M&Aニュース2017年2月 実行書き手:齋藤 浩喜

ザワットに4億円 ── 純資産ほぼゼロの会社に、メルカリが払った代金はほぼ全額がのれんになった

発表日2017年2月20日(株式の取得は2月17日付)
譲受企業株式会社メルカリ(東証プライム 4385。取得時は未上場)
譲渡企業ザワット株式会社(2011年5月創業・東京都品川区)
事業スマートフォン向けオークション&フリマアプリ「スマオク」の企画・開発・運営
譲渡価額4億400万円(現金・議決権の100%)。発表文は非公表
スキーム株式取得。2017年5月1日にメルカリがザワットを吸収合併
出典メルカリ ニュースリリース(2017年2月20日)・有価証券届出書(2019年1月17日提出)の連結財務諸表の注記

譲渡企業の概要

ザワットは、ブランド品を中心にスマートフォンで売買できるオークションアプリ「スマオク」を運営していました。創業は2011年5月、本社は東京都品川区東五反田。サービスは2013年に始まり、毎晩21時の「フラッシュオークション」が特徴です。出品は写真を撮るだけで、個人も法人も世界に向けて売れます(メルカリの発表)。2015年6月には、ベンチャーキャピタル3者を引受先に、総額2.5億円の第三者割当増資を発表しています(ザワットの発表)。

決算の開示はありません。分かるのは、メルカリが取得した時点(みなし取得日の2017年1月31日)の資産と負債だけです。次のセクションで使います。

譲受企業の概要

メルカリは、フリマアプリ「メルカリ」を運営する会社で、取得した当時は上場前でした。サービスの開始は2013年7月、2018年6月19日に東証マザーズへ上場し、現在は東証プライムです。取得した2017年6月期は、連結売上高が220億7,100万円、営業損失が27億7,500万円。期末の現金及び預金は508億6,300万円ありました。

M&Aの目的・背景

メルカリが挙げた目的は、Eコマース分野でのC2C事業の拡大と、商品開発のノウハウの共有です。メルカリの発表は、ザワットをグループに迎え、両社の顧客基盤とノウハウを生かして、両サービスの成長と新しいサービスの創出を目指すと書いています。届出書の注記は、商品開発のノウハウを共有・融合させることがグループ全体の企業価値の向上につながると判断した、と理由を挙げます。

売り手の事情は、創業者の原田大作氏がメルカリの採用サイトのインタビュー(2017年4月20日)で話しています。世界の市場を取るにはスピードと資金が足りないと考え、増資とM&Aを並べて検討していた。そのころ、複数の他社からM&Aの申し出もあった。決め手は、メルカリの「世界で通用するマーケットプレイスをつくる」というビジョンがザワットと同じだと確信したこと。当時のスマオクはマーケティング力でメルカリに大きく負けていて、利用者の多くがメルカリも併用していたとも語っています。

M&Aの手法・成約内容

取得は現金による株式の取得で、2017年2月17日に議決権の100%を取りました。取得株数と代金は発表文にありません。代金は、届出書の注記にある取得原価4億400万円です。買い手側のアドバイザリー費用等は0百万円(百万円未満)でした。

取得の6日後の2017年2月23日に合併契約を結び、5月1日にメルカリがザワットを吸収合併しました。存続会社はメルカリで、ザワットは消滅。理由は、スマオク事業の安定的な管理などです。

この値段は、どう説明できるか

代金4億400万円に対し、受け入れた純資産は△600万円で、のれんは4億900万円です。100%の取得のため、会社全体の評価額は代金と同じ。資産と負債は、みなし取得日(2017年1月31日)の数字です。

項目金額
取得原価(現金・100%)4億400万円
受け入れた資産3,400万円(うち現金3,000万円)
引き受けた負債4,000万円
純資産(資産−負債)△600万円
のれん4億900万円
のれん ÷ 取得原価101.2%

開示は百万円単位の四捨五入のため、代金とのれんと純資産の間に100万円のずれがあります。

営業利益の開示がなく、のれんを営業利益で割る年数は出せません。純資産もマイナスで、純資産の倍率(PBR)も成り立ちません。受け入れた資産の88%は現金で、固定資産は100万円。のれん以外の無形資産の計上は、注記にありません。

