M&Aニュース2015年5月 実行書き手:齋藤 浩喜

ルクサの買収額は非公表 ── 3.3億円の出資から1年半で子会社にしたKDDIは、買った会社を何に使ったのか

発表日2015年4月14日(連結子会社化は同年5月・KDDIの四半期報告書)
譲受企業KDDI株式会社(東証プライム 9433)
譲渡企業株式会社ルクサ(2010年10月設立・東京都渋谷区)
事業セレクト・アウトレット型EC「LUXA」(時間・数量限定のタイムセール)
譲渡価額非公表(取得比率も発表文に記載なし)
スキーム株式取得(ルクサの株主との合意・連結子会社化)
出典KDDI ニュースリリース(2013年10月17日・2015年4月14日)・第32期有価証券報告書・第32期第1・第2四半期報告書

譲渡企業の概要

ルクサは、時間と数量を限って売る高級路線のタイムセールEC「LUXA」の運営会社です。LUXAは2010年8月にビズリーチの一事業として始まり、同年10月に設立されたルクサが運営しました。経験豊富なバイヤーが選んだデザイン雑貨、家電、グルメ、コスメ、アパレルなどを扱い、コンセプトは「お得に贅沢体験」です。KDDIの2013年10月の発表は、スマートフォン経由の売上比率が2012年1月の8%から2013年9月の35%に上がったと説明しています。

売上と利益は、確認できた開示にありません。KDDIは2013年9月に、KDDI Open Innovation Fund(グローバル・ブレイン運営)を通じて3億3,000万円を出資し、資本業務提携を結んでいます(KDDIの発表)。

譲受企業の概要

KDDIは、携帯電話「au」を軸に通信を手がけ、決済・物販・金融へ事業を広げている会社です。2016年3月期の連結売上高は4兆4,661億円(第32期有価証券報告書)。同報告書は、通信に加えて「au経済圏」(物販、金融・決済、電力小売など)を広げる方針を掲げています。

M&Aの目的・背景

KDDIが取得の理由に挙げたのは、資本関係を強め、ルクサの資産を最大限に使って新しいショッピング体験を作ることです。2015年4月14日の発表文は、2013年9月に出資して以降、auスマートパス会員向けのサービス提供など業務提携を進めてきたと書き、資本関係の強化で両社の資産を活用すると説明しています。

有価証券報告書は、この取得を「au経済圏の拡大」の取り組みに入れています。au経済圏を測るKDDIの指標は2つあります。1つは付加価値ARPAで、決済手数料、auスマートパス、物販、広告などの売上をau契約者数で割った、契約者1人あたりの付加価値収入です。2015年3月期の420円から2016年3月期の440円へ20円上がり、要因の1つに「au WALLET Market」の物販収入が挙がっています。もう1つは、2016年度から2018年度の中期目標に置いた、au経済圏の流通総額2兆円超です。

報道(ネットショップ担当者フォーラム、2015年4月16日)は、ルクサの売上の多くがau経由で、子会社化で連携を強め、auユーザーに特化したサービスを進める狙いと伝えました。

M&Aの手法・成約内容

ルクサの株主との合意で、発行済株式を取得して連結子会社にしました。発表文が挙げる株主は、ジャフコ・スーパーV3共有投資事業有限責任組合、ビズリーチ、KDDI新規事業育成投資事業有限責任組合の3者です。3つ目は、2013年の出資に使われたKDDI Open Innovation Fundの登記上の名称です。

取得価額、取得比率、算定方法、アドバイザーの記載は発表文になく、実行日もありません。第1四半期報告書(2015年8月12日提出)は、2015年5月から連結子会社にしたと書きます。2018年12月の合併の発表では、ルクサはすでにKDDIの100%子会社と報じられました(ネットショップ担当者フォーラム)。

買収後の経過

買った会社の仕組みは4か月後にKDDIの物販サービスで使われ、約4年後には合併の存続会社になりました。

時期出来事
2015年8月25日「au WALLET Market Powered by LUXA」を開始。ルクサとの協業で、高級レストラン、エステ、舞台チケットなどをタイムセール形式で提供(第2四半期報告書)
2016年12月28日KDDIコマースフォワードが開業。「auショッピングモール」と「DeNAショッピング」を運営(KDDIの発表)
2017年1月両モールを統合し「Wowma!」に(第33期有価証券報告書)
2019年4月1日KDDIコマースフォワードとルクサが合併。存続会社はルクサ、新社名は「auコマース&ライフ」(ネットショップ担当者フォーラム・同社発表)
2020年5月総合モールの名称を「au PAY マーケット」に変更(auコマース&ライフの沿革)
2022年2月28日通販新聞の報道によれば、LUXAの商品購入が終了。後継は「au PAY マーケット」

この報道どおりなら、LUXAが終わったのは連結子会社にしてから約6年9か月後です。

この値段は、どう説明できるか

ルクサの値段は、確認できたどの開示にも出ていません。次の資料を見ました。

見た資料結果
KDDIのニュースリリース(2015年4月14日)取得価額・取得比率・実行日の記載なし
第32期有価証券報告書(2016年3月期)の企業結合注記個別に書かれた取得はジュピターショップチャンネルの1件(現金854億8,800万円)。ルクサの記載なし
同・連結キャッシュ・フロー計算書「子会社の支配獲得による支出」は1,270億4,500万円。ショップチャンネル分692億8,900万円を除く577億5,600万円は、ほかの取得の合計で、ルクサ分は切り出せない
第33期・第34期有価証券報告書ルクサの名前なし

