M&Aニュース2024年6月 実行書き手:齋藤 浩喜

ユーヤンサンに約943億円 ── 持分6割のロート製薬、暫定のれん448億円は1年後に323億円で確定

発表日2024年4月4日(契約の締結も同日。株式の取得は6月3日に完了)
譲受企業ロート製薬株式会社(東証プライム 4527)。購入主体のSoar R2M Pte. Ltd.(シンガポール)は、ロート製薬60%・三井物産約30%・創業家約10%の出資
譲渡企業Eu Yan Sang International Ltd.(ユーヤンサン。1993年設立・創業1879年・シンガポール)
事業漢方薬・食品の製造販売(170以上の店舗と30の漢方クリニック)
譲渡価額100%換算で808.4百万シンガポールドル(SGD)、943億4,500万円(有価証券報告書の2回の取得の円額の合計)。ロート製薬の持分60%では485.0百万SGD、566億700万円(当社試算)。発表時の想定は687百万SGD(約756億円)
スキーム売主から85.91%を取得し、残り14.09%に強制的な一般公開買付け、強制取得で100%
出典ロート製薬 適時開示・有価証券報告書 第89期・第90期

Eu Yan Sang 公式サイト(シンガポール) (出典:Eu Yan Sang International Ltd. 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)

譲渡企業の概要

ユーヤンサンは、1879年創業の漢方薬メーカーで、店舗とクリニックで売る会社です。ロート製薬の発表は、東南アジア最大の漢方薬製造販売会社と説明しています。シンガポール・香港・マレーシアを中心に170以上の店舗と30の漢方クリニックを運営し、従業員は1,357名(2023年6月期・三井物産の発表)。2016年10月に上場廃止となり、2023年12月時点では売主の持株会社Righteous Crane Holdingが85.9%を保有していました。

決算期(百万SGD)2021年6月期2022年6月期2023年6月期
売上高227.3256.9297.3
Core EBITDA28.233.142.2
純資産134.5146.4149.9

Core EBITDAは、税引前利益に償却費・非通常費用・成長関連投資などを足した数字です(ロート製薬の開示)。営業利益の開示はありません。2024年6月期(監査前)は売上311.7百万SGD(前年比5%増)、営業利益29.2百万SGD(同15%増)。公式サイトに通販ページはありますが、開示にEC売上の数字はありません。

譲受企業の概要

ロート製薬は、1899年創業の、目薬などの一般用医薬品とスキンケアの会社です。2024年3月期の連結売上高は2,708億4,000万円、営業利益は400億4,800万円。売上の65%がスキンケア、地域別ではアジアが30%を占めます(発表時の説明)。

M&Aの目的・背景

狙いは、一般用医薬品と食品の強化と、成長が見込めるアジアの足場です。ロート製薬の発表は、売上の65%がスキンケアで、あらゆる健康に応えるには一般用医薬品と食品の強化が欠かせず、売上の30%を占めるアジアは今後も伸びると説明しています。ユーヤンサンの製品力・ブランド力と、自社の研究開発・販売力を組み合わせる考えです。

三井物産は、中期経営計画2026の「Wellness Ecosystem Creation」を理由に挙げています。ファンド経由の出資(2022年11月)は売主の売却で清算され、購入主体のSPC(特別目的会社)へ再出資しました。売主が売った理由は、確認できた開示にありません。

M&Aの手法・成約内容

取得は、売主から約86%を現金で買い、残る14%を公開買付けで買う2段階です。買い手は、ロート製薬が2024年3月29日に設立したSoar R2M(設立時はロート製薬100%)。のちに三井物産と創業家が出資し、ロート製薬の出資比率は8月2日に60.00%になりました(5月31日は66.67%)。創業家は売却代金の一部を再投資しています。

2024年6月3日に、売主から85.91%の取得が完了。6月10日から残りへの公開買付けが始まり、1株1.8184SGD・総額113,874,296SGDで、8月29日に強制取得で100%になりました。シンガポールの買収規則で義務になる買付けで、1株の価格は売主への支払いと同じです。ロート製薬のIRサイトによると、資金は一部が子会社の手元資金、一部が銀行借入で、自己資本比率は70%台から60%台に下がりました(2025年9月時点)。

