EC事業の売却はどんな順番で進むのか ── 売ると決めてから決済までの7つのステップと、売り出す時期
将来は売却したいと考えているEC事業者は、とても多いと思います。そこで出てくるのが「実際には、どんな順番で最後まで進むのか」という問いです。
売却の流れは、仲介会社などに相談したあとの手順として説明されることが多い。この動画では、その前の段階から話しました。売ると決めてから決済まで、基本は7つのステップ。かかる期間と、いつ売り出すかの考え方もあわせて書きます。
この記事の結論は次の4つです。
- 売却は、相手探しを始める時期の決断から決済まで、7つのステップで進む。仲介会社などに相談する前の、いつ動くか、誰に頼むかの決断も含みます
- 相手が見つかるまでの4つのステップは準備期間。相手がいないとM&Aは始まらないため、ここまでは早めに進めてよいと考えています
- 準備が整った会社は、相手探しから半年ほどで終わることもある。準備を始める時点から数えると、1年から2年の余裕を見ておきたいところです
- 売り出す時期は、売上が落ちる前。伸びている事業ほど手放す決断はしにくく、落ちてから売りたくなる人が多くいます
売却の7つのステップ(動画 0:26〜)
売却は、相手探しを始める時期の決断から最終契約と決済まで、7つのステップで進みます。前半の4つは売り手の準備、後半の3つは相手が決まってからの実務です。
| ステップ | やること | この段階で売り手が気をつけること |
|---|---|---|
| 1. 相手探しを始める時期を決める | いつから売却を検討し、相手を探すかを決める | 2年後ほどに売ると考えた時点で、次はどう準備するかに移る |
| 2. アドバイザーを選ぶ | 仲介会社、マッチングのプラットフォーム、FA(ファイナンシャルアドバイザー)、自分で直接探すなどから、相手の探し方を決める | 業種に詳しく、事業を理解している専門家に頼む |
| 3. 企業概要書を作る | 会社の情報、商品と特徴、事業の流れ、組織、商品ごとの売上を資料にまとめる | 買い手はこの資料で買いたいかを考える。専門家に頼むことが多い |
| 4. 相手を探す | 買い手の候補を数十社から数百社挙げ、順に企業概要書を持っていく | 本業をしながら1人で100社に当たるのは、ほぼ無理 |
| 5. 基本合意を結ぶ | 相手と基本合意を結ぶ。LOI(意向表明書)など、形はいくつかある | 本当にこの相手と進めるかは、相手が出てきてから決める |
| 6. デューデリジェンス(DD)を受ける | 買い手が、売上や決算書の情報が正しいかを調べる | 質問と資料がとても多い。情報を先に固めておく |
| 7. 最終契約を結び、決済する | 最終契約を結び、クロージング(売却の完了)と決済まで進む | DDで問題がなく、条件がまとまったときに進む |
仲介会社などに相談する前に、いつ相手を探し始めるか、誰に頼んでどう探すかの2つを決めます。当社の支援の流れを5つの段階に分けた話は、[EC・D2Cの会社の売却は、相談から何をするのか]((/news/video-steps-from-consult-to-sale)で書いています。
企業概要書は、買い手に会社の良さを伝える資料(動画 1:01〜)
企業概要書は、自社の説明と良さを買い手に伝える資料で、ECでいえば商品のLPにあたります。この資料の出来で、買い手が買いたいと思うかが変わります。
書くのは、住所や株主といった一般的な会社の情報。そのうえで、扱っている商品とその特徴を書きます。事業の流れも書く。たとえば、中国の工場にOEM(自社ブランドの商品の製造を任せること)で作ってもらい、フォワーダー(輸入の手配をする業者)を使って日本に運ぶ。倉庫からAmazonのFBA(Amazonの倉庫に預けて発送を任せる仕組み)に納品する。組織の形も、外注を中心に回しているといった中身まで書きます。商品にはいくつものSKU(色やサイズまで分けた商品の単位)があるため、商品ごとの売上の比率を3期分まとめる。
買い手はこれを見て、このブランドはいい、自社で買収したいと考える。ECサイトの出来で転換率が変わるのと同じです。自分で作るのはかなり大変で、専門家に頼むことが多い。中身は[企業概要書とは何か]((/news/video-company-profile-document)でも話しています。
相手が見つかるまでは準備期間(動画 2:21〜)
相手探しまでの4つのステップは準備期間で、ここまでは早めに進めてよいと考えています。本当にこの相手と進めるかは、相手が出てきてから決めれば足ります。
相手探しは、仲介会社ではマッチングと呼ばれる作業です。ロングリスト(買い手候補の一覧)作りとも言います。買い手の候補を、何十社、何百社と挙げる。この会社が買えば自社の事業が伸びる、という先だけではありません。EC事業を買収したい、自社ブランドが欲しい、ECのノウハウが欲しい。そうしたニーズを持つ会社は多い。リストを作り、順に当たっていきます。
企業概要書を相手に持っていく作業は、仲介会社やアドバイザーが担います。本業をしながら1人で100社に持っていくのは、手間を考えるとほぼ無理。だから専門家選びと企業概要書づくりが大事で、業種に詳しく理解のある人に頼むことを勧めています。
「相手先が出てこないと、M&Aは何も始まらないんですね」(3:32)
M&Aは、よく結婚にたとえられます。まだ結婚しなくていい、いつでもできると言っていても、いつでも結婚してくれる相手はなかなかいません。売っても売らなくてもいいと考えていても、相手がいなければ意味がない。
