M&Aニュース2014年5月 実行書き手:齋藤 浩喜

アンティローザに1.5億円 ── 代金の2.8倍ののれんで買った店舗中心のアパレルは、9年でEC比率96%・売上126億円になった

発表日2014年5月23日(株式譲受も同日)
譲受企業健康コーポレーション株式会社(2928・現RIZAPグループ)
譲渡企業株式会社アンティローザ(1998年6月設立・東京都渋谷区)
事業婦人服・紳士服の企画及び販売
譲渡価額1億5,000万円(600株・議決権100.0%)
スキーム株式譲渡(現金)。売主は個人2名
出典適時開示(2014年5月23日)・有価証券報告書・RIZAPグループ決算説明資料

譲渡企業の概要

アンティローザは、ファッションビルの店舗で10〜30代向けの婦人服とメンズ服を売る、売上16億円の会社でした。1998年6月設立で、「Auntie Rosa」「Casper John」など4ブランドを展開し、株式は個人2名が96%と4%で持っていました。買い手との資本・人的・取引の関係はありません。

決算期(2月期)2012年2013年2014年
売上高19億7,500万円18億6,600万円16億2,600万円
営業利益3,700万円5,700万円700万円
純資産1億800万円1億3,700万円1億1,400万円

売上は2期続けて減り、直近の2014年2月期は前期比12.9%減。営業利益は5,700万円から700万円に落ち、営業利益率は0.4%、当期純損益は2,300万円の赤字でした。総資産は8億300万円で、負債が約86%を占めます(当社計算)。

譲受企業の概要

健康コーポレーションは、健康食品と美容関連商品をネットで売る会社で、2012年からアパレルを買い足していました。2012年にエンジェリーベ(マタニティ)、2013年に馬里邑(婦人服)を子会社にし、アンティローザは3社目です。

取得前の直近期(2014年3月期)の連結売上高は239億1,000万円、純資産は56億7,600万円で、代金は連結純資産の2.6%です(当社計算)。2016年7月にRIZAPグループ株式会社へ商号を変えました。アンティローザは現在もグループの子会社で、同じライフスタイルセグメントのBRUNOも子会社です(BRUNOによるジャパンギャルズの取得)。

M&Aの目的・背景

狙いは、アパレル3社の顧客と販路を重ねることと、RIZAPの顧客のダイエット後の買い替え需要の取り込みでした。開示によると、アンティローザの顧客層(10〜30代)はエンジェリーベのマタニティ層(20〜40代)と重なり、馬里邑のミセス層とは競合せず、母・娘・孫の三世代に商品を訴求できます。販路はファッションビルの店舗が主で、開示は「店舗販売を基盤とした販売力の強化」を図ると書いています。

M&Aの手法・成約内容

600株を1億5,000万円で取得し、議決権の100.0%を持ちました。取締役会決議と株式の譲受は同じ2014年5月23日で、対価は現金です。価格の根拠は、第三者機関のデュー・ディリジェンス(買収前の調査)の結果、前期に営業利益が減った要因の分析、今後の事業計画と利益計画で、算定方式の記載はありません。

有価証券報告書には「取得に直接要した費用」2,734万円があり、取得原価は1億7,734万円です。費用は代金の18.2%にあたります。株式の96%を持っていた売主の代表取締役は、取得後も子会社の代表取締役に残りました(関連当事者注記)。

この値段は、どう説明できるか

代金は純資産の1.32倍に見えますが、連結では取得日の純資産が2億3,563万円の債務超過で、のれんは代金の2.8倍の4億1,297万円でした。下の表は、開示の最新期(2014年2月期)の数字で計算した列と、連結に実際に計上された額の列です。

項目開示の最新期で計算連結に計上された額
払った額1億5,000万円1億7,734万円
うち純資産1億1,400万円△2億3,563万円
差額(のれん)3,600万円4億1,297万円
純資産の何倍1.32倍算出できない

開示の数字で割ると、のれん3,600万円は営業利益の5.1年分。年買法(時価純資産+営業利益1〜3年分)は1億2,100万円〜1億3,500万円で、1億5,000万円は上限を1,500万円上回ります(当社試算)。営業利益700万円は前期の5,700万円から落ちた直後の額で、年数の物差しは使えません。3期の営業利益の合計1億100万円なら、代金は1.5年分です。