純資産がマイナスなら、のれんは代金を上回ります。MAKE BEAUTUREは代金2億円に対してのれん2億6,600万円(133%)で、ザワットは101%。マイナス幅が小さいほど差は小さくなります(債務超過のMAKE BEAUTUREに2億円)。

比べる相手になるのは、同じものを自社で作る費用です。開示で確認できる外部資金は、ザワットが2015年6月に調達した2.5億円で、代金4億400万円はその1.6倍(当社試算)。ほかの資金や創業者の持ち出しは開示になく、作る費用の全体は分かりません。

実際に計上されたのれんと、その償却

のれんは2年の均等償却で、年に約2億400万円が費用になりました。発生原因は、今後の事業展開で期待される将来の超過収益力です。メルカリは、のれんを効果の及ぶ期間(20年以内)で償却する方針で、ザワットは2年にしました。

決算期(6月期)のれんの償却額
2017年6月期(2017年2月から5か月)8,500万円
2018年6月期2億400万円
2018年6月末の未償却残高1億1,900万円

2018年7〜9月期の償却額は5,100万円で、4億900万円を24か月で割った月約1,700万円のペースと合います。残りの償却は、2019年1月に終わる計算です(当社試算)。2018年6月期の償却額は営業損失44億2,200万円の4.6%です。同期までの開示に、固定資産の減損損失の記載はありません。

買収のあと、何が起きたか

ザワットの法人は約2か月半で消え、創業者が立ち上げた新アプリは約1年で終わりました。

時期出来事
2017年2月17日全株式を取得(発表は2月20日)
2017年3月原田氏がメルカリの子会社ソウゾウに入社
2017年5月1日メルカリがザワットを吸収合併。ザワットは消滅
2017年8月21日ソウゾウが「メルカリ メゾンズ」を開始。原田氏が立ち上げと事業責任者を務める
2018年4月1日原田氏がソウゾウの代表取締役社長に就任
2018年7月ソウゾウが「メルカリ メゾンズ」など3サービスの終了を発表。メゾンズは8月31日に終了

メゾンズは、ブランド品を撮影して色や状態を入力すると、メルカリの販売実績などのデータから売却相場を自動で出すアプリです。公開時の対象はルイ・ヴィトンとシャネルのバッグと財布に限られていました。終了の理由は、経営資源を再配置し、「メルカリ」をはじめとする運営サービスの品質を高めるためです。メルカリの有価証券報告書は、2018年8月に「メルカリ」へ機能を移して提供を終えたと記載しています。

新しいアプリを一から作った経緯は、原田氏が2021年3月のnoteで語っています。計画では、メルカリからの送客でスマオクを伸ばすはずでした。ところが、仕組みの複雑さによる設計コストや負債、拡張性の問題があり、プロダクトはゼロから作るほうが早いと判断した。そこで生まれたのがメゾンズです。ザワットの社員は全員、2年以上メルカリで働き続けたとも書いています。

スマオク自体の終了日を告げる公式発表は、確認できていません。2019年1月の届出書の「事業の内容」にも、スマオクの名前は出てきません。

買い手が読み取れること

純資産がマイナスの会社は、代金のほぼ全部がのれんになります。ザワットは、資産の88%が現金で、利益の開示もありません。届出書が挙げる理由は、商品開発のノウハウの共有です。収益力に払ったのかどうかは、開示から確かめられません。当社(CommerceX M&A)の見解では、払うのは買う事業単体の価値までです。自社に入れた後の上積みは、価格の根拠にしません。

買った仕組みが、そのまま使えるとは限りません。メルカリは、スマオクを自社の送客で伸ばす案を立てながら、新しいアプリを一から作りました。プロダクトを買う案件では、買収前に基盤とデータを自社の仕組みへつなげるかを確かめ、つなぐ費用と作り直す費用を並べて見積もります。当社は、DDの確認項目にIT・システム(基盤とデータ移管の可否)を入れます。

のれんの償却期間は、買い手が見込む効果の長さを示します。メルカリは2年にしました。メゾンズが終わったのは開始の約1年後で、償却はそのあとも約5か月続きました。償却は会計上の費用で、現金は出ていきません。ただし営業利益が出ている買い手なら、4億円規模でも年2億円の費用が営業利益を直接減らします。償却期間は事業計画で見込む寿命とそろえ、短くするほど費用が早く出る点を利益計画に入れます。

