会社を今売るか、3年後に売るかはどう比べるのか ── 手取りの試算と13の問い、数億円で売った経営者のその後

「会社を今売ったほうがいいのか。3年後のほうがいいのか」。売却を考え始めた経営者の多くが迷うところで、私の面談も普段からこうした相談が中心です。

この動画では、売るか待つかを比べるために作った当社の診断の道具を、実際の画面で動かしました。動画での入力例をもとに、手取りの差と数字に出ない比べ方を書きます。最後の章は、数億円で会社を売った人の経歴が次の仕事で評価されるか。

この記事の結論は次の4つです。

  • 比べるのは、今この金額を受け取るか、3年後に受け取れるかもしれない額を待つか。動画の入力例では、今売ると税引き後の手取りが約2億円、売らずに3年続けると役員報酬の手取りが約2,200万円でした
  • 手取りのほかに、数字に出ない軸も並べる。経営の自由、報酬と経費の使い方、時間の自由、売却後に伸びた分の利益、従業員、後継者です
  • 13の問いに答えると、急いで売る理由があるかが見える。入力例では、自分が抜けても利益を保てて、売ったお金が必ずしも要らないため、急ぐ必要はないかもしれないという結果でした
  • 数億円で売った経営者の経歴は、次の仕事でも評価される。ブランドを立ち上げた経験を生かし、また事業を始める人が多いと見ています

売るか待つかを比べる道具を作った理由(動画 0:30〜)

売るかどうかは金額だけで決まらないため、条件を入れて比べる診断の道具を作りました。正解は出ませんが、考える手がかりになります。

面談でよく聞かれるのは「いくらで売れますか」です。正確には企業価値の算定(バリュエーション)をしますが、「利益の3年分」というざっくりした目安を持つ方が多い。ただ、売るかどうかは金額だけでは決まりません。売ったあとにやりたいことがあるか。役員として残って、まだ働きたいか。いろいろな条件が重なって、最後にやるかどうかが決まります。

そうした条件を入れていくと、自分の希望に沿った進め方の手がかりが出る。そういう道具を作りました。動画で使った当社の診断の道具は、動画の説明欄からも開けます。

「正解はないと思います。正解はないけど、めちゃくちゃヒントになると思うので、ぜひ見てもらえればと思います」(1:21)

今売ると手取りはいくらか、動画での入力例(動画 1:32〜)

動画の入力例では、売却価格が約2.5億円、税引き後の手取りが約1.9億円でした。数字は動画で仮に入れた例で、自社の数字を入れると結果は変わります。

動画では、年商5億円ほどの会社を5年経営してきた経営者を想定して入力しました。

入力した項目動画での入力例
経営してきた年数5年。年数でも評価は変わり、同じ水準の利益が10年ほど続いている会社は評価がよい
個人の資産(会社ではなく個人)5,000万円
役員報酬(1年)1,000万円
営業利益5,000万円(年商5億円ほどで、利益率を10%と見た)
ネットキャッシュ(借入をすべて返したあとに、会社に残る現金)1億円
資本金100万円
利益の何年分で見るか3年分
今後の業績横ばい
売却後の残り方2年は役員として残り(ロックアップ=売却後も一定の期間、役員として残る約束)、報酬1,000万円を受け取り続ける

利益の3年分は、一般的な目安として入れた数字。営業利益に対する倍率で、上場企業の株価収益率(PER=株価が純利益の何倍か)とは物差しが違います。公表された事例の倍率の幅はEC事業は「利益の何倍」で売れるのかで整理しました。

この条件で、売却価格はおよそ2.5億円。株式譲渡では20.315%の税金がかかり、差し引いた手取りは約1.9億円、およそ2億円になります。売る形による税の違いは会社ごと売るか、事業だけ売るかにまとめています。

私は税理士ではないため、税金はざっくりの計算。正確には、M&Aの支援会社に払う手数料なども引いた額が手取りになります。動画の試算では、手数料までは引いていません。

売らずに3年続けた場合と比べる(動画 3:39〜)

比べるのは、今この金額を受け取るか、3年後に受け取れるかもしれない額を待つかです。売らない場合に入るのは役員報酬だけで、入力例では3年分の手取りがざっくり2,200万円でした。

