M&Aニュース2024年6月 発表書き手:齋藤 浩喜

久保田信息系統(蘇州)に7,900万円 ── クボタの中国システム子会社を、トランスコスモスは純資産と同額で買った

発表日2024年6月11日(全株式の取得に合意した日も同日)
譲受企業トランスコスモス株式会社(東証プライム 9715)
譲渡企業久保田信息系統(蘇州)有限公司(2012年2月設立・中国江蘇省)。クボタの中国統括会社の100%子会社
事業クボタグループ向けのシステム開発・運用保守、SAP改修・保守、中国のデータセンター運用
譲渡価額7,900万円(全株式の取得価額。トランスコスモスの有価証券報告書の記載)
スキーム株式譲渡(全株式・100%)
出典トランスコスモス ニュースリリース(2024年6月11日)・有価証券報告書 第40期

譲渡企業の概要

久保田信息系統(蘇州)は、クボタと中国のグループ会社向けにシステムを開発・運用する、2012年2月設立の会社です。ニュースリリースは事業を、オフショア開発と中国国内でのシステム開発・運用保守・サポートと書き、提供業務にSAPの改修・保守と中国のデータセンター運用を挙げます。

株主は、クボタの中国統括会社「クボタ(中国)投資有限公司」で、持分は100%。代表者は、クボタの理事が兼ねていました(ニュースリリースの写真説明)。顧客として開示されているのはクボタと中国のグループ会社です。外部の顧客がいるかどうかは、開示にありません。

親会社のクボタは、農業機械・建設機械と水・環境を柱とする東証プライムの会社で、2024年12月期の連結売上高は3兆162億8,100万円です(有価証券報告書)。

売上・利益・従業員数・取得前の純資産は、ニュースリリースにも有価証券報告書にも出ていません。出ているのは、連結に入れた日の資産と負債だけです。

譲受企業の概要

トランスコスモスは、企業の問い合わせ対応や事務の受託(BPO)とデジタルマーケティングを手がける会社で、中国では1995年からシステム開発を手がけています。創業は1966年6月。2025年3月期の連結売上高は3,758億4,900万円、営業利益は144億7,500万円です(有価証券報告書)。

ニュースリリースによると、中国では1995年に天津でシステム開発子会社を設立し、いまは蘇州・済南・日本にも拠点があります。エンジニアは1,600人です。

M&Aの目的・背景

狙いは、クボタグループ向けの中国IT事業の引き継ぎと、SAP改修・保守事業の取り込みです。ニュースリリースは、この買収で久保田信息系統(蘇州)が担うクボタグループの中国IT事業を引き継ぎ、これまで提供していなかったSAP改修・保守事業も同社から引き継いで、事業拡大をはかると書きます。2024年7月31日の第1四半期決算短信は、取得の目的を「日本および中国向けのシステム開発事業を拡大・強化するため」と位置づけています。

買い手のトランスコスモスの中国事業本部長は、ニュースリリースで、クボタの構造改革による業務効率向上の狙いと、自社の中国システム事業拡大の狙いが「完全に一致した」と述べています。クボタの狙いを書いたこの部分も、買い手側のコメントです。

売主のクボタ側の説明は、見当たりません。クボタの2024年12月期の有価証券報告書は、この売却に触れていません。同じ報告書の経営方針には、コーポレート機能の縮小と、機能重複の解消による間接コストの削減が書かれています。ただし、この売却との関係は書かれていません。買い手側のコメントにある「構造改革」が、これと同じものを指すかは確かめられません。

EC事業との関係は、開示から言えません。取得の理由にECへの言及はなく、対象会社の事業はクボタグループ向けのシステム開発と運用です。ニュースリリース末尾の会社紹介にはグローバルECのワンストップサービスが載りますが、取得の理由とは別の定型文です。

M&Aの手法・成約内容

取得は、対象会社の全株式(100%)を買う株式譲渡です。ニュースリリースは「2024年6月11日付で取得することに合意」と書き、発表日も同じ6月11日です。

取得価額とアドバイザーの記載は、ニュースリリースにありません。価格は、トランスコスモスの有価証券報告書(2025年3月期・2025年6月23日提出)にあります。連結に入った時期は、開示を順に追うと次のとおりです。

