M&Aニュース2024年3月 実行書き手:齋藤 浩喜

むすびに45億円 ── のれん40億円・17年償却で買った店舗網は、連結2期目に経常利益18.6億円を出した

発表日2024年2月14日(株式譲渡の実行は2024年3月15日)
譲受企業株式会社BuySell Technologies(東証グロース 7685)
譲渡企業株式会社むすび(2017年12月設立・神奈川県横浜市)
事業ブランド品・貴金属等の買取店舗「買取むすび」の運営(45店・2023年10月時点)
譲渡価額45億円(1,000株・議決権100.0%)
スキーム株式譲渡(現金。資金は銀行借入46億円)
出典BuySell Technologies 適時開示(2024年2月14日)・有価証券報告書(2024年12月期・2025年12月期)・臨時報告書(2025年11月14日)

買取むすび 公式サイト (出典:株式会社むすび「買取むすび」公式サイト・2026年10月16日時点の画面)

譲渡企業の概要

むすびは、商業施設を中心に買取店舗「買取むすび」を45店出していた、2017年設立の会社です。本社は神奈川県横浜市西区、資本金は1,000万円。ブランドバッグ、時計、ジュエリー、貴金属の買取を手がけています。売主は個人株主1名です(適時開示)。

決算期は11月で、直近3期の数字は次のとおりです。

決算期2021年11月期2022年11月期2023年11月期
売上高11億7,599万円29億2,742万円49億3,498万円
営業利益49万円1億5,788万円4億7,377万円
純資産5,778万円1億6,289万円5億523万円

譲受企業の概要

BuySellは、出張訪問買取「バイセル」を主力に、買取店舗を増やしているリユースの上場会社です。2023年12月期の連結売上高は425億7,400万円、営業利益は27億9,600万円(適時開示)。2023年12月末の純資産は86億1,064万円です(有価証券報告書)。

店舗網はM&Aでも広げてきました。むすびは、2020年のタイムレス、2022年のフォーナイン、2023年12月の日創に続く4社目です。グループ店舗数は2023年12月末で273店でした。

M&Aの目的・背景

狙いは、買取店舗のチャネルを増やし、グループの店舗連携で出店エリアと店数を広げることです。適時開示は、むすびの強みを「商業施設への出店を中心とした店舗開発」と「充実した人材育成プログラムの効果によるリピート顧客の獲得」と説明しています。

取得の目的は、買取チャネルの強化、グループ店舗の連携による展開エリアと店舗数の拡大、BuySellのマーケティング支援によるむすびの規模拡大です。

M&Aの手法・成約内容

1,000株を45億円で取得し、議決権の100.0%を持ちました。アドバイザリー費用等の概算は8,000万円(実績は8,031万円)で、合計は45億8,000万円。費用は株式の代金の1.8%にあたります。取締役会決議と株式譲渡契約は2024年2月14日、実行は3月15日。対価は現金です。開示に第三者の算定機関の記載はありません。

資金は銀行借入です。借入額は46億円、期間7年、3か月ごとの元金均等返済です(同日の「資金の借入に関するお知らせ」)。借入額は代金と費用の合計45億8,000万円とほぼ同額で、代金はBuySellの2023年12月末の純資産の52%にあたります。

この値段は、どう説明できるか

営業利益の8.6年分ののれん。年買法の上限を約25.7億円上回る値段です。100%の取得なので、会社全体の評価額は45億円。表の左列は取得時の開示の最新期(2023年11月期)、右列は連結に計上された額です。

項目開示の最新期で計算連結に計上された額
会社全体の評価額(100%)45億円45億円
うち純資産5億523万円4億3,169万円
差額(のれん)39億9,477万円40億6,831万円
営業利益4億7,377万円の何年分8.4年8.6年
純資産の何倍8.9倍10.4倍

開示の数字で割ると、のれん39億9,477万円は営業利益の8.4年分。年買法(時価純資産+営業利益1〜3年分)は9億7,900万円から19億2,700万円で、45億円はその上限の2.3倍です(当社試算)。代金は取得時の営業利益の9.5倍、売上高の0.9倍にあたります。

