M&Aニュース2023年1月 実行書き手:齋藤 浩喜

meycoに1億5,800万円 ── 営業利益164万円の会社の9割を買ったデジタリフトは、のれん1.5億円を5年で償却している

発表日2023年1月12日(株式譲渡の実行 2023年1月31日)
譲受企業株式会社デジタリフト(東証グロース 9244)
譲渡企業meyco株式会社(2018年11月設立・東京都渋谷区)
事業マーケティングパートナー事業(デジタルマーケティングの設計・実行・改善提案、UI・UXなどのクリエイティブ制作)
譲渡価額1億5,800万円(株式9,000株・議決権90.00%)
スキーム株式譲渡
出典デジタリフト 適時開示(2023年1月12日)

meyco株式会社 公式サイト (出典:meyco株式会社 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)

譲渡企業の概要

meycoは、売上3億5,378万円に対して営業利益が164万円の、マーケティング支援とクリエイティブ制作の会社。2018年11月設立で、本店は東京都渋谷区桜丘町、資本金は100万円。代表取締役が株式の97.00%、ほか1名が3.00%を保有していました。上場会社との間に、資本・人的・取引の関係はありません。

決算期2020年9月期2021年9月期2022年9月期
売上高1億2,409万円2億4,588万円3億5,378万円
営業利益214万円90万円164万円
純資産368万円392万円1,445万円

売上高は2年で2.9倍になった一方、営業利益は3期とも214万円以下で、2022年9月期の営業利益率は0.5%に届きません。

譲受企業の概要

デジタリフトは、広告運用を軸に統合デジタルマーケティングを手がける、東証グロースの会社。2022年9月期(単体)の売上高は26億3,320万円、営業利益は約1億8,500万円、純資産は7億7,237万円でした。開示は、成長戦略の手段にM&Aを掲げ、取得費用を手元資金でまかなう予定と書いています。

M&Aの目的・背景

狙いは、広告の会社が、設計から制作までを一気通貫で担う会社をグループに入れ、統合デジタルマーケティング企業になること。開示によると、meycoは2018年創業で、設計・実行・改善提案とUI・UXなどの制作力に強みを持ち、戦略立案から施策実行まで支援してきました。デジタリフトは、meycoの参画で広告・コンサルティングとブランド・メディアの2領域を持つ企業として成長する計画です。

M&Aの手法・成約内容

9,000株を1億5,800万円で取得し、議決権の90.00%を持ちました。価格は、デジタリフトが策定した事業計画を基に、第三者算定機関のDCF法(将来得られる現金収入を現在の価値に割り引いて計算する方法)等も勘案し、売主との協議を経て決めたと開示にあります。対価は現金。契約は2023年1月12日、実行は1月31日で、2月1日から連結に入りました。残る10%の保有者は、開示に記載がありません。

支払いの形は、有価証券報告書の連結キャッシュ・フロー注記で分かります。取得対価1億5,809万円は現金で、取得のための支出(純額)1億797万円は、取得価額からmeycoの保有現金5,012万円を引いた額と一致します。取得年度内に全額を払った形で、後払いの未払金や、業績に応じた後払いの記載は、有価証券報告書に見当たりません。

この値段は、どう説明できるか

営業利益の98.5年分。年買法の上限の9.1倍で、利益では説明できない値段。90%の取得なので、会社全体の評価額は100%に換算して1億7,556万円(158百万円÷0.90)。下の表は、開示の最新期(2022年9月期)の数字で計算しました。

項目金額
会社全体の評価額(100%換算)1億7,556万円
うち純資産1,445万円
差額(のれんに当たる分)1億6,111万円
営業利益164万円の何年分98.5年
純資産の何倍12.15倍

年買法(時価純資産+営業利益1〜3年分)は1,608万円から1,935万円です。営業利益164万円では、年数は物差しになりません。値段の根拠は有価証券報告書にあります。評価に使った事業計画には、将来の売上高成長率の予測と、その基礎になる人員採用計画・人件費の増加予測が含まれます。監査法人は取得価額の合理性を監査上の主要な検討事項に挙げ、のれんが取得価額の97%を占めると記しました。自社で同じ制作体制を作る費用は、開示にありません。