連結の数字は、有価証券報告書の企業結合注記からです。取得日に受け入れた資産は6億6,646万円、負債は9億209万円で、2億3,563万円の債務超過でした。取得原価との差額4億1,297万円がのれんで、純資産より安く買って差益が出る負ののれんは発生していません。開示の純資産1億1,400万円(2014年2月末)から取得日までに約3億5,000万円動いた計算で、資産は1億3,700万円減り、負債は2億1,300万円増えています(当社計算)。理由は、発表文にも有価証券報告書にも書かれていません。

のれんの発生要因は「今後の事業展開によって期待される、将来の超過収益力」で、取得時の方針は10年の均等償却(日本基準)です。10年なら年約4,130万円で、取得前の営業利益700万円の約5.9倍にあたります(当社試算)。

のれんは、5年後に減損された

のれん4億1,297万円のうち3億7,500万円(取得時の約91%)は、2019年3月期に減損されました。RIZAPグループは2017年3月期からIFRS(国際会計基準)に切り替え、のれんを償却せず、毎期の減損テストで見ています。

2019年3月期は、RIZAPグループが構造改革に入り、新規M&Aを原則凍結した期です。有価証券報告書は、約93億円の構造改革関連費用のうち約13億円に、アンティローザ等数社ののれんの減損が入ると書きます。決算説明資料は、アンティローザを非上場子会社の「主な赤字会社」に挙げ、営業損失は7.5億円(IFRS)でした。

取得後のアンティローザ

売上は2016年3月期の17億4,400万円から、2023年3月期の125億7,200万円へ7.2倍になり、EC比率は19.3%から95.9%になりました。数字は、RIZAPグループの決算説明資料(2023年5月15日)に載る、アンティローザ単体の売上高(日本基準)です。

決算期(3月期)売上高EC比率
2016年17億4,400万円19.3%
2017年19億5,000万円26.7%
2018年23億1,200万円30.4%
2019年28億8,800万円48.5%
2020年60億6,700万円80.5%
2021年95億2,400万円95.9%
2022年108億3,900万円97.2%
2023年125億7,200万円95.9%

店舗は逆に減りました。有価証券報告書の設備の状況で、店舗数は2017年3月期の36店舗から2021年3月期の7店舗になり、2022〜2025年3月期は本社を含む5、4、4、3拠点です。2023年3月期の決算説明資料が成長の理由に挙げたのは、ZOZO限定ブランドの拡充(約60ブランド)と積極的なキャンペーン施策です。2022年3月期の有価証券報告書は、このEC転換をグループ全社へ展開する取り組みを書いています。2014年の開示が掲げた店舗販売の強化とは逆向きに、売上を伸ばしたのは店舗を減らしてECに寄せた販売でした。

直近は、2024年3月期に増収でも営業損益が悪化し、2026年3月期は9か月で売上が49億9,200万円減りました。次の表は、決算説明資料に載る前期比・前年同期比です。

決算期(3月期)売上営業損益決算説明資料の理由
2024年+27億7,500万円△2億2,900万円EC施策好調、売価適正化
2025年+15億5,200万円―EC販売が引き続き好調
2026年 上期累計△29億7,200万円△2億4,000万円主要ブランドの売上低迷
2026年 9か月累計△49億9,200万円△6億6,600万円会計基準変更と一部ブランドの不振

「―」は、主な内訳に挙がっていない項目です。数字は第3四半期累計までです。2026年9月に同社は、7月から10月にかけてZOZOTOWNで6つの新ブランドを始めると発表しました。

買い手が読み取れること

のれんは、開示の純資産ではなく、取得日の資産と負債で決まります。開示の表から読むとのれんは3,600万円ですが、連結に計上されたのは4億1,297万円で、約11.5倍でした。決算期末から取得日までの3か月弱で、純資産は約3億5,000万円動き、代金は1億5,000万円のまま、差はすべてのれんに入りました。契約前に、決算期末以降の直近の貸借対照表まで取り、基準日と取得日の純資産を比べて価格を調整する条項を入れます。