この値段は、どう説明できるか

100%換算の株式の値段は808.4百万SGD、純資産の5.4倍です。売主への支払いと、残り14.09%の買付けを足します。

区分取得した持分シンガポールドル円(有価証券報告書)
売主から購入(2024年6月3日)85.91%694.5百万808億4,000万円
公開買付けと強制取得(6〜8月)14.09%113.9百万135億500万円
100%換算100%808.4百万943億4,500万円
うちロート製薬の持分(当社試算)60.00%485.0百万566億700万円

円は有価証券報告書の金額で、1SGDは1回目が約116.4円、2回目が約118.6円(円額÷SGD額の当社計算)。持分の行は、出資比率60.00%を掛けた当社試算です。

100%換算(808.4百万SGD)を割る数字数字倍率
純資産(2023年6月期末・監査済み)149.9百万SGD5.4倍
差額(のれん相当)658.5百万SGD ÷ 営業利益29.2百万SGD22.6年分

差額(のれん相当)は、営業利益の22.6年分です。年買法(時価純資産+営業利益1〜3年分)の上限3年の7倍を超え、利益の倍率では説明がつきません。純資産と営業利益は期が違います。株式の代金なので、借入金と現金を含めた企業価値の倍率ではありません。対象の有利子負債が、開示にないためです。有価証券報告書は、取得対価を、被取得企業の事業計画を基礎にした事業価値で決めたと書いています。

発表の756億円は、完了時に808億円になった

売主への支払額は、発表の687百万SGDから694.5百万SGDへ、7.16百万SGD増えました。公開買付けの書類の算式は、基準額687,345,640SGDに、取引費用の見積り差(4,331,200SGD)と、契約日から完了日までの加算(1日66,667SGD×60日)を足し、売却株数の割合(85.91%)を掛けるものです。契約から完了までの60日には、中国・韓国の競争当局の承認待ちが含まれます。円では約756億円(1SGD=110円)が808億4,000万円になり、約52億円増えました。内訳は価格の加算が約8億円、為替が約44億円です(当社試算。為替は逆算した約116.4円と、発表の110円の差)。

実際に計上されたのれんと、その償却

のれんは、暫定の448億円から、確定で323億円になりました。のれんは、取得額が受け入れた資産と負債の時価を上回った分です。取得原価の配分は1年以内に確定させるルールで、ロート製薬は第89期(2025年3月期)に暫定値を計上し、第90期(2026年3月期)に確定させました。取得価額80,840百万円は変わりません。

暫定から確定で動いた項目百万円
のれん(44,792 → 32,258)△12,533
商標権+26,527
無形固定資産のその他+884
商品及び製品・仕掛品+465・+93
繰延税金負債+5,873
非支配株主持分+9,441

商標権は、ロイヤリティ免除法(使用料を現在の価値にする評価)で時価を出しています。のれんは取得価額の39.9%、商標権は32.8%。のれんの発生原因は「今後の事業展開によって期待される将来の超過収益力」で、20年の均等償却。確定後の年償却は約16億円です(32,258÷20・当社試算)。商標権の償却期間と年額は、確かめた範囲の有価証券報告書に記載がありません。第90期は減損の兆候なしと判断。確定は第89期の営業利益を693百万円下げました。

残りの14.09%(135億500万円)は、支配を得たあとに非支配株主から買う取引で、のれんにならず、資本剰余金が8,763百万円減りました(第89期・暫定処理の時点)。後から買った分がのれんにならない扱いは、江崎グリコのGreenspoonと同じです。

買い手が読み取れること

利益の倍率で説明がつかない値段の物差しは、同じものを自社で作る費用と年数です。差額が営業利益の22.6年分になる会社を、利益から逆算して買うことはできません。1879年創業のブランド、170以上の店舗、30のクリニック、シンガポール・香港・マレーシアの顧客基盤を自社で作る費用と年数が、払える上限です。当社(CommerceX M&A)の見解は、払う額を対象の単体の事業計画までとし、買い手が統合後に見込む上積みは価格に入れないことです。

