M&Aニュース2024年6月 実行書き手:齋藤 浩喜

Greenspoonの残り58.53%に27億7,700万円 ── 先に41.47%を持っていた江崎グリコが、買い切った理由

発表日2024年6月3日(全株式の取得日も同日)
譲受企業江崎グリコ株式会社(東証プライム 2206)
譲渡企業株式会社Greenspoon(2019年5月設立・東京都渋谷区)
事業冷凍ヘルシーミールの定期宅配「GREEN SPOON」
譲渡価額27億7,700万円(追加取得した58.53%分・現金)。先に持っていた41.47%の時価は18億8,200万円
スキーム株式譲渡(2024年4月に連結子会社化・6月に残り58.53%を追加取得)
出典江崎グリコ ニュースリリース(2024年6月3日)・第120期有価証券報告書

江崎グリコ ニュースセンター (出典:江崎グリコ株式会社 公式サイトのニュースリリース(2024年6月3日)・2026年10月15日時点の画面)

GREEN SPOON 公式サイト (出典:株式会社Greenspoon 公式サイト・2026年10月15日時点の画面)

譲渡企業の概要

Greenspoonは、野菜を使った冷凍の食事を定期宅配で届けるD2Cです。設立は2019年5月、サービス開始は2020年3月25日。4カテゴリー70種類以上のメニューで、4年間に15万人の会員を獲得しています(江崎グリコの発表)。全商品が冷凍食品です(公式サイト)。

単体の売上と利益は、発表文にありません。有価証券報告書は、連結前の2024年1〜4月を期首から連結していたとみなした概算として、売上高10億2,900万円、営業損失3億3,700万円を示しています(監査証明なし・のれんの償却を含む)。

譲受企業の概要

江崎グリコは、1922年に栄養菓子「グリコ」を発売して始まった食品メーカーです。2025年12月期の連結売上高は3,613億9,000万円(有価証券報告書)。

M&Aの目的・背景

取得の狙いは、顧客と直接つながるD2Cの基盤と、日常の食事の分野です。江崎グリコの発表は、注力領域の健康・食品事業のうち、日常的に食べる主菜・副菜の分野を強化し、生活者の健康的な毎日への関与度を高めることを目的に挙げています。

有価証券報告書の注記は、Greenspoonが冷凍食品事業で「俊敏な商品開発と優れたデジタルマーケティング」によるD2Cを確立しており、ノウハウの共有でグループの事業基盤が広がると判断した、と書いています。江崎グリコの木村幸生執行役員は、小売業者を通す事業がまだ多く、顧客と直接つながるビジネスを加速させたいと話しています(@DIME 2024年9月6日)。

譲渡側の理由は、創業者の田邊友則氏が発表日のnoteに書いています。最も重視したのは、GREEN SPOONを世の中に残る普遍的なブランドにできる確率を上げられるか。江崎グリコの製造の経験、サプライチェーンのノウハウ、経営資源を得て、ブランドの価値を最大にする考えです。開示に、自社で立ち上げる案と比べた記述はありません。江崎グリコは自社でも定期宅配モデルの冷凍幼児食ブランド「cotote」(2025年)を始めており、買う道と作る道が並んでいます。

M&Aの手法・成約内容

取得は2段階で、江崎グリコは先に議決権の41.47%を持っていました。田邊氏のnoteによると、江崎グリコとの出会いは2020年9月。そこから3年8か月、出資と融資の支援を受けました。取得前のGreenspoonは、江崎グリコの持分法適用関連会社(出資比率に応じて損益を取り込む対象)でした。

時点出来事議決権比率
2024年4月30日より前出資と融資。持分法適用関連会社41.47%
2024年4月30日融資が資金調達額の総額の過半を超え、実質支配力基準で連結子会社に41.47%
2024年6月3日非支配株主(江崎グリコ以外の株主)から58.53%を追加取得し、完全子会社に100.0%