時点開示の内容
2024年6月11日全株式の取得に合意(ニュースリリース)
2024年7月31日第1四半期決算短信が合意を記載。期中の連結範囲の重要な変更は「無」
2024年9月30日までの中間期連結キャッシュ・フロー計算書に、子会社株式の取得による収入71百万円
2025年3月期新たに連結した子会社として、「大宇宙信息系統(蘇州)有限公司」を記載

有価証券報告書の社名は「大宇宙信息系統(蘇州)有限公司」です。クボタ側の旧社名と「信息系統(蘇州)有限公司」が一致し、同期に新規連結した子会社がこの1社だけなので、当社は同じ会社と読みます。

この値段は、どう説明できるか

取得価額は7,900万円で、連結に入れた日の純資産と同額です。のれんは出ていません。有価証券報告書の連結キャッシュ・フロー計算書の注記が、連結開始時の資産と負債、株式の取得価額を載せています。

項目金額
株式の取得価額(100%)7,900万円
連結開始時の資産2億3,700万円(流動資産2億2,300万円・固定資産1,400万円)
連結開始時の負債1億5,800万円(流動負債)
受入純資産(資産−負債)7,900万円
差額(のれん)0円(注記にのれんの行なし)
純資産の何倍1.0倍
対象会社の現金及び現金同等物1億5,100万円

100%の取得なので、100%換算は不要です。会社全体の評価額は7,900万円で、受入純資産と一致します。売上と利益は開示にないため、営業利益の何年分、売上の何倍は出せません。

のれんの行がないことは、連結貸借対照表からも確かめられます。のれんの残高は2024年3月期末の842百万円から2025年3月期末の619百万円に減り、減少額は同期の償却額222百万円とほぼ同じです。新しいのれんは足されていません。同期の負ののれん発生益の欄は「重要性が乏しいため記載を省略」で、受入純資産と取得価額の差は、表示単位の百万円に収まります。

現金が代金を上回った

対象会社は代金より多い現金を持っていました。連結に入れた日の現金及び現金同等物は1億5,100万円で、代金7,900万円を7,200万円上回ります。連結のキャッシュ・フローには、取得による収入が71百万円出ています。79百万円と151百万円の差は72百万円で、1百万円の違いは百万円未満の端数と読めます。

現金を引くと、対象会社の残りは、資産8,600万円(現金以外の流動資産7,200万円・固定資産1,400万円)に対して負債1億5,800万円で、純資産はマイナス7,200万円です(当社計算)。流動負債に借入金が含まれるかは、開示にありません。

買い手の規模から見ると

7,900万円は、トランスコスモスの2025年3月期の連結営業利益144億7,500万円の0.55%、連結総資産2,079億8,400万円の0.04%です(当社計算)。有価証券報告書の企業結合の注記は「重要な企業結合等はありません」と書きます。当社が2026年9月4日に確認した範囲では、適時開示は出ていません。

取得後に開示された数字

取得後の対象会社単独の数字は、開示にありません。2025年4月30日の決算説明会資料は、この取得を「サービス体制の強化」の活動トピックとして1行載せるだけです。業績への影響や売上の寄与は、決算短信にも有価証券報告書にも書かれていません。

のれんがないため、のれんの償却も減損もありません。買い手の損益に出るのは、事業そのものの成績です。

買い手が読み取れること

グループ向けのIT子会社は、帳簿の純資産と同額で売られました。受入純資産と取得価額が同額で、のれんがありません。売上と利益が開示にないため、利益を前提に値段を決めたかは確かめられません。親会社グループが顧客として開示されている会社には、営業利益の倍率で上限を置く前に、純資産と現金、親会社との契約で売上がいつまで続くかを先に見ます。

払う額は、現金を引いてから見ます。代金7,900万円に対し、現金は1億5,100万円付いてきました。現金を引くと純資産はマイナス7,200万円です。EC・D2Cの会社を買うときも、貸借対照表の現金を先に外すと、事業そのものへの支払いが見えます。現金が代金を上回る取引は、同じ手順で読めます(アールケイエンタープライズに42億円 ── のれんは営業利益の3.3年分、引き継いだ現金は25億円)。

