大都の買収額は非公表 ── DIY文化の会社に出資したカインズは、8年後にプロ向けECを全株で買った
| 発表日 | 2025年12月30日(基本合意の発表は2025年10月24日・合意書の締結は10月21日) |
| 譲受企業 | 株式会社カインズ(非上場・埼玉県本庄市・1989年3月設立) |
| 譲渡企業 | 株式会社大都(1937年3月創業・大阪市生野区) |
| 事業 | プロ向けBtoB-EC「トラノテ」・DIY用品EC「DIY FACTORY」 |
| 譲渡価額 | 非公表(発行済株式の全部) |
| スキーム | 株式譲渡(全株式取得) |
| 出典 | カインズ・大都 ニュースリリース(2025年10月24日・12月30日) |
(出典:株式会社大都 ネットストア「トラノテ」・2026年10月16日時点の画面)
譲渡企業の概要
大都は、1937年に工具問屋として始まり、2002年にECを始めた大阪の会社です。本社は大阪市生野区。2025年12月30日の発表の事業内容は「DIY・工具や資材領域のサプライチェーンプラットフォーム事業」。建築・建設・製造業の現場向けBtoB-EC「トラノテ」と、DIY用品EC「DIY FACTORY」を運営しています。トラノテは2023年2月に約245万点で始まり、2025年5月に5万会員を超え、取扱点数は400万点以上です。
売上と利益は、確認できた開示にありません。大都の代表は、発表文にコメントとしてリンクされたnote(2025年12月30日)で、23期連続で増収を続け、売上のほぼ全てがEC事業だと書いています。
2017年の資本業務提携の発表と並べると、事業の中身が変わっています。
| 項目 | 2017年8月29日の発表 | 2025年12月30日の発表 |
|---|---|---|
| 事業内容 | DIYカルチャー創造事業 | DIY・工具や資材領域のサプライチェーンプラットフォーム事業 |
| 資本金 | 2億4,275万円 | 5,121万円 |
| 従業員数 | 63名(2017年4月時点) | 49名 |
譲受企業の概要
カインズは、ホームセンターの店舗網とECを持つ非上場の会社です。1989年3月の設立で、本部は埼玉県本庄市。2025年10月24日の発表時点で259店舗(うちプロ向けのC'z PRO 8)、従業員13,486名(2025年2月末)。2026年10月6日の発表は、店舗網、EC、リフォーム事業、プロ職人向け会員制卸売店舗「C'z PRO」を展開していると説明しています。
M&Aの目的・背景
カインズが挙げた理由は、道具や材料をすぐ手に入れたいプロのニーズに、店舗網とプロ向けECで応えることです。発表文は、建築などに携わる職人・プロ人材の人手不足が深刻になり、業務効率化がいっそう求められていると書きます。必要な道具や材料を待たずに手に入れたいというプロのニーズへの対応を始め、様々な課題を解決するために、同じ志を持つ大都をグループに迎える、という説明です。
活用するのは、カインズの250以上の店舗網、トラノテの400万点以上の品ぞろえ、両社のサプライヤーネットワーク。リアルとデジタルを融合したサービスでプロのニーズに応える方針です(2025年10月24日・12月30日の発表)。
売る側の理由は、IPOが白紙になった後の選択として、大都の代表が書いています。代表のnote(2025年12月30日)によると、大都は2015年に初めて第三者割当増資を受け、上場を目指してきました。2024年は上場直前期でしたが、同年秋に予期せぬ事態が起き、IPOの道は白紙になりました。代表は、短期の収益を重視する資本市場と大都の事業モデルにズレを感じていたと述べ、自社のプライベートブランド(PB)を持たずメーカーとの共創を選ぶ方針を、その例に挙げています。カインズについては、非上場で独自の長期戦略を持つ点を理由に挙げ、仕方なく選んだ売却ではないと書いています。
M&Aの手法・成約内容
取得は、基本合意から約2か月で完了した、発行済株式の全部の譲渡です。基本合意書の締結は2025年10月21日(発表は24日)。発表の時点は、デューデリジェンス(買収前の調査)などを経て正式な契約と取得の可否を決める段階で、株式譲渡契約は11月下旬、実行は12月下旬の予定でした。完了は2025年12月30日。代金、算定方法、アドバイザー、売主の一覧は発表にありません。
カインズは2017年から大都の株主で、持分比率は開示されていません。「全株式」のうち、新たに買った分とすでに持っていた分の内訳も、発表にありません。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2016年9月 | 業務提携 |
