M&Aニュース2025年8月 実行書き手:齋藤 浩喜

Mofflyの値段は非公表 ── 2021年に上場企業が51%を取ったライブコマース会社は、4年後にスピンシェルのグループへ入った

発表日2025年9月22日(グループ化の効力発生日は同年8月29日付)
譲受企業スピンシェル株式会社(2006年2月設立・東京都)
譲渡企業株式会社Moffly(2017年7月設立・東京都)
事業ライブコマース向けクラウドサービス「TAGsAPI」の提供
譲渡価額非公表(取得比率の記載もなし)
スキーム「グループ化」と発表。株式の取得とは書かれていない
出典スピンシェル ニュースリリース(2025年9月22日)・ヒト・コミュニケーションズ・ホールディングス 適時開示(2021年5月27日)・同 有価証券報告書 第3期〜第7期・2025年8月期決算短信

TAGsAPI の公式サイト (出典:TAGsAPI 公式サイト(運営:株式会社Moffly)・2026年10月16日時点の画面)

譲渡企業の概要

Mofflyは、ECサイトに短いコードを足してライブ配信とショート動画を使えるようにするクラウドサービス「TAGsAPI」の運営会社で、2020年12月期の売上高は5,678万円でした。2017年7月7日の設立で、TAGsAPIの提供開始は2018年4月23日です。

決算期(12月期)2018年2019年2020年
売上高4,18421,04556,776
営業利益△16,1144,63120,393
純資産△9,588△5,15415,352

(単位:千円。2021年5月27日のヒト・コミュニケーションズ・ホールディングスの適時開示)

売上高は2018年12月期から2020年12月期で13.6倍。営業利益は2019年に黒字になり、2020年12月期は2,039万円で、営業利益率は35.9%です(当社試算)。純資産は2019年末までマイナスで、2020年末に1,535万円になりました。取得時の導入実績は約40社でした。

2021年9月30日のMofflyの発表は、2021年7月時点の年間流通総額が30億円を超え、契約ブランド数が250件超になったと説明しています。約40社は社の数、250件超はブランドの数で、数え方が違います。年間流通総額は取扱高で、期間も売上高と違うため、2020年12月期の売上高との割合は出しません。2025年の取引時点の売上・利益・純資産は、どの開示にもありません。

譲受企業の概要

スピンシェルは、Web接客と商談のための遠隔コミュニケーション基盤「LiveCall」を2015年から提供する、2006年創業のIT会社です。資本金は1億6,800万円(資本準備金を含む。2023年7月時点・公式サイト)。事業はLiveCallの開発・運営のほか、海外事業のコンサルティングとコンタクトセンターの運営です。売上と利益は、確認できた開示にありません。公式サイトに上場や証券コードの記載はなく、適時開示も見つかりません。

M&Aの目的・背景

スピンシェルが挙げた理由は、LiveCallを中核とする基盤にTAGsAPIを加え、提供できるサービスを広げることです。2025年9月22日のリリースが述べる狙いは、LiveCallと組み合わせたサービス領域の拡張と、より多様で付加価値の高いサービスの提供です。スピンシェルの社長のコメントは、ライブコマースをはじめ新たな分野への展開を加速するというもの。Mofflyの社長のコメントは、TAGsAPIをLiveCallの柔軟なサービス体系に組み込むというものです。売上や顧客の目標、統合の時期、費用は、リリースに出ていません。

直前の持ち主だったヒト・コミュニケーションズ・ホールディングス(ヒトHD)が2021年に挙げた理由は、ライブコマースのサービスを新しく持ち、「オムニチャネル営業支援」の体制を厚くすることでした。適時開示は、コロナ禍で非対面の販売への関心が高まったことと、Mofflyの強み(企画提案から導入支援、動画の撮影支援までを一気通貫で行える力)を挙げ、ヒト・コミュニケーションズの営業力で顧客層を広げる計画としました。

M&Aの手法・成約内容

2025年の取引は、効力発生日(8月29日)と発表日(9月22日)のほかに、手法も比率も金額も開示がありません。リリースは「グループ化」と書くだけで、株式を取得したのか、別の形なのかを述べていません。売主の記載もありません。