人を買うなら、残る人の役割を最初に決めます。創業者は取得の翌月にソウゾウへ入り、新アプリの事業責任者になり、1年余りで社長に就きました。社員は全員が2年以上残りました。当社の見解では、前オーナーが残る場合も、アドバイザーか事業責任者かを買収時に決めておきます。役割が決まっていないと、初速が出ません。

金額が非公表でも、買い手が上場すれば値段は出ます。取得時は未上場でしたが、上場後の届出書の注記に取得原価とのれんが載りました。連結キャッシュ・フロー計算書の「連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出」は3億7,300万円で、代金4億400万円からザワットの現金3,000万円を引いた額と、百万円単位の四捨五入の範囲で合います。過去の事例の値段は、発表文のあと、買い手の届出書と有価証券報告書の注記まで読みます。

よくある質問

Q. メルカリは、いくらでザワットを買ったのですか。

A. 発表文に金額はありません。有価証券届出書の注記に、取得原価が現金4億400万円(議決権の100%)、のれんが4億900万円と記載されています。2017年2月17日の取得です。

Q. 純資産がマイナスの会社の値段は、何で決まりますか。

A. 利益の倍率も純資産の倍率も成り立たないため、同じものを自社で作る費用と期間を比べる相手にします。ザワットは、2015年に調達した2.5億円の1.6倍が代金でした(当社試算)。受け入れた純資産が△600万円で、代金のほぼ全額(101%)がのれんになりました。

Q. 取得額が非公表の事例は、どこで調べますか。

A. 買い手が上場企業なら、有価証券報告書や届出書の「企業結合等関係」の注記と、連結キャッシュ・フロー計算書を見ます。取得時に未上場でも、上場後の書類に載ることがあります。メルカリは、2019年1月17日提出の届出書に載っていました。

Q. 買収したスマオクは、その後どうなりましたか。

A. ザワットは2017年5月に合併で消滅し、創業者が事業責任者として2017年8月に立ち上げた「メルカリ メゾンズ」は2018年8月に終了しました。スマオク自体の終了を告げる公式発表は確認できていません。

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純資産がほぼゼロの会社は、利益でも純資産でも値段を説明できません。払う上限は単体の価値に置き、自社で同じものを作る費用と比べます。

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出典

  • 株式会社メルカリ「メルカリ、『スマオク』を運営するザワット株式会社を買収」(2017年2月20日公表・2026年10月16日確認)
  • 株式会社メルカリ 有価証券届出書(2019年1月17日提出)の連結財務諸表の注記(企業結合等関係・連結キャッシュ・フロー計算書関係)・財務諸表・四半期連結財務諸表(2026年10月16日確認)
  • 株式会社メルカリ 第11期有価証券報告書(2023年9月28日提出)の沿革・主要な経営指標等(2026年10月16日確認)
  • 株式会社メルカリ「家に眠るブランド品を自動査定&出品! ブランド査定付きフリマアプリ『メルカリ メゾンズ』を提供開始」(2017年8月21日公表)・「一部サービスの提供終了について」(2018年7月公表)・「株式会社ソウゾウ 代表交代のお知らせ」(2018年4月6日公表)(いずれも2026年10月16日確認)
  • ザワット株式会社「ブランド品オークション『スマオク』を運営するザワット、海外&国内VCから総額2.5億円の資金調達を実施」(2015年6月11日公表)・スマオクの販売手数料の無料化に関するプレスリリース(2015年11月17日公表)(いずれも2026年10月16日確認)
  • 株式会社メルカリ 採用サイト Mercan「ソウゾウに小さな成功はいらない。原田大作が目指す大きな成功とは。」(2017年4月20日公表・2026年10月16日確認)
  • 原田大作 note「最終章〜メルカリとソウゾウ」(2021年3月3日公表・2026年10月16日確認)

(金額は株式の代金です。4億400万円は有価証券届出書の取得原価で、取得比率100%のため換算していません。受け入れた資産・負債、のれん、償却額、未償却残高、取得のための支出は届出書の注記・財務諸表の数字です。純資産、各割合、倍率、償却の終了時期は当社試算です。開示は百万円単位の四捨五入で、代金とのれんと純資産の間に100万円のずれがあります)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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