LYSTに221億円 ── 営業利益率0.9%の英国ファッションECに、ZOZOは何を払ったのか
| 発表日 | 2025年4月9日(株式取得 2025年4月18日・連結は2025年5月から) |
| 譲受企業 | 株式会社ZOZO(東証プライム 3092) |
| 譲渡企業 | LYST LTD(2010年設立・英国ロンドン) |
| 事業 | ファッションショッピングプラットフォーム「Lyst」(商品情報を集めて購入先を示し、成果報酬を得る) |
| 譲渡価額 | 220億9,400万円(58,675,198株・議決権100%)。発表時の表示は154百万米ドル(1米ドル150円換算で約231億円) |
| スキーム | 株式取得(英国に新設した子会社が現金で取得・自己資金) |
| 出典 | ZOZO 適時開示(2025年4月9日)・2026年3月期 有価証券報告書(2026年6月8日) |
(出典:株式会社ZOZO 公式サイトのニュースリリース「ZOZO、英企業・LYST LTDの全株式を取得し完全子会社化」2025年4月9日・2026年10月16日時点の画面)
(出典:LYST LTD「Lyst」公式サイト・2026年10月16日時点の画面)
譲渡企業の概要
LYSTは、27,000以上のブランドの商品情報を集め、買える店へ利用者を送って手数料を得る英国の会社です。従業員は129名(2025年3月末)。在庫は持たず、取引が成立するとパートナーから成果報酬の手数料を受け取ります。2024年3月期は、提携パートナー550以上、取扱SKU 9,700万点、年間ユニークユーザー1.6億人、年間購入者220万人(ZOZOの説明資料)。
| 決算期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 42百万ポンド | 50百万ポンド | 50百万ポンド |
| 営業利益 | △27百万ポンド | △18百万ポンド | 0.4百万ポンド |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | △28百万ポンド | △24百万ポンド | △1百万ポンド |
| 純資産 | 27百万ポンド | 4百万ポンド | 4百万ポンド |
営業黒字は直近の1期だけです。2024年3月期の営業利益は444千ポンド、売上高50,146千ポンドに対する営業利益率は0.9%。当期純損益は1百万ポンドの赤字でした。2025年3月期の業績は非開示。株式の売主は投資ファンドなどの大株主で、個別の相手先は非開示。
譲受企業の概要
ZOZOは、ファッション通販「ZOZOTOWN」を運営する、営業利益693億6,600万円の上場企業です。2026年3月期の連結売上高は2,283億7,300万円(決算短信)。海外では体型計測の技術のライセンスと「ZOZOFIT」などを進めてきましたが、海外のEC・メディア領域は「未開拓」でした(適時開示の説明資料)。
M&Aの目的・背景
海外のECを持たなかったZOZOが、欧米の販路をLYSTごと取り込む買収です。適時開示によると、技術のライセンス提供を軸にした海外展開から、成長を加速するために買収へ進みます。狙いは、ZOZOのEC運営ノウハウを入れ、トレンド分析やスタイリング提案を含む総合的なファッションナビゲーションへLYSTを進化させること。
説明資料の補完関係は、販売面が日本のトレンドに対して欧米のラグジュアリーとプレミアム、技術面がAI・計測技術に対してSEOとパーソナライズ。ZOZOの社長は質疑応答で、検索やメディアはAIエージェントの台頭で大きく変わり、LYSTはその領域にいると述べました。LYSTのCEOは留任し、ロンドン拠点の独立運営が続きます(ZOZOのリリース)。
M&Aの手法・成約内容
買収代金は現金220億9,400万円で、全額が自己資金です。2025年4月9日の取締役会で決議して契約を結び、英国に新設した子会社を通じて4月18日に58,675,198株(議決権の100%)を取得しました。連結は5月から。アドバイザリー費用等は11億800万円で、取得原価に含まれません(有価証券報告書)。開示に第三者の算定機関の記載はありません。
円の金額は2つあります。4月9日の開示は、154百万米ドルを1米ドル150円で換算し、約231億円と表示しました。ZOZOが計上した取得の対価は22,094百万円で、約10億円小さい額。差の理由は開示にありません。22,094百万円を154百万米ドルで割ると1米ドル約143.5円(当社試算)。本記事は、ZOZOが計上した額を使います。
この値段は、どう説明できるか