2021年の取得は、創業者から51.0%でした。ヒトHDの適時開示によると、取得は普通株50,118株とA種優先株1,800株の計51,918株。相手先は創業者で当時の代表取締役の1名で、この創業者は取引前に株式の70.73%を持っていました。契約は2021年5月31日、実行は6月1日。取得価額は契約上の守秘義務により非公表で、連結業績への影響は軽微としました。

取引の前後の経過

2021年に上場企業の孫会社になったMofflyは、2025年8月にスピンシェルのグループへ入りました。ヒトHDの2025年8月期の有価証券報告書では、非連結子会社の一覧からMofflyの名前が消えました。同期の決算短信と有価証券報告書に、Mofflyの売却を述べた記載はありません。ヒトHDの持分がどうなったかは、どの開示にも書かれていません。

時期出来事
2021年6月1日ヒト・コミュニケーションズがMofflyの51.0%を取得(適時開示)
2021年10月13日ヒトHDの連結子会社LOWCALと、EC制作からライブ配信まで一括で支援する「TAGsAPI for Shopify」を開始(Mofflyの発表)
2025年8月29日スピンシェルがグループ化(効力発生日・スピンシェルのリリース)
2025年8月期末(8月31日)ヒトHDの有価証券報告書の非連結子会社の一覧に、Mofflyの名前がない
2025年9月22日スピンシェルがグループ化を発表
2026年1月13日スピンシェルが人材派遣サービスを発表。対応業務に「ライブコマース」を挙げるが、MofflyとTAGsAPIの記載はない

ヒトHDは、非連結子会社を「小規模会社」と記載し、連結の損益に重要な影響がないとしてきました。2024年8月期の一覧7社のうち、FMG Ramp Solutionsとフィグニーは、2025年8月期に「重要性が増した」ため連結に入りました(決算短信)。Mofflyだけが、理由の記載なく一覧から消えています。

この値段は、どう説明できるか

2回の取引のどちらにも、Mofflyの値段は出ていません。次の資料を見ました。

見た資料結果
ヒトHD 適時開示(2021年5月27日)取得比率は51.0%。取得価額は契約上の守秘義務により非公表
スピンシェル ニュースリリース(2025年9月22日)手法・比率・金額の記載なし
ヒトHD 有価証券報告書 第3期〜第7期Mofflyは非連結子会社の一覧(と沿革)に名前が出るだけで、取得原価の注記なし。第7期は名前なし
ヒトHD 2025年8月期の決算短信・有価証券報告書Mofflyの売却を述べた記載なし。連結損益計算書に関係会社株式売却益2百万円があるが、どの会社の分かの記載なし(Mofflyの売却価額とは読めない)

買い手が上場企業なら、取得価額は有価証券報告書の企業結合の注記に出ることがあります。コメ兵のiShopShopsは、株式の対価がゼロでも、注記からのれん6億6,702万円が分かりました。スピンシェルは上場企業の開示が確認できず、ヒトHDの有価証券報告書にもMofflyの取得の注記はありません(連結に入れていなかったためと読めます)。

利益の何年分か、純資産の何倍かは出せません。使える2020年12月期の決算は4年以上前で、2025年の値段の根拠にはなりません。

買い手が読み取れること

値段が出ない取引では、前の売買の開示と売主の履歴が、規模と時期の手がかりです。2021年の開示で分かるMofflyは、2020年12月期に売上5,678万円・営業利益2,039万円、導入約40社、創業者が7割を持つ会社です。取引時点の姿は、この数字から読めません。自社が同じ判断をするなら、直近の決算書と契約ごとの売上を最初に求めます。

払う上限は、単体の事業の価値までです。当社(CommerceX M&A)の見解では、自社の製品に組み込んだあとの上積みは、買った後の取り分で、価格に含めません。TAGsAPIの単体の価値は、契約の中身で決まります。料金は、取引先の売上に連動する成果報酬型と、動画の閲覧数に連動する従量課金型の2種類です(公式サイト)。型ごとの売上と契約の継続を、買う前に確かめます。

