one moveの51%に7,650万円 ── 発表で伏せられた値段は有価証券報告書に出ていて、残り49%の買い増しは見当たらない
| 発表日 | 2023年7月5日(株式の取得日 2023年7月28日) |
| 譲受企業 | 株式会社ピアラ(7044。発表時は東証プライム、2023年10月にスタンダード市場へ変更) |
| 譲渡企業 | one move株式会社(2020年6月設立・東京都三鷹市) |
| 事業 | デジタルプロモーション(SNS運用が中心)、人材紹介、フリーランスマッチング、Web3.0 |
| 譲渡価額 | 7,650万円(255株・議決権の51.0%・現金)。発表文は非開示、有価証券報告書で判明 |
| スキーム | 株式譲渡 |
| 出典 | ピアラ お知らせ(2023年7月5日・任意開示)、有価証券報告書(2023年12月期) |
(出典:one move株式会社 公式サイト・2026年10月16日時点の画面)
譲渡企業の概要
one moveは、SNS運用を中心にしたデジタルプロモーションの会社。2020年6月設立、東京都三鷹市。開示にある事業は、デジタルプロモーション、人材紹介、フリーランスマッチング、Web3.0の4つです。公式サイトは「SNSマーケティングを、戦略から実行までワンストップで支援」とうたっています。取得前の株主は代表取締役ひとりで、100.0%を持っていました。
売上・営業利益・純資産の3期分は、開示にありません。ピアラの発表は、適時開示基準に該当しない取引を有益な情報として出した任意開示で、必要な事項を一部省いています。有価証券報告書によると、企業結合日に受け入れた資産は5,232万円、負債は2,858万円で、差引の純資産に当たる額は2,374万円です。
譲受企業の概要
ピアラは、化粧品・食品の通販会社を主な顧客に、新規顧客の獲得から既存顧客の育成までを一括で支援する会社。2023年12月期の連結売上高は90億6,484万円(前期比23.0%減)、営業損失は3億8,373万円で3期連続でした。純資産は5億8,268万円、現金及び預金は19億5,268万円。取得価額7,650万円は、純資産の13.1%、現金及び預金の3.9%です(当社計算)。ピアラにとって初めてのM&Aによる子会社化でした(2023年12月期第3四半期の決算補足資料)。
M&Aの目的・背景
狙いは、SNSでの認知づくりと、ピアラの顧客獲得の施策をつないで、一括で提案すること。ピアラは2022年1月に、SNS施策を総合的に立てる「Buzz Create」の専門部署を設けました。one moveはInstagramやTwitter(現X)などのSNS運用を中心に、認知・興味・理解の段階に強みがあり、Buzz Createは興味・理解・検討の段階に強みがあります。
発表は、子会社にすれば互いの強みを生かした一気通貫の施策が出せると書いています。有価証券報告書の経営方針は、one moveとのSNSell(SNSで発話を促し売上を伸ばす戦略)の強化で取引社数を増やし、主要取引先に依存しない収益構造を作ると書いています。売主が株式の一部を残す理由は、開示にありません。
M&Aの手法・成約内容
255株を取得し、議決権の51.0%を持ちました。取得価額は、発表文では、株式取得の相手先との協議により開示を差し控え、適時開示基準に該当しない軽微基準の範囲内とだけ書かれています。算定は、外部専門家のデュー・ディリジェンスとDCF法の評価をふまえたと説明しています。
値段は有価証券報告書で分かります。企業結合注記は、取得の対価を現金7,650万円と記載し、デュー・ディリジェンス費用等160万円を合わせると7,810万円です。連結キャッシュ・フロー計算書の注記では、one moveが持っていた現金2,928万円を差し引いた現金の純支出が4,722万円で、未払金の行はありません。全額が2023年中に現金で支払われたと読めます。255株で7,650万円は、1株30万円です(当社計算)。
この値段は、どう説明できるか
1株の単価で100%に換算すると評価額は1億5,000万円。企業結合日の純資産2,374万円の6.3倍。7,650万円を51%で割った当社試算で、支配権の上乗せや少数株主の割引は考えない単純な換算です。
