EC・D2C事業を買っているのは誰か ── 195件の3件に1件は「繰り返し買う26社」
「うちみたいな規模の会社を、誰が買うのですか」。これも、売却のご相談でよくいただく質問です。
当社(CommerceX M&A)は、EC・D2C・EC支援領域で公表されたM&A195件について、買い手を1社ずつ公式発表で確認しました。154社の顔ぶれから見えたことをお伝えします。
この記事の結論は次の4つです。
- 買い手は154社に分かれています。128社はこの期間に1件だけ、26社が2件以上。3件に1件が繰り返し買う会社の取引です
- 同じ買い手が、42億円の会社も1億9,000万円の会社も買っています。規模の小ささは、買い手候補から外れる理由になりません
- 買い手はEC企業に限りません。ホームセンター・食品メーカー・建設会社もEC・D2Cを買っています
- 公表される買い手は上場企業に偏ります。中小M&Aの卸売業・小売業は年792件あり、その多くは非上場の会社どうしの非公表の取引です
買い手は154社に分かれている
195件の買い手は、のべではなく実数で154社でした。特定の大手が市場を占めている状態ではありません。
そのうち128社は、この期間に1件だけ買っています。残りの26社が、2件以上を買っていました。
| 買った件数 | 会社数 | 取引数 |
|---|---|---|
| 1件だけ | 128社 | 128件 |
| 2件以上 | 26社 | 67件 |
3件に1件は、繰り返し買っている会社による取引という計算になります。売り手から見ると、買い手候補は「初めて買う会社」と「買い慣れた会社」の両方があり、後者が市場の3分の1を占めている、ということです。
当社の見解では、買い手の数は名簿を横断で検索しても出ません。候補を確定してから、1社ずつ公式サイトのニュースと沿革を見る。当社が378社を調べたときは、369社でM&Aや資本提携の記載が確認できました。登記だけを見ると、株式譲渡は登記に出ないので、実数の3分の1程度まで少なく出ます。
195件で4件ずつ買っていた5社
195件の中では、4件ずつ買った5社が並びます。いずれも上場企業で、自社が本業でやっていることの周りを買っています。
| 買い手 | 買ったもの |
|---|---|
| コメ兵ホールディングス | ブランドリユース、リユースEC、法人向けオークション、米国の越境ライブコマース |
| BuySell Technologies | 買取事業(福ちゃん・日晃堂)、買取店舗「むすび」、リユースEC |
| フィードフォースグループ | EC自動出荷、Shopify支援、広告運用、EC顧客分析 |
| ジェイドグループ | ファッションEC「マガシーク」、ファッションEC、通販、雑誌メディア |
| ジェイフロンティア | 化粧品・サプリのD2C、サプリメントD2C、ECモール支援、物流 |
リユースの会社はリユースを、EC支援の会社はEC支援を買う。買い手を探すときの出発点は、自分と同じ商売をしている会社です。
ただし、件数がいちばん多い買い手はこの5社ではありません。上場していない連続買収の会社です。会社自身の発表では、ACROVEは事業を始めて約3年で17件のM&A(2025年9月時点)、forestはEC領域の事業承継型M&Aを21件(2025年10月時点)実施しています。MOON-Xは累計の件数を公表していませんが、同社の発表を数えると、2022年9月から2026年8月までに9件の統合を発表しています(うち2件は韓国の会社)。上場していない会社には開示の義務がないため、195件に入っているのはその一部です。
同じ買い手が大小どちらも買っている
繰り返し買う会社にとって、規模の小さい買収は例外ではありません。大型だけを狙っているわけではなく、足りない機能や商品を埋めるために小さい会社も買います。
コメ兵ホールディングスが公表した金額を並べると、42億円の会社を買った一方で、1億9,000万円の会社も買っています。フィードフォースグループも、6億1,900万円の会社と1億700万円の会社の両方を買っています。
「うちは小さいから相手にされない」という前提は、実際の買い手の行動とは合いません。
買い手はEC企業だけではない
EC・D2Cを買っているのは、EC企業とは限りません。リアルの事業を持つ会社が、EC・ブランドを買って自社に足す動きが実在します。
- カインズ(ホームセンター)が、DIY用品のECを運営する大都を取得
- 江崎グリコが、冷凍宅配食D2CのGreenspoonを取得
- ロッテが、チョコレートD2CのDari Kを取得
