M&Aニュース2023年11月 実行書き手:齋藤 浩喜

Bondi Sandsに402億円 ── 代金の97%を占めたのれん・商標権・顧客関係は、暫定から確定でどう動いたか

発表日2023年8月1日(契約締結 2023年7月27日・取引完了 2023年11月1日)
譲受企業花王株式会社(東証プライム 4452)
譲渡企業Bondi Sands Australia Pty Ltd ほか(2012年設立・豪州メルボルン)。取得したのは持株会社 Bondi Sands Hold Co Pty Ltd の全株式
事業セルフタンニング・日やけ止め・スキンケアのブランド「Bondi Sands」(32カ国で展開)
譲渡価額402億4,700万円(確定・議決権100%・現金)。暫定は412億4,700万円
スキーム株式取得(現金)。Kao Australia Pty. Limited を通じて取得
出典花王 発表資料(2023年8月1日)・第118期〜第120期有価証券報告書

花王 ニュースルーム (出典:花王株式会社 公式サイトのニュースリリース「花王、オーストラリアのBondi Sands社を買収」2023年8月1日・2026年10月16日時点の画面)

譲渡企業の概要

Bondi Sandsは、セルフタンニング(日焼けをせずに肌の色を出す化粧品)と日やけ止めを、32カ国で展開する豪州のブランドです。2012年設立で、本社はメルボルン、従業員は約110名(子会社を含む)。花王の発表資料は、豪州のセルフタンニング市場でシェアNo.1と説明します(ユーロモニター調べ・2023年版・小売販売金額)。

対象の売上高・営業利益・純資産は、花王の開示にありません。有価証券報告書は、取得日以降の損益と、期首に取得したと仮定した場合の損益を、連結損益への影響に重要性がないとして記載せず、過去3期分の表は書けません。

譲受企業の概要

花王は、衣料用洗剤や化粧品、ヘアケアを持つ日用品・化学メーカーです。1887年創業で、東証プライムに上場。連結決算はIFRS(国際財務報告基準)で、2023年12月期の連結売上高は1兆5,325億7,900万円でした。取得額は連結売上高の2.6%にあたります(当社試算)。

M&Aの目的・背景

狙いは、日やけ止めとセルフタンニングで、世界の上位に入る地位をつくることです。花王の発表資料によると、中期経営計画でスキンケア事業を成長ドライバーのひとつと位置づけ、そのなかでも紫外線から肌を守る「スキンプロテクション領域」に注力する方針。花王が日本で培ったUVケアの技術と、米国のセルフタンニング技術も活用します。

有価証券報告書の注記は、のれんの発生要因を、新しく得たブランド・製品・販売網を生かして得る将来の超過収益力と書いています。

発表から約2か月後の2023年9月26日(取引の完了前)、成長戦略説明会の質疑応答で、花王は3点を述べました。2027年の北米の売上成長を牽引するのはBondi Sandsと考えていること。北米のセルフタンニングは「JERGENS」だけだったところにBondi Sandsが加わり、市場での存在感が上がること。2030年にスキンプロテクション事業の売上1,000億円を目指すには自社の成長だけでは難しく、中価格帯に強いブランドを得たので、次は高価格帯に強いブランドを狙うことです。

M&Aの手法・成約内容

取得は現金で、持株会社の全株式を花王オーストラリアを通じて取りました。契約は花王が、Kao USA Inc.とKao Australia Pty. Limitedとともに2023年7月27日(豪州時間)に結び、取引は2023年11月1日に完了。発表資料に取得金額の記載はなく、売主の名称も確認した開示にありません。金額は有価証券報告書の企業結合注記に示されています。

取得原価は、買収契約に基づく最終支払額が確定していなかったため、2023年12月期(第118期)では暫定の412億4,700万円でした。続く2024年12月期(第119期)で、10億円下がった402億4,700万円に確定。下がった理由の内訳は開示されていません。

この値段は、どう説明できるか

対象の利益が開示されないため、倍率は出せません。値段の手がかりは、花王が取得原価を分けた内訳です。100%の取得なので、会社全体の評価額は取得原価と同じ402億4,700万円。確定した内訳は次のとおりです(第119期)。