比べる項目今売る売らずに3年続ける
手に入るお金売却価格 約2.5億円役員報酬(1年1,000万円)
税引き後の手取り約1.9億円(およそ2億円)3年でおよそ2,200万円
会社手元から離れる手元に残る。3年後に売るなら、そのときの値段が加わる

売らずに続けると、会社は手元に残ります。ただ、3年後にいくらで売れるかは分からない。業績が下がれば今と同じ金額で売れないかもしれず、伸びればもっと高く売れるかもしれない。道具では、今の評価で売った場合と売らなかった場合をそのまま並べています。

個人資産を入れる理由(動画 11:08〜)

個人資産を入れるのは、お金が手に入る早さを比べるためです。入力例では、5年の経営で個人資産が5,000万円。1年に1,000万円ほど貯まっている計算です。同じペースで続けると、あと5年で合計1億円ほどになる。今売ると、手取りの約2億円がすぐに加わります。お金が手に入る早さだけで見ると、今売るほうが早い。考え方はいくつもあり、ここの判断は難しいところです。

数字に出ない比較の軸(動画 4:24〜)

手取りの額のほかに、経営の自由や時間の自由など、数字に出ない軸でも比べます。道具では、売却した場合としない場合を軸ごとに並べています。

比べる軸売却した場合売却しない場合
まとまった現金手に入る入るのは役員報酬だけ
経営の自由株主が変わり、投資などに第三者の判断が要る。すぐ抜けるなら、経営とは関係がなくなる今のまま自由
報酬・経費の使い方報酬や接待交際費などを、自分では決めにくくなる今のまま自由
大手と組んで伸ばす、安定させる○(一緒になったほうが伸びる、安定する場合)△
時間の自由△(引き継ぎで1年・2年・3年のどれだけ残るかで変わる)×(暮らしは今と変わらない)
競合や伸び悩みの不安解放される伸ばし続けなければならない
売却後に伸びた分の利益×(受け取れない)○(自分のもの)。業績が下がると売れなくなり、ゼロになることもある
従業員△(大手の傘下で給与や体制が良くなることもあるが、相手しだい)△

後継者がいない問題は、売却して株を引き継いでもらうことで解決します。数字で表せない軸がこれだけ多いため、道具の結果は参考として使います。

譲渡の相談が来るとき、業績は落ちていることが多い(動画 6:44〜)

頭打ちを感じてからでも3年で伸びる可能性はありますが、譲渡の相談は業績が落ちてから来ることが多いです。売る理由があっての相談なので、理由も後ろ向きなものが多くなります。

「伸びてるタイミングが売り時だと僕は思ってるので、そのタイミングでこういうのを冷静に考えられると、めちゃくちゃいいかなと思ってます」(7:20)

13の問いで、急いで売る理由があるかを確かめる(動画 7:29〜)

道具には手取りの試算に加えて13の問いがあり、答えていくと急いで売る理由があるかが見えます。動画では、先ほどの仮の経営者として答えました。

番号問い動画での答えの例
1売却したあとに、やりたいことはあるかあるが、はっきりは決まっていない
2そのやりたいことに、売却したお金は必要かあれば助かる
3経営を続けるとして、今の熱量を保てるか正直きつい。横ばいになると、やる気が下がる
4今売らなければならない理由はあるか差し迫った理由はない
5M&Aをせずに、まだ伸ばせるか頭打ちを感じている
6大手と資本提携して、もっと伸ばせる見込みはあるかある。伸びる絵が描ける
7会社の借入に、個人の連帯保証はあるかある。いくらか重い
8株主が変わり、1人で決められなくなっても続けられるかしんどい。耐えられない
9そりの合わない株主になっても耐えられるかつらい
10売却後も役員として残り続けることを、受け入れられるか期間と範囲による
11手取りと同じ約2億円の現金で、この会社を自分で買うか買わない
12今売ったときの手取りは、自分の希望に対して十分か足りない。年間の生活費が数千万円なら、2億円では足りない
13自分が抜けても、会社として今の水準を保てるか保てる。伸ばすのは無理でも、今の水準なら

この答えの場合、結果は「急いで売る必要はないかもしれない」でした。自分がいなくても利益を保てる人は、売らなくても時間をつくれて、やりたいこともできる。売却したお金が、絶対に必要なわけでもない。だから急いで売らなくてよいかもしれない、という見立てです。