- エステーが、香りのD2Cのコードミーを取得
- 加和太建設(静岡の建設会社)が、カレーブランド「6curry」の事業を譲受
売り手から見れば、買い手候補は同業のEC企業だけではないということです。当社が買い手候補を洗い出すときも、業種の枠を先に決めません。
買い手が外から見せている事業内容と、実際に探している対象はずれます。公開情報ではDX支援の上場企業が、当社に登録している買いニーズでは伝統工芸の商材を希望カテゴリーに挙げている。公開検索だけで組んだ候補リストからは、この種の買い手が1社も出てきません。
一度に全部を売るとは限らない
195件のなかには、2回に分けて売られた会社があります。「売るか、売らないか」の二択ではなく、どこまで売るかという選択肢があります。
- yutoriによるheart relationの取得は、2024年8月に51%を17億円で取得し、2026年4月に残る49%を約19億6,000万円で取得して完全子会社にしています
- フィードフォースグループによるECPowerの取得は、2026年4月に84.8%を1億700万円で取得し、翌月の株式交換で完全子会社にしています
- ワールドによるOpenFashionの取得は、2018年に46.6%を取得して持分法適用会社としたのち、2025年に残りを取得しています
売り手から見ると、この形には次の意味があります。
- 一部を売って、残りを持ったまま経営を続けられる ── 買い手の資金と仕組みを使って伸ばし、伸びた後の株価で残りを売る
- 買い手にとっても入りやすい ── いきなり全部を買うより判断の負担が小さい
- その代わり、2回目の条件は先に決めておく必要がある ── いつ、いくらで残りを売るのか。ここが曖昧なままだと、後でもめます
買った後に手放される場合もある
買われて終わりではありません。買い手が買った会社をこれまでどう扱ってきたかは、価格と同じくらい確かめる材料になります。
アクセルマークは、韓国発のインナービューティ商品の輸入販売を手がけるウェルネスモアラボラトリーズを2026年2月に完全子会社化しましたが、約1か月後の3月に、同社の代表取締役へ全株式を譲渡しています。適時開示は、取得後に事業計画を精査する中で「当初想定していた成長の実現可能性については不確実性があることを認識」したと説明しています。詳細は個別の事例記事にあります。
スピンシェルが2025年にグループに入れたMofflyも、2021年に別の上場企業のグループが51.0%を取得して子会社にしていた会社でした。その上場企業の有価証券報告書では、2025年8月期に非連結子会社の一覧からMofflyの名前が消えていますが、売却したとは書かれていません。詳細は個別の事例記事にあります。
買い手が自社の事業をどう位置づけるつもりなのかは、条件の交渉と並行して確かめられます。
表に出ている買い手は、ごく一部
ここまでの154社は、取引が公表されたものだけを数えた結果です。買い手候補は、公表事例に名前が出ている会社に限りません。
中小企業庁のM&A支援機関登録制度の集計では、2024年度に登録支援機関が扱った中小M&Aの譲渡側は4,940件。そのうち卸売業・小売業は792件でした。同じ2024年に当社が公表情報から確認できたのは36件です。
この2つは集計の定義が違うので割り算はできませんが、桁が2つ違います。
792件の8割強は非上場の会社どうしの取引で、公表の義務がありません。この記事に出てくる買い手が上場企業に偏っているのは、上場企業だけが開示するからです。
中小M&Aの業種別では、卸売業・小売業が16.0%で医療・福祉に次ぐ2番目です。EC支援・ECシステムの会社は情報通信業(6.1%)に分類されるため、コマース領域の実際の比率はこれより高くなります。
上場企業のIRとM&Aのプレスだけで候補を組むと、件数でいちばん多く買っている未上場のロールアップ勢が、ほとんど入りません。買収の意思は、資金調達のニュースやマッチングサイトの買い手募集のほうに出る。だから当社は、買収を公言している会社・マッチングサイトの買い手募集・調達ニュースの3つを、標準の探索角度にしています。
(出典:中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」2024年度。2026年8月30日確認)
この記事のまとめ
- EC・D2C領域の公表M&A195件の買い手は、実数で154社。市場は分散している
- 128社は1件だけ、26社が2件以上。3件に1件は繰り返し買う会社による取引