| 2017年8月29日 | 資本業務提携。カインズが出資し、取締役副社長を社外役員として派遣。共同のPB商品の開発、カインズ店内の売場づくり、人材交流などを掲げた |
| 2024年秋 | 大都のIPOの準備が白紙に(代表のnote) |
| 2025年12月30日 | 全株式の譲渡が完了 |
2017年の発表から全株式の取得完了まで、8年4か月です。
買収後の経過
取得から10か月弱で、大都は受取拠点を7つに広げ、カインズは建築資材の専門商社の取得を決めました。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年12月30日 | 大都は「カインズグループの一員として事業を推進」と発表。社名と代表は残る(代表のnote) |
| 2026年4月22日 | 倉庫受取サービス「トラノテピットイン」の拠点を2か所開設(トラスコ中山のプラネット大阪と、大都の自社物流センター)。即日調達できる金額は北海道拠点を含め60億円超。今後、カインズ・C'z PROの実店舗を受取拠点として順次拡大すると発表 |
| 2026年10月6日 | 関東・関西・東北で拠点を足した大都が、受取拠点は全国7拠点・計55万SKU超(SKUは商品の最小単位)が即日受け取り可能と発表。同日、カインズがソニテックの全株式取得の契約締結を発表(実行は10月19日の予定) |
7拠点は、トラスコ中山の物流センター6か所と大都の自社物流センター1か所です。同日の発表の拠点一覧に、カインズの店舗はありません。
2026年10月16日のトラノテの画面は、「カインズグループのプロ向け通販」と名乗り、カインズオリジナル商品とカインズの日用品通販を案内しています。ソニテックの発表は、大都のグループ化を、商品調達、販売、施工、デジタル基盤の連携の一部として書いています。
この値段は、どう説明できるか
大都の値段は、確認できたどの資料にも出ていません。両社とも上場していないため、適時開示も有価証券報告書もありません。見た資料は次のとおりです。
| 見た資料 | 結果 |
|---|---|
| カインズ・大都の発表(2025年10月24日) | 取得価額・算定方法・アドバイザーの記載なし。取得は「全株式」 |
| カインズ・大都の発表(2025年12月30日) | 金額の記載なし。数字は両社の資本金などの会社概要のみ |
| 大都の代表のnote(2025年10月24日・12月30日) | 売却額・持分比率なし。金額は10年間の新株発行による約10億円のみ |
約10億円は、大都が10年間に新株で調達した資金の合計で、今回の代金の目安ではありません。利益も開示されていないため、のれん(買収額が純資産を上回る部分)を営業利益の何年分かで測ることもできません。
買い手が読み取れること
払える上限は、値段が見えなくても決められます。当社(CommerceX M&A)の見解では、払う額は対象の単体の事業の価値までとし、店舗網との相乗効果の上積みは、実現するまで数字にならないため価格の根拠にしません。大都の単体の価値は、400万点の品ぞろえ、5万会員超、即日で受け取れる物流です。カインズの店舗を受取拠点にする計画は、2026年4月に順次広げると発表された段階で、2026年10月6日の7拠点に店舗は入っていません。上積みの部分は、まだ数字になっていません。
出資から全株の取得までの8年4か月で、買う対象の中身が変わりました。カインズが2017年に出資した大都の事業は「DIYカルチャー創造事業」、2025年の事業はサプライチェーンの基盤で、中心はトラノテ(2023年2月開始)です。カインズは社外役員を送っていたので、この変化を株主と役員の立場で見てきました。出資した時の前提で値段を考えず、買う時点の事業で測り直します。出資から入った事例は、江崎グリコのGreenspoon(3年8か月)とKDDIのルクサ(約1年半)にあります。
IPOの準備が白紙になった会社を買うときは、株主と決算書を先に確かめます。大都は、VCの出資を受けて10年間で約10億円を調達していました。株式の譲渡で100%を取るには、株主全員との合意が要ります。株主間契約に売却を強制する条項があるか、種類株があるかで、条件が変わります。上場直前期まで進んだ会社なら、監査を受けた決算書が残っている可能性があり、デューデリジェンスで最初に求めます。
