企業概要書とは何か ── M&Aにも融資の相談にも使える、会社の説明資料
「企業概要書という言葉は聞くけれど、会社を売るつもりがなければ関係ないのでは」。M&Aを考えていない経営者の多くは、そう思っているかもしれません。
私は、EC・コマース領域に絞ってM&Aを支援するCommerceX M&Aを運営しています。事業や会社を営む人は、M&Aと関係なく企業概要書を作ったほうがよいと考えている。この動画では、企業概要書とは何か、中に何を載せるか、売らない会社にどう役立つかを、見本を見せながら話しました。
この記事の結論は次の4つです。
- 企業概要書は、会社の成り立ちから事業・財務・事業計画までを1つにまとめた資料。M&Aでは、買い手はこの資料で、興味を持つかどうかを判断します
- 売るつもりがなくても役に立つ。社長の頭の中にある情報が形になり、銀行や組む相手にも会社の中身を伝えやすくなります
- 財務には、事業に関係のない費用などを除いて見直した「修正後の営業利益」を載せる。資産も、本当にあるか、全部売れるかを確かめて修正します
- 作り込んでおくほど、あとから論点が出て破談になる確率を減らせる。調査で出やすい論点を、前の段階で知っておけるからです
企業概要書とは何か(動画 0:53〜)
企業概要書は、その会社のことがおおよそ分かるように、事業と財務の情報を1つにまとめた資料です。M&Aの業界では、IM(インフォメーション・メモランダム)とも呼ばれます。
中に入るのは、会社の成り立ち、どんな社長が経営しているか、事業の内容、売上の内訳、組織図、事業計画。M&Aを前提にした企業概要書には、希望する金額や、いつまでにM&Aをしたいかも載せます。
M&Aでは、買収したい企業はこの資料だけで、その会社に興味を持つかどうかを判断します。だから企業概要書はとても重要です。買い手が企業概要書のどこを確かめるかは、企業概要書はどこを疑うべきか ── 章ごとの「疑う場所」と確かめ方で整理しました。
売るつもりがなくても役に立つ(動画 1:29〜)
企業概要書は、M&Aをしない会社にも役に立つ資料です。社長の頭の中にある情報を、外に見せられる形にできるからです。
「事業をやっている人や会社をやっている人だったら、M&Aとか全く関係なく、絶対作ったほうがいいと僕は思っています」(0:43)
銀行に融資を頼むとき、多くの会社は事業計画を作ると思います。企業概要書は、銀行に見せても十分に通用すると思えるくらい、作り込んだ資料です。
いま会社を経営している社長の多くは、そこまでの細かさで事業の内容をまとめられていないと思います。全部が社長の頭の中にあるのに、資料という形になっていない。それを書き出したものが企業概要書です。作ることで、自社への理解も深まる。
毎年など、ある程度の頻度で更新していく会社は、情報をきちんとまとめていると見てもらえます。情報がまとまっている会社のほうが、「この会社と一緒にやりたい」と思ってもらえる確率も上がる。銀行に見せたときも、きちんとした会社だと受け取られると私は考えています。
外から見た自社の姿が分かる(動画 2:14〜)
企業概要書を作る過程で、自分の会社が外からどう見えるかが分かります。M&Aの調査で受けるような質問を、売る前に受けられるからです。
M&Aで売却を進めると、トップ面談(売り手と買い手の経営者どうしの面談)やDD(デューデリジェンス。買い手が財務や事業を詳しく確かめる手続き)で、質問がたくさん届きます。重箱の隅をつつくような質問も多い。それでも、経験した売り手の社長の多くは、経験できてよかったと話します。
「それをされることによって、自分の会社が外から見たときにどういう状況になっているのか。そういうのがすごく理解が深まるんです」(2:35)
もっと整えないといけない。あるいは、うちは結構できている。どちらも、問われてみて分かることです。
DDまで進まなくても、プレDD(本番の調査の前に行う簡易な確認)のように、事前にM&Aの支援会社のヒアリングを受けて概要書を作る。これには価値があると考えています。
企業概要書に載せる中身(動画 3:24〜)
企業概要書には、表紙と概要に続けて、事業の仕組み、契約、顧客、組織、財務、事業計画までを載せます。動画では、私が売却したゴルフ用品のD2Cブランドの事業を題材にした見本で説明しました。
企業概要書の中身を、外の人が見る機会はまずないと思います。会社の情報が全部載っていて、外に出せないからです。
| 部分 | 載せる中身 |
|---|---|
| 表紙 | どんな事業か(見本では、ゴルフ用品のD2Cブランド。自社ECが主で、モールでも販売。国内の独占販売権を持つ)、年商、営業利益、ブランド名、株式譲渡か事業譲渡か。表紙は会社名が分からない形でもよい |
| 機密の注意書き | 秘密保持契約(NDA)を結んだ先にしか見せない、という注意 |
| 概要 | 譲渡する事業、取引の形、売上の規模、営業利益と修正後の営業利益、従業員数、譲渡する資産、譲渡の理由、引き継ぎの希望期間、希望条件。個人名は載せない |
| 事業の仕組み | 設立と事業開始の年、扱うブランド数と商品数、仕入れから販売・集客までの流れ、主力商品と売上の比率、売れている理由、販路ごとの売上、原価率と販売手数料・物流費を引いて残る営業利益 |
| 契約 | 独占販売の契約の中身・相手・期間。仕入れ先や物流の契約、商標 |
| 顧客・広告・在庫 | 顧客数と定期購入の人数、広告の媒体ごとの金額と効果、在庫の金額と年間の回転 |
| 販売先と競合 | 主な販売先の一覧、競合と比べた立ち位置と強み |
| 組織と拠点 | 正社員・パート・外注の人数、拠点の情報(写真つき) |
| 財務 | 損益計算書の内訳を過去3期分、修正後の営業利益とどこを修正したか、貸借対照表の資産と負債の明細 |