項目金額取得原価に占める割合
のれん222億8,000万円55.4%
商標権133億300万円33.1%
顧客関係36億1,600万円9.0%
3項目の合計391億9,900万円97.4%
取得原価402億4,700万円100.0%

取得原価の97.4%を、のれん・商標権・顧客関係の3つが占めます。商標権はブランドの評価、顧客関係は取得日時点の顧客との関係の評価で、花王が取得日の公正価値(適正な市場価格)で計上しました。受け入れた資産の合計は229億7,400万円、引き受けた負債は88億5,600万円。この差引141億1,800万円を取得原価から引くと261億2,900万円で、のれんより38億4,900万円多く、表とのれんの額が合いません。暫定の数字でもほぼ同じ差があり、開示に理由の説明はありません。本稿では差の理由を確かめられないため、開示された3つの額をそのまま使います。

暫定から確定で動いたもの

商標権は14.7%減り、のれんは6.3%増えました。

項目暫定(第118期)確定(第119期)増減
取得原価412億4,700万円402億4,700万円△10億円
商標権155億8,700万円133億300万円△22億8,400万円
顧客関係36億1,600万円36億1,600万円変わらず
のれん209億6,100万円222億8,000万円+13億1,900万円

3項目の合計が取得原価に占める割合は、暫定97.4%、確定97.4%で同じです。のれんの税務上の扱いは、暫定の「一部を損金に算入できる見込み」から、確定では「見込む金額はない」に変わりました。

実際に計上されたのれんと、その後

花王はIFRSのため、のれんを償却しません。年1回以上と、減損の兆候があるときに減損テストを行い、減損が出れば損益に計上する会計方針です。定期的に損益へ出るのは、償却する商標権と顧客関係。花王の方針は商標権20年、顧客関係15年または20年で、Bondi Sands個別の償却期間は開示にありません。方針どおりなら、年の償却は商標権で約6.7億円、顧客関係で約1.8億〜2.4億円です(当社試算)。

のれんの減損は、2025年12月期まで記載がありません。花王の連結で、のれんの減損損失累計額は2025年12月末まで「-」です(第119期・第120期の増減表)。Bondi Sands単独のテスト結果は開示されません。ヘルス&ビューティケア事業ののれんは、2022年末の345億7,400万円から、確定後の2023年末に596億4,900万円へ250億7,500万円増えました。Bondi Sandsののれんの配分先は明記されず、増加額に近い額というだけです。同事業に入っているなら、確定額222億8,000万円は同事業ののれんの37%にあたります(当社試算)。

取得後のBondi Sands

花王は、Bondi Sands単体の売上高や利益を開示していません。見えるのは、UVケアとセルフタンニングを合わせたスキンプロテクション事業の売上高です。2021年の233億円から2024年に432億円(前年比+29%)へ増え、2027年の目標740億円の58%にあたります。2025年は「(ビオレUV)スキンプロテクション」が前年比+8%と示され、Bondi Sandsを含むかは書かれていません。2026年上期は、UVケアとセルフタンニングを合わせて+10%でした(決算説明会資料)。

2023年9月の説明会資料は、2023年の売上を430億円としていました。+29%から逆算した2023年は約335億円(当社試算)で、約95億円ずれます。430億円に買収前のBondi Sandsの通期分が入っていたのかは、資料に書かれていません。入っていたなら、買収を含めて並べた2023年から2024年への増加は0.5%です(432億円÷430億円)。

2026年上期の決算短信は、米州の増収要因に「Bondi Sands」の売り上げの回復を挙げます。この語から、その前に落ち込んだ時期があったと読めますが、大きさと時期は資料にありません。米国のセルフタンニング市場の花王のシェアは51%(JERGENSとBondi Sandsの合計・2024年・Circana調べ)。2025年11月の資料は、米国のスキンケア「JERGENS」の新しい販路づくりに、Bondi Sandsの知見を使うと書いています。