有価証券報告書の注記は、重要な企業結合を個別に書きます。ルクサが書かれていないのは、個別に書く基準に届かなかったためと読めます。

ルクサに直接ひもづくKDDIの開示金額は、2013年の出資額3億3,000万円だけです。出資比率の開示はありません。

買い手が読み取れること

KDDIが開示する指標は、ECの利益ではなく、契約者1人あたりの収入と流通総額です。開示のどこにも、ルクサの利益の何倍で払ったかを示す記述はありません。当社(CommerceX M&A)の見解では、払う額は対象の単体の価値までとし、自社の顧客基盤に組み込んだ上積みは、買った後の取り分として別に数えます。

出資から入ると、売上の出どころを買う前に確かめられます。2013年10月の提携でLUXAの商品がauスマートパス会員向けに並び始め、約1年半後に株式取得を発表しました。報道では、ルクサの売上の多くがau経由でした。買い手の経路が売上の大半を占める対象は、買い手を外した後に残る売上が価格の根拠です。確かめるのは、売上のうち自社経由の割合、自社経由を除いた月次、提携の前後で取引条件がどう変わったかの3点。当社の見解では、買収前に前オーナーとの関係を深く作るほど、引き継ぎの摩擦は小さくなります。出資や取引で先に関わると、その助走が作れます。3年8か月かけて出資と融資で内側から確かめた事例に、江崎グリコのGreenspoonがあります。

買った会社の運営の仕組みは、4か月後に自社のサービスで使われました。2015年8月25日の「au WALLET Market Powered by LUXA」は、ルクサとの協業で始めたサービスです。ケータイ Watch(2015年8月24日)によると、オンライン版はルクサのシステムを使い、LUXAと基本的に同じ商品をタイムセールで売ります。対象会社の何を、いつ、自社のどのサービスに組み込むかが、買収の理由そのものです。当社は買収の検討の最初に、「買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせる」を一文にします。この件に当てはめると「ルクサの運営の仕組みを、auの会員基盤で伸ばす」です(当社の当てはめ)。

会社は合併の存続会社として残り、LUXAの看板は報道によれば終わりました。2019年4月にルクサがKDDIコマースフォワードを吸収してauコマース&ライフになり、通販新聞の報道によれば、LUXAの商品購入は2022年2月28日に終わりました。後継は「au PAY マーケット」です。取得した会社、看板、サービス、顧客は、別々の寿命を持ちます。自社が同じ判断をするなら、看板が終わる日の顧客とポイントの移行先を、取得前の計画に入れます。

よくある質問

Q. KDDIは、いくらでルクサを買ったのですか。

A. 非公表です。発表文に取得価額と取得比率はなく、有価証券報告書の企業結合の注記にもルクサは出てきません。ルクサについて開示されている金額は、2013年の出資額3億3,000万円だけです。

Q. 値段が非公表の取得は、どう調べればよいですか。

A. 買い手の発表文、有価証券報告書の企業結合注記、連結キャッシュ・フロー計算書の「子会社の支配獲得による支出」の順に見ます。この項目は、買った会社の保有現金を差し引いた純額で、複数の取得が混ざることがあります。個別の記載がなければ、対象の代金としては使えません。

Q. 通信会社は、なぜECを買うのですか。

A. KDDIの有価証券報告書では、ECはau経済圏の拡大の一部です。指標は、通信料以外の収入を契約者数で割る付加価値ARPAと、経済圏の流通総額。2016年度から2018年度の中期目標に、流通総額2兆円超があります。ルクサの取得は、EC単体の利益の倍率では説明されていません。

Q. ルクサとLUXAは、今も続いていますか。

A. 通販新聞の報道では、LUXAで商品を買えたのは2022年2月28日までで、後継は「au PAY マーケット」です。法人のルクサは、2019年4月にKDDIコマースフォワードを吸収し、auコマース&ライフ株式会社になりました。

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KDDIは、出資で約1年半かけて組んでから株式取得を発表し、買った会社の仕組みを4か月で自社のサービスに使いました。

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出典

  • KDDI株式会社「セレクト・アウトレット型ECサイトのルクサとKDDI 3.3億円の資本業務提携」(2013年10月17日公表・2026年10月16日確認)
  • KDDI株式会社「KDDI株式会社による株式会社ルクサの子会社化について」(2015年4月14日公表・2026年10月16日確認)
  • KDDI株式会社 第32期第1四半期報告書(2015年8月12日提出)・第2四半期報告書(2015年11月10日提出)(いずれも2026年10月16日確認)
  • KDDI株式会社 第32期有価証券報告書(2016年6月23日提出)・第33期有価証券報告書(2017年6月22日提出)・第34期有価証券報告書(2018年6月21日提出)(いずれも2026年10月16日確認)
  • KDDI株式会社「KDDIコマースフォワード株式会社の開業について」(2016年12月28日公表・2026年10月16日確認)
  • auコマース&ライフ株式会社 公式サイト 会社概要・会社沿革・サービス紹介、「新社名ならびに役員人事について」(2019年3月7日公表)(いずれも2026年10月16日確認)
  • ネットショップ担当者フォーラム「KDDIがフラッシュセール事業のルクサを連結子会社化」(2015年4月16日)・「KDDIグループのECモール「Wowma!」とフラッシュセール「LUXA」の運営会社が合併」(2018年12月14日)(いずれも2026年10月16日確認)
  • ケータイ Watch「「au WALLET Market」25日より提供開始」(2015年8月24日・2026年10月16日確認)
  • 通販新聞「プレミアム・タイムセール「LUXA」が終了へ…au PAYマーケットに引継」(2021年7月21日・2026年10月16日確認)

(3億3,000万円は2013年の出資額で、取得の代金ではありません。577億5,600万円は有価証券報告書の2つの数字の差で、当社計算です)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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