実際に計上されたのれんと、その償却

連結ののれんは1億5,323万円で、5年の均等償却。年3,065万円が費用になる。取得原価1億5,809万円から、受け入れた資産9,886万円と負債9,146万円の差額などを差し引いた値です。発生の原因について、有価証券報告書は、今後の事業展開によって期待される超過収益力と記載しています。決算期末(2022年9月30日)の純資産1,445万円と、取得日(2023年1月31日)の資産と負債の差額740万円の間には開きがあり、理由は開示されていません。

2023年9月期末2024年9月期末2025年9月期末
meycoののれん残高1億3,280万円1億216万円7,151万円
その年の償却額2,043万円(8か月分)3,065万円3,065万円

年3,065万円は、取得前の最新期の営業利益164万円の18.7倍にあたります。5年で償却し終えるため、取得から5年間、毎年この額が営業利益を減らします。

取得後のmeyco

取得後の3期とも、のれんの減損の兆候は識別されず、2025年9月期のmeycoの経常利益は、取得前の最新期の15.5倍の5,217万円になった。

2023年9月期(取得年度)2024年9月期2025年9月期
有価証券報告書の判断減損の兆候を識別せず概ね計画どおりの営業利益で、安定的な推移を見込み、兆候なし同じ理由で兆候なし
meyco単体の数字連結に入った売上は約1億4,500万円、営業利益は約1,300万円(8か月分、のれん償却前)開示なし売上4億4,794万円・経常利益5,217万円・当期純利益3,314万円

2025年9月期は、取得前と比べて、売上が26.6%増、経常利益が337万円から5,217万円、純資産が1,445万円から7,737万円になりました。当期純利益3,314万円のうちデジタリフトの持分(90%)は2,982万円で、取得価額はその5.3年分です。年のれん償却3,065万円とほぼ同額のため、償却を引いた純利益への寄与はほぼゼロです(当社試算。税の影響は考慮していません)。

2026年8月14日の決算補足資料は、meycoとウェブココルの2社が「のれん額を上回り」グループに貢献していると説明します。のれん償却後の利益がマイナスの四半期もあり、2025年9月期第2四半期からの拡大は、ウェブココルの連結化によるとされています。

2025年10月末に残る10%を追加取得し、100%子会社になった。同じ決算補足資料に、10月末にmeyco株式を追加取得したとあり、金額の記載はありません。2026年5月提出の半期報告書(2025年10月〜2026年3月)の連結キャッシュ・フロー計算書には、連結の範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出が1,756万5千円あり、初回の代金1億5,809万円のちょうど9分の1です。ただし支出の相手先は書かれておらず、meycoの10%の代金だとは開示されていません。この支出がmeycoの10%の代金なら、買い増しは初回と同じ1株あたりの価格です(当社の読み)。価格の決め方は開示されていません。

有価証券報告書の関係会社の状況(関係内容)は、役員の兼任1名と営業取引を記しますが、取引の中身と金額は開示されていません。売主の残留期間、競業避止、取締役への就任、業績に応じた後払い(アーンアウト)は、適時開示と有価証券報告書のどちらにも記載がありません。公式サイトの会社概要(2026年10月16日確認)の代表取締役社長は、取得時の開示にあった代表取締役とは別の人物です。交代の時期と理由は、開示にありません。

ピアラの事例との違い

同じ小さな広告・マーケティング会社の買収でも、値段の根拠、支払い、取得後の経過が分かれた。ピアラ→ジョシュアツリーの記事の数字と並べます。

デジタリフト→meycoピアラ→ジョシュアツリー
取得前の最新期売上3億5,378万円・営業利益164万円売上2億9,813万円・営業利益5,726万円
評価額と純資産の差は営業利益の何年分98.5年分2.8年分
連結ののれんと償却1億5,323万円・5年1億4,556万円・6年
年の償却額÷取得前の営業利益18.7倍0.42倍
支払い取得年度に全額(後払いの記載なし)1億円が取得年度末も未払金
取得後の減損の兆候3期とも識別せず2年目に識別、減損は見送り