相手が決まってからは、調査への対応が負担になる(動画 4:14〜)
相手が出てきてからは実務の手続きで、とくにデューデリジェンスへの対応が売り手の負担になります。質問の量も、求められる資料の量もとても多いからです。
相手と話が進むと、基本合意を結びます。LOIなど、形はいくつかある。そのあとがデューデリジェンス(DD)で、買い手が会社を調べる手続きです。このブランドは本当にこれだけ売れているのか。決算書の情報は正しいのか。買い手は高いお金を払って買うため、買ったあとに問題が起きないよう、先に調べます。
譲渡するオーナーにとっては、ここが大変です。本業を続けながら、多くの質問と資料に応えることになる。1社で済めばよいのですが、DDまで進んで話がまとまらず、次の1社、また次の1社と繰り返すと疲れてしまいます。売るのをもうやめようかと考える人も多い。DDは必ずあるため、情報を先に固めておくことが大事です。
DDで問題がなく条件がまとまったら最終契約を結び、クロージングと決済まで進みます。基本合意から最終契約までの流れはM&Aはどこから後戻りできなくなるのかにまとめています。
期間は、準備が整っているかで変わる(動画 5:32〜)
準備が整った会社は相手探しから半年ほどで終わることもありますが、準備から数えると1年から2年の余裕がほしいところです。短い期間で終わるのは、準備が全部整っている場合に限られます。
すぐに相手を探して、すぐにM&Aをしたい場合。早ければ3か月、まれに2か月で終わることもあります。そろそろ準備しようかと考え始めた時点から数えると、1年、1年半、あるいは2年ほどの余裕がほしい。相談から成約までの期間の内訳はEC事業の売却は何か月かかるのか ── 半年〜1年の内訳と、止まる5つの場所で整理しました。
婚活と同じで、何人もの人とデートを重ね、この人がいいと思って結婚するまでに2年、3年とかかることもある。M&Aも、余裕を持って7つのステップを進めます。
売り出す時期は、売上が落ちる前(動画 6:55〜)
伸び続ける事業はなかなかないため、売上が落ちる前に相手探しを始めることが大事です。売却をいつ決めるかは、とても難しい判断です。
自分の事業が順調に伸びていると、このタイミングで手放す決断はなかなかできません。
「株みたいなもので、伸びてる時に売却ってなかなかできないじゃないですか。落ちてるからこそ売りたくなる。本当、事業もそうなんですよね」(7:11)
相談を受ける中で、売る理由には型があると分かってきました。
| 売る理由の型 | 中身 | 私の見方 |
|---|---|---|
| 1. ほかにやりたい事業がある | 今の事業に飽きた。やりたいほうに集中したいので、今の事業を売る | 健全な理由 |
| 2. 売上がピークを過ぎた | 売上がこれ以上伸ばせず、落ちてきたので売る | とても多い。どこかで落ちると考えて、落ちる前に相手を探すのが大事 |
| 3. 成長戦略型 | 一緒になれば商品力が上がる、持っていない販路が広がる、資金力で仕入れを増やせる | 最近とても増えている。ブランドをもっと伸ばすうえで大事 |
売るか待つかを手取りで比べる方法は、会社を今売るか、3年後に売るかはどう比べるのかで書きました。
売却額と売却後の条件は、準備で変わる(動画 9:00〜)
7つのステップのうち、売却額と売却後の条件を左右するのは、相手を探す前の準備だと私は考えています。準備しだいで、良い条件のM&Aに近づきます。
相手探しそのものは、決算書があれば始められます。差がつくのは、その前の段階です。情報をできるだけ整理する。社長に頼っている部分(属人性)を、仕組みにしておく。こうした準備が、最終的な売却額を上げます。売却後のロックアップ(売却後も一定の期間、役員として残る約束)や引き継ぎの条件も、緩くなりやすい。
この記事のまとめ
- 売却は、相手探しを始める時期の決断から最終契約・決済まで、7つのステップで進む
- 企業概要書は、ECでいえば商品のLP。相手探しまでの4つは準備期間で、相手が出てこないとM&Aは始まらない
- DDは必ずある。質問と資料が多いため、情報を先に固めておく
- 準備が整った会社は半年ほどで終わることもある。準備から数えると1年から2年の余裕を見る
- 売り出すのは売上が落ちる前。売却額と売却後の条件は、相手を探す前の準備で変わる
よくある質問
Q. 仲介会社などに相談する前に、売り手がやることはありますか。
A. あります。いつ相手を探し始めるかと、誰に頼んでどう探すかを決める。そのうえで情報を整理し、社長に頼っている部分を仕組みにしておきます。
Q. 売却には、どのくらいの期間がかかりますか。
A. 準備が全部整っている会社は、相手探しから半年ほどで終わることもあります。早い場合は3か月、まれに2か月のこともある。準備を始める時点から数えると、1年から2年の余裕を見ておくのがよいと考えています。
Q. デューデリジェンスでは、何を調べられますか。
A. 買い手が、ブランドが本当にその売上を出しているか、決算書の情報が正しいかを調べます。質問の量も、求められる資料の量もとても多い。本業と並行して応えるため、情報を先に固めておくことが大事です。
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この記事の結論は「売却は7つのステップで進み、売却額と売却後の条件は相手を探す前の準備で変わる」です。
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