100%の取得なので、会社全体の評価額はそのまま220億9,400万円です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 会社全体の評価額(100%) | 220億9,400万円 |
| うち受入純資産 | 15億円 |
| 差額(のれん・確定) | 205億9,400万円 |
代金の93.2%をのれん(代金と受入純資産の差額)が占め、代金は受入純資産の14.7倍です。受入純資産は、ZOZOが取得日に受け入れた資産68億9,900万円から負債53億9,900万円を差し引いた額で、のれんの額はZOZOの開示と一致します。
営業利益の年数は出しません。買収前の営業利益率は0.9%、買収後は営業赤字(後述)。売上高の倍率と、自社で作る費用で説明します。
| 項目(2026年3月期・ZOZOの連結) | 金額 |
|---|---|
| LYSTの商品取扱高(2025年5月〜2026年3月の11か月) | 422億4,500万円 |
| LYSTの売上高(同じ11か月) | 57億7,600万円 |
| 代金 ÷ 売上高 | 3.8倍 |
| 売上高 ÷ 商品取扱高(手数料率にあたる) | 13.7% |
代金は、ZOZOが連結した11か月分の売上高の3.8倍、商品取扱高の0.52倍です。12か月分に直せば、倍率はこれより下がります。
この値段は、欧米の販路を自社で作る費用と時間との比較で説明できます。LYSTと同じものを作るには、550以上のパートナーとの提携、27,000以上のブランドと9,700万点の商品情報、年間1.6億人の利用者、SEOとパーソナライズの技術が必要。取扱高の地域別は、米国30.3%、英国24.2%、ドイツ13.1%、その他欧州21.2%(適時開示の説明資料)。代金を2024年3月期の年間購入者220万人で割ると、1人約1万円(当社試算・期間の違う参考値)。自社で欧米の購入者を1人獲得する費用が、比べる相手になります。
当社(CommerceX M&A)は、単独での価値と、自社に入れて伸ばした後の価値を別々に持ち、払える上限は、実現しないリスクを差し引いた金額で決めます。営業利益率0.9%の会社に220億円。単独の価値では説明がつかず、ZOZOの技術と運営ノウハウを入れた後の価値を含む額と読みます。
実際に計上されたのれんと、その償却
のれんは、暫定の193億2,700万円から確定で205億9,400万円へ、6.6%増えました。確定を示したのは2025年10月31日の中間決算短信。取得原価の配分が終わった結果、無形固定資産の「その他」が主に減りました。のれんと別に識別された無形資産は、顧客関連資産18億6,200万円(8年償却)、商標権2億4,900万円(5年)、仕掛研究開発資産6,200万円で、合計21億7,400万円。
のれんは10年の均等償却で、年約20.6億円(20,594百万円÷10・当社試算)。ZOZOが経営指標にする調整後EBITAは、のれん等の償却額とM&A関連費用を営業利益へ足し戻すため、この償却は指標に表れません。2026年3月末の未償却残高は21,395百万円で総資産の約11%。監査法人は、のれんの評価を監査上の主要な検討事項に挙げています。
買い手が読み取れること
営業利益で割れない会社は、自社で作る費用と待つ時間を物差しにします。LYSTの代金は年間購入者1人あたり約1万円。自社で欧米の購入者を1人獲得する費用がこれを下回るなら、買う理由は別に要ります。当社は、買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせると一文で言い切れるかを最初に確かめます。ZOZOの開示では、その3つが、欧米の販路と商品情報、EC運営・計測・レコメンドの技術、ナビゲーション型への進化。
損益は広告費で動かせる数字なので、広告を止めても売れる比率を先に確かめます。ZOZOは2025年の質疑応答で、LYSTは集客のための広告宣伝費をどの程度使うかに左右されるモデルだったと説明し、販管費の大部分が広告宣伝費で、抑えれば短期的に利益を確保できるとも述べています。買収前の営業黒字0.9%は、2期連続の営業赤字の後に出た数字。当社は、広告費の水準、自然流入と指名検索の比率、黒字化の中身(広告費の削減か、構造の改善か)を分けて確認します。
取扱高の偏りと為替が、手数料の総額を動かします。商材はラグジュアリー中心で、ZOZOは2026年3月期の取扱高が計画を下回った理由を、ラグジュアリー業界の不調と、欧州から米国向けに個人配送する際の関税率の見直しと説明しました。LYSTの事業計画は米ドル建てで、前提は1米ドル143円弱(2025年7月31日の質疑応答)。円で連結する買い手は、為替でも利益が動きます。