| 項目 | 取得した51% | 100%換算(当社試算) |
|---|---|---|
| 取得価額 | 7,650万円 | 1億5,000万円 |
| うち純資産 | 1,211万円 | 2,374万円 |
| 差額(のれん) | 6,439万円 | 1億2,626万円 |
有価証券報告書に記載ののれんは6,439万円で、8年の均等償却、年805万円が費用になります(当社計算)。取得価額から、受け入れた純資産の51%分(1,211万円)を差し引いた額と一致し、のれんは取得した51%分に限られます。残る49%分の純資産1,163万円は、帳簿価額のまま非支配株主持分に入りました。のれんは評価額の84%で、51%でも100%換算でも同じ割合です。2024年12月期と2025年12月期の減損損失の内訳に、のれんはありません。
営業利益が開示にないため、年買法(時価純資産に営業利益の1〜3年分を足す方法)も、のれんが営業利益の何年分かも出せません。値段の説明に使える数字は、取得価額、受け入れた純資産、のれんの3つです。
取得後のone move
ピアラの評価は、1年目が「想定よりも利益減少」、2年目が「順調」、3年目が「当初計画に対して上振れて着地」と変わりました。
| 決算期 | ピアラの決算補足資料での評価 |
|---|---|
| 2023年12月期(5か月分) | 子会社の欄は「PMIに注力したことで、想定よりも利益減少」(△)。通販DXの欄は、共同提案で受注数が増え、取引単価が高い案件も受注(○) |
| 2024年12月期 | 「順調に売上及び利益を計上」 |
| 2025年12月期 | 「当初計画に対して上振れて着地」。事業拡大に備えた人員強化を予定 |
有価証券報告書の関係内容は、ピアラが管理部門の業務を受託していると書き、役員の兼任の記載はありません。
残り49%は、開示からどこまで追えるか
取得後の3期の有価証券報告書で、one moveの議決権所有割合は51.0%のまま。買い増しの記載は見当たりません。
| 確認先 | 結果 |
|---|---|
| 発表文(2023年7月5日) | 残りの持分の取得予定、オプション、期限の記載なし |
| 有価証券報告書の連結子会社の表(2023年・2024年・2025年12月期) | 議決権所有割合は3期とも51.0% |
| 連結キャッシュ・フロー計算書(2023年12月期から2026年1〜6月) | 連結の範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出の行なし |
売主が残る49%を持ち続けているかは、開示に明記がありません。取得前の株主は売主ひとりで、別の取得者の記載はなく、売主側に残ると読めます(当社の読み)。売主の残留期間、業績に連動する支払い、追加取得の権利といった条件も、開示にありません。当社(CommerceX M&A)が適時開示の原本で確かめた一部取得などの12件では、残りをあとで買うときの価格の決め方を書いた開示が1件もありませんでした(51%だけ買った12件)。one moveも同じ型です。
同じ買い手のジョシュアツリーと比べると
同じピアラの2件は、比率、開示、のれんの年数、支払い、取得後の評価が違います。ジョシュアツリーは、2024年3月に外注先の広告運用会社の全株式を2億円で取得した事例です(ジョシュアツリーの記事)。
| one move | ジョシュアツリー | |
|---|---|---|
| 取得比率・価格 | 51.0%・7,650万円(100%換算は当社試算で1億5,000万円) | 100.0%・2億円 |
| 発表の種類 | 任意開示(価格は非開示) | 適時開示(価格を開示) |
| のれん・償却年数 | 6,439万円・8年(評価額の84%) | 1億4,556万円・6年(評価額の73%) |
| 支払い | 取得年度に全額を現金で支払ったと読める | 取得価額の半分の1億円が、取得年度の期末も未払金 |
| 取得後の評価 | 1年目△、2年目順調、3年目上振れ | 1年目順調、2年目は計画に届かず減損の兆候を識別(減損は見送り) |
買い手が読み取れること
