グリフィスに1.2億円 ── 議決権40%で連結した債務超過の物流会社に、ジェイフロンティアは何を払ったのか
| 発表日 | 2024年1月12日(株式取得 2024年1月30日・連結は2024年1月から) |
| 譲受企業 | ジェイフロンティア株式会社(東証グロース 2934) |
| 譲渡企業 | 株式会社グリフィス(2020年設立・東京都千代田区) |
| 事業 | 物流業務の受託及びコンサルティング(食品の3温度帯物流) |
| 譲渡価額 | 1億2,000万円(88株・議決権40.0%) |
| スキーム | 株式取得(現金)。議決権40.0%のまま連結子会社化 |
| 出典 | ジェイフロンティア 適時開示(2024年1月12日)・有価証券報告書(2024年5月期・2025年5月期) |
(出典:株式会社グリフィス 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)
(出典:ジェイフロンティア株式会社 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)
譲渡企業の概要
グリフィスは、外食チェーンの食品を常温・冷蔵・冷凍の3温度帯で運ぶ物流会社です。2020年9月設立で、本社は東京都千代田区。取得前の株主は代表取締役の個人1人でした。倉庫運営と配送を請け負う3PL(荷主に代わって物流を担う事業)に加え、物流戦略の企画提案も手がけます。
| 決算期(百万円) | 2021年6月期 | 2022年6月期 | 2023年6月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,070.2 | 3,789.7 | 3,917.9 |
| 営業利益 | △47.3 | 20.9 | 4.2 |
| 当期純利益 | △48.6 | 18.7 | 1.7 |
| 純資産 | △37.6 | △18.9 | △17.2 |
| 総資産 | 709.5 | 698.8 | 739.7 |
売上は2期で89%伸びた一方、営業利益は2022年6月期の2,094万円から2023年6月期の421万円(営業利益率0.11%)へ下がりました。純資産は3期ともマイナスです。
譲受企業の概要
ジェイフロンティアは、オンライン診療から処方薬の配送までを一括で提供するアプリ「SOKUYAKU」と、医薬品・健康食品・化粧品の通販(D2C)を運営する会社です。2025年5月期の連結売上高は215億449万円。2024年5月期は、グリフィスを含む5社を新たに連結子会社にしました。
M&Aの目的・背景
取得の理由は、処方薬の当日配送と、冷蔵・冷凍品の取り扱いです。適時開示が挙げる使い道は、SOKUYAKUでの処方薬の当日配送エリアの拡大と、要冷蔵の薬・血液や尿の検体の配送、D2Cでの冷蔵・冷凍便の低糖質弁当の取り扱い、そして「物流・倉庫機能の効率化」です。同日の決算説明資料は、この子会社化をSOKUYAKU事業を黒字にする施策のひとつに数えました。
取得前の有価証券報告書(2023年5月期)で、グループは通販商品の保管と発送を外部の物流倉庫事業者に任せ、委託先はいずれも関東圏にありました。サプリ・化粧品の出荷そのものを移す計画は、開示に書かれていません。
M&Aの手法・成約内容
売主の個人1人から、88株・議決権40.0%を現金1億2,000万円で取得しました。取締役会の決議と株式譲渡契約の締結は2024年1月12日の同日で、株式の取得は1月30日。連結に入れる基準日のみなし取得日は2023年12月31日です。
取得関連費用(アドバイザリー報酬等)は540万円。適時開示の「取得価額」1億2,540万円は、取得の対価1億2,000万円とこの540万円の合計と一致します(有価証券報告書)。開示に算定機関の記載はなく、残る60.0%の扱い(追加取得の条件など)の記載もありません。
連結子会社とした根拠
議決権は40.0%でも、取締役会の過半数をジェイフロンティアから派遣するため、グリフィスは連結子会社です。有価証券報告書の根拠は、議決権の40%以上50%以下を持ち、ジェイフロンティアの役員・使用人(経験者を含む)が取締役会の過半数を占めるため、意思決定機関を支配していると認められること。
連結会計基準の支配力基準は、議決権が40%以上50%以下の会社を、こうした要件を満たすときに子会社とします。要件がなければ、持分法を適用する関連会社(議決権20%以上)の範囲です。
| 連結子会社(本件の扱い) | 持分法の関連会社(40%のみの場合) | |
|---|---|---|
| 売上高・資産・負債 | 100%が連結に入る | 入らない。投資額の1行になる |