ジョシュアツリーは営業利益で値段を説明でき、meycoは人員増を含む事業計画で説明していました。

買い手が読み取れること

営業利益が小さい会社に払う値段は、自社が「こう伸ばせる」と言い切れる部分で上限を決める。当社(CommerceX M&A)は、買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせると一文で言い切ることを、最初の条件にしています。買収先と同じ体制を自社で採用・育成する費用と期間を先に見積もり、その枠内に価格を置きます。

売主と主要な担当者が残る条件は、開示に無い。最終契約の前に、期間・役割・報酬を決める。当社は、売り案件では、売主の譲渡動機の本音、キーマンの離脱リスク、幹部の温度の3点を、最低限のチェックとして先に確かめます。確認の手段は、有価証券報告書の役員の兼任、公式サイトの役員欄、登記の履歴事項全部証明書です。

決算日から取得日までの資産の動きと、売上の相手先は、デューデリジェンス(詳細調査)で確かめる。純資産は、決算期末から取得日までにほぼ半分に減り、理由は開示にありません。売上が2年で2.9倍に伸びた会社は、増えた分の相手先が、取得後にグループ内取引として消える先か、外部の顧客かを、取引先別の売上で見ます。

買った後は、のれん償却を引いた利益と、計画との差を、四半期ごとに見る。年3,065万円の償却は、2025年9月期の持分利益2,982万円とほぼ同額でした。減損の判断は、取得時の事業計画の売上高と営業利益の達成状況で行われます。段階取得にする場合は、残りの持分の価格の決め方を最初の契約に書きます。

よくある質問

Q. 営業利益164万円の会社に1億5,800万円は、高いのですか。

A. 100%換算の評価額は、営業利益の98.5年分、純資産の12.15倍、年買法の上限の9.1倍です。実績利益では説明できず、根拠は人員採用を前提とした事業計画のDCF法です。高いかどうかは、計画どおりの増員と利益の成長が続くかで決まります。

Q. のれん1億5,323万円を5年で償却すると、買い手の利益はどうなりますか。

A. 毎年3,065万円が営業利益から差し引かれ、取得前の最新期の営業利益164万円の18.7倍にあたります。2025年9月期のmeycoの経常利益5,217万円から償却を引くと2,152万円(税引前・当社試算)で、当期純利益ベースでは持分利益とほぼ同額です。償却は会計上の費用で、現金は出ていきません。

Q. 人に寄る会社を買うとき、何を確かめますか。

A. 売主や主要な担当者が残る期間、役割と報酬、支払いの条件の3点です。この件は後払いの記載がなく、残留条件の記載もないため、買い手が契約で決め、買収後は登記や公式サイトの役員欄で変化を追います。

Q. 1億円台の譲渡案件は、どこで見つかりますか。

A. 公表されるのは、買い手が上場企業で、開示した取引に限られます。開示の対象にならない譲渡は、公表されないまま成立します。CX BASEでは、買収のご相談をいただいた企業へ、条件に合う譲渡案件を公開前にご案内しています。

ご相談ください

利益が小さい会社の値段は、事業計画の前提と、売主が残る条件で決まります。

CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。

売却をお考えの方は、売上の相手先と、売主が残る期間をもとに、買い手が見る数字をご説明します。

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出典

  • 株式会社デジタリフト「meyco株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」・臨時報告書(2023年1月12日公表)
  • 株式会社デジタリフト「有価証券報告書」第11期・第12期・第13期(2023年12月22日・2024年12月20日・2025年12月24日提出)、「半期報告書」第14期中(2026年5月15日提出)
  • 株式会社デジタリフト「事業計画及び成長可能性に関する事項」(2023年12月22日公表)、「2026年9月期 第3四半期決算補足説明資料」(2026年8月14日公表)
  • meyco株式会社 公式サイト

(いずれも2026年10月16日確認。金額は株式の代金1億5,800万円で、有価証券報告書の取得原価は1億5,809万円、アドバイザリー費用等の概算1,800万円を含む総額は1億7,600万円です。取得比率90.00%のため100%に換算し、財務数値は決算書ベース(利益修正前)、万円は千円単位の開示を四捨五入しています。100%換算の評価額は158百万円÷0.90、年償却3,065万円はのれん1億5,323万円÷5年の当社試算です)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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