のれんの発生要因について、有価証券報告書は「今後の事業展開によって期待される将来の超過収益力」と記載しています。当社(CommerceX M&A)は、45億円を前期の利益に付けた値段とは読みません。営業利益が前の期の3.0倍になった直後の会社で、売上高は2年で4.2倍。当社は、利益がこの先も伸びる前提を置いた値段と読みます。その前提を置かなければ、営業利益3年分を足した年買法には届きません。

実際に計上されたのれんと、その償却

のれんは40億6,831万円で、17年の均等償却。年2億3,931万円が費用になります。年2億3,931万円は、取得時の営業利益4億7,377万円の50.5%にあたります。

のれんは連結の手続きで生じるため、むすび単体の営業利益には入りません。むすびののれんの残高は、2024年12月期末が38億8,883万円、2025年12月期末が36億4,951万円で、2025年12月期に減損はありません。監査法人は2024年12月期、のれんが取得原価に占める割合の高さを理由に、むすびののれんを監査上の主要な検討事項に挙げました。

BuySellは同じ2024年に、出張訪問買取のレクストホールディングスも取得しています。のれんは取得原価の92.5%で18年償却と、むすび(90.4%・17年)と同じ組み立てでした(有価証券報告書の企業結合注記)。過去5年の5社への投資(累計約200億円)について、BuySellは投資時の企業価値の合計が2025年12月期のEBITDA合計の約2.5倍と説明しています(決算説明資料)。むすび単独の倍率は開示されていません。

取得後のむすび

連結に入った2024年4〜12月の9か月で、営業利益は8億9,100万円。2025年12月期の経常利益は18億5,900万円でした。数字は、2025年11月14日の臨時報告書と2025年12月期の有価証券報告書にある、むすび単体の決算です。

期間売上高経常利益当期純利益
2023年11月期(12か月)53億8,200万円5億4,000万円3億7,500万円
2024年3月期(2023年12月〜2024年3月の4か月)17億3,900万円△1億6,500万円△1億600万円
2024年12月期(2024年4〜12月の9か月)60億9,400万円8億7,500万円5億300万円
2025年12月期(12か月)104億8,495万円18億5,855万円12億1,143万円

表の2023年11月期は、取得時の適時開示の数字と異なります(後述)。2025年12月期の経常利益は、適時開示の2023年11月期の経常利益の3.7倍、売上高は2.1倍です。代金45億円は2025年12月期の経常利益の2.4年分、のれん40億6,831万円は2.2年分。連結後21か月の経常利益は約27億円で、代金の約6割にあたります(当社試算)。

店舗は、2023年10月の45店から、2024年6月に59店、2024年12月末に62店、2025年12月末に78店へ増えました。BuySellはグループ店舗の伸びを、リピート顧客の獲得強化と査定あたり単価の上昇で説明しており、むすび単独の要因は開示されていません。

むすびは2026年1月1日付でフォーナインと日創を吸収合併したのち、BuySellに吸収合併されました。臨時報告書は、合併の目的に店舗ブランドの「バイセル」への統合を挙げています。

買い手が読み取れること

店舗網の値段は、前期の利益の倍率ではなく、新しい店でも同じ採算が出るかで決まります。取得時の代金は営業利益の9.5倍でしたが、連結2期目の経常利益で割ると2.4倍です。判断の時点で確かめられるのは既存店の採算です。当社は、店舗型の値付けで、単店の営業利益と、店が増える速度と人員の確保を先に見ます。店舗型の量産は、出店立地と現場の人員で上限が決まるためです。

1店あたりの代金は、数える日で変わります。45店で割ると1億円、2025年12月末の78店で割ると約5,800万円です。増えた33店は2023年10月以降の出店で、出店の費用は代金とは別にかかります。

検証は、店舗別の損益と賃借条件から入ります。むすびの出店先は、大規模ショッピングモールなどの商業施設です。区画ごとに契約期間、更新条件、売上歩合が違い、その条件がそのまま買収後の固定費になります。決算日から引き渡しまでの期間も確かめます。取得時に開示されたのは2023年11月期までで、2023年12月から2024年3月の4か月は営業損失1億400万円でした。取扱品目に貴金属が入るため、利益の伸びを店舗数、単価、相場に分けて確かめることも欠かせません。