- 195件の中では、4件ずつ買ったコメ兵ホールディングス・BuySell Technologies・フィードフォースグループ・ジェイドグループ・ジェイフロンティアの5社(上場企業)。いずれも本業の周りを買う
- 件数では、上場していない連続買収の会社のほうが多い。ACROVEは17件、forestは21件(各社の発表)
- 同じ買い手が42億円の会社も1.9億円の会社も買っている。規模が小さいことは対象外の理由にならない
- 買い手はEC企業だけではない。ホームセンター、食品メーカー、建設会社も買っている
- 51%だけ売って残りを後から売る形もある。「どこまで売るか」も選べる
- 公表される買い手は上場企業に偏る。中小M&Aの卸売業・小売業は年792件で、多くは非公表
よくある質問
Q. 同業に買われると、社名やブランドは消えますか。
A. 消えるとは限りません。ブランドの価値を目的に買っている場合、買い手はブランドを残します。買い手を選ぶ段階で、買った後にブランドをどう扱ってきた会社かを確認できます。
Q. 競合に会社の中身を見せることになりませんか。
A. 情報を出す順番と範囲を設計します。最初は社名を伏せた資料だけをお見せし、秘密保持契約を締結してから詳細に進みます(→会社を売ると社員に知られずに進められるか ── 実名を出す相手を1社ずつ決める3つの手続き)。
Q. 買い手候補には何社くらい打診するものですか。
A. 事業の内容によって変わります。当社は公表された買収実績や公表買収基準をもとに候補を洗い出し、売り手の承認を得た先にだけ打診する運用です。打診先を決めるのは、必ず売り手です。
Q. 51%だけ売る形は、誰にでも選べますか。
A. 買い手側に、残りを買う資金と意思があることが前提です。また、2回目の価格の決め方を最初の契約で決めておく必要があります。条件が整えば有効な形ですが、全部を一度に売るより設計は複雑になります。
ご相談ください
この記事の結論は「買い手は154社に分散していて、規模の小ささは対象外の理由にならない」でした。自社を買う可能性のある会社が実在するかどうかは、売る・売らないを決める前に確かめられます。
売却をお考えの方へ。当社はEC・コマース事業の企業価値査定を無料で行っています。事業の内容をお聞かせいただければ、公表実績のある買い手に加えて、公表していない買い手も含めた候補の現在地をお出しします。誰に打診するかは、必ず売り手にお決めいただきます。
買収をお考えの方へ。当社は買いニーズを登録制でお預かりしています。どの領域の、どの規模の会社を、どのくらいの評価目安で引き受けられるかをお聞かせいただければ、条件に合う売り手が現れた段階でご連絡します。
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出典
- 公表M&A195件・買い手154社の集計:当社がEC・D2C・EC支援領域の公表案件について、買い手を1社ずつ当事者の公式発表で確認したもの。2026年8月30日時点
- 中小M&Aの件数・業種別構成比:中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」2024年度。2026年8月30日確認
- 個別の取得比率・金額・譲渡の経緯:コメ兵ホールディングス、BuySell Technologies、フィードフォースグループ、ジェイドグループ、ジェイフロンティア、カインズ、江崎グリコ、ロッテ、エステー、加和太建設、yutori、ワールド、アクセルマーク、スピンシェル各社の適時開示およびプレスリリース
- ACROVE・forestの買収件数:各社の発表(ACROVE 2025年9月2日公表、forest 2025年10月6日公表)。MOON-Xの統合の件数:同社の発表(2022年9月5日〜2026年8月6日の9件)を当社が数えたもの。2026年10月17日確認
- 買い手候補の探索角度(公言・マッチングサイト・調達ニュース)と、買い手を1社ずつ公式サイトで確認する手順:当社のEC・D2C売却支援における実務基準
(2026年10月16日:ウェルネスモアラボラトリーズの譲渡先と譲渡理由を適時開示の記載に合わせて直し、Mofflyについて「再売却」と言い切っていた記述を、前の上場企業の有価証券報告書の記載の範囲に直しました)
(2026年10月17日:「最多は4件」と書いていた箇所を、195件の中での件数と分かる書き方に直し、上場していない連続買収の会社の買収件数を足しました)
(本記事は公表情報にもとづく市場の分析です。集計は2026年8月30日時点のもので、非公表の取引は含まれていません)