買い手が読み取れること

取得原価の55%はのれんで、買い手の使い方しだいの部分を含みます。のれんは、ブランド・製品・販売網を生かして得る超過収益力と、花王は注記に書いています。当社(CommerceX M&A)の見解では、払う額は対象単体の価値までとし、自社の技術や販路が生む上積みは価格の根拠にしません。花王は日本のUV技術と米国のセルフタンニング技術を使う前提で、同じ経営資源を持たない買い手には、同じ数字になりません。

暫定の配分は動くため、確定前の数字は幅で持ちます。本件は、取得原価が2.4%、商標権が14.7%動きました。最終支払額の調整が何で決まるか(運転資本や借入金など)は、契約の段階で確かめます。

IFRSののれんは償却されず、価値が下がった年に損失が出ます。日本基準の買い手は、償却期間を決めて毎年費用にするため、損益の出方が花王と違います(日本基準で7年償却の例はHigh Linkの記事)。減損テストは事業計画の予測を基礎にするため(花王のカネボウ化粧品の注記)、計画の根拠は契約前に自社で固めます。

海外ブランドを買う理由は、自社にない地域とブランドを得て、自社の技術を広げる先をつくることでした。花王が挙げたのは、北米の成長を担うブランド、中価格帯に強いブランド、32カ国の販売網、日本のUV技術と米国のセルフタンニング技術の展開先です。自社で作る案との比較は開示にありませんが、2030年の目標は自社の成長だけでは難しいと説明しています。当社の見解では、「買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせる」と一文で言い切れることが、買う理由の条件です。

買収時に示した規模と、買収後に開示する規模は、同じ定義で並べられるようにします。花王の2023年は、資料によって430億円と、+29%から逆算した約335億円に分かれました。対象単体の売上が開示されない場合は特に、買収時の売上の定義(通期か期中か、為替)を契約前に決め、買収後も同じ定義で追います。

よくある質問

Q. 花王は、いくらでBondi Sandsを買ったのですか。

A. 発表資料に金額はありません。有価証券報告書では、取得原価は暫定412億4,700万円で、2024年12月期に10億円下がった402億4,700万円に確定しました。

Q. 暫定と確定で、何が変わりましたか。

A. 商標権が155億8,700万円から133億300万円へ14.7%減り、のれんが209億6,100万円から222億8,000万円へ6.3%増えました。のれん・商標権・顧客関係の合計が取得原価に占める割合は、暫定・確定ともに97.4%です。

Q. のれんは毎年償却されますか。

A. 花王はIFRSのため、のれんを償却せず、年1回以上の減損テストで確かめます。2025年12月末まで、のれんの減損損失累計額は「-」です。償却するのは商標権と顧客関係で、方針は商標権20年、顧客関係15年または20年です。

Q. こうした案件は、どこで見つかるのですか。

A. 公表されるのは、買い手が上場企業で、開示や公表の対象になる取引に限られます。開示の対象にならない譲渡は、公表されないまま成立します。CX BASEでは、買収のご相談をいただいた企業へ、条件に合う案件を公開前にご案内しています。

ご相談ください

対象の利益が出ない取引では、値段は取得原価の内訳で読みます。

CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。

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出典

  • 花王株式会社「花王、オーストラリアの Bondi Sands 社を買収」(2023年8月1日公表・2026年10月16日確認)
  • 花王株式会社 第118期・第119期・第120期有価証券報告書(2024年3月22日・2025年3月21日・2026年3月25日提出・2026年10月16日確認)
  • 花王株式会社 決算説明会資料・質疑応答・決算短信(2023年8月〜2026年8月の各回。2023年9月26日の成長戦略説明会を含む)(2026年10月16日確認)
  • Bondi Sands Australia 公式サイト(bondisands.com.au)(2026年10月16日確認)

(金額は取得の対価の現金で、円の額は花王の開示のままです。暫定額は第118期、確定額は第119期の企業結合注記の値。豪ドル建ての額と為替レートは開示にありません。割合・増減率・逆算した2023年の売上・年の償却額は当社試算で、償却額は花王の方針の年数を当てはめた値です。スキンプロテクション事業の売上は、UVケアとセルフタンニングの合計で、環境プロテクションを含みません)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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