払う上限は、対象が単体で持つ価値まで。当社(CommerceX M&A)の見解では、単体の価値と、自社に入れたあとの価値を分けて持ち、上乗せ分は買い手の取り分として価格に含めません。ピアラが挙げた狙いは、共同提案による顧客獲得です。取得した年の評価は「想定よりも利益減少」で、「順調」になったのは翌年でした。共同提案の効果は、買う日の価格に含めず、買ったあとに確かめる対象にします。
金額の前に、買う理由を「買収先のここを、自社のこの力で、こう伸ばせる」の一文で言えるかを確かめる。一文が作れない案件は、スコープが好みや雰囲気で決まっている可能性が高いためです。この件なら、one moveのSNS運用の認知づくりを、ピアラの顧客獲得の施策と効果測定ツールにつなぎ、一括で提案して取引社数を増やす、の一文になります。
利益が開示されない対象は、買う前に自社で見る数字を決めておく。one moveの売上、営業利益、取引先別の売上は、開示にありません。事業は4つあり、どの事業の粗利が評価額を支えるのかも分かりません。事業別の粗利、取引先別の売上、売主個人への依存は、デュー・ディリジェンスで確かめます。
51%で止めるなら、残り49%の扱いを買う日に決める。残る49%が売主側にあれば、損益の49%も売主側に帰属します。将来100%にする日の価格はその時点の評価で決まり、当社が集めた一部取得では、2回目の価格が96%安から117%高まで開きました。算定の方法、期限、売主の残る期間は、契約に書くか、書かない理由を決めます。
よくある質問
Q. ピアラは、one moveの51%にいくら払ったのですか。
A. 取得の対価は現金7,650万円で、有価証券報告書の企業結合注記で分かります。デュー・ディリジェンス費用等160万円を合わせると7,810万円。100%換算は当社試算で1億5,000万円です。
Q. 51%の取得で、のれんはどう計算されますか。
A. のれん6,439万円は、取得価額7,650万円から、受け入れた純資産の51%分(1,211万円)を差し引いた額です。残る49%分の純資産1,163万円は、非支配株主持分に入ります。100%換算のれんは、当社試算で1億2,626万円です。
Q. 残り49%は、その後どうなりましたか。
A. 議決権所有割合は、2023年・2024年・2025年12月期とも51.0%です。連結キャッシュ・フロー計算書に、追加取得の支出の行もありません。売主の残留や、残りを買う条件は、開示にありません。
Q. 価格を開示しない買収の値段は、どこで分かりますか。
A. 買い手が上場企業なら、有価証券報告書の企業結合注記に、取得の対価・のれん・償却年数が出ます。取得価額と現金の純支出は、連結キャッシュ・フロー計算書の注記です。
ご相談ください
一部の株式だけを買う取引は、100%に換算した値段と、残りの持分の扱いを、買う日に決めておきます。
CX BASEは、EC・小売・D2C領域の譲渡案件を扱っています。買収のご相談をいただいた企業には、条件に合う案件を公開前にご案内します。
売却をお考えの方は、一部の株式だけを譲る場合の100%換算の値段と、残る持分の扱いを、買い手が見る数字としてご説明します。
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出典
- 株式会社ピアラ「one move株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」(2023年7月5日公表・任意開示)
- 株式会社ピアラ「有価証券報告書」第20期(2024年3月27日提出)・第21期(2025年3月27日提出)・第22期(2026年3月27日提出)、「半期報告書 第23期中」(2026年8月14日提出)
- 株式会社ピアラ「決算補足資料」2023年12月期第3四半期(2023年11月14日公表)・通期(2024年2月13日公表)、2024年12月期通期(2025年2月13日公表・同年2月21日に一部訂正)、2025年12月期通期(2026年2月13日公表)
- one move株式会社 公式サイト
(出典はいずれも2026年10月16日確認。金額は株式の代金7,650万円で、デュー・ディリジェンス費用等160万円を含む総額は7,810万円です。100%換算の1億5,000万円と1億2,626万円は、7,650万円を51%で割った当社試算です)