13の問いのうち、結論を分ける問いは伸びているうちに売るか、待つか ── 売ると決める前に確かめる2つの問いで整理しました。

数億円で売った経営者の経歴は売れるか(動画 12:41〜)

数億円で事業を売った経営者の経歴は、次の仕事でも評価されます。D2CやECで売った人の多くは、ブランドを立ち上げてきた経験を持っているからです。

ロックアップが終わって会社を離れたあと、新しく事業を立ち上げるのは大変だと考え、運営の代行やコンサルティングの仕事を選ぶ人もいます。その経歴で収入は得られるか。得られると私は考えています。立ち上げのスキルを生かせるうえ、ゼロから事業を作る(ゼロイチ)のが好きな人が多い。また何かを始める人、別のブランドを作る人が多いと思います。

一方で、売却で得たお金で欲しいものを買い、大きく使う人もいます。売ったあとの収入がどうなるかは、人によって違う。

「ゼロイチが好きな人って、5年ぐらいやったらちょっと飽きて、次に行きたいというのがあるので、新規事業を立ち上げて、伸ばせるところに売って、また立ち上げてってやる方が楽しい気はします」(13:20)

2回目は、1回目より効率よく進められるかもしれません。成長を求める人には、上場会社に入って、その会社をさらに伸ばす道もある。売却の経験を持って、上場会社の事業部長クラスに転職する人もいます。売ることを考えるだけでも、その先の選択肢は広がります。

この記事のまとめ

  • 売るか待つかは、今受け取れる手取りと、3年後に受け取れるかもしれない額で比べる
  • 動画の入力例では、今売ると手取り約2億円。売らずに3年続けると役員報酬の手取り約2,200万円に、会社が残る
  • 経営の自由、時間の自由、売却後に伸びた分の利益など、数字に出ない軸も並べて比べる
  • 13の問いで、自分が抜けても利益を保てるか、売ったお金が要るかを確かめる
  • 数億円で売った経営者の経歴は評価され、また事業を立ち上げる人が多い

よくある質問

Q. 診断の道具の結果どおりに、売るかどうかを決めてよいですか。

A. 結果は参考として使います。売るかどうかに正解はない。手取りの額のほかに、数字で表せない軸が多いからです。自社の数字と希望を入れて、考える手がかりにします。

Q. 今売るのと3年後に売るのは、何で比べればよいですか。

A. 今受け取れる税引き後の手取りと、3年分の役員報酬の手取りに3年後の会社の値段を足した額で比べます。3年後の値段は、業績が下がれば今より低く、伸びれば高くなる。個人資産を入れると、お金が手に入る早さの違いも見えます。

Q. 数億円で会社を売ったあと、収入は得られますか。

A. 得られる人が多いと見ています。D2CやECで売った人は、ブランドを立ち上げた経験を生かして、また事業を始めることが多い。上場会社に入って事業を伸ばす道もあります。売ったお金を大きく使う人もいて、その後は人によって違う。

ご相談ください

この記事の結論は「今売るか3年後に売るかは、手取りの差と、数字に出ない条件を並べて比べる」です。

売却を考えている方へ。売るか待つかに正解はなく、手取りの差と、経営や時間の自由などの条件を並べるところから始めます。まだ売るには早いかと迷っている段階でも、ご相談いただけます。

買収を考えている方へ。売り手は手取りの額のほかに、経営の自由や売却後の働き方も比べて決めています。条件をうかがい、合う譲渡の情報をご案内します。

買収をお考えの方へ

→ 案件を見る

→ 買収の相談をする

売却をお考えの方へ

→ 売却の相談をする

書き手
齋藤 浩喜さいとう ひろき
CommerceX M&A株式会社 代表取締役

2014年より輸入・EC事業で起業。8年間で海外ブランドの日本展開に注力し、累計30以上のブランドの立ち上げ日本展開を行う。

2022年に自ら立ち上げたゴルフブランドPuttOUT事業をCommerceXグループへ事業譲渡。その経験を機に、国内最大手M&A仲介会社に入社。コマース領域のM&A実務に従事した。2026年5月、CommerceX M&A株式会社を設立し代表取締役に就任。同時にCommerceXホールディングス執行役員として、EC・小売領域のM&AとAI活用を推進している。

あわせて読みたい

あなたの状況で聞きたいことはありませんか

売却も買収も、初回のご相談は無料です。秘密は秘密保持契約で守られます。