ライブコマースの売上は、取引ごとに数え方が違います。iShopShopsの売上高は流通取引総額(GMV)を含み、Mofflyの年間流通総額30億円も取扱高です。どちらも、手数料や料金だけの売上とは並べられません。

iShopShops(コメ兵)Moffly(スピンシェル)
事業の形ライブ配信で売る越境アプリの運営EC事業者に提供するクラウドサービス
売上の数え方売上高がGMVを含む成果報酬型と従量課金型
値段株式の対価ゼロ・費用2億1,293万円・のれん6億6,702万円(有価証券報告書)非公表
買い手の理由販路の拡大(グループの在庫で取扱高を伸ばす)サービスの拡張(LiveCallに組み込む)

買う理由は、一文で言えるかを金額の前に確かめます。当社は検討の最初に「買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせる」を一文にします。この件の当てはめは「TAGsAPIのライブ販売の機能を、LiveCallの接客の仕組みに組み込み、提供できる機能を広げる」です(当社の当てはめ)。開示は、伸ばす対象の数字を書きません。ライブ販売の場を取得したiShopShopsと違い、本件は機能を足す型で、買った後に見る数字が違います。

親会社が替わる取引は、前の親会社に頼っていた機能を、先に洗い出します。2021年の取得理由は、ヒト・コミュニケーションズの営業力で顧客層を広げることでした。同年10月には、ヒトHDの連結子会社LOWCALとTAGsAPI for Shopifyを始めています。親会社が替わると、営業の経路とグループ内の共同提供が続くかが論点です。当社の見解では、営業・システム・経理のうち前の親会社が担っていた業務を洗い出し、移る日に動かない機能を見つけてから価格を決めます。

よくある質問

Q. スピンシェルは、いくらでMofflyをグループに入れたのですか。

A. 非公表です。2025年9月22日のリリースに、金額・比率・手法の記載はなく、2021年のヒトHDによる51.0%の取得も取得価額は非公表でした。

Q. 上場していない買い手の取引は、どう調べればよいですか。

A. 買い手と売り手の公式発表を見ます。売り手に上場の親会社がいれば、その有価証券報告書の非連結子会社や関係会社の一覧で、増減の時期が分かります。この件は、前期まで載っていたMofflyが、ヒトHDの2025年8月期の一覧にありません。

Q. ライブコマースのクラウドサービスの売上は、どう数えますか。

A. 取扱高、成果報酬の料率、従量課金の単価、契約の継続を分けて見ます。2021年7月時点の年間流通総額30億円は取扱高で、売上高ではありません。

Q. Mofflyの持ち主は、2021年からどう変わりましたか。

A. 2021年6月1日にヒト・コミュニケーションズが創業者から51.0%を取得し、2025年8月29日にスピンシェルがグループ化しました。2025年の持分比率と、ヒトHDの持分の行き先は、開示にありません。

ご相談ください

値段が出ない取引でも、前の売買の開示と、売主の元の親会社の有価証券報告書から、規模と時期は追えます。

CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。

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出典

  • スピンシェル株式会社 ニュースリリース「LiveCallを運営するスピンシェル株式会社、ライブコマース向け動画DXソリューション「TAGs API」を展開する株式会社Mofflyをグループ化」(2025年9月22日)、「スピンシェル、Web接客のプロフェッショナルに特化した人材派遣サービスをスタート」(2026年1月13日)(いずれもPR TIMES)、同社公式サイトの会社情報・お知らせ一覧
  • 株式会社ヒト・コミュニケーションズ・ホールディングス 適時開示「当社連結子会社による株式取得(孫会社化)に関するお知らせ」(2021年5月27日)
  • 同 有価証券報告書 第3期(2021年8月期)・第4期・第5期・第6期・第7期(2025年8月期)、2025年8月期 決算短信(2025年10月14日)
  • 株式会社Moffly「【Moffly】クラウド型ライブコマースサービス「TAGsAPI」年間流通総額30億円突破!」(2021年9月30日・PR TIMES)、「ECサイトがない事業者様に朗報!ECサイト制作からライブコマース配信までを一括支援する「TAGsAPI for Shopify」が提供開始」(2021年10月13日・PR TIMES)
  • TAGsAPI 公式サイト(運営:株式会社Moffly)の料金・お知らせ一覧・会社情報

(出典はいずれも2026年10月16日確認。売上高の増加倍率と営業利益率は、2021年5月27日の適時開示の数字から当社が計算しました)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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