| 利益 | 売上と費用の全額を連結に入れ、残る60%の持分に相当する利益は非支配株主に帰属する利益として分ける | 40%分の損益だけが1行で入る |
2025年5月期のグリフィスの売上高は48億9,102万円で、グループの連結売上高の22.7%にあたります。
この値段は、どう説明できるか
40.0%で1億2,000万円は、会社全体で3億円の評価です(1億2,000万円÷0.40)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 払った代金(議決権40.0%) | 1億2,000万円 |
| 会社全体の評価額(100%換算) | 3億円 |
| 直近の開示決算の純資産(2023年6月期) | △1,718万円 |
| 取得日に受け入れた純資産(2023年12月31日) | △2億7,931万円 |
100%換算の3億円は、売上高の0.08倍、営業利益の71倍です。年買法(時価純資産+営業利益1〜3年分)は、直近の純資産△1,718万円に営業利益3年分の1,262万円を足して△457万円で、マイナスです(当社試算)。利益と純資産では、3億円は説明できません。
取得日の純資産は、直近の決算から半年で2億6,213万円下がっています(△1,718万円から△2億7,931万円)。この間に動いた理由は、有価証券報告書に書かれていません。取得前の調査では、取得日に近い月次の貸借対照表で確かめます。
実際に計上されたのれんと、その償却
計上したのれんは3億9,931万円で、払った代金の3.3倍です。受け入れた債務超過2億7,931万円が加わるためです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 取得の対価(現金) | 1億2,000万円 |
| 受け入れた資産 | 7億9,994万円 |
| 引き受けた負債 | 10億7,925万円 |
| 差引の純資産 | △2億7,931万円 |
| のれん | 3億9,931万円 |
取得の対価1億2,000万円に債務超過2億7,931万円を足すと、のれんの額と一致します(1千円の端数差)。有価証券報告書に、連結開始時の非支配株主持分(残る60%の持分)の額は書かれていません。開示の数字どおりなら、非支配株主持分は0とされ、60%の側の債務超過ものれんに入った計算になります(当社の逆算)。
のれんは10年の均等償却で、年約3,993万円が連結の費用になります。償却は連結の手続きで生じるため、グリフィス単体の損益には入りません。減損損失は、2024年5月期の対象5社にグリフィスは入らず、2025年5月期は計上がありません。
取得後の数字
グリフィスの債務超過は、みなし取得日から17か月で6,571万円縮み、2億1,360万円になりました。2025年5月期は、売上高48億9,102万円、経常利益7,016万円で、100%換算の3億円はこの経常利益の4.3倍です。
ウェルヴィーナスとの比較
同じ買い手が1か月あとに取得したウェルヴィーナスは、100%換算が売上高の0.79倍で、グリフィスの0.08倍と約10倍の開きがあります。
| 項目 | グリフィス | ウェルヴィーナス |
|---|---|---|
| 取得比率 | 40.0% | 67.0% |
| 100%換算 | 3億円 | 22億3,941万円 |
| 直近の売上高 | 39.18億円(2023年6月期) | 28.49億円(2023年3月期) |
| 直近の営業利益 | 0.04億円 | 0.56億円 |
| 100%換算÷売上高 | 0.08倍 | 0.79倍 |
| 2025年5月末の取得比率 | 40.0% | 87.3% |
ウェルヴィーナスの開示が挙げた理由は、継続率の高い定期会員と商品の幅です(ウェルヴィーナスの記事は、払った対象を会員基盤と読みます)。グリフィスは、配送網と外食チェーンの荷主です。会計にも差が出ました。ウェルヴィーナスの取得原価の配分は2025年5月期に終わりました。顧客関連資産12億6,984万円が別に計上され、のれんは5億7,155万円減っています。グリフィスは、企業結合の注記にのれん以外の無形資産の記載がなく、受入純資産を超える額の全部がのれんです。
買い手が読み取れること
利益で説明できない3億円は、買い手の使い道に付いた値段と読みます。当社(CommerceX M&A)は、払う上限を単体の事業の価値までとします。使い道の価値まで代金に入れると、使い道が実現しなかったとき、その分がのれんの減損として損益に出ます。