同じ期の数字が、開示によって違います。2023年11月期の売上高は、取得時の適時開示が49億3,498万円、2025年の臨時報告書が53億8,200万円で、決算説明資料は子会社化前の直前期を57億円と記載しています。差の理由はいずれの開示にもありません。当社は、決算書の数字と、自社の会計基準に直した数字の両方を取り寄せます。

買った後は、償却と借入の返済を利益で払えるかを見ます。年2億3,931万円の償却に加えて、借入46億円の元本返済は年約6億5,700万円(46億円÷7年)で、取得時の営業利益の1.4倍です。2025年12月期の経常利益は、この年間返済額の2.8倍まで伸びました。同じ借入で買うなら、最初の1年は、取得時の利益では返済に足りない前提で資金を組みます。

買い取った商品の出口を、買い手が持っているかも金額に響きます。BuySellは、買い取った商品を、グループ会社が運営するオークションや業者間の取引、自社運営の消費者向け販路で売ると説明しています(有価証券報告書)。当社は、出口を持たない買い手の店舗利益は古物市場の価格に左右されると見て、買取店舗の買収では買った後の売り先を先に決めます。

よくある質問

Q. のれんが代金の90%というのは、高すぎませんか。

A. 取得時の営業利益で見れば8.6年分で、代金は年買法の上限の2.3倍です。連結2期目の経常利益で割ると、のれんは2.2年分に下がっています。

Q. 買取店舗の会社は、何を見て値段を決めますか。

A. 単店の営業利益、賃借条件、査定を担う人員、買い取った商品の売り先の4つです。当社は、前期の利益の倍率より、新しい店でも同じ採算が出るかを先に見ます。

Q. のれんの償却年数は、どう決まりますか。

A. 日本の会計基準では20年以内で、案件ごとに買い手が決めます。BuySellはむすびを17年、レクストを18年としました。期間は「効果が発現すると見積もられる期間」で、長いほど年間の費用は軽くなります。

Q. こうした案件は、どこで見つかるのですか。

A. 公表されるのは、買い手が上場企業で開示義務がある場合に限られます。CX BASEでは、買いニーズを登録いただいた企業へ、条件に合う案件を公開前にご案内しています。

ご相談ください

店舗網の買収は、新しい店で同じ採算が出るかと、返済を払える利益で値段が決まります。CX BASEの扱いは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件。買いニーズを登録いただいた企業には、条件に合う新着案件のご案内と、公開前の個別打診が届きます。登録に費用はかかりません。

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出典

  • 株式会社BuySell Technologies「株式会社むすびの株式取得(子会社化)に関する最終契約締結のお知らせ」(2024年2月14日公表・2026年10月16日確認)
  • 株式会社BuySell Technologies「資金の借入に関するお知らせ」(2024年2月14日公表・2026年10月16日確認)
  • 株式会社BuySell Technologies 有価証券報告書 2024年12月期(2025年3月26日提出):企業結合等関係、連結キャッシュ・フロー計算書、重要な会計上の見積り、監査報告書(2026年10月16日確認)
  • 株式会社BuySell Technologies 有価証券報告書 2025年12月期(2026年3月25日提出):関係会社の状況、重要な会計上の見積り、監査報告書、設備の状況(2026年10月16日確認)
  • 株式会社BuySell Technologies 臨時報告書「吸収合併の決定」(2025年11月14日提出・2026年10月16日確認)
  • 株式会社BuySell Technologies「2024年12月期通期決算説明資料」(2025年2月14日公表)・「2025年12月期決算説明資料」(2026年2月13日公表)(2026年10月16日確認)
  • 株式会社むすび「買取むすび」公式サイト(re-musubi.jp)トップページ(2026年10月16日確認)

(金額は株式の代金45億円です。アドバイザリー費用等を含む総額は45億8,000万円(概算)。取得比率100%のため換算していません。のれん40億6,831万円・受入純資産4億3,169万円・償却17年は、BuySellが有価証券報告書の企業結合注記で開示した確定値です。「開示の最新期で計算」の列、年買法、倍率・年数、元本返済額、連結後の経常利益の合計、1店あたりの額は当社試算です。2023年11月期のむすびの数字は、適時開示と臨時報告書で食い違っており、どちらも原文のまま使っています。)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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