親会社グループが顧客として開示されている子会社では、親会社との契約を価格より先に確かめます。当社(CommerceX M&A)の見解として、確かめる項目は3つです。取引契約の期間・単価・解約条件、親会社名義のシステムやライセンスの移管、現場を支える人の残留。本件では、クボタ向けの業務が続くかどうかが、買った会社の売上を決めます。契約の中身は開示にありません。

自社にない機能を買うなら、自社で作る費用と期間を先に見積もります。SAP改修・保守は、トランスコスモスが「今まで提供していなかった」事業です。人材と顧客の関係を新たに作る費用と、7,900万円を比べた記述は開示にありません。同じ判断をするなら、同じ体制を自社で作る費用と期間を出し、それを代金の上限にします。

ニュースリリースに金額がなくても、有価証券報告書の連結キャッシュ・フロー計算書の注記で値段を拾えることがあります。当社の見解として、金額が非公表とされた取引は、買い手が上場企業なら、企業結合の注記、共通支配下の取引の注記、連結キャッシュ・フロー計算書の3か所を確かめます。本件は、企業結合の注記が「重要な企業結合等はありません」でも、キャッシュ・フロー計算書の注記に取得価額と受入資産・負債が出ていました。

よくある質問

Q. トランスコスモスは、いくらでクボタの中国システム子会社を買ったのですか。

A. ニュースリリースに金額はありません。有価証券報告書の連結キャッシュ・フロー計算書の注記に、株式の取得価額79百万円(7,900万円)と記載されています。全株式(100%)の取得で、連結に入れた日の受入純資産も同額です。

Q. のれんは出ましたか。

A. 出ていません。取得価額と受入純資産が同額で、連結ののれん残高は842百万円から619百万円へ、償却222百万円の分だけ減りました。のれんの償却も減損も生じません。

Q. クボタは、なぜ中国のシステム子会社を手放したのですか。

A. クボタ自身の説明は開示に見当たらず、クボタの有価証券報告書もこの売却に触れていません。買い手のトランスコスモスは、クボタの構造改革による業務効率向上の狙いと自社の中国システム事業拡大の狙いが「完全に一致した」と述べていますが、これは買い手側の説明です。

Q. 利益が分からないグループ向けのIT子会社の値段は、何で決まりますか。

A. 本件は純資産と同額でした。売上と利益が開示にないため、営業利益の何年分かは出せません。対象会社の現金は代金より7,200万円多く、現金を除くと純資産はマイナス7,200万円です。買い手が見るのは、純資産と現金、親会社との取引契約の継続です。

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親会社グループ向けの子会社は、利益の倍率ではなく、純資産・現金・親会社との契約で読みます。

CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。

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出典

  • トランスコスモス株式会社「クボタの中国システム子会社を買収」ニュースリリース(2024年6月11日公表・2026年10月16日確認)
  • トランスコスモス株式会社 2025年3月期 第1四半期決算短信(2024年7月31日公表)・第2四半期(中間期)決算短信(2024年10月31日公表)・2025年3月期 決算短信と決算説明会資料(2025年4月30日公表)・有価証券報告書 第40期(2025年6月23日提出)(いずれも2026年10月16日確認)
  • 株式会社クボタ 有価証券報告書 第135期(2025年3月21日提出・2026年10月16日確認)

(7,900万円は、有価証券報告書の連結キャッシュ・フロー計算書の注記にある「新規取得連結子会社株式の取得価額」79百万円で、百万円単位の開示値です。受入純資産は、同じ注記の流動資産223百万円・固定資産14百万円・流動負債158百万円から出した差額で、取得価額と一致します。現金1億5,100万円は同注記の「新規取得連結子会社の現金及び現金同等物」151百万円です。現金を除く純資産マイナス7,200万円と、買い手の規模に対する比率(0.55%・0.04%)は、開示の数字から出した当社計算です。財務数値は連結開始時の資産・負債で、対象会社の決算書ではありません)

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

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