営業利益が小さい会社の値段は、利益倍率で説明できません。代金は営業利益の21倍、のれんは59年分で、根拠は開示が挙げた顧客層の重なりと販路の相互活用という、買い手の見込みです。その91%を5年後に減損し、売上が60億6,700万円へ伸びたのは翌期でした。のれんの評価が下がる時期と事業が伸びる時期は一致しないため、買収後5年の損益計画は、販路を入れ替える途中の赤字と減損を含めて作ります。

売主が代表に残る会社は、保証の扱いを契約前に決めます。関連当事者注記によると、売主の代表取締役は、アンティローザの銀行借入4億1,056万円(2015年3月期)と8,695万円(2016年3月期)に、保証料も担保もなしで債務保証をしていました。2015年3月期の借入は、代金を上回る額です。当社(CommerceX M&A)は、連帯保証の解除を株式譲渡の合意事項に入れ、代金だけで安い高いを判断せず、未収入金の処理・退職金・連帯保証の解除を含めた経済価値で見ます。

買収時の筋書きと、実際に伸びた形が逆になることがあります。2014年の筋書きは、店舗販売を基盤にネットを足す形でした。実際の成長は、店舗を減らし、ZOZO限定ブランドを増やしたEC販売から来ました。顧客情報の共有や販路の相互活用が数字に出たかは、開示から確かめられません。当社は、買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせると一文で言い切れるかを、買収検討の最初に確かめます。ブランドを増やして伸ばした会社は、ブランド別の売上と粗利を取得前に見ます。2026年3月期の9か月累計では、営業損益が6億6,600万円悪化し、決算説明資料は理由に一部ブランドの不振を挙げています。

よくある質問

Q. 営業利益700万円の会社に1億5,000万円は、高いのですか。

A. 営業利益の21倍、3期の営業利益の合計の1.5年分で、年買法の上限を1,500万円上回ります。連結ののれんは4億1,297万円で、利益ではなく顧客層と販路への見込みで説明する値段です。のれんの約91%は5年後に減損され、売上は9年で7.2倍になりました。

Q. 純資産がプラスと開示された会社が、取得日に債務超過になることはありますか。

A. この取得で起きています。開示の純資産1億1,400万円は決算期末の数字で、取得日は資産6億6,646万円・負債9億209万円でした。差額はのれんに入ります。契約前に直近の貸借対照表まで確かめ、価格の調整条項を入れます。

Q. のれんの減損は、買った会社の失敗を意味しますか。

A. 減損は、取得時の見込みを下げる会計処理で、事業の失敗と同じ意味ではありません。アンティローザは2019年3月期に3億7,500万円を減損し、その後の売上は2023年3月期まで伸びました。売上、営業損益、のれんは別々に追います。

Q. こうした案件は、どこで見つかるのですか。

A. 公表されるのは、買い手が上場企業で開示義務がある場合に限られます。CX BASEでは、買収のご相談をいただいた企業へ、条件に合う譲渡案件を公開前にご案内しています。

ご相談ください

代金は、取得日の資産と負債、売主の保証、買収後のブランド別の数字まで見て決めます。

CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。

売却をお考えの方は、決算期末から取得日までの純資産の動きと、売主の保証の扱いを、買い手が見る前にご説明します。

買収をお考えの方へ

→ 案件を見る

→ 買収の相談をする

売却をお考えの方へ

→ 売却の相談をする

出典

  • 健康コーポレーション「株式会社アンティローザの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」(2014年5月23日公表・2026年10月16日確認)
  • 健康コーポレーション/RIZAPグループ「有価証券報告書」第12期(2015年3月期)〜第23期(2026年3月期)(2026年10月16日確認)
  • RIZAPグループ「決算説明会資料」「決算補足資料」2019年5月15日〜2026年2月12日の各回(2026年10月16日確認)
  • アンティローザ 公式サイト、プレスリリース(2026年9月10日公表)(2026年10月16日確認)

(金額は株式の代金1億5,000万円です。取得原価1億7,734万円は、取得に直接要した費用2,734万円を含みます。取得比率100.0%のため換算していません。財務数値は決算書ベース(利益修正前)。「開示の最新期で計算」の列は当社試算で、「連結に計上された額」の列は有価証券報告書の企業結合注記の数字(純資産は資産と負債の差額)です。取得前の売上高は2月期、取得後は3月期です)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

あわせて読みたい

あなたの状況で聞きたいことはありませんか

売却も買収も、初回のご相談は無料です。秘密は秘密保持契約で守られます。