共同で買うと、売上とのれんは100%連結に入り、利益の取り分は持分の60%です。ロート製薬は、三井物産と創業家を出資者に入れ、購入の資金を1社で全額出さずに済ませました。残りの40%は、親会社が持たない株主の持分である非支配株主持分に入ります。

発表の価格は最終ではなく、完了までの日数と為替が金額を動かします。当社の見解は、完了の時期が価格を動かす契約では、実行時期を価格と並べて条件表に置くことです。日数ごとの加算の有無と、外貨建てなら為替の扱いも、契約前に確かめます。

取得価額の配分が確定するまで、のれんと利益の数字は暫定です。第89期の448億円は第90期に323億円へ減り、商標権265億円などが計上されました。商標権とのれんでは年間の費用が変わり得るため、初年度の利益計画を暫定の数字で作らず、配分が変わる前提で組みます。

取得後の約1年は、計画を下回りました。ロート製薬のIRは、足元の業績が当初の計画を下回ると説明しています(2025年9月時点)。主因は、主力の香港・シンガポールの景気後退と、高級商材のギフト市場の縮小です。買う側が確かめるのは、ギフトや旅行者の需要の増減の幅と、償却と金利を差し引いた後の利益です。

よくある質問

Q. ロート製薬は、いくらでユーヤンサンを買ったのですか。

A. 売主から85.91%を694.5百万SGD(808億4,000万円)、残り14.09%を113.9百万SGD(135億500万円)で買い、100%換算は808.4百万SGD(943億4,500万円)です。発表時の想定は687百万SGDでした。

Q. 86%を買ったのに、ロート製薬の持分はなぜ6割ですか。

A. 買い手のSoar R2Mを、ロート製薬・三井物産・創業家で持っているためです。ロート製薬の出資比率は60.00%で、連結には売上と資産が100%入ります。

Q. のれんはいくらですか。

A. 確定後は32,258百万円(323億円)で、20年の均等償却です。暫定の44,792百万円(448億円)から、商標権26,527百万円などを識別して、12,533百万円(28.0%)減りました。

Q. 発表の687百万SGDより高くなったのはなぜですか。

A. 契約から完了までの日数に応じた加算と、取引費用の見積り差が足されたためです(694.5百万SGD)。円では為替も加わり、約756億円が808億4,000万円になりました。

ご相談ください

持分が6割でも、連結には100%が入り、取得価額の配分は1年後に確定します。

CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。

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出典

  • ロート製薬「シンガポール漢方薬製造販売企業 Eu Yan Sang International Ltd.の株式の取得(孫会社化)及び同社に対する株式公開買付の開始について」(2024年4月4日公表・2026年10月16日確認)
  • ロート製薬「(開示事項の経過)Soar R2M Pte. Ltd.による…公開買付けに関するお知らせ」(2024年6月3日公表)・「…公開買付けの期間延長に関するお知らせ」(2024年7月4日公表)(いずれも2026年10月16日確認)
  • ロート製薬 有価証券報告書 第89期(2025年6月25日提出)・第90期(2026年6月19日提出)(2026年10月16日確認)
  • ロート製薬「2025年3月期 第1四半期 連結決算の概要」(2024年8月7日公表・2026年10月16日確認)
  • ロート製薬 公式サイト IR情報「経営戦略に関するQ&A」(2025年9月時点・2026年10月16日確認)
  • Soar R2M Pte. Ltd. による公開買付けのプレスリリース(2024年5月22日)・公開買付け書類(2024年6月10日)・強制取得の完了の公告(2024年9月6日)(Eu Yan Sang International Ltd. 公式サイト掲載・2026年10月16日確認)
  • 三井物産株式会社「シンガポール漢方薬製造販売企業ユーヤンサンの株式の取得について」(2024年4月4日公表・2026年10月16日確認)
  • Eu Yan Sang International Ltd. 公式サイト(2026年10月16日確認)

(金額は株式の代金です。100%換算・持分60%分・倍率・為替と加算の内訳・年償却額は当社試算で、ほかは開示の数字。営業利益29.2百万SGDは監査前)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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