即日で調達できる60億円超は、買った会社の在庫とは限りません。2026年4月22日の発表は、内訳としてトラスコ中山のプラネット大阪が約50億円、大都の自社物流センターが約3億円規模と書いています(北海道拠点の金額は記載なし)。買う側は、買った会社の貸借対照表に載る在庫と、提携で使える在庫を分けて数えます。
買った後の売場には、買い手の名前と商品が入ります。トラノテの画面にはカインズオリジナル商品の案内があります。大都の代表は、自社PBを持たずメーカーとの共創を選ぶ方針をnoteで述べています。自社の商品や名前を子会社の売場に入れる買収では、仕入先メーカーとの条件への影響を、買う前に説明できるかを確かめます。
一文で言えるかを、金額の前に確かめます。当社は買収の検討の最初に、「買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせる」を一文にします(当社の見解)。カインズの発表に当てはめると、「大都のプロ向けEC(400万点と即日受取の物流)を、カインズの店舗網と調達先で、プロが待たずに手に入れられる仕組みへ伸ばす」です(当社の当てはめ)。
よくある質問
Q. カインズは、いくらで大都を買ったのですか。
A. 非公表です。発表文に取得価額・比率・算定方法・アドバイザーの記載はなく、両社とも上場していないため開示の義務もありません。大都の代表のnoteにある約10億円は、10年間の新株発行による資金調達で、今回の代金とは別の数字です。
Q. ホームセンターが、なぜプロ向け工具のECを買うのですか。
A. 職人・プロ人材の人手不足への対応です。カインズの発表が挙げる理由は、道具や材料をすぐ手に入れたいプロのニーズ。カインズの250以上の店舗網、トラノテの400万点以上、両社のサプライヤーを組み合わせ、リアルとデジタルを融合したサービスを目指します。
Q. IPOを目指していた会社が、なぜ売却を選んだのですか。
A. 大都の代表のnoteによると、2024年秋にIPOの準備が白紙になりました。短期の収益を重視する資本市場と事業モデルの間にズレがあると考え、非上場で長期の戦略を持つカインズを選んでいます。社名と代表は残ります。
Q. 出資から全株式の取得まで、どれくらいかかりましたか。
A. 2017年8月29日の資本業務提携の発表から、2025年12月30日の全株式の譲渡完了まで、8年4か月です。
ご相談ください
カインズは、出資と提携で8年かけて確かめたうえで、プロ向けECを全株で取得しました。
CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。
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出典
- 株式会社カインズ「大都がカインズグループ入り リアルとデジタルの融合でプロのニーズに応え、唯一無二のビジネスモデル確立を目指す」(2025年10月24日公表・2026年10月16日確認)
- 株式会社カインズ「カインズ、大都の全株式取得を完了」(2025年12月30日公表・2026年10月16日確認)
- 株式会社大都「株式会社カインズとの基本合意締結について」(2025年10月24日公表)・「カインズ、大都の全株式取得を完了」(2025年12月30日公表)(いずれも2026年10月16日確認)
- 株式会社カインズ「カインズ・大都(DIY FACTORY) カインズ初となるベンチャーとの業務資本提携」(2017年8月29日公表・2026年10月16日確認)
- 株式会社大都 代表取締役のnote「創業88年のベンチャー企業、新たな一歩を踏み出す旅へ」(2025年10月24日公表)・「創業88年のベンチャー企業、第2章の幕開け。」(2025年12月30日公表)(いずれも2026年10月16日確認)
- 株式会社大都「トラノテ」利用数5万会員突破(2025年5月8日公表)、「トラノテピットイン」に関するプレスリリース(2026年4月22日・7月3日・9月17日・10月6日公表)(いずれも2026年10月16日確認)
- 株式会社カインズ「カインズ、ソニテックの全株式取得に関する株式譲渡契約を締結 新築からリフォームまで施工現場を支えるサプライチェーンを構築」(2026年10月6日公表・2026年10月16日確認)
- 株式会社大都 ネットストア「トラノテ」(2026年10月16日確認)
(金額は公表されていません。約10億円は大都が10年間に新株の発行で調達した資金の合計で、今回の株式の代金ではありません。「8年4か月」は、2017年8月29日から2025年12月30日までの当社計算です。SKUは商品の最小単位です)