買った後は、のれんの償却と営業赤字が重なり、減損の判定を毎期受けます。発表時の開示は業績への影響を精査中とし、LYSTの事業計画を連結計画に入れたのは2025年7月31日の修正。2026年1月30日の質疑応答でZOZOは、営業赤字は2027年3月期まで数億円規模で続く見込みで、見通しは買収当初から変わらないと述べています。2027年3月期のLYSTの取扱高計画は465億円(前期比10.1%増)。2026年7月31日の第1四半期は前年同期比33.3%増ですが、連結期間が1か月長く、為替と期間を除くと「若干のプラス」とZOZOは説明しています。
のれんは、取得原価に占める割合が大きいことから減損の兆候ありと判定されました。割引前の将来キャッシュ・フローが帳簿価額を上回るとして、損失は認識されていません。事業計画の主要な仮定は、アクティブユーザー数、ユーザー当たりのセッション数、売上に占めるチェックアウト比率(サイト内で決済まで完了する割合)の向上(有価証券報告書)。
よくある質問
Q. 営業利益率0.9%の会社に220億円は、高すぎませんか。
A. 営業利益の倍率では説明がつきません。ZOZOが挙げた理由は、欧米の販路、27,000以上のブランドの商品情報、SEOとパーソナライズの技術で、利益ではありません。比べる相手は、自社で同じ販路を作る費用と時間。買収後は取扱高が計画を下回っており、妥当性は事業計画の仮定が実現するかで決まります。
Q. のれんの減損は出ていますか。
A. 2026年3月期末は、減損損失を計上していません。ZOZOの判断は、兆候ありのうえで、割引前の将来キャッシュ・フローが帳簿価額を上回るため認識不要。事業計画の仮定が変われば、翌期にのれんの金額へ重要な影響が出る可能性があると注記しています。
Q. 成果報酬型のECは、何の数字で値段を決めますか。
A. 商品取扱高、売上高÷取扱高、取扱高に対する広告宣伝費、広告を止めたときの取扱高の落ち方の4つ。ZOZOが連結したLYSTの売上高は、取扱高の13.7%(当社試算)。地域と商材の偏りも分けて確かめます。
Q. こうした案件は、どこで見つかるのですか。
A. 公表されるのは、買い手が上場企業で開示義務がある場合に限られます。CX BASEでは、買いニーズを登録いただいた企業へ条件に合う案件を公開前にご案内しています。
ご相談ください
営業利益で割れない会社は、自社で作る費用と買った後の負担で値段を確かめます。CX BASEの扱いは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件。買いニーズを登録いただいた企業には、条件に合う新着案件のご案内と、公開前の個別打診が届きます。登録に費用はかかりません。
買収をお考えの方へ
→ 案件を見る
→ 買収の相談をする
売却をお考えの方へ
→ 売却の相談をする
出典
- 株式会社ZOZO(2025年4月9日公表・2026年10月16日確認):適時開示「LYST LTDの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」と説明資料/ニュースリリース「ZOZO、英企業・LYST LTDの全株式を取得し完全子会社化」
- 株式会社ZOZO 決算説明会 質疑応答集(2025年4月30日・2025年7月31日・2026年1月30日・2026年7月31日公表・2026年10月16日確認)
- 株式会社ZOZO「2026年3月期 第2四半期(中間期)決算短信」企業結合等関係(2025年10月31日公表・2026年10月16日確認)
- 株式会社ZOZO「2026年3月期 決算短信」(2026年4月30日公表)・「有価証券報告書 第28期」(2026年6月8日提出)・「2027年3月期 第1四半期 決算短信」(2026年7月31日公表)(いずれも2026年10月16日確認)
- LYST LTD「Lyst」公式サイト(2026年10月16日確認)
(金額は株式の代金22,094百万円で、アドバイザリー費用等11億800万円を含みません。取得比率100%のため換算なし。154百万米ドル・約231億円は4月9日の概算で、本記事はZOZOが計上した額を使います。のれんと受入純資産(資産68億9,900万円−負債53億9,900万円)はZOZOの開示額。のれんの割合・各倍率・年償却額・購入者1人あたりの代金・1米ドルの換算は当社試算。未償却残高21,395百万円が取得時の20,594百万円を上回る理由は開示にないため、年償却額は取得時の額で計算。ポンドの数字とZOZOの連結の円の数字は、期間と為替が異なるため並べて比べていません)