実質支配力基準は、議決権が過半に届かなくても、融資や人の関係から実質的に支配しているとみて子会社にする会計の基準です。発表文に、取得価額とアドバイザーの記載はありません。取得の対価は有価証券報告書の注記にあり、次のセクションで分解します。

この値段は、どう説明できるか

取得は2回あり、のれんが出たのは1回目だけです。のれんは、取得額が受け入れた純資産を上回った分です。有価証券報告書の注記から、2回を並べます。

項目1回目2回目
日付2024年4月30日2024年6月3日
取得した持分41.47%(連結前から保有)58.53%(非支配株主から取得)
金額18億8,200万円(時価)27億7,700万円(現金)
100%換算(当社試算)約45億円約47億円
会計の扱い支配を得た日の取得。のれん17億7,100万円が発生資本取引。のれんは増えず、資本剰余金が27億7,700万円減少

100%換算は、金額を持分比率で割った当社試算です(1回目は約45.4億円、2回目は約47.4億円)。1回目の18億8,200万円は、連結に入れた日に評価した時価で、取引で払った額ではありません。2回の評価の差は約4.5%、間隔は34日です。yutoriの段階取得は、2回目が1回目より21%高く、間隔は1年8か月でした(Her lip toに40億円 ── 利益が半減しても、yutoriが2回目に高く買った理由)。

純資産は、連結に入れた日に受け入れた資産が10億5,600万円、引き受けた負債が10億8,600万円で、差は△3,000万円です(顧客関連資産2億1,200万円は別に計上・有価証券報告書)。純資産がほぼゼロの会社に、100%換算で約45億〜47億円の評価がつき、純資産の倍率(PBR)は出せません。

のれんの出発点は、先に持っていた41.47%の時価18億8,200万円です(有価証券報告書の「取得の対価」欄)。2回目の58.53%は、「共通支配下の取引等のうち非支配株主との取引」として処理されました。支配を得たあとの追加取得は資本取引で、差額はのれんではなく資本剰余金に入ります。現金で払った27億7,700万円は、のれんにも償却にもならず、資本剰余金を減らしました。1回目には、先に持っていた持分の評価替えによる段階取得に係る差益15億6,300万円も計上されています。

実際に計上されたのれんと、その償却

のれんの発生原因は「今後の事業展開により期待される将来の超過収益力」と記載され、5年の均等償却で年約3億5,400万円です。2025年12月期末の残高は11億8,100万円で、同期の減損損失にGreenspoonののれんは含まれません。のれんとは別に、顧客関連資産2億1,200万円も3年で償却します。連結後は、2024年に「アーモンド効果」と「SUNAO」を使ったコラボ商品を公式通販サイトで発売し、2026年1月には江崎グリコの子会社が運営するオフィスグリコが、冷凍弁当の取り扱いを始めました。

買い手が読み取れること

段階取得では、後から買った分がのれんになりません。のれん17億7,100万円は、支配を取った日に持っていた41.47%の時価から出ました。その後に現金27億7,700万円で買った58.53%は、のれんも償却も生まず、資本剰余金を減らしました。損益に出る償却は、先に持っていた持分の評価で決まります。買い増しの順序と時期は、支配を取る日を基準に、償却と差益まで含めて利益計画に入れます。

払った額は、純資産でも利益でも説明できません。純資産は差引△3,000万円、連結前の概算は営業損失です。100%換算で約45億〜47億円は、会員基盤と商品開発力という将来の超過収益力への支払いで、物差しは、自社で同じ水準まで育てる期間と費用です。当社の見解では、払う額は単体の事業の価値までとし、相互送客や共同開発の上積みは、実現するまで数字にならないため、価格の根拠にしません。

先に中へ入ると、買う前に確かめられることが増えます。江崎グリコは3年8か月の出資と融資を通じて、会員の定着や商品開発の速さ、創業者の動き方を、全株式の代金を払う前に見られる立場でした。当社(CommerceX M&A)の見解では、買収前に前オーナーとの関係を深く作るほど、引き継ぎの摩擦は小さくなります。

