という計画の表現のまま使い、特定の金額を置いていません)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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