| 成長と条件 | 売上の月ごとの推移、会社の強み、今後の成長の余地、どんな会社と一緒になると伸びるか、条件、よくある質問 |
| 事業計画 | 今後3年ほどの計画を数字で |
独占販売の契約は、なくなれば事業が成り立ちません。商品を仕入れられなくなるからです。このような事業の形なら必ず質問されるため、先に入れておきます。
修正後の営業利益(動画 4:08〜)
中小企業では、節税のための費用や、事業と関係のない経費を使っていることが当たり前にあります。ただ、譲渡したあともその経費を使うかどうかは、買い手しだいです。本来は使わなくてもよい費用が、利益を削っている。この費用を除いて見直した利益を、修正後の営業利益と言います。
たとえば、決算書の利益が1,000万円の会社で、社長が飲食や接待交際費に2,000万円使っていたとします。まったく使わなかったら、利益は3,000万円です。
企業概要書を作るときは、決算書をもらってヒアリングします。「社長、この費用は何ですか」と、全部聞いていく。修正がほとんどない会社は、無駄な経費を使わない社長だと見られ、一般的には評価が高いと思います。ここには社長の性格がよく出る。とはいえ節税は普通にするものなので、修正する金額があることが多いです。
貸借対照表にも修正が入る(動画 8:29〜)
貸借対照表(BS)では、資産と負債の明細を載せます。ここにも修正が入ることがよくあります。その資産は本当にあるのか。在庫が1億円あるとして、全部売れるのか。不良在庫や滞留在庫(長く売れ残っている在庫)があることが多いので、それを踏まえた金額を入れます。在庫が売却の価格にどう反映されるかは、在庫3,000万円は売却価格に乗るのか ── EC売却で在庫が簿価で通らない理由にまとめています。
社長が全部を把握していなくても作れる(動画 9:36〜)
ここまでの中身を社長が全部把握していなくても、企業概要書は埋められます。決算書や販売のデータ、契約書など、情報は会社のどこかにあるはずだからです。
業務委託の人が多くいる会社は、何かしらの契約も結んでいます。私たちはそれを集め、何が必要かを説明したうえでヒアリングし、作っていきます。
社長が1人で作るのは、無理があると思います。無理というより、作りたいと思わない。私も会社を経営していた頃なら作らなかったと思います。専門家がヒアリングし、社長は資料を出すだけでできる。それなら使い道はとても大きいと考えています。
どこまで作り込むか(動画 11:14〜)
どこまで作り込むかは会社によって違いますが、作り込んでおくほど、あとから破談になる確率を減らせます。調査で出やすい論点を、前の段階で知っておけるからです。
とてもシンプルに作る会社もあります。当社は、ある程度作り込んだ状態で買い手に紹介しています。そうしないと質問がいろいろ届き、そのたびに答えるのが大変だからです。
買収の調査では、出やすい論点があります。それを前の段階で知っているかどうかで、結果は大きく変わる。後になって思わぬことが出てきて、「聞いていない」「それでは無理だ」となることが多いのです。M&Aでは、これをできるだけなくしたい。
「事前の情報をそろえて、こういう状態で、こういう条件なんだったらやりましょう、という前提で進めたほうが、後々ブレイクする確率も全然減らせる」(11:50)
ブレイクは、業界で破談を指す言葉です。売り手にも買い手にも、間に入る支援者にも、良いことはありません。
当社の企業概要書の無料作成(動画 10:52〜)
当社は、企業概要書を無料で作っています。作るには、ヒアリングの時間と、決算書などの資料をいただく必要があります。
どこまで作り込むかは、会社によって変わります。売却しないにしても経営に生かせる部分は大きいと考えており、作りたい方からの相談を受けています。当社が得意なのは、コマース系の領域の会社です。作りたい方は、ご相談の窓口からお知らせください。
この記事のまとめ
- 企業概要書は、会社の成り立ち・事業・財務・事業計画を1つにまとめた資料。M&Aでは、買い手はこれで興味を持つかどうかを判断する
- 売るつもりがなくても、社長の頭の中の情報が形になり、自社が外からどう見えるかも分かる。銀行や組む相手への説明にも使える
- 中身は、表紙と概要から、事業の仕組み・契約・顧客・組織・過去3期の財務・今後3年ほどの事業計画まで
- 修正後の営業利益は、事業に関係のない費用などを除いて見直した利益。資産も、本当にあるか、全部売れるかを確かめて修正する
- 作り込んでおくほど、あとから論点が出て破談になる確率を減らせる
よくある質問
Q. 企業概要書とIMは同じものですか。
A. 同じものです。M&Aの業界では、企業概要書をIM(インフォメーション・メモランダム)とも呼びます。買い手は、この資料を見て興味を持つかどうかを判断する。
Q. 会社を売るつもりがなくても、企業概要書を作る意味はありますか。
A. あると考えています。社長の頭の中にある情報が形になり、自社への理解が深まる。毎年など更新していく会社は、銀行や組む相手にも、情報をきちんとまとめていると見てもらえます。
Q. 社長が数字や契約を全部把握していなくても作れますか。
A. 作れます。決算書、販売のデータ、契約書など、情報は会社のどこかにあるはずです。専門家が集めてヒアリングし、社長は資料を出すだけで作れる。
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この記事の結論は「企業概要書は、会社の中身を外に見せられる形にまとめた資料で、M&Aにも、売らない会社の経営にも役に立つ」です。
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