取得の理由に書いた使い道は、買った後の説明資料で追います。2024年4月の決算説明資料は、SOKUYAKUの当日配送網の拡充として日本郵便との提携を挙げました。確認した3点の決算説明資料(2024年4月・12月・2025年7月)に、グリフィスの名前はありません。有価証券報告書は、グリフィスをヘルスケアマーケティング事業の関係会社に挙げ、同事業のBPO事業の説明に「外食チェーン店等に向けた物流業務の受託」を入れています。理由に挙げた使い道がどこまで進んだかは、開示から確かめられません。当社は、「買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせる」と一文で言えるかを、金額の前に確かめます。
議決権40%で連結する形は、取締役会の過半数を維持する手当てと、残り60%の扱いが前提です。議決権40%では、取締役の選任・解任を決める株主総会の普通決議を単独で通せません。取締役会の過半数を保つ株主間契約などの手当てと、残る60%の追加取得・売却の条件を、契約で確かめます。ジェイフロンティアの開示に、どちらの記載もありません。
債務超過の会社を買うと、のれんは代金より大きくなり、売主の個人保証が残ります。のれんは払った1億2,000万円の3.3倍。売主(代表取締役)は、2025年5月末もグリフィスの銀行借入とリース債務7,657万円に個人保証を付け、会社へ3,267万円を貸しています(関連当事者取引)。当社は、簿外債務・偶発債務(個人保証を含む)をデューデリジェンス(買収前の調査)で洗い出し、価格に反映します。外す時期と肩代わりする側は、取得の契約で決めます。
買った後は、償却と荷主の動きを見ます。のれんの年償却額約3,993万円は、グリフィス単体の経常利益(2025年5月期7,016万円)の57%にあたります。物流の受託は売上高に対する利益の割合が小さく、荷主の価格改定や取引の停止が利益に直接響きます。荷主別の売上、契約期間、運賃・倉庫費の転嫁条件を、取得前に確かめます。
よくある質問
Q. 議決権40%でも、連結子会社にできますか。
A. 条件を満たせばできます。連結会計基準は、議決権が40%以上50%以下でも、取締役会の過半数を自社の役員・使用人(経験者を含む)が占めるなどの要件で子会社とします。本件は、ジェイフロンティアが取締役会の過半数を派遣する形で連結に入れました。
Q. 債務超過の会社を買うと、のれんはどう計上されますか。
A. 本件は、払った1億2,000万円に債務超過の2億7,931万円が加わり、のれんが3億9,931万円になりました。非支配株主持分の額は開示になく、開示の数字どおりなら0とされ、残る60%の側の債務超過ものれんに入った計算です(当社の逆算)。
Q. 物流会社の値段は、何で決まりますか。
A. 本件は利益では説明できません。営業利益421万円に対し、100%換算の3億円は71倍で、年買法はマイナスです。開示が理由に挙げたのは配送網と買い手側の使い道です。
Q. こうした案件は、どこで見つかるのですか。
A. 公表されるのは、買い手が上場企業で、開示した取引に限られます。CX BASEでは、買収のご相談をいただいた企業へ、条件に合う譲渡案件を公開前にご案内しています。
ご相談ください
議決権の一部だけを取って連結に入れる形は、取締役会の構成、残りの株式、保証の整理を、値段と同時に決めます。CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱い、買収のご相談をいただいた企業へ、条件に合う案件を公開前にご案内しています。
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出典
- ジェイフロンティア株式会社 適時開示「株式会社グリフィスの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」・「2024年5月期 第2四半期決算説明資料」(2024年1月12日)
- ジェイフロンティア株式会社 有価証券報告書 第15期(2023年5月期・2023年8月30日提出)・第16期(2024年5月期・2024年12月11日提出)・第17期(2025年5月期・2025年8月26日提出):企業結合等関係・関係会社の状況・関連当事者情報・事業等のリスク
- ジェイフロンティア 決算説明資料(2024年4月12日・12月10日・2025年7月15日)・公式サイト、グリフィス 公式サイト
- EY新日本有限責任監査法人「連結(平成25年改正) 第1回:連結の範囲」(2016年4月12日)・「持分法 第2回:持分法の適用範囲」(2022年5月9日)
(以上、2026年10月16日確認。金額は株式の代金1億2,000万円です。適時開示の取得価額1億2,540万円は取得関連費用540万円を含みます。取得比率が40.0%のため100%に換算しています。ウェルヴィーナスの100%換算は取得の対価15億40万円÷67.0%です(取得関連費用620万円は含めていません)。倍率・年数・年償却額は当社試算です)