累計15万人と、いま続いている会員の数は別です。確かめるのは、直近の定期購入の会員数、1人あたりの購入額、広告費をかけずに入る新規の割合、冷凍の製造と配送の体制。物流の統合の開示は見当たりません。

創業者とブランドを残すなら、役割を先に決めます。田邊氏は同日のnoteで経営陣と執行役員の体制は変わらないと書き、公式サイトの会社概要(2026年10月15日確認)では代表取締役会長、社長は黒崎廉氏です。交代の時期は確認できていません。当社の見解では、社長を残す買収でも、伴走する自社側の責任者を初日に置き、前オーナーの役割を買収時に決めます。

よくある質問

Q. 江崎グリコは、いくらでGreenspoonを買ったのですか。

A. 発表文に金額はありません。有価証券報告書には、2024年6月3日に追加取得した58.53%の対価が現金27億7,700万円、先に持っていた41.47%の時価が18億8,200万円と記載されています。100%換算は当社試算で約45億〜47億円です。

Q. 先に出資と融資をしてから全株式を取る進め方は、買い手に何がよいのですか。

A. 取得の前に、会員の定着や商品開発の速さを内側から確かめられます。会計では、のれんが出るのは支配を取った日に持っていた持分だけで、後から買った58.53%はのれんになりません。融資が資金調達額の過半を超えると、持分が過半に届かなくても連結の対象になります。

Q. 赤字のD2Cに、利益の倍率は使えますか。

A. 使えません。連結前の2024年1〜4月の仮定計算は、のれんの償却を含めて営業損失3億3,700万円で、純資産も差引△3,000万円です。継続会員数、獲得単価、粗利を見て、同じ事業を自社で作る費用と比べます。

Q. 江崎グリコは、なぜ自社で作らずにGreenspoonを買ったのですか。

A. 開示に、自社で作る案と比べた記述はありません。有価証券報告書が挙げる理由は、D2Cを確立し、商品開発とデジタルマーケティングが速いこと。江崎グリコの執行役員は、顧客と直接つながるビジネスを加速させたいと話しています。

ご相談ください

江崎グリコは、出資と融資で3年8か月かけて内側から確かめたうえで、残りを買い切りました。

CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買いニーズを登録いただいた企業には、条件に合う新着案件のご案内と、公開前の個別打診が届きます。登録に費用はかかりません。

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出典

  • 江崎グリコ株式会社「株式会社Greenspoonのグループ参画を通じ 健康・食品事業強化」(2024年6月3日公表・2026年10月15日確認)
  • 江崎グリコ株式会社 第120期・第121期有価証券報告書(2025年3月26日・2026年3月19日提出・2026年10月15日確認)
  • 江崎グリコ株式会社「『アーモンド効果』と『SUNAO』のコラボ新商品を発売」(2024年8月30日公表)・「オフィスグリコ、Greenspoonの冷凍弁当を取り扱い開始」(2026年1月13日公表)(いずれも2026年10月15日確認)
  • 田邊友則(Greenspoon 創業者・代表取締役CEO〔当時〕)note「GREEN SPOONはグリコグループにジョインしました」(2024年6月3日公表・2026年10月15日確認)
  • 株式会社Greenspoon 公式サイト 会社概要・GREEN SPOON 公式サイト(2026年10月15日確認)
  • @DIME(小学館)の連載記事「グリコグループに入った冷凍食品のサブスクサービス「GREEN SPOON」…」(2024年9月6日公表・2026年10月15日確認)

(27億7,700万円は現金で追加取得した58.53%分の取得の対価、18億8,200万円は連結に入れた日に評価した先の41.47%の時価で、いずれも有価証券報告書の記載です。100%換算は金額を持分比率で割った当社試算です。純資産は受入資産と引受負債の差で、顧客関連資産を含みません。仮定計算の売上高・営業損失は監査証明のない概算で、会員数15万人は